降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜

朔月カイト

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第十章 修学旅行

68.来栖の相談


 修学旅行を来週に控えた週末の放課後。

 昼休みに、Rainで白鳥から(夏休み旅行前に交換させられた)メッセージが届いた。

 今日の放課後、一人で残っていて欲しい、と。

 どういう理由でかは分からないが、断る訳にもいかない。
 何か切実さを感じさせるメッセージだったし、大事な話でもあるんだろう。

 怜愛には、やむなく美作先生に雑用を押し付けられたから、先に帰ってくれと嘘を吐いた。
 彼女は「じゃあ、仕方ないね」と少しも疑う素振りを見せずに帰っていった。
 おかげで、罪悪感が凄い。今度、何か彼女がリクエストする料理でもつくってあげる事で、その償いとしよう。

 怜愛が帰った後、白鳥に呼ばれ、何故か一軍グループと共に、屋上に連れていかれた。
 彼らもそこに通じるドアの鍵が壊れている事を知っていたらしい。

 屋上に出て、辺りを見渡すが、ここを喫煙ルーム代わりにつかっている美作先生の姿はなかった。
 よかった。いたら、生徒は許可なく立ち入り禁止云々──と説教されてしまうところだった。

「それで、俺をこんなところにまで連れ出して、何の用があるんだ?」

 務めて泰然な態度で振る舞う。内心は、陽キャに囲まれてビクビクだ。
 まさか「お前、最近ちょっと調子に乗ってんじゃねーか?」などと因縁を吹っ掛けられて、ボコられるんじゃないだろうな? ガクブル⋯⋯。

「ほら、理人」

 白鳥が、決まりが悪そうにしている来栖を促す。
 彼が俺に話でもあるのか? 嫌われて──あるいは、より強い感情で憎まれているくらいに思っていたが。
 けれど、直接俺を害するような事はせず、互いに一定の距離を置いて、相互不可侵を結んだような状態だった。
 それが、どういう心境の変化なのか。

「⋯⋯体育祭の時は、すまなかった。シャツを掴んだのは、無意識に手が伸びただけなんだ。お前に抜かれて、つい焦燥に駆られてしまった」

 皆に見守られながら、来栖が自分の否を認め、頭を下げて見せた。
 殊勝な態度だな。そういう事なら、こっちは和解する分には、何ら差し支えない。
 出来れば、わだかまりなく穏やかに過ごしていたいからな。

「気にしてない。体育祭の時に、そのペナルティは与えられているし、もう終わった事だ」
「ありがとう」
「で、要件はそれだけか?」
「否、本題はこれからだ。緋本は知っているかどうか分からないけど、俺は夏休み旅行の夏祭り中に怜愛に告白した」
「ああ、そうらしいな。怜愛から聞いたよ」

 愚痴の言葉とともにな。

「私達も、最近その事を打ち明けられたんだよー。夏休み旅行の時、理人が地元の不良達に襲われて怪我した事は知ってたけど、怜愛に告白したとまでは聞いてなかったからねー」

 白鳥が付け加える。来栖は彼女達には、その部分だけ隠して事情を伝えていたみたいだ。

「それで、その時は断られたけど、好きな人はいないと言っていたし、俺にも未だチャンスはあると思うんだ」

 否、ないだろ。
 怜愛にとって君は、芽が出て食べられなくなったジャガイモだぞ?
 その可能性はあり得ないってバッサリ切り捨ててもいたしな。

 だが来栖は、俺のそんな心の内など知らないまま、その根拠を述べた。

「その証拠に、青黎祭の演劇で、怜愛は俺との共演を拒もうとしなかった。彼女は心の奥では、俺の事を求めているんだ」

 あのな、来栖。
 それは彼女が自分に向けられた期待に応えようとした責任感からそうしただけであって、君の事は、セクハラしてくる『エロ猿』と蔑んでいたぞ。
 思い込みが強いのも程々にしておいた方が身のためだ。今なら未だ間に合う、思い止まれ。

「私は応援するよ! 皆も理人の告白が成功するように、協力してあげようよ!」

 白鳥が宣言し、助力を請う。彼女は困っている人を見捨てられない善良な人間だが、この場合は、本人の為にならない悪手でしかない。

「君達も、それを承諾したのか?」

 他の一軍メンバー達に視線を向けながら問う。

「ええ。私達全員で、理人の恋が成就するように、出来る限りのバックアップをすると約束したわ」

 涼葉が代表して答えた。愚かな事だとは、気付いていないらしい。

「緋本、お前、怜愛と仲良くしてるだろ。三日目の京都での夜間行動の時に、落ち着いて告白出来る場所に、彼女がくるよう頼んでくれないか?」

 来栖が、自分本位な要求を告げる。

 しかし、悪いな。俺は怜愛だけは裏切らないって誓ってるんだ。

「否、俺は君には協力しない。怜愛が嫌がる事はしたくないからな。その代わり、邪魔もしない。告白したいなら、勝手にすればいい」


   §


 いつかの出来事のように、来栖の頼みを突っぱねた俺は、言葉を失う彼と呆けている他のメンバーを置いて、屋上を出て教室に戻ってきた。

 やっとで厄介事を終わらせられたと安堵しつつ帰ろうとデイパックに手を伸ばす。

 と、屋上から走って戻ってきたんだろう──息を切らして教室に駆け込んできた朝倉に呼び止められた。

「待ってくれ、緋本!」
「⋯⋯なんだよ、未だ何かあるのか? どれだけ食い下がったとしても、俺は絶対に首を縦には振らないぞ」

 不機嫌さを隠さずに冷たく告げる。

「理人の事じゃない。俺と湊でお前に別の話があるんだよ」
「君と鳴宮が?」

 そう聞き返した時、その鳴宮が教室に戻ってきた。こちらは悠々と歩いてきたらしく、いつもの余裕たっぷりな態度のままだ。

「緋本君、大翔から聞いただろう? どこか他に人のいないところで話がしたいんだけど、かまわないかな?」

 教室には、未だ他に数人のクラスメイトが居残って、修学旅行についての雑談をしている。彼らに聞かせたくはないらしい。

「分かったよ。それで、他のメンバー達はもう屋上から下りたのか?」
「ああ。後は、図書室の相談室を使わせてもらって作戦会議をするって事だったよ。姫は、あそこの司書の先生とは仲がいいからね」
「そうか。じゃあ、俺がいつも使ってるフリースペースへいこう」


   §


「それで、要件は? こっちも暇じゃないんだから、手短にな」

 怜愛と昼休みにいつも使っている屋上に通じる階段の踊り場にきた俺は、そこに腰を据えながら、制約混じりに尋ねた。

「じゃあ、単刀直入に言うぜ。俺、姫の事が好きなんだよ」
「は⋯⋯?」

 衝撃に、思わず間抜けな声が出た。

「なんだよ、その顔。そんなに意外か?」

 不服そうな朝倉。俺はおそらく鳩が豆鉄砲を食らったような顔を晒している事だろう。

「否、だって君、林間学校の時、自分は博愛主義者だから、一人の女の子を好きになる事はないって言っていたじゃないか」
「そんなの嘘に決まってるだろ。本命がバレないようにするためのな」

 そのでかい図体と陽気なだけが取り柄の彼は、そのヘラヘラした顔に似合わず、強かだった。

「修旅で告白してぇんだよ。それに協力してくれ」
「協力って⋯⋯何をさせるつもりだ?」

 不穏な予感しかしない。

「一日目と二日目、大阪で行動する時に、フォローとか、サポートとか? そんな感じ」
「アバウト過ぎるだろ」
「頼むよ。一日目と二日目でいい感じになって、三日目の京都での夜間外出の時にどこか雰囲気のいい場所で決めようと思ってるんだよ」

 俺に向かって両手を合わせる朝倉。

「そのフォローを俺と鳴宮にしろと」
「否、湊は無理だ。他にやる事があるからな」
「やる事って?」
「それは僕の口から言うよ。緋本君、聞いてくれ。実は僕、涼の事が好きなんだ」

 君もかよ!
 来栖といい君達一軍グループは、どれだけ恋に現を抜かせば気が済むんだ。

「そういう事なら、俺なんかに頼らなくても、来栖と一緒に協力し合えばいいんじゃないか? 後一応橘もいるぞ」
「理人は怜愛の事で一杯一杯だろ? 萌莉は⋯⋯あれだ。男女の恋愛であいつは頼りにならない」

 それについては、全くの同意だ。男同士専門だからな、彼女。

「なぁ頼むよ緋本。お前だけが頼りなんだ」
「君、涼の幼馴染だろう? 何か有益な情報を持っていたりしないかい?」

 縋り付いてくる朝倉と、図々しく情報を得ようとする鳴宮。

 来栖と怜愛、朝倉と白鳥、鳴宮と涼葉──それぞれの想いが交錯する修学旅行──。

 その板挟みに苛まれて、俺は果たして、無事でいられるんだろうか⋯⋯。


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