降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜

朔月カイト

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第四章 球技大会

22.イメチェンのお披露目

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 今日はここ最近で一番バイオリズムがいい。起床するとともに、そう感じる。

 ついに球技大会の日となった。

 朝、洗面所の鏡に以前とは違う自分を映しながら、ヘアワックスを使い、足立さんに教わったやり方で髪型を整える。
 足立さん程のテクニックは持っていないが、何とか形にはなったと思う。

 自宅マンションを出ると、部屋の中にいる時から感じていた梅雨の時期特有のジメッとした蒸し暑さが、更に増すのを肌で感じた。

 ここ数日は、記録的な猛暑日が続いている。
 気の早い夏のせいだ。
 一目惚れですぐに運命の相手だと直感で決める恋愛みたいに。
 こういう時には、さっぱりした冷やし中華や冷奴が食べたくなる。

 今日の夕食はそれにしようと予定を決めながら、いつもの待ち合わせ場所にしている雪代家の門の前までいくと、既に彼女はそこにいた。

「おはよう、雪代」

 いい反応が返ってくるのを期待して声を掛ける。

「⋯⋯誰?」

 だが、彼女はそんな俺に対し、まるで見知らぬ通行人Aに突然話しかけられたみたいな素気ない対応を取った。

「俺だよ、俺!」

 警戒して身構える雪代に、必死に主張する。

「新手のオレオレ詐欺とか? 通報しますよ?」

 おい! 言いながらスマホに手を伸ばすのは止めろ!

「違う! 緋本だよ! 緋本蒼介! 自分でもかなり雰囲気が変わったとは思うけど、まさか君に不審者扱いされるとまでは予想だにしていなかったぞ!」

 俺が甚だしい不満を言い立てると、雪代は怪訝そうに眉を顰めていた顔を崩し、破顔一笑して謝罪した。

「あははっ! ごめんごめん。君が私の驚くリアクションを期待していたみたいだったから、つい揶揄いたくなっちゃったよ」

 と腹を抱えて笑いながら。

「勘弁してくれよ⋯⋯本当に通報されるかと危ぶんだぞ⋯⋯」

 彼女の演技にまんまとしてやられてしまった。

「それにしても、そう思われても仕方ないくらいの変貌だね。以前の暗い雰囲気が綺麗さっぱり消えて、爽やかで感じがいい印象になってる。それに君、前髪上げるとそんな顔してたんだね。初めて知ったよ。普通に整ったイケメンだ」

 心外な言葉が聞こえてきた。

「という事は、以前の俺は、君に長い前髪だけで認識されていたって事か?」
「それが君にとってのアイデンティティだって尊重していたって事だよ」
「また誤魔化されてる気がする⋯⋯」

 掌の上でゴロンゴロンと転がされている音が聞こえてくるぞ。

「そんな事より、いよいよ勝負の日がやってきたね。爽やかイケメンになった君が試合でスーパープレイを見せれば、クラスメイトどころか、学校中が君にメロメロだよ」
「仮にそうなったとしたら、俺は引きこもって不登校になるかもしれない。見栄えが多少良くなったからって、中身は元の根暗な陰キャぼっちのままなんだぞ。必要以上に目立ちたくはない」
「君は絵に描いた餅くらいに考えて気楽に構えていればいいよ。今日の球技大会が終われば分かる事だしね」


   §


 昇降口で靴を履き替えながら、俺は溜息を吐いた。

 雪代と一緒に登校している間、いつもとは違う視線を幾つも感じて、非常にいたたまれなかったのだ。

 ──悪く思われてる訳じゃないよな? いい意味での注目でも、それはそれで緊張するんだけど⋯⋯。
 
 などとジレンマに苛まれながら、雪代と共に二年B組の教室に入る。

 既に登校してきていたクラスメイト達でガヤガヤと騒がしかった教室が、次第に波が引いていくように、一人、また一人と口を噤み、静かになっていく。

 彼らの視線は一様に自席に腰を下ろした俺へと向けられていた。

「えっと⋯⋯」

 俺がどう反応したものかと戸惑っていると、後ろの席に座るド変人江南が、通常運転の不躾さで話し掛けてきた。

「変です。緋本氏が冴えない根暗な陰キャじゃなくなってます。驚愕です。分かりました。貴方、緋本氏の偽物ですね? どこの研究所で創られたんですか?」

 その一言がトリガーとなり、教室中で見た目が変わった俺に対する感想の言葉が発せられた。

「私、転校生がきたのかと思った」
「えっ!? あの爽やかなイケメンが、冴えない根暗な陰キャぼっちって呼ばれてた人?」
「変わりすぎじゃね? もはや別人だろ」
「私、結構タイプかも⋯⋯トゥンク」
「髪型変えたらモテ期がきたってか? どこのラノベ主人公だよ」
「処す?」

 かなりの好印象を抱かれたようで、照れ臭さもある半面、緊張が解けて一安心する。
 これで少しはこのクラスでの扱いも変わるだろう。

 最後に例の要注意人物としてその存在を刻んでいたやつがいたが、今の俺は気分がすこぶるいい。
 寛大な心でなかった事にしておいてやろう。


   §


「今日は皆も知っての通り球技大会が行われる。それぞれその種目が得意な者もいれば、逆に苦手な者もいる事だろう。だが、結果がどうあれ、大事なのは、自分の持てる限りの全力を尽くし、後に悔いを残さないという事だ。ただ、怪我だけはないように、決して無理はせず、フェアプレーの精神で励むように。いいな。では、各自更衣室にいって着替えを済ませ、体育館に集合し開会を待て」

 美作先生は教壇に立ってそう告げると、一瞬だけ俺の顔を見て微笑んだようにも見えたが、すぐに視線を逸らし教室を出ていった。


「それにしても、凄ぇ変わりっぷりだよな。最初に教室に入ってきた時、誰か分かんなかったぞ。あんま驚かせんなよな」

 朝倉が更衣室でシャツを脱ぎながら、感心とも呆れともつかない印象を伝えた。

「普通は髪型を変えただけじゃ、そこまで印象が変わる事はないからな。緋本は元々の素材が良かったんだよ」

 ジャージの上着を羽織りつつ、早風が褒め言葉を投げ掛けてくれる。

「イメチェンした緋本なら、いつも通りのプレイを見せさえすれば、そこら辺の女子なんてイチコロだぜ?」
「やめろよ。そんな邪な下心なんて持っちゃいない。そんな事より、フォーメーションは練習の時と同じ3アウト2インでいいんだよな?」

 念を入れて確認しておく。

「ああ。未経験者が二人いるし、それでいいだろ。身長が百八十超えてる俺と郁也ふみやでインサイドに入るぜ! ゴール下のシュートとリバウンドは任せろ!」

 郁也というのは早風の下の名前だ。練習の時に教えてもらった。

「緋本には司令塔としてポイントガードを務めてもらう事になる。俺達だけじゃなく他の二人も上手く使って的を絞らせないようにしてくれ」
「分かった」

 あれから何回か行われた体育の授業での練習試合により、未経験者だった二人も、十分戦力になるまでに上がってきてくれた。

 ただ、例のもやし三兄弟についてはあまり期待は出来そうにない。

 だが、朝倉達は、決勝まで勝ち上がれば全部で五試合ある内の最初の二試合には、もやし三兄弟も途中で交代させて出場させるつもりでいるらしい。
 真剣勝負ではあるものの、あくまで学校行事だからな。
 参加する事に意義がある訳で、下手だからと除け者にする気はないようだ。

 そんな風に三人で作戦会議をしつつ着替えを終え、体育館に向かった。


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