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最終章・転生勇者編

第127話 1000年の奇跡

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 魔王は人々から恐れられていた。
 ただ存在するだけであったなら、それだけで済んだかもしれない。
 向かってくる者しか倒さないドラゴンや、いたずらを仕掛けるだけの妖精のように自ら危害を加えない魔王もいた。
 しかし、それは魔王の中でも異端の部類。魔王は人を殺すのが当たり前だった。
 そして何より問題だったのは、

 魔王に勝てる人間が存在しなかったことだ。

 たとえ数百人を犠牲にしてでも魔王に対抗できたのであれば、不運な獣害として処理されたのかもしれない。
 だが魔王の強さは人類が処理できる域を完全に逸脱していた。

 だから人類は魔王を『絶望』と評し、現れても対処できない事と諦めた。
 魔王に逆らってはいけない。刃を向けてはならない。襲われたのなら死を受け入れるしかない。
 そうして人類は魔王を恐れ続けた。

 だがそれでも『絶望』は人間に牙を向けたのである。

 魔王ハンター=アレキサンドライト

 初代の魔王ハンターである。
 彼は何よりも殺戮を楽しむ魔王だった。
 人間の悲鳴と苦しみを至福とし、他の魔王にも喧嘩を売る暴れん坊。
 あまりの手の付けられなさに一度だけ魔王ハザードがボコボコにしたのだが、それでも彼が止まることはなかった。
 それどころか以前よりも狂気を増したようにも思える。

 そんな魔王ハンターは、今回もまた殺戮のために村へと降り立ったのだ。
 人々は為す術もないまま、純粋な暴力に屈するしかない――

 かと思われた。

 史実によると、魔王ハンターはここで討伐されたのである。
 何を隠そう一人の人間の手によって。

『そんなに悲鳴が聞きたいなら聞かせてやるよ』

 そう言うと、その男は黄金の剣と盾を使い魔王へと立ち向かった。
 凄まじい剣戟とあらゆる攻撃を防ぐ盾で男は優位に立つと、瞬く間に魔王を追い詰めていく。

『自らの悲鳴であの世へ行け!』

 最後の一撃が閃くと、魔王ハンターはけたたましい叫び声と共にチリとなって消えた。
 消滅を確認すると、男は何事も無かったかのようにその場を去ろうとした。
 お礼も言えぬまま去られるのが心苦しかった村長はその男を呼び止める。

『あなたは、いったい何者なんですか?』

 村長が訊くと、男はこう言った。

『そうだなー……"通りすがりの転生者"、ってとこかな?』

 それだけを言い残した男は、村長に背を向けてひらひらと手を振り去っていった。
 転生者という聞きなれない言葉に村長は首をひねる。
 結局名を名乗らなかったために、村長はその男が何者なのかさっぱりわからなかったという。
 だが、絶望に一人で立ち向かい勝利した男。

 村長はその男を"魔王を討伐した勇者"として、未来永劫語り継ぐことを誓ったのであった。


 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・


 勇者が誕生してから1000年。
 この世界に新たな命が誕生した。

 何てことの無いただの平民の家。
 そこで産声を上げた一人の男児。

 元気な子が生まれたと家族が喜ぶなかで――

(――あれ、どこだここ?)

 これは、1000年の時を越えて"希望"が生まれた瞬間である。
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