子供の姿で転生したパティシエ、異世界で甘くて幸せな生活を送る。〜調味料や料理器具を生み出す力で、食文化を発展させます〜

かむら

文字の大きさ
4 / 12

#4 カスミのスキル

しおりを挟む
「案内はこのくらいだな」


 クリスタの言葉通り、途中、カスミが嬉し過ぎて泣き出してしまうというトラブルもあったが、その後は特に何もなく、このパーティーハウスの案内は進んでいった。

 一応、まだ入っていない部屋や、レネが使うという地下の作業場もあったりするのだが、その辺はまた追々知ればいいだろうという事で、カスミ達はリビングに戻ってきた。


「っと、気付けばもうこんな時間か」


 そんなパーティーハウス見学が終わる頃には、窓から見える空は茜がかっており、もうすぐ完全に日も沈むであろう時間になっていた。


「そうしたら、食事の準備だな」

「あっ、私、料理できますっ!」


 クリスタの呟きに、カスミは勢いよく食いついた。
 

「えっ、そうなのか?」

「はいっ。 一番自信ありますっ」

「本当に大丈夫? 包丁とか危なくない?」

「大丈夫ですっ」


 レネの心配にも、カスミは毅然とそう答える。
 

(私が一番役に立てるのは確実に料理だから、ここは譲れないっ)


 そんな風に思っているカスミの気迫すら感じさせる料理がしたいコールに、クリスタもレネも大丈夫だろうかと心配しつつだが、とりあえずキッチンに立たせてもらえる事にはなった。


「キッチン高いから、台を持ってきて、と」

「危ないと思ったらすぐ止めるからな?」

「分かりましたっ」


 それでも心配なものは心配なようで、クリスタとレネがすぐ横で見守る事になった。


(まずは冷蔵庫の中身を……)


 とりあえず、食事を作るためには食材がいるので、キッチンにあった冷蔵庫を開けて中を確認していく。

 ちなみにこの冷蔵庫は、魔道具と呼ばれるもので、地球のもののように電気で動くのではなく、内蔵された魔石という魔法を使うための魔力が溜め込まれている石と、冷蔵庫自体に付与された氷の魔法が作用して、中のものを冷やしたり凍らせたりしているようだ。


(これ、豚肉かな? こっちはキャベツ…… 良かった、地球のものとそんなに変わらなさそう)


 カスミとしては、異世界の見た事ない食材ばかりで使い方が分からないかもしれないという心配があったのだが、割と見たことのある食材ばかりで、一安心だった。

 ただ、中には見たことない食材もあったので、それはまた今度どんなものか確かめる事にする。

 そして、キッチン周りにある調味料だが、塩、胡椒、砂糖、酒、油という必要最低限なものはあった。

 ただ、醤油やみりん、味噌などは無く、クリスタとレネに聞いてみたが、そもそもその辺りの合わせ調味料や複雑な作り方のものは存在しないようだった。


(醤油とかも無いのか…… うーん、欲しいなぁ……)

「「えっ?」」


 カスミがそう無いものねだりをしていると、クリスタとレネが驚いたような声を上げた。

 その二人はキッチンの上に目線を向けており、カスミもそこに目線を向けてみると、そこにはボトルに入った黒い液体が置いてあった。


「なにこれ、ポンって出てきたけど?」

「黒い液体…… 毒か?」


 それを見て、クリスタとレネは疑問の声を上げる。
 

「こ、これ、もしかしてっ」


 そんな二人を横目に、カスミはまさかと思いながら急に出現したボトルの蓋を開け、スプーンにちょろっと出してそれを口に運んでいった。


「か、カスミちゃん!? ダメだよ、そんなの飲んだらっ」

「か、カスミっ、ぺってするんだっ」


 余りにもカスミが躊躇なくその謎の黒い液体を口に運んでしまい、止め損ねたクリスタとレネが慌ててカスミに近付いてきたが、当のカスミの口内には、馴染み深い風味が広がっていった。


(これ、醤油だ……! それも結構いいやつ……!)


 カスミの見立て通り、そのボトルの中身は紛れもない醤油で、しかもその辺のスーパーなどで売っているものではなく、ブランド品のとても良い醤油の味と風味がした。

 カスミは職業こそパティシエだが、普通の料理も店を出せるくらいのクオリティで作れる腕はあるので、こういう良い調味料の味の違いなどもちゃんと分かる。


「だ、大丈夫か、カスミ……?」


 そんな醤油の風味に感動して何も言わないカスミに、クリスタが心配そうな顔を浮かべながらそう聞いてきた。
 

「あっ、大丈夫ですよっ。 これ、私が欲しいと思ってたら調味料なんです」

「そうなの? 良かったー、なんか変なもの飲んじゃったかと思って心配したよ」


 同じく心配していたレネもそう言って胸を撫で下ろした。
 

「ご、ごめんなさい」


 確かに、醤油を知らない人からしたら、謎の黒い液体にしか見えないので、クリスタとレネの心配も当たり前の事だろう。

 なので、素直にカスミはクリスタとレネに頭を下げてごめんなさいをした。


「まぁ、害がないのなら良かったが、どこから出てきたんだこれは?」


 カスミの謝罪を受け入れたクリスタが、そんな疑問を口にする。

 
「それは…… 分からないです」

「もしかしたら、カスミちゃんのスキルじゃない?」

「私のスキル、ですか?」

(スキルなんて、身に覚えが無さすぎるんだけど……)


 レネにスキルなのかもと言われたカスミだったが、そんな力に心当たりがあるはずもなかった。
 

「カスミ、この醤油? をどうやって出したか分かるか?」


 はてなマークを浮かべるカスミに、クリスタがそう聞いてくる。
 

「う、うーん、確かに欲しいなって思いはしましたけど……」

「それじゃないか? 試しに他にも何か欲しいなって思ってみたらどうだ」
 
(うーん、じゃあ、みりん欲しいなっ)

 ――ポンっ

「おっ、また出たぞ」


 クリスタに言われた通り、カスミが今度はみりんが欲しいと念じると、キッチンの上に今度は黄金色の液体が入ったボトルが出現した。


「これ…… みりんだっ」


 そのボトルを開けて匂いを嗅いでみると、紛れもないみりんの香りがした。

 一応子供の体なので、みりんに入っているアルコールを考慮して飲むのは止めておく。


「これも調味料なのか?」


 みりんが入ったボトルを観察しながらクリスタがそう聞いてくる。
 

「はい、そうですっ」

「ふむ、カスミのスキルは調味料を生み出すスキルという事か?」

「どうだろ? 食材とか、料理に関連するアイテムなら何でも出せたりするのかも?」


 カスミのスキルについて、クリスタとレネはそんな風に考察をする。
 

「カスミ、スキルはこれまで使った事ないのか?」

「は、はい、使った事ないです」


 クリスタの問いかけに、カスミは素直にそう答えた。
 

「なら知っておいて欲しいのは、スキルを使うには体内の魔力が必要なんだ。 今使った感じ、体調はどうだ?」

「特に問題ないですけど、言われてみると体から何かが抜けたような感じがちょっとします」

「それが魔力だ」


 どうやらこの世界のカスミの体には魔力という不思議な力が宿っているようだ。
 

「体内の魔力を使い過ぎると、体調悪くなっちゃうから、そろそろやばいかもって思ったら、それ以上スキルは使っちゃダメだよ!」

「分かりましたっ」


 レネにそう忠告されたカスミは、首をこくこくと縦に振りながら、使い過ぎには注意しようと心に決めた。
 

(スキルに魔力…… そんな力が私にあるなんて…… この世界に来た影響なんだろうな……)


 そんな風に思いつつ、その後、スキルの検証として味噌とオイスターソース、小麦粉に片栗粉、あと和風の顆粒出汁にコンソメキューブなんかも出してみた。

 結果、キッチンの上は色んな調味料でいっぱいになった。


「凄いね、どれも見たことないよ!」

「結局、調味料を生み出す能力なのか?」

「どうでしょう……?」


 レネとクリスタがそれぞれ感想や疑問を口にするが、カスミとしても全く分からない事だらけだった。

 それから、試しに牛肉、トマト、りんごといった感じで食材を思い浮かべてみたが、それは生み出せなかった。

 どうやら食材はスキルで生み出せないようだ。


「あと料理関連だと、調理器具とかかな?」

「やってみます」


 次にカスミは、泡立て器を頭の中で思い浮かべて欲しいと念じてみた。


 ――ポンっ


「あっ、出まし、た……?」

「カスミっ!」


 すると、想像通りの泡立て器がキッチンの上に出現した。

 しかしその瞬間、カスミに体からごっそりと何かが抜け落ちたような感覚が襲い、ふらっと地面に倒れそうになってしまった。

 そんなカスミをクリスタが慌てて支えてくれたことで、地面にダイブすることはなんとか避けられた。


「大丈夫か?」

「あ、はいっ……!」

「凄い魔力使っちゃった?」

「そうですね…… なんか、感覚だともう一回調理器具を出すのは無理な気がします」


 レネの言葉にカスミはそう返した。
 

「調味料は体内魔力の1割未満、調理器具は3割~5割くらいといったところか」

「便利な能力だけど、結構魔力使うね」


 カスミのスキルについて、クリスタとレネはそんな風な分析をした。
 

「カスミ、もし今後スキルを使いたくなったら、必ず誰かと一緒に使うようにしてくれ。 調味料や調理器具によってはまた使う魔力が増減する可能性もあるから、むやみやたらには使わないように」

「分かりましたっ」


 クリスタの忠告にも、カスミは素直に頷いた。
 

「まぁ、とりあえずカスミちゃんが欲しいものが手に入ったみたいだし、良かったね!」


 まだスキルの詳細は分からないが、レネの言う通り、とりあえず欲しかった調味料が手に入った事はありがたいので、気を取り直して料理を始める事にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

私が目覚めたのは断罪劇の真っ最中でした

アーエル
ファンタジー
「今北産業、説明ぷりーず」 「「「…………は?」」」 「今北産業、状況説明ぷりーず」 だれか説明してくださいな ☆他社でも公開しています

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。 彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。 魔法は使えない。 体は不器用で、成長も人より遅い。 前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。 けれどこの世界には、 見守り支えてくれる両親と、 あたたかい食卓があった。 泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、 彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。 これは、 最強でもチートでもない主人公が、 家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す 生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。 ……の、予定です。 毎日更新できるように執筆がんばります!

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

処理中です...