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第六章 初デートと夏休み旅行
34.Vtuber波絵チェリーの真実
今は夜の十時を回った頃。
俺と同室の朝倉は、エアコンの程良く効いた室内で既に布団に包まってぐっすり眠っている。
今日一日浮かれて盛り上がっていたので疲れたらしい。
俺はといえば、今日は余り身体を動かさなかったので、未だ目は冴えている状態だ。
──眠くなるまでどうやって過ごそうか⋯⋯。
スマホに入ってる電子書籍は一度読んだものばかりだ。
であれば、ここは、『変調愛テロル』の二巻発売間近という事で、その一巻をもう一度予習を兼ねて読んでおこうか⋯⋯。
否、そう言えば、朝電車で橘が、波絵チェリーなるVtuberの話をしていたな。
Vtuberと言えば、今やWeb小説でも人気の題材だ。
橘にもああ言った事だし、勉強がてら一度どういうものか見てみるか。
そう決めた俺は、スマホにワイヤレスタイプのイヤホンを挿して耳に嵌めた。
ネットで動画配信サイトのWetubeを開き、波絵チェリーを検索してみる。
行きついたチャンネルページを見てみると、丁度今ライブ配信中らしい。
さっそくそのライブ配信を開く。
『今日のマシュマロは、ハードテイストな内容のものが多いですね。さくらんぼの皆さんのボクを軽視したぞんざいな扱い。逆にそれが心地いいです』
【ドMか】
【歪んだ性癖w】
【草】
【ワイのマシュマロでチェリーちゃんを悦ばせたるで!】
大きめのリボンをつけた白髪のロングヘアー。
整ったビスクドールみたいな幼顔に輝く瞳の色は透き通った青。
白いスカーフを胸元で結んだ紺色のセーラー服を着ている学生っぽい雰囲気の2Dキャラ。
その幻想的で可愛らしいキャラが、動きを交えながら口を動かす。
そうして、コメントを流す視聴者(ここではさくらんぼと呼称されているようだ)とのトークに興じていた。
この波絵チェリーってボクっ子なのか。
何だか江南を思い出してしまうな。
そう言えば、声も少し似ているような気がする⋯⋯。
否、ただの気のせいだろう。そんな偶然ある訳ないからな。
『では、名残り惜しいですけど、次で最後のマシュマロにしますね。「こんちぇ! いつも配信楽しく見させてもらっています。質問ですが、チェリーさんは永遠のセブンティーンとの事ですけど、そんなチェリーさんが通っている桜花学園で最近体験した面白いエピソードがあれば聞かせてください」──ふむ。面白エピソードですか。それならとっておきのがありますよ。聞いてくださいよ、さくらんぼの皆さん。ボクの前の席に冴えない根暗な陰キャぼっちがいるんですけどね──そうですね、仮に青海苔氏と名付ける事にしましょうか』
【クラスに一人はいるよね。そういう雰囲気の人】
【高校生の頃の自分を見ているようだ】
【完全に俺達側の人間だな】
【共感出来るよ】
冴えない根暗な陰キャぼっちか。親近感を覚える相手だな。
『その青海苔氏がですよ。最近孤高の存在だったはずのクラスメイトの美少女と親しくしちゃってるんですよ』
【何だと!】
【青海苔は俺達側だと思っていたのに! この裏切り者!】
【許すまじ】
【俺も美少女とイチャイチャしたい人生だった】
陰キャが美少女と仲良くなる展開は、ラノベなんかでは御馴染みのテンプレだな。
コメント欄は荒れている様子だが。
『しかも、林間学校の肝試しでは、ペアになったボクが恐怖に怯えて抱きついた事で、その柔肌の感触を豊満な胸と共に堪能。鼻の下をだらしなく伸ばしまくりでしたよ』
【その上ラッキースケベまで!】
【こともあろうに俺達のチェリーちゃんと!】
【羨まけしからん!】
【おい、青海苔! そこ代われ!】
身に覚えがある話のような気がするな⋯⋯胸は貧相で鼻の下も伸ばしちゃいなかったけど。
『そして、極めつけは全学年クラス対抗の球技大会。そこで青海苔氏は、長い前髪を切って素顔を晒し、爽やかなイケメン好青年へと変貌を遂げて登場。さらにバスケの決勝戦では、フリースローラインからのダンクを決めて、学校中の羨望の的に!』
【何というサクセスストーリー】
【いや、さすがにそれはあり得なくね?】
【俺も長い前髪切って登校した事あったけど、何もリアクションなかったし、そのダンクってのもなぁ】
【チェリーは虚言癖があるから、話半分で聞いとけよ】
──って完全に俺の事じゃないか! 君、ド変人の江南だろ!
高校生でそんなダンクを決める事が出来るのは、自慢じゃないが俺くらいしかいない。
その前の話も思えば全部符合してる。
それに、よく考えてみたら、波絵って苗字は、江南のアナグラムで文字を入れ替えて別の漢字を充てたってだけだ。
チェリーって下の名前も、桜に由来したさくらんぼを英訳しただけ。
くそぅ。俺の許可も得ずに勝手にペラペラと喋りやがって。
反感を持った視聴者に特定されて、ネット上で晒されたりしたらどう責任取るつもりだ。
『そんな青海苔氏でした。別に面白くもなんともありませんでしたね。むしろ腹立たしい事限りなしでした。さくらんぼの皆さん、気を遣ったノリのいいコメントありがとうございます。ぺこり。では、今日はここらへんでお開きに。明日はゲームの耐久配信をやる予定です。詳細は後ほど。お粗末でした。ばいちぇ』
【ばいちぇ!】
【おつ~】
【今日も楽しかった】
【明日の配信も楽しみにしてるよ】
会話する度に最後に口にしていたあの謎の言葉は、Vtuberとしての締めの挨拶だったのか。
そんな死ぬ程どうでもいい情報を得つつ、遣る瀬無い気持ちを抱えながら、ふて寝した。
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