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第六章 初デートと夏休み旅行
32.海の家での昼食とスイカ割り、そして晒される純白
「きたきたー! これですよ、これー!」
白鳥が嬉しげに手をぱちぱちと叩きながら迎えたのは、この海の家で一番人気のメニュー『ハイブリッド焼きそば』だ。
その名の通り、昔ながらの屋台風焼きそばに、分厚いとんかつとサニーサイドダウンの目玉焼きが載せられている何ともボリューミーな一品。SNSでも話題なんだとか。
なので、ここにきたらこれを食べなければ始まらないという白鳥の言に従い、全員が同じメニューを頼んだ。
「この焼きそば総受けでハーレム状態だね。とんかつと目玉焼きに同時に攻められて、悦んでるよ。熱いねー」
鉄板の熱さとは違う熱さを感じ取ったらしい橘が、楽しげに、そして卑しげにその様をスマホで色んな角度から撮影している。
「姫、あんた猫舌でしょ? ふーふーして冷ましてあげましょうか?」
ここでも涼葉の白鳥弄りが始まった。
「もー、涼、子供扱いしないでよー」
と頬を膨らませる彼女。
「俺は熱いのなんかへっちゃらだぜ!」
高らかに言い放つと共に、勢い良く焼きそばを箸で掴み、口へと運ぶ朝倉。
「──ッ! あちっ! あちちっ! 水、水!」
「「「あははっ」」」
即座にフラグを回収するお笑い芸人朝倉の醜態を見て、皆が笑う。
「それじゃあ、僕もいただこうかな。慌てずにゆっくりとね」
鳴宮が朝倉を揶揄いながら、見せつける様に殊更上品な仕草で箸を付けた。
他の皆も次々に食事を始める。
「この焼きそば、ラードが使われてるな。通りで香ばしいはずだ」
「お? さすが料理上手な緋本君だね。分かってる人の台詞だ」
砂浜で一緒に棒倒しで遊んで多少打ち解けたせいか、その時から鳴宮の距離感が近い様な気がする。
まさか、懐かれてしまったんじゃないだろうな。
だが、駄目だぞ。橘の目が光っている。過度な接近は禁物だ。
そんな和やかな雰囲気の中、来栖はほとんど口を開かなかった。
棒倒しで惨敗してそんなにへこんだのか?
§
昼食を食べ終えた後は、この海の家のサービスの一つ、スイカ割りを皆で楽しむ事になった。
スイカ、棒、目隠し用のタオル等をを提供してもらい、レジャーシートが敷かれた上に丸々としたスイカが置かれた。
ルールは、割る人一名と、方向を指示する人一名で一チームを組む。
そして、割る人が目隠しをした状態で、5メートル程離れた地点から、右回り五回と三分の二回転してスタート。
サポートする人の指示を受けながら進み、一分三十秒の制限時間内に三回まで棒を振れる。
皆がそのルールを把握したところで、ペアを決めるためのくじ引きが行われ、その結果、来栖と橘、白鳥と朝倉、俺と涼葉、怜愛と鳴宮となった。
順番はじゃんけんで決められ、先ずは白鳥と朝倉のペアから挑戦する事に。
割る人役の朝倉が目隠しをして、その場で回転する。
回り切り、ふらふらと酔いどれの様な千鳥足で進む朝倉。
「大翔ー! そっちじゃなくて、もっと右ー! お箸持つ方だよー!」
「こ、こっちか?」
白鳥の指示が飛び、朝倉がそれに従って進む。
「そう、そこ! バーンと思いっ切りいっちゃって!」
「よし! ここだな!」
朝倉が意気盛んに応じ、頭上に構えた棒を勢い良く振り下ろした。
──ガッ!
「ん⋯⋯?」
手応えが妙だと感じたのか、朝倉が首を捻りつつ目隠しを外す。
「って、全然ちがうじゃん!」
朝倉が叩いたのは、見当違いのスイカからは程遠い場所だった。
「あはははっ! 大翔ざまー!」
「騙したな、姫! この裏切り者!」
腹をかかえて爆笑する白鳥に、朝倉が憤って声を荒らげる。
「姫、あんたも残酷な仕打ちするわね。もっとやりなさい」
「大翔、君はいつまでもそのままの君でいてくれ。僕達に良質な笑いを提供するために」
「酷い大翔⋯⋯スイカさんは、あんなに貴方の攻めを待ち焦がれていたっていうのに⋯⋯本当の裏切り者は貴方よ!」
涼葉、鳴宮、橘が、被害者であるはずの朝倉に追い打ちを掛ける。
「俺の扱いが酷過ぎる⋯⋯」
追加でダメージを食らった朝倉は、ショックの余りかへなへなとその場に力なく崩折れてしまった。
無駄にポジティブなこいつでも、立ち直るまでは暫く掛かりそうだ。
「はい! じゃあ大翔は目隠し取っちゃったからチャレンジはそこで終了ねー」
受けのスイカさんが無残にも期待を裏切られるというシチュエーションを悲しみ嘆いていたはずの橘。
彼女は、ころりと態度を変え、しょうもない茶番をあっさりと終わらせた。
「お前ら覚えてろよ! 後でぜってー見返してやるからな!」
流石に蹲ったのは演技だったらしく、朝倉がすくっと立ち上がり、いつもの力強さで宣言する。
そんな賑やかなスイカ割りで見事勝利したのは、来栖&橘ペアだった。
割る人役を自ら買って出た橘は、同情していたはずの受けのスイカさんを、何の躊躇いもなく力任せに叩き割っていた。
割ったスイカは、皆で味わった。
ただ、未だに来栖が翳りを見せているのが少々気に掛かる。
サポート役でも、何とか最低限の働きはしていたものの、その声には覇気が感じられなかったし⋯⋯。
昼食の焼きそばを食い過ぎて、腹でも痛いんだろうか?
§
「私は疲れたから、別荘に戻ってるよ」
スイカを食べ終えて、また海で遊ぼうかとなっているところで、怜愛が伝えた。
「えー、怜愛、午前中はずーっとパラソルの下にいたし、スイカ割りのサポート役でもほとんど声出してなかったじゃん。なんで疲れてるのー?」
白鳥が不満そうに問いを投げ掛ける。
「スマホの画面眺めてたから、目が疲れたんだよ。仮眠するから皆はそのまま遊んでて」
「それなら、俺も一緒に戻るよ。ちょっと眠くなってきたんだ」
俺も彼女の後に続く。
「えー、緋本君もー?」
「まぁまぁ姫、疲れてるのに無理に引き止めちゃ悪いよ。楽しい旅行なんだし、嫌な思いをさせちゃ駄目だ」
今日は妙に俺に優しい鳴宮。裏がなければ、ただの良識あるいいやつだな。
また機会があれば、棒倒しに付き合ってやらないでもない。
「じゃあ、そういう事だから」
「悪いな」
「それで、俺に目配せして誘ったのは、どういう理由があっての事なんだ?」
別荘へと向かって怜愛と並んで歩きながら、その意図を尋ねた。
「ちょっと君に見せたいものがあってね。別荘の中でお披露目するよ」
そう答えた怜愛の顔は、何だか妙に楽しげだ。俺に持ち前の茶目っ気が効いた悪戯でも企んでいるんじゃないだろうか。
別荘に着き、他にはだれもいないリビングに入ると、怜愛は「ちょっとだけ後ろを向いてて」と指示した。
その言葉に素直に従い、彼女とは反対方向を向く。
予想し得る光景を控えて、胸が高鳴る。
すると、微かに衣擦れの音がして、「もうこっちを向いていいよ」とお許しが出た。
振り返って目に映った姿は、期待を遥かに上回るものだった。
先程まで羽織っていたはずのガウン風のラッシュガードは、床に落とされ、その下に着ていた、彼女を象徴するかのような純白のタイサイドビキニが露わになっていた。
「君だけに見せようかと思ってね」
怜愛がいつになく、そのビキニと同じ純白の頬を淡く染めて、照れたようにはにかんで見せる。
今にも解けそうな程に細く頼りない紐で結ばれているその危うさが、とてもセクシーだ。
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「⋯⋯上手く言葉が出てこないな⋯⋯こんな在り来りな言い方しか出来なくて申し訳がないけど、よく似合っていて綺麗だよ」
何とかそれだけを絞り出した。
「ふふっ。それで十分だよ。他の誰の美辞麗句よりも嬉しいね」
怜愛はとても満足げだ。口許の綻びも増している。
「どういたしまして」
「時間を掛けて選んだ甲斐があったなぁ。君は普段ポーカーフェイスを気取ってるみたいだけど、時にその仮面が剥がれるからね。本心で褒めてくれたって分かるよ」
「君といる時だけだよ。そういう側面を見せるのは」
「あははっ。いつか私が君に言った言葉だね。お互いに特別同士って事だ」
と楽しげに笑う。
「俺にだけこの姿を見せてくれたんだ。それって特別って事だからな」
「ふふっ。これからも君にだけ、色んな私の特別を見せて上げるから、楽しみにしててね」
「それは嬉しいけど、俺には返せるものが余りないなぁ」
「報酬なら、もうとっくにもらってるんだけどね」
「⋯⋯俺、君に上げたものって言えば、水族館デートの時のプレゼントくらいしか思い浮かばないぞ?」
「ふふっ。それは宿題にしておくよ」
怜愛がこれだけ楽しげに何回も声に出して笑うのを見るのは、これが初めての事かもしれない。
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