降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜

朔月カイト

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第八章 青黎祭と文学市場

48.揚羽達とのグルチャと不機嫌な怜愛


 衝撃的な出会いを果たした文学市場のあった日の夜。

 気分のよかった俺は、帰りに寄ったスーパーで、牛ももブロック肉が特売で安かったため、それを使って、手軽にフライパンでローストビーフを作り、ちょっとした晩餐をした。

 ASIAN KANG‐FU GENERATIONの失恋を描いたロックチューン『ラストダンスは悲しみを乗せて』──。

 その、その言葉遊びが利いた内省的な歌詞と、切なくも踊り出したくなるようなビート感溢れる演奏に心地良く胸を揺さぶられながら、食後のドリップ珈琲を飲む。

 暫くそうしていると、Rainの通知が届いた。
 今日知り合ったばかりの文学サークル『ライターズシエスタ』の皆からの、グルチャへの招待だ。

 俺が参加すると、一斉に、八剣さん、純岡さん、夏伐さん、揚羽から、スタンプが。
 それぞれ、忍者、マッチョなおじさん、文屋紡希、テディベアのキャラで、『ようこそ』と歓迎された。
 俺もそれに、文屋紡希のスタンプで、『みなさん、こんばんは』、『新入りです』と挨拶を返す。

かすみん『緋本君のハンネは、ブルーなんデスねー。私の瞳の色と同じデス』

 純岡さんのハンネは、『かすみん』なのか。
 それにしても、ラインでも外国人キャラ風な口調とはな。
 もしかして、そういうキャラ作りをしているのかもしれない。

ラブ液『青というと、青空の下で行う、爽やかな◯淫かんいんを思い起こさせますわね。親近感が湧きましてよ』

 純岡さん⋯⋯その露骨なネーミングはどうにかならなかったんですか⋯⋯それと、その行為は、全く爽やかじゃありませんからね? この人も要注意人物としてマークしておいた方がいいかも⋯⋯。

はなフル『ん。シンプルで涼やか。私も青は好きな色』

 あのはなフルさんとラインしてると思うと、感慨深いな。直筆サイン本ももらえたし、これからもリスペクトしよう。

 
ルミナ『緋本先輩、こんばんは! どうぞゆっくりしていってくださいねっ!』

 揚羽はメッセージでも元気一杯だな。
 ルミナってハンネは、光や輝きを意味するラテン語のLuminaから取ったんだろう。
 その名前と同じように輝ける才能に溢れた彼女にぴったりだ。

ブルー『「ライターズシエスタ」の皆さん、こんばんは。さっそく聞きたい事があるんですけど、皆さんのサークルって、普段はどんな活動をしているんですか? 購入した文芸誌では、その事に触れられていませんでしたから』

かすみん『その疑問には、サークル代表のワタシが答えまショウ! 我が『ライターズシエスタ』では、その名に冠している通り、アマチュア作家として、主に自作小説の執筆を行なっていマス。ただ、それだけじゃなく、合評会を開いたり、リレー小説の企画を立てたりした事もありマスね。後は、緋本君が買ってくれた定期刊行している文芸誌『ビブリオファイルズ』や、各メンバーで個人的に制作した文芸同人誌を、文学市場や各種イベントで頒布したりもしていマス。大体こんなところでしょうか。文芸誌でサークルの紹介を簡略化しているのは、雑音を省いて、本としての美しさを求めた結果デスね』
ブルー『なるほど。詳しい説明ありがとうございます。それで、文芸誌についてなんですけど、皆さん全員が自作小説を掲載されているんですか?』
かすみん『ええ、もちろん。それぞれジャンルは違いマスけど、メンバー全員の作品が掲載されていマス』
ブルー『そうなんですね。未だ揚羽の短編しか読んでいないので、他の皆さんの作品がどんな内容なのか楽しみです』
はなフル『ん。期待してて。私が、イラストだけの女じゃないって事が分かる筈。ジャンルは、ミステリー』
ラブ液『私の作品も見てくださいましね。貴方の琴線に触れる事間違いなしの力作現代ドラマですわ。勿論、濡れ場もありましてよ』
かすみん『ワタシは王道のハイファンタジーデス! これは、ワタシがカキヨミで連載している大長編の外伝的な物語デスけど、本編を読んだ事がなくても楽しめる内容なっていマスよ』
ルミナ『私の短編恋愛小説は、もう読んでくれたんですよね? その『愛は星が瞬くように』の長編バージョンを、カキヨミで連載するために今準備中なので、連載を始めたら読んでくださいねっ!』
ブルー『ああ、楽しみに待ってるよ。他の皆さんの作品も、もちろん読ませてもらいますから、またRainで感想を伝えますね』


   §


 あの後、一時間程『ライターズシエスタ』のメンバー達とのトークを楽しんでいた。

 だが、そこで怜愛からのメッセージ通知(緊急事態! と記されている)が届いたので、彼女達には、『それじゃあ、また今度』と挨拶して退出した。

 キッチンにいき、冷蔵庫からペットボトル入りのミネラルウォーターを取り出し、グラスに注いで飲む。

 乾いた喉を潤して人心地つくと、ソファに戻り、スマホで怜愛からのメッセージに返信した。

ブルー『どうした? 緊急事態なんて、執筆中のデータが全部飛んだとか? サイバー攻撃や不正アクセスの危険性があるからって、頑なにクラウドを利用しようとしないから、そういう事になるんだ』
ねーじゅ『憶測でものを語らないで! そんなんじゃないよ! ネット上じゃなくて、家がリアルアタックされたの!
ブルー『リアルアタック? どういう意味だ?』
ねーじゅ『空き巣に入られたんだよ!』
ブルー『なんだって! 大変じゃないか!』
ねーじゅ『そうなんだよ! うちの親共働きで私も学校にいってるから、平日は家に誰もいないんだよね。それで、不用心だからってホームセキュリティに契約してるんだけど、お父さんとお母さんは外食に出掛けてて、私は執筆で前日から徹夜してたから、昼食を食べた後にリビングのソファでいつの間にか寝ちゃってた間に、設置されてるカメラの死角をついて、窓を破って侵入したみたい。日曜で人がいる可能性が高いっていうのに、大胆な事するよね。お父さん達が車で出ていくのを見て犯行を決意したのかも』
ブルー『君が自宅にいる間に侵入されたのか? 犯人には何もされてないんだよな?」
ねーじゅ『うん。それは大丈夫』
ブルー『そうか⋯⋯不幸中の幸いだったな。それで、何が盗まれたんだ? やっぱりお金とか高価な貴金属類か?』
ねーじゅ『いやー、それが、特に何も盗まれた形跡はなかったんだよね』
ブルー『⋯⋯空き巣が、何か不都合あって諦めたって事か?』
ねーじゅ『分っかんない。一体何がしたかったんだろうねー』
ブルー『なんだよ⋯⋯じゃあ、君も無事だった訳だし、緊急事態でもなんでもないじゃないか』
ねーじゅ『えへへ。君が慌てふためくところを、見てみたくてね。ドッキリ大成功?』
ブルー『悪趣味な悪戯はやめろよ。今日はせっかく素敵な一日のままで終われると思ってたのに⋯⋯』
ねーじゅ『ん?。その言い方だと、君が今日参加するって言っていていた文学市場で、余程いい作品に巡り合えたと見えるね』
ブルー『ああ。そうなんだよ! 『ライターズシエスタ』っていう文学サークルが頒布していた文芸誌を買って読んでみたんだけど、その冒頭一作目を飾る短編恋愛小説が、凄いクオリティでさ! こんな衝撃を受けたのは、ねーじゅさんの作品を初めて読んだ時以来だよ!』
ねーじゅ『ふーん⋯⋯私の時と同じくらいねぇ⋯⋯君がそこまで熱く語るのも珍しいね』
ブルー『それだけ凄い作品なんだって! 君も一度読めば実感出来るはずだ』
ねーじゅ『ねぇ、その作者って、どんな人?』
ブルー『それが、奇遇な事に、うちの高校の一年生の女の子だったんだよ』
ねーじゅ『やっぱり、女か⋯⋯』
ブルー『今度君にも紹介するよ。揚羽光っていう名前の、元気があり余ってるような人懐っこいいい子だ』
ねーじゅ『私、急用を思い出したから、ここまでにするね。それじゃあ』
ブルー『あ、おい⋯⋯』

 突然そう告げると、怜愛はもうスマホを置いてどこかにいってしまったのか、俺の送ったメッセージは既読にはならなかった。



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