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第一章 蒼と雪の出会い
2.変調愛テロルと屋上でのやり取り
帰りのホームルームが終わり、放課後になるとすぐに俺は荷物を纏め、逃げるようにして教室を出た。
その足で二階の渡り廊下を通り特別棟の三階にある図書室へと向かう。
訪れた図書室内は、テーブル席に座り読書したり勉強したりしている生徒で既に賑わいを見せていた。
ここにはパソコンやインターネットを利用して学習や調べ物が出来るスペースもあり、その蔵書のジャンルは幅広くライトノベルやマンガも多く置かれていたりする事から、生徒達に人気のスポットなのだ。
俺は借りていた文庫本の返却を済ませると、受付けカウンターの横に置かれている棚に面陳されている一冊の文庫本に目をやった。
──よかった。ちゃんと入ってる。
添えられている可愛らしくデフォルメされた猫のキャラクターが描かれたポップには、『第32回インパクトノベル大賞受賞作品!!』と紹介されている。
この学校の図書室には、インターネットを通じて、所蔵していない本をリクエストして購入してもらえるサービスがある。
俺はそれを利用してこのライトノベルの新刊をリクエストしていて、本日入荷したとの連絡をメールでもらっていたのだ。
俺はそれを確認して満足げに頷くと、その『変調愛テロル』というタイトルの文庫本を感慨深い気持ちで手に取り、空いているテーブル席に座って読み始めた。
§
ふと手にした文庫本に落としていた目を上げ、壁にかけられている時計に目をやると、読書を始めてから一時間半程が経っていた。
もう読むのはこれで七周目だというのに、未だに物語に没入してしまう。
冷めた恋愛観を持つ主人公の女子高生が、通い始めた塾で授業を担当する大学生のイケメン講師に個別指導を受けるようになる。
最初の内は胡散臭いと敬遠していたのが、ある事件が起きて、その時に窮地を救われたのをきっかけに一瞬で恋に落ちる事になる。
それからは色んな策を巡らせて相手が怯える程の好意を向けるようになり──というのが物語の大まかなあらすじだ。
その主人公の気持ちが急激に変化する描写が情感たっぷりに描かれていたり、主人公がイケメン講師を落とすために巡らせる策も奇抜で意外性のあるものばかりで、とにかく素晴らしい作品なのだ。
元々はWeb上の小説投稿サイトであるカキヨミで連載されていた作品で、連載当初から完結まで追っていた。
けれど、書籍化にあたって大幅に改稿され、新規エピソード等も追加されていたため、新鮮な気持ちで読む事が出来た。
このまま読み続けていたいが、今日はまだこの後学校でやる事が残っているため、ここまでにしておくか、と文庫本を閉じて席を立つ。
俺は発売日に購入して既に自宅に一冊持っている。
その為、これは他の利用者のために図書室に置いておこうと、文庫本を元あった棚に戻し、図書室を出た。
特別棟から教室棟へと戻り、一度一階にある職員室を訪ねたが、お目当ての人物はそこにはいなかった。
ならばあそこしかないなと当たりを付け、人気のない階段を上り、鍵が壊れているドアを開けて屋上に立ち入った。
すると、その中央付近で、こちらに背を向けて立ち、よそよそしく吹く風に紫煙をくゆらせているパンツスーツ姿の女性がいた。
シニョンに纏められた黒髪の下から、綺麗なうなじが覗いている。
「やっぱりここでしたか。美作先生」
その背中に向かって呼びかける。
「何だ、君か」
徐ろに振り返ると、美作先生は、そこに立つ俺の姿を見てつまらなそうに返した。
彼女が俺達のクラスの担任、美作静音先生だ。
男口調で話すため、初対面の相手には取っ付き難い人物だと思われがちだが、その心根は優しく面倒見がいいため、生徒達の多くは彼女の事を尊敬し慕っている。
中には”お静さん”の愛称で呼ぶ猛者もいるとか。
俺には到底真似できない所業だ。
仮にそう呼ぼうものなら、烈火の如くお叱りを受けた挙句、トイレの清掃活動なんかの懲罰まで課されてしまうかもしれない。
「ここは特別な用件がある時以外、生徒の立ち入りは禁止のはずだぞ。校則を軽視するのは感心せんな。恣意的な行動は慎め」
「副流煙をまき散らして、環境を汚染している人には言われたくないですね」
負けじと言い返す。そちらが舌戦を望むなら、受けてやってもいい。
「君だって電車を利用して、CO2濃度を増やすのに貢献しているじゃないか」
「電車は、自家用車や航空機よりも遥かにCO2排出量が少ない環境に優しい乗り物です」
「そんなのは屁理屈に過ぎん。被害の大小によって事の善悪が決まるわけじゃない」
「仮にそうだとしても、健康によくないのは確かでしょう」
「自分の身体だ。他人にどうこう言われる筋合いはない」
そこでこちらに向けて煙を吹きつけて見せるのは、挑発しているんだろうか。
「それより、何の用だ? こんなところまでわざわざ私に皮肉をぶつけにきた訳じゃないんだろう?」
「美作先生に一つ頼みがあるんです」
「頼み? 君が私を頼ろうとするなんて、珍しい事もあるもんだ」
「出来れば避けたいんですけど、今回はそうせざるを得ないので」
「まぁいい。聞こう」
「白鳥が、俺に絡んでこようとするんで、俺は危ないやつだって教えて釘を刺してやって欲しいんですよ。大した手間じゃないでしょう? 担任教師としての職務の範疇です」
あれから白鳥は、朝あれだけ冷たく突き放したというのに、休み時間になるたびにしつこく俺に話し掛けて来た。
適当にあしらいはしたものの、俺の心も氷で出来ているわけじゃあないので、あの裏表のない無垢な少女を邪険にするのは、正直胸が痛むのだ。
「ふむ。この学校のアイドル的存在である白鳥に好意を向けられて、喜ぶどころか拒絶するとはな。君くらいだぞ。そんなもったいない事をするやつは」
「俺は一人でいるのが性に合っているんですよ。そうなる原因となったあの事件の事を知れば、白鳥も考えを改めるはずです」
「その必要はないだろう。だって君は何もしてはいないんだから」
美作先生に当然のようにそう言われ、俺は思わずたじろいだ。
「君はあの事件における加害者ではなく被害者だ。周りが何と言おうとな」
「⋯⋯」
俺が黙して何も返さずにいると、美作先生はそれ以上その事には触れようとせず、話題を変えた。
「ところで、顔色があまり優れないようだが、食事はちゃんと毎日三食栄養のある物を摂っているのか? 君は料理の腕は確かだが、たまにサボろうとするからな。ちゃんと小まめに掃除をしているかも気になるし、その内また仕事の手が空いた時にでも抜き打ちチェックにいくからな」
「ちゃんとやっているから、こなくていいです」
「そう邪険にするな。いつまで反抗期を続けるつもりだ。小さい頃は、あんなに素直で可愛かったというのに」
わざとらしく眉尻を下げて嘆いて見せる。
「傍にいる大人の影響を受けたのかもしれませんね」
「相変わらずシニカルなやつだ」
そう苦々しく漏らすと、美作先生は、携帯灰皿で短くなった煙草の火を揉み消して俺へと向かって近づいてきた。
その横を通り過ぎる際に、
「その頼みを聞いてやる事は出来ない。自分で対処しろ。私からは以上だ」
それだけ告げ、つかつかとその場を離れていく。
「たまには母さんに会いにいってあげてくださいよ」
俺は去りゆく背中に向けてそう声をかけた。
「⋯⋯考えておく」
それに振り返る事なく短く返すと、彼女は屋上を出ていった。
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