降る雪は沈む蒼の心を優しく包む〜冴えない根暗な陰キャぼっちの成り上がりリア充化プロジェクト〜

朔月カイト

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第十二章 誓い

85.あえて会わない事で、確実に美しい部分が残る



 仁科と別れた後、自宅に戻った俺。

 ネット上のSNSや掲示板サイトなどに、ボイスレコーダーで録音した音声と、仁科に見せた、以前怜愛とRainでやり取りしたトーク履歴を流した。

 仁科は、周りには俺達以外誰もいないものと考えて、油断して全てを赤裸々に語っていたが、それをボイスレコーダーでこっそり録音していたのだ。
 怜愛が、来栖が俺を陥れようとした時に、逆に彼を罠に嵌めるために使った手をそのまま模倣させてもらった。

 上手く挑発して冷静さを失わせ、うっかりとその犯行の裏付けに繋がるような情報を漏らしてくれないかと期待していたんだが、まさかその一部始終を語ってくれるとまでは予想していなかった。

 ボイスレコーダーは、メカオタクであるというエリカちゃんが持っていた物を借りた。
 スマホを使わなかったのは、音質をよりクリアにするためだ。

 それと、トーク履歴の送信者の名前部分は塗り潰さないでおいた。

 ねーじゅさんの方は、彼女がそのメッセージを送信した事の証明として必要に駆られて。

 そして、俺のブルーというハンドルネームは、他のSNSでも使っている為、それがカキヨミで作品を投稿しているスカーレット&ブルーだと気付いてもらえればと。
 知名度は未だ低いものの、少しでも信憑性が増すに越した事はない。

 そうなると、ブルーとねーじゅの間に親交があるという事が公になってしまうが、それはかまわない。
 今は、怜愛に掛けられている疑いを晴らすのが喫緊の課題だ。

 そうする事で面倒事が増えたとしても、それは必要な措置だったとして、甘んじて受け入れよう。
 

   §


 昼食を食べた後、怜愛の家を訪れた。

 アリスも、SNSを使って、真犯人が自ら罪を打ち明けるのを聞いた事を公にすると言ってくれていた。
 
 その心強い援護を受けて、盗作疑惑は解消される事になるから安心していいと伝えるためだ。

 だが──。

「それが怜愛ちゃん、今日の朝早くに出ていった切り戻ってきていないんですよ⋯⋯」

 瑞希さんが、不安げに眉尻を下げながら教えてくれたその事実を聞いて、俺は焦燥に駆られた。

「連絡は取れないんですか?」
「ええ。スマホに電話を掛けたりしたんですけれど、反応は返ってきませんでした⋯⋯」
「どこか、行き先に心当たりはありませんか?」
「それが、全く⋯⋯私が把握している怜愛ちゃんがいきそうなところには全部当たってみたんですけど、どこもきていなとの事でした⋯⋯」
「そうですか⋯⋯」

 その後、念の為Rainを確認すると、俺が送っていメッセージにやっとで既読が付いていた。

 ──話を聞いてくれる気になったのか? これで行き先を聞き出す事が出来れば⋯⋯。

 けれど、返信されていたメッセージは、ある文芸作品からの一節──。

 ──『あえて会わない事で、確実に美しい部分が残る』

 直木賞作家の西加奈子の作品『夜が明ける』からのその言葉だけが記されていた。

 ──だから、私を探さないでって事か⋯⋯?

 もし、このまま怜愛が帰ってこないなんて事になりでもしたら⋯⋯。

 不安に押し潰されそうになりながらも、必死で解決策を考える。

 どこにいったのか。
 何かその手掛かりがあれば⋯⋯。

 その時、あのトーク履歴の、ネットには流していない後に続くメッセージで、怜愛はこんな事を話していたのを思い出した。

 ──『私はね、告白する方になるのか、される方になるのかは分からないけど、シチュエーションはこれっていう憧れがあるんだ。私の思い出の場所でね。お父さん方のお祖父ちゃんがいる実家なんだけど、その近くの山に、冬には水仙が群生して甘い香りを漂わせる小高い丘があってね。そこで、私が大好きな雪が舞う中で、キスを交えながら──そんな願望を持ってるんだ』


 そうだ。
 そのいつか言っていた思い出の場所へいってみよう。
 漠然とした勘でしかないが、何故か彼女がそこにいるような気がする。

 俺は、もう一度怜愛の家を訪ね、瑞希さんからその場所を聞き出した。

 怜愛の父親慧さん方の実家のある千葉県鋸南町きょなんまちの山中にある有名な水仙の群生地として知られているところらしい。

 ──新たに課される第十四ミッションは、怜愛を無事に連れ戻す事だ。

 その完遂に向けて、俺は家を出て、足早に最寄り駅へと向かった。


   §


 目的地の千葉県鋸南町に向かう電車の中で、俺は耳にワイヤレスイヤホンを付けて、スマホで音楽を聴いていた。

 [Alexandros]の『ムーンソング』──。

 終わりかけの恋を、湿った花火や月の満ち欠けに例えた曲──。
 その切なくエモーショナルメロディに乗せて『君がいなくなった世界で、自ら月に成り上がろう』と紡がれるその歌詞に、今の俺は共感する事が出来ない。

 ──俺は、君がいなくなった世界では、何者にもなれないよ⋯⋯。

 気丈に振る舞おうとはするものの、中々上手くいかない。
 ここにきて、彼女の存在が、俺の精神的支柱であったと気付かされた。
 その彼女が今、誕生日に危惧したように、俺の手を離れて、遠くへいってしまおうとしている。

 これから、彼女の思い出の地で何が待っているのか──。

 とまれ、彼女が本当に幻想になってしまわないように、頼りない俺ではあるが、この手でしっかりと繋ぎ止めるようにしたい。



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