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第十章 修学旅行
73.京都散策
修学旅行三日目は、京都市内を班ごとに計画を立てての自由行動になる。
朝、ホテルで朝食等を済ませた後、電車に約三十分程揺られて京都まで移動し、そこから班別で動く事になった。
自己責任が問われる工程。
自由には責任がつきものという事を学び、時間を意識する事、計画を立てる事の重要性、そして、上手くいかなかった時にどうするかを学ぶのが目的だ──そう栞には綴られている。
とにかく、よく考えて行動しろという事だろう。
という訳で始まった京都市内の散策だが、俺達の班が最初に訪れたのは、着物のレンタルショップだった。
そこでは、着付けやヘアセットも提供されていて、不慣れな者でも気軽に利用出来るように計らわれている。
「ひ、姫、よく似合ってるじゃねぇか。か、可愛いと思うぜ」
「そういう大翔は、時代劇に出てくる下町町人──のエキストラみたい!」
「ってエキストラかよ! そこはせめて脇役でもいいから役付にしといてくれよ!」
朝倉が、着飾った白鳥を褒めてポイントを稼ごうとするも、彼女には相手にもされず、いつも通りの弄られ突っ込みをして、皆の笑いを誘っている。
その白鳥は、栗色のロングヘアーをルーズなアップスタイルに纏めている。
花をあしらった髪飾りが華やかだ。
女子達は皆でお揃いのレース着物を選んだようで、彼女は淡いピンクだ。
それに対して、俺達男子は、着物+羽織りのセット(袴なし)というスタンダードなタイプを選んだ。
「涼も、紺色のレース着物が上品で素敵だね。よく似合っていて綺麗だよ」
「そ、そうかしら?」
こちらは、ナルシスト鳴宮だけあって、褒め方がスマートだな。
涼葉も満更でもなさそうだし、こっちはカップルが成立しても可怪しくはなさそうだ。
その涼葉は、ミディアムボブをツインにしている。
レース着物の色は、鳴宮が言ったように紺色。
「京都と言えば、数々の和風・歴史BL作品の舞台になってきた聖地巡礼先。よーし、推し活して、腐力を高めるぞー」
そう腐った意気込みを見せる橘は、ショートカット気味の髪をサイドに編み込みを入れ、カールと髪飾りで装っている。
レース着物の色は、橙色だ。
リーダーの来栖はと言えば、楽しげな他のメンバーを尻目に、一人いじけたようにしている。
白鳥達に、怜愛との仲を取り持ってくれるように頼んでいた筈だが、当の白鳥は、着物姿になれて浮かれているため、そこまで気が回らないようだ。
「蒼介君には、やっぱり青が似合うね」
雪のような真っ白のレース着物を着た怜愛が、傍にきて感想を伝えた。
姫カットの黒髪ロングをトップから毛先までゆるく編み込んで、編み目に沿って髪飾りを付けている。
「雪の妖精みたいな君には負けるよ」
「ふふっ。君はよくその言葉を使ってくれるけれど、それって、シマエナガを指して言う呼び名でもあるって、知ってた?」
楽しげに豆知識を披露する。
「ああ。それと、クリスマスローズもだな」
お返しとばかりに、こちらも。
「別名『氷のバラ』だね。私はどっちも好きだけどね。シマエナガは丸っこくて可愛いし、クリスマスローズは、咲き方によって、可憐にも清楚にも見えるし」
「君も、そう言った二面性を持っているからな──否、君の場合は、ころころと表情や態度を変えて俺を弄んでくれるから、多面性だな」
彼女は、まるで、レオナルド・ダ・ヴィンチの代表作『モナ・リザ』の微笑みのように、色んな変化を見せてくれる。
その名画が象徴するように、誰しも人は、神秘的で多面的な側面を持つものだが、彼女の場合は、それが突出している。
昨日見せたあの涙も、そんな彼女が持つ幾つもの”形”の一つだ。
「そんな私は、お嫌い?」
いつもの悪戯っぽい笑みを向けながら、揶揄うように。
「意地悪な君は嫌いだ」
「ちぇっ、今日はデレてくれないんだ。難しいね」
拗ねたみたいに小さく舌打ちしながら不満を呟く。
そう君の思い通りにはいかないさ。それに、君の難解さよりは、随分ましだと思うけどな。
「ほら、それより、皆もう出発するみたいだぞ」
「そうだね。君のガードを崩すのは、後の楽しみにとっておく事にするよ」
勝ち気にそう告げながら、彼女はその笑みを深めて見せた。
§
俺達は今、伏見稲荷大社にいる。
伏見稲荷大社は、全国に三万社あると言われる稲荷大社の総本宮で、千三百年以上の歴史を持つ。
神域稲荷神山の麓に本殿があり、御祭神の稲荷大神は、五穀豊穣、商売繁盛、家内安全、諸願成就の神として広く信仰されている。
五穀豊穣の『稲が成る』から『イナリ』の名が付いたとの説も。
紅葉の見頃は、例年十一月中旬から十二月上旬頃までらしいが、未だ十分見応えのある景色が残っている。
「すげー、真っ赤だなー」
「涼、一緒に写真撮ろ!」
「そうね。京都でも有数のフォトスポットって事だし、ここは外せないわね」
「それじゃあ、僕が撮ってあげるよ」
「ふぅおおおおっ! 立ち並ぶ深紅の鳥居が、ナニのように、ナニしてるぅー!」
「怜愛、歴史を感じさせる雰囲気だな」
「⋯⋯」
順に、朝倉、白鳥、涼葉、鳴宮、橘、来栖、怜愛の発言だ。
とは言っても、怜愛は来栖の言葉には何も返さず、不機嫌に眉根を寄せるだけだが。
後、一人猛っているのがいるが、いつもの病気なので、巻き添えを食わないようにだけ注意すればいい。
神域でそれは完全にアウトだろ。罰が当たるぞ。
「この狐、顔付きがリアルでちょっとこえーな」
「何か口にくわえてるよー」
「この二体は、阿吽の狐の像で、右は玉、左は鍵をくわえているそうよ」
「他のも色々くわえていて、格好も様々だから、それを見て回るのも楽しそうだね」
「人外BLもイケますぞー!」
「この狐が神の使いなら、怜愛はさしずめ女神の使い──否、女神そのものだな」
「⋯⋯」
神の使いも、腐り切った彼女にかかれば、美味しいネタでしかない。
それと、来栖は完全に滑ってるな。怜愛の受難は未だ暫く続きそうだ。
助けてやりたいが、来栖に噛みつかれそうで怖い。弱い俺を許してくれ。
「この石、思ったよりおめーな」
「大翔ざんねーん。それじゃあ、お願いは叶わないよー」
「私は、予想よりも軽く感じたわ」
「涼は普段の行いがいいからね」
「私も軽く思えたよー。これで、私が長い間求めていた希少な絶版BL本がゲット出来るね!」
「怜愛は何を願った? 俺は──否、これは未だここでは言いたくないな」
「ちっ」
橘よ。なんと邪な願いなんだ。君の実家のお母さんは泣いているぞ。
そして、来栖。お前がその言葉にしなかった願いを叶える事は不可能だ。
見ろ。あの綺麗な怜愛の顔が、まるで般若のように歪んでいる。
そんなこんながあって、参拝を終えた後は、参道で、炙り餅や抹茶スイーツ等を楽しんだ。
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