24 / 48
第四章 球技大会
22.イメチェンのお披露目
しおりを挟む今日はここ最近で一番バイオリズムがいい。起床するとともに、そう感じる。
ついに球技大会の日となった。
朝、洗面所の鏡に以前とは違う自分を映しながら、ヘアワックスを使い、足立さんに教わったやり方で髪型を整える。
足立さん程のテクニックは持っていないが、何とか形にはなったと思う。
自宅マンションを出ると、部屋の中にいる時から感じていた梅雨の時期特有のジメッとした蒸し暑さが、更に増すのを肌で感じた。
ここ数日は、記録的な猛暑日が続いている。
気の早い夏のせいだ。
一目惚れですぐに運命の相手だと直感で決める恋愛みたいに。
こういう時には、さっぱりした冷やし中華や冷奴が食べたくなる。
今日の夕食はそれにしようと予定を決めながら、いつもの待ち合わせ場所にしている雪代家の門の前までいくと、既に彼女はそこにいた。
「おはよう、雪代」
いい反応が返ってくるのを期待して声を掛ける。
「⋯⋯誰?」
だが、彼女はそんな俺に対し、まるで見知らぬ通行人Aに突然話しかけられたみたいな素気ない対応を取った。
「俺だよ、俺!」
警戒して身構える雪代に、必死に主張する。
「新手のオレオレ詐欺とか? 通報しますよ?」
おい! 言いながらスマホに手を伸ばすのは止めろ!
「違う! 緋本だよ! 緋本蒼介! 自分でもかなり雰囲気が変わったとは思うけど、まさか君に不審者扱いされるとまでは予想だにしていなかったぞ!」
俺が甚だしい不満を言い立てると、雪代は怪訝そうに眉を顰めていた顔を崩し、破顔一笑して謝罪した。
「あははっ! ごめんごめん。君が私の驚くリアクションを期待していたみたいだったから、つい揶揄いたくなっちゃったよ」
と腹を抱えて笑いながら。
「勘弁してくれよ⋯⋯本当に通報されるかと危ぶんだぞ⋯⋯」
彼女の演技にまんまとしてやられてしまった。
「それにしても、そう思われても仕方ないくらいの変貌だね。以前の暗い雰囲気が綺麗さっぱり消えて、爽やかで感じがいい印象になってる。それに君、前髪上げるとそんな顔してたんだね。初めて知ったよ。普通に整ったイケメンだ」
心外な言葉が聞こえてきた。
「という事は、以前の俺は、君に長い前髪だけで認識されていたって事か?」
「それが君にとってのアイデンティティだって尊重していたって事だよ」
「また誤魔化されてる気がする⋯⋯」
掌の上でゴロンゴロンと転がされている音が聞こえてくるぞ。
「そんな事より、いよいよ勝負の日がやってきたね。爽やかイケメンになった君が試合でスーパープレイを見せれば、クラスメイトどころか、学校中が君にメロメロだよ」
「仮にそうなったとしたら、俺は引きこもって不登校になるかもしれない。見栄えが多少良くなったからって、中身は元の根暗な陰キャぼっちのままなんだぞ。必要以上に目立ちたくはない」
「君は絵に描いた餅くらいに考えて気楽に構えていればいいよ。今日の球技大会が終われば分かる事だしね」
§
昇降口で靴を履き替えながら、俺は溜息を吐いた。
雪代と一緒に登校している間、いつもとは違う視線を幾つも感じて、非常にいたたまれなかったのだ。
──悪く思われてる訳じゃないよな? いい意味での注目でも、それはそれで緊張するんだけど⋯⋯。
などとジレンマに苛まれながら、雪代と共に二年B組の教室に入る。
既に登校してきていたクラスメイト達でガヤガヤと騒がしかった教室が、次第に波が引いていくように、一人、また一人と口を噤み、静かになっていく。
彼らの視線は一様に自席に腰を下ろした俺へと向けられていた。
「えっと⋯⋯」
俺がどう反応したものかと戸惑っていると、後ろの席に座るド変人江南が、通常運転の不躾さで話し掛けてきた。
「変です。緋本氏が冴えない根暗な陰キャじゃなくなってます。驚愕です。分かりました。貴方、緋本氏の偽物ですね? どこの研究所で創られたんですか?」
その一言がトリガーとなり、教室中で見た目が変わった俺に対する感想の言葉が発せられた。
「私、転校生がきたのかと思った」
「えっ!? あの爽やかなイケメンが、冴えない根暗な陰キャぼっちって呼ばれてた人?」
「変わりすぎじゃね? もはや別人だろ」
「私、結構タイプかも⋯⋯トゥンク」
「髪型変えたらモテ期がきたってか? どこのラノベ主人公だよ」
「処す?」
かなりの好印象を抱かれたようで、照れ臭さもある半面、緊張が解けて一安心する。
これで少しはこのクラスでの扱いも変わるだろう。
最後に例の要注意人物としてその存在を刻んでいたやつがいたが、今の俺は気分がすこぶるいい。
寛大な心でなかった事にしておいてやろう。
§
「今日は皆も知っての通り球技大会が行われる。それぞれその種目が得意な者もいれば、逆に苦手な者もいる事だろう。だが、結果がどうあれ、大事なのは、自分の持てる限りの全力を尽くし、後に悔いを残さないという事だ。ただ、怪我だけはないように、決して無理はせず、フェアプレーの精神で励むように。いいな。では、各自更衣室にいって着替えを済ませ、体育館に集合し開会を待て」
美作先生は教壇に立ってそう告げると、一瞬だけ俺の顔を見て微笑んだようにも見えたが、すぐに視線を逸らし教室を出ていった。
「それにしても、凄ぇ変わりっぷりだよな。最初に教室に入ってきた時、誰か分かんなかったぞ。あんま驚かせんなよな」
朝倉が更衣室でシャツを脱ぎながら、感心とも呆れともつかない印象を伝えた。
「普通は髪型を変えただけじゃ、そこまで印象が変わる事はないからな。緋本は元々の素材が良かったんだよ」
ジャージの上着を羽織りつつ、早風が褒め言葉を投げ掛けてくれる。
「イメチェンした緋本なら、いつも通りのプレイを見せさえすれば、そこら辺の女子なんてイチコロだぜ?」
「やめろよ。そんな邪な下心なんて持っちゃいない。そんな事より、フォーメーションは練習の時と同じ3アウト2インでいいんだよな?」
念を入れて確認しておく。
「ああ。未経験者が二人いるし、それでいいだろ。身長が百八十超えてる俺と郁也でインサイドに入るぜ! ゴール下のシュートとリバウンドは任せろ!」
郁也というのは早風の下の名前だ。練習の時に教えてもらった。
「緋本には司令塔としてポイントガードを務めてもらう事になる。俺達だけじゃなく他の二人も上手く使って的を絞らせないようにしてくれ」
「分かった」
あれから何回か行われた体育の授業での練習試合により、未経験者だった二人も、十分戦力になるまでに上がってきてくれた。
ただ、例のもやし三兄弟についてはあまり期待は出来そうにない。
だが、朝倉達は、決勝まで勝ち上がれば全部で五試合ある内の最初の二試合には、もやし三兄弟も途中で交代させて出場させるつもりでいるらしい。
真剣勝負ではあるものの、あくまで学校行事だからな。
参加する事に意義がある訳で、下手だからと除け者にする気はないようだ。
そんな風に三人で作戦会議をしつつ着替えを終え、体育館に向かった。
0
あなたにおすすめの小説
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる