それぞれの事情

紫陽花

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第六章 瑠美

辛すぎる

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辛い?
私たちの辛さは果たして同じなの?
 
確かに
強姦されたわけじゃ無い

ただ独りで闇に流されていった
その痛みを
誰が判ると言うのか
未来へ繋がっていく可能性を
潰した重さを
誰が覚えているのか

それはきみと私だけだなんだよ!


瑠美はその日彼と病院へ行った
何かと気遣いを見せる姿が
かえって遠い存在に思えて為らなかった
一連の書類を提出して待合室にふたりでいても会話なんか無かった

暫くするとふたりで診察室に呼ばれ医師から最後の確信をされた

彼も結構言われていた

「行為をするには自ずと責任が伴う
幾ら相手が大丈夫だと言っても
避妊するのは当たり前 
今から命を葬る事をしっかり肝に銘ずること
馬鹿は何度でも過ちを繰り返すんだよ
いずれこの重みに気付けるといいけどね」

項垂れる彼

瑠美は別室に連れて行かれ
処置の準備に入った
「四カ月に入ろうと為ているからね
軽いお産になるのよ
処置後麻酔が切れたら相当痛むから覚悟し為さいよ」

処置台の寝かせられ足を固定された
ガシャガシャと器具が準備されていく
「全身麻酔だからね 打ちます
はい 一緒に数数えるよ
十 九 八 な……」
次に記憶があるのは病室だった
天井が白い
「目が覚めた~大丈夫か?」
んな事判るか~
彼がナースボタンを押した
少しして看護師が来た
「これからが戦いよ 痛みが凄いから
彼さんは腰と背中とか擦る事
おちついたら軽食出るからね」
それから信じられない痛みが
お腹や腰を襲った
痛くて痛くて泣きわめいていた

もう絶対厭だ
こんな苦しみ味わうのは
自業自得だ!
でも……
お腹が千切れるようで
痛みは一時間ほどでだいぶ薄れて行ったが
彼はあたふた為ながらも擦りまくっていた

お腹の痛みから
心が痛み出した

涙が止まらない
後悔なのか懺悔なのか

廊下がざわめいてる
ドアが開きベッドが入ってくる
「お隣にあなたと同じ人が入ったから」
要は継続し無かった訳だ

眠くなってきた
「寝た方が良いってよ 体に負担がかかってるから」
彼は優しすぎるくらい優しく為てくれる

暫く眠り 目が覚めると彼はいなかった
ベッドから起きて見回していると

「彼氏さん受付に呼ばれていたよ」

声のする方を見る
カーテンが開いていて 四十代の女性が横たわっていた
「優しい彼ね!羨ましわ~
家なんか来やしない~まぁまぁ三回目だからね……子供の面倒を見てるから 仕方ないん」

「はぁ~大変ですね」
言いようが無いだろ~

彼が帰って来たので
トイレ行きたいと言うと
ベッドから起こしてくれたが
体中痛くて 簡単には起きられない
トイレまで連れて行ってくれる
優しい彼……

「歩けるようになったから
軽食出すね 四時位までにはここ出られるからね」
今何時なんだ?
病室の時計を見る
二時……
四時間もいるんだ
それでもこの体たらくだよ

すぐに軽食が運ばれて来たが
食欲なんてわかない
サンドイッチだ
彼に進めるが要らないと言われて
下げて貰った

「先生が診察するので彼さんは出てください」
カーテンを閉めて診察を受ける
「出血量も大丈夫ね 痛みはっとお腹押しても痛く無い?」
頷くと
「じゃあいつでも帰宅していいよ
もう絶対駄目だからね 薬出してあるから
受付で貰って お大事に」

入れ替わりに彼が入って来た
「支払いは終わってるし 薬も貰ってあるよ」
「有難うね 何から何まで」
「辛かったのは瑠美なんだから
気にしなで」

結局病院を出たのは四時過ぎになった

タクシーで家まで送って貰い
寄ると言う彼には悪かったが断った
眠りたかった
ただひたすらに眠ってしまいたかった

それから……

やっと声を聞けたのは
あれからひと月後

そして聞きたくない言葉が
受話器からダラダラ流れ出していた

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