降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜

朔月カイト

文字の大きさ
34 / 101
第六章 初デートと夏休み旅行

32.海の家での昼食とスイカ割り、そして晒される純白


「きたきたー! これですよ、これー!」

 白鳥が嬉しげに手をぱちぱちと叩きながら迎えたのは、この海の家で一番人気のメニュー『ハイブリッド焼きそば』だ。
 その名の通り、昔ながらの屋台風焼きそばに、分厚いとんかつとサニーサイドダウンの目玉焼きが載せられている何ともボリューミーな一品。SNSでも話題なんだとか。
 なので、ここにきたらこれを食べなければ始まらないという白鳥の言に従い、全員が同じメニューを頼んだ。

「この焼きそば総受けでハーレム状態だね。とんかつと目玉焼きに同時に攻められて、よろこんでるよ。熱いねー」

 鉄板の熱さとは違う熱さを感じ取ったらしい橘が、楽しげに、そして卑しげにその様をスマホで色んな角度から撮影している。

「姫、あんた猫舌でしょ? ふーふーして冷ましてあげましょうか?」

 ここでも涼葉の白鳥弄りが始まった。

「もー、涼、子供扱いしないでよー」

 と頬を膨らませる彼女。

「俺は熱いのなんかへっちゃらだぜ!」

 高らかに言い放つと共に、勢い良く焼きそばを箸で掴み、口へと運ぶ朝倉。

「──ッ! あちっ! あちちっ! 水、水!」
「「「あははっ」」」

 即座にフラグを回収するお笑い芸人朝倉の醜態を見て、皆が笑う。

「それじゃあ、僕もいただこうかな。慌てずにゆっくりとね」

 鳴宮が朝倉を揶揄いながら、見せつける様に殊更上品な仕草で箸を付けた。

 他の皆も次々に食事を始める。

「この焼きそば、ラードが使われてるな。通りで香ばしいはずだ」
「お? さすが料理上手な緋本君だね。分かってる人の台詞だ」

 砂浜で一緒に棒倒しで遊んで多少打ち解けたせいか、その時から鳴宮の距離感が近い様な気がする。
 まさか、懐かれてしまったんじゃないだろうな。
 だが、駄目だぞ。橘の目が光っている。過度な接近は禁物だ。

 そんな和やかな雰囲気の中、来栖はほとんど口を開かなかった。

 棒倒しで惨敗してそんなにへこんだのか?


   §


 昼食を食べ終えた後は、この海の家のサービスの一つ、スイカ割りを皆で楽しむ事になった。

 スイカ、棒、目隠し用のタオル等をを提供してもらい、レジャーシートが敷かれた上に丸々としたスイカが置かれた。

 ルールは、割る人一名と、方向を指示する人一名で一チームを組む。
 そして、割る人が目隠しをした状態で、5メートル程離れた地点から、右回り五回と三分の二回転してスタート。
 サポートする人の指示を受けながら進み、一分三十秒の制限時間内に三回まで棒を振れる。

 皆がそのルールを把握したところで、ペアを決めるためのくじ引きが行われ、その結果、来栖と橘、白鳥と朝倉、俺と涼葉、怜愛と鳴宮となった。

 順番はじゃんけんで決められ、先ずは白鳥と朝倉のペアから挑戦する事に。

 割る人役の朝倉が目隠しをして、その場で回転する。
 回り切り、ふらふらと酔いどれの様な千鳥足で進む朝倉。

「大翔ー! そっちじゃなくて、もっと右ー! お箸持つ方だよー!」
「こ、こっちか?」

 白鳥の指示が飛び、朝倉がそれに従って進む。

「そう、そこ! バーンと思いっ切りいっちゃって!」
「よし! ここだな!」

 朝倉が意気盛んに応じ、頭上に構えた棒を勢い良く振り下ろした。

 ──ガッ!

「ん⋯⋯?」

 手応えが妙だと感じたのか、朝倉が首を捻りつつ目隠しを外す。

「って、全然ちがうじゃん!」

 朝倉が叩いたのは、見当違いのスイカからは程遠い場所だった。

「あはははっ! 大翔ざまー!」
「騙したな、姫! この裏切り者!」

 腹をかかえて爆笑する白鳥に、朝倉が憤って声を荒らげる。

「姫、あんたも残酷な仕打ちするわね。もっとやりなさい」
「大翔、君はいつまでもそのままの君でいてくれ。僕達に良質な笑いを提供するために」
「酷い大翔⋯⋯スイカさんは、あんなに貴方の攻めを待ち焦がれていたっていうのに⋯⋯本当の裏切り者は貴方よ!」

 涼葉、鳴宮、橘が、被害者であるはずの朝倉に追い打ちを掛ける。

「俺の扱いが酷過ぎる⋯⋯」

 追加でダメージを食らった朝倉は、ショックの余りかへなへなとその場に力なく崩折れてしまった。
 無駄にポジティブなこいつでも、立ち直るまでは暫く掛かりそうだ。

「はい! じゃあ大翔は目隠し取っちゃったからチャレンジはそこで終了ねー」

 受けのスイカさんが無残にも期待を裏切られるというシチュエーションを悲しみ嘆いていたはずの橘。
 彼女は、ころりと態度を変え、しょうもない茶番をあっさりと終わらせた。

「お前ら覚えてろよ! 後でぜってー見返してやるからな!」

 流石に蹲ったのは演技だったらしく、朝倉がすくっと立ち上がり、いつもの力強さで宣言する。

 そんな賑やかなスイカ割りで見事勝利したのは、来栖&橘ペアだった。
 割る人役を自ら買って出た橘は、同情していたはずの受けのスイカさんを、何の躊躇いもなく力任せに叩き割っていた。

 割ったスイカは、皆で味わった。

 ただ、未だに来栖が翳りを見せているのが少々気に掛かる。
 サポート役でも、何とか最低限の働きはしていたものの、その声には覇気が感じられなかったし⋯⋯。

 昼食の焼きそばを食い過ぎて、腹でも痛いんだろうか?


   §


「私は疲れたから、別荘に戻ってるよ」

 スイカを食べ終えて、また海で遊ぼうかとなっているところで、怜愛が伝えた。

「えー、怜愛、午前中はずーっとパラソルの下にいたし、スイカ割りのサポート役でもほとんど声出してなかったじゃん。なんで疲れてるのー?」

 白鳥が不満そうに問いを投げ掛ける。

「スマホの画面眺めてたから、目が疲れたんだよ。仮眠するから皆はそのまま遊んでて」
「それなら、俺も一緒に戻るよ。ちょっと眠くなってきたんだ」

 俺も彼女の後に続く。

「えー、緋本君もー?」
「まぁまぁ姫、疲れてるのに無理に引き止めちゃ悪いよ。楽しい旅行なんだし、嫌な思いをさせちゃ駄目だ」

 今日は妙に俺に優しい鳴宮。裏がなければ、ただの良識あるいいやつだな。
 また機会があれば、棒倒しに付き合ってやらないでもない。

「じゃあ、そういう事だから」
「悪いな」


「それで、俺に目配せして誘ったのは、どういう理由があっての事なんだ?」

 別荘へと向かって怜愛と並んで歩きながら、その意図を尋ねた。

「ちょっと君に見せたいものがあってね。別荘の中でお披露目するよ」

 そう答えた怜愛の顔は、何だか妙に楽しげだ。俺に持ち前の茶目っ気が効いた悪戯でも企んでいるんじゃないだろうか。

 別荘に着き、他にはだれもいないリビングに入ると、怜愛は「ちょっとだけ後ろを向いてて」と指示した。

 その言葉に素直に従い、彼女とは反対方向を向く。

 予想し得る光景を控えて、胸が高鳴る。

 すると、微かに衣擦れの音がして、「もうこっちを向いていいよ」とお許しが出た。

 振り返って目に映った姿は、期待を遥かに上回るものだった。

 先程まで羽織っていたはずのガウン風のラッシュガードは、床に落とされ、その下に着ていた、彼女を象徴するかのような純白のタイサイドビキニが露わになっていた。

「君だけに見せようかと思ってね」

 怜愛がいつになく、そのビキニと同じ純白の頬を淡く染めて、照れたようにはにかんで見せる。

 今にも解けそうな程に細く頼りない紐で結ばれているその危うさが、とてもセクシーだ。
 その肌の白さも相俟って、まるで精巧に象られた雪の彫像のようでもある。

「⋯⋯上手く言葉が出てこないな⋯⋯こんな在り来りな言い方しか出来なくて申し訳がないけど、よく似合っていて綺麗だよ」

 何とかそれだけを絞り出した。

「ふふっ。それで十分だよ。他の誰の美辞麗句よりも嬉しいね」

 怜愛はとても満足げだ。口許の綻びも増している。

「どういたしまして」
「時間を掛けて選んだ甲斐があったなぁ。君は普段ポーカーフェイスを気取ってるみたいだけど、時にその仮面が剥がれるからね。本心で褒めてくれたって分かるよ」
「君といる時だけだよ。そういう側面を見せるのは」
「あははっ。いつか私が君に言った言葉だね。お互いに特別同士って事だ」

 と楽しげに笑う。

「俺にだけこの姿を見せてくれたんだ。それって特別って事だからな」
「ふふっ。これからも君にだけ、色んな私の特別を見せて上げるから、楽しみにしててね」
「それは嬉しいけど、俺には返せるものが余りないなぁ」
「報酬なら、もうとっくにもらってるんだけどね」
「⋯⋯俺、君に上げたものって言えば、水族館デートの時のプレゼントくらいしか思い浮かばないぞ?」
「ふふっ。それは宿題にしておくよ」

 怜愛がこれだけ楽しげに何回も声に出して笑うのを見るのは、これが初めての事かもしれない。


感想 0

あなたにおすすめの小説

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編9が完結しました!(2026.3.6)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ

桜庭かなめ
恋愛
 高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。  あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。  3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。  出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2026.1.21)  ※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

桜庭かなめ
恋愛
 高校1年生の逢坂玲人は入学時から髪を金色に染め、無愛想なため一匹狼として高校生活を送っている。  入学して間もないある日の放課後、玲人は2年生の生徒会長・如月沙奈にロープで拘束されてしまう。それを解く鍵は彼女を抱きしめると約束することだった。ただ、玲人は上手く言いくるめて彼女から逃げることに成功する。そんな中、銀髪の美少女のアリス・ユメミールと出会い、お互いに好きな猫のことなどを通じて彼女と交流を深めていく。  しかし、沙奈も一度の失敗で諦めるような女の子ではない。玲人は沙奈に追いかけられる日々が始まる。  抱きしめて。生徒会に入って。口づけして。ヤンデレな沙奈からの様々な我が儘を通して見えてくるものは何なのか。見えた先には何があるのか。沙奈の好意が非常に強くも温かい青春ラブストーリー。  ※タイトルは「むげん」と読みます。  ※完結しました!(2020.7.29)

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!