子供の姿で転生したパティシエ、異世界で甘くて幸せな生活を送る。〜調味料や料理器具を生み出す力で、食文化を発展させます〜

かむら

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#12 残念な猫人さん

 カスミ達が色々と話している中、慌ただしく何者かがリビングに入ってきた。


「誰か、お金貸してにゃー!」


 その人物は、オレンジ色の髪をショートヘアをしており、身長は155センチくらい、体つきもとてもスレンダーで、顔立ちも可愛らしい女性だった。

 だが、綺麗な顔立ちやスタイルも良いが、何より目を引くのは、頭に生えている猫耳と腰から伸びている細長いオレンジ色の尻尾だろう。


(猫耳だ……! 本物の……!)


 そんな正真正銘の猫耳を生やした人物を見て、カスミはちょっと感動していた。

 だが、現在彼女は涙目でお金を貸して欲しいと中々にダメな発言をしており、しかも服装はビキニアーマーのような装備を付けているだけという、中々に薄着で奇抜な格好をしていた。


「はぁぁ…… 全くお前は……」

「ほに゙ゃ゙っ゙!?」


 そんな猫耳女性を確認したクリスタがおもむろに立ち上がったかと思うと、猫耳女性のこめかみを手で掴み、いわゆるアイアンクローをしながらギリギリと体を持ち上げた。


「いっ、痛い痛い痛いにゃー!!」

「この前も貸したが、その金はどうした……?」

「あ、え、えっとぉ……」


 クリスタの追及に、分かりやすくしどろもどろになる猫耳女性。

 
「まさか、スったなんて言わないよな……?」

「いぃぃぃっ!? く、食い込んでるにゃ! 割れるにゃー!?」

「それもいいかもなぁ」

「よ、良くないにゃー!? に゙ゃ゙っ゙……!? あびゃぁぁぁぁっ!?」

「あわわ……」

「はーい、カスミちゃんは見ちゃだめだよー」


 ミシミシと人から出てはいけない音が猫耳女性から響き始めたのを見ていたカスミだったが、後ろからレネが手で目隠しをしてきて結末は見れなかった。

 ただ、小さくパキッと何かが折れるような音が聞こえたたような気はした。

 怖かったので、それは聞こえないふりをしたが。


「全く……」

「うにゃー……」


 それから少しして、怒る気も失せたのか、クリスタが猫耳女性をぺいっと地面に放り捨てると、猫耳女性は地面に倒れ伏して呻き声を上げるだけの生き物になってしまった。


「あ、あの、クリスタさん、その方は……?」

「ああ、こいつは一応うちのパーティーのローニャだ。 斥候としての腕は確かだが、ギャンブル狂いのバカ猫だ」

「薄着なのも多分、賭場で身ぐるみ剥がれたから~……」


 クリスタに続いてフィオがそんな情報を付け足してくる。
 

「そ、そうなんですね」

(皆さんがローニャさんの話する時に歯切れ悪かったのは、こういう事かぁ……)


 以前チラッとローニャについて聞かされた時、カスミに紹介するのを躊躇うような素振りを見せていたのは、ギャンブル狂いという褒められない趣味を持つからなのだろう。
 

「カスミの情操教育に悪いから、どこかに捨ててくるか」

「す、捨てないで欲しいにゃー! お金も服も無いのにゃー!」


 クリスタに捨てると言われた途端、ローニャはがばっと身を起こしてクリスタの足にしがみついた。


「凄い冒険者なら、依頼でお金を稼げば……」

「ローニャを1人で依頼に行かせると、依頼先に近い街とかでギャンブルするから禁止してるんだよね」

「私達がある程度管理しないと野垂れ死ぬってローニャも分かってるから、私達のパーティーから抜けられない~……」

「あー、そうなんですね……」


 レネとフィオが口々にローニャのダメなところをカスミに聞かせてきて、カスミとしては苦笑いを浮かべるしかなかった。

 どうやらカスミが思っている以上に、ローニャはダメ人間のようだ。


「あ、あれ、知らない子がいるにゃ?」


 そんな中、地面で寝そべりつつも、クリスタの後ろにいたカスミにローニャが気付いた。

 
「今気づいたのか…… この子はカスミ。 先日私が森で保護して、一緒に暮らす事になった」

「は、初めまして、ローニャさん。 カスミと申します」


 クリスタの説明に合わせて、カスミは自己紹介をし、ぺこりと頭を下げた。
 

「おー、礼儀正しい子にゃ。 ローニャにゃ! よろしくにゃ~」


 カスミが挨拶すると、ローニャはニコニコしながら同じように挨拶を返してくれた。
 

「早速お前がダメ人間だということが知れてしまったな。 私達は隠しておいてやったのに」

「だ、ダメ人間じゃにゃいにゃ!」

「普通の人間は他人から金を借りたら返すものだが?」

「あ、あぅぅ……」


 ダメ人間じゃないと咄嗟に言い返したローニャだったが、続くクリスタの言葉に撃沈してしまう。
 

「一応仲間だからと温情をかけてきたが、今後はカスミの教育に悪いから、金は貸さん。 そして返せ」

「そ、そんにゃあ……」


 あまりにも自業自得なので、優しいカスミも崩れ落ちるローニャにはなにも言葉をかけられなかった。


「あ、あの、ローニャさん。 これ、お近づきの印です」

「にゃ……? んん? これ、凄い良い匂いするにゃ!」


 ただ、せめて元気を出してもらおうと、カスミは先程作って取っておいたクッキーを5枚ほどローニャにあげた。


「これ、クッキーにゃ?」

「そうです」

「ご飯も食べてなかったからありがたいにゃ! いただくにゃ!」


 ギャンブルに没頭していたからか、お金がないからかは定かではないが、お腹が空いていたらしいローニャは、カスミにもらったクッキーを嬉々として口に運んでいった。


「んんんっ!? にゃ、にゃにこれっ!? 美味しすぎるにゃー!」


 すると、ローニャはクッキーを口に運んですぐに、そのあまりの美味しさに、驚きの声を上げた。


「こ、これ、カスミが作ったにゃ?」

「そうですっ」

「凄いにゃ! こんな美味しい甘いもの、初めて食べたにゃ!」


 ローニャはそう言いながら、幸せそうにクッキーを頬張っていった。


「あ、もう無くなっちゃったにゃー」


 結果、5枚のクッキーはあっという間にローニャのお腹の中に消えた。


「また作りますね?」

「うん! また欲しいにゃー!」

「カスミちゃん、あんまり甘やかしちゃダメだよ~……」

「ローニャ、カスミに変な事をしたら、本当に許さんからな……?」


 フィオもクリスタも、ローニャにはとても辛辣だった。


「わ、分かってるにゃ! 流石のローニャも子供にたかったりはしないにゃ!」

「これを機にギャンブル辞めなよー?」

「うっ…… でも、あの勝った時の快感が忘れられないのにゃ……!」


 レネの言葉に、ローニャはいかにもギャンブル依存症の者が言うようなセリフを返した。
 

「でも、今回みたいに日を跨いで行ったりしたら、カスミちゃんのご飯もおやつも食べ損ねるよ?」

「そ、それは嫌にゃ!」


 レネのそんな言葉に、ローニャは首をぶんぶん横に振りながらカスミが作ったものが食べられないのは嫌だと言う。
 

「えっと、外出てても用意しておきますよ? 冷蔵庫で冷やしておけば半日くらいは保ちますし」

「カスミは天使にゃ!」

「ダメだ」


 そんなローニャに対して、いなくても後で食べるなら作ると言ったカスミだったが、クリスタがそれに待ったをかけた。


「カスミの料理は誰しもが食べたがるであろう貴重なものだ。 それを取っておいて冷やすなど、言語道断。 今回のクッキーみたいな例外はあれど、基本はその場にいない奴のために作る必要はないぞ」

「クリスタ、悪魔にゃ!」

「ほう、まだ言い返す気力があるのか。 次はチョークスリーパーで……」

「ごめんなさいにゃ! それでいいですにゃ!」



 言い返そうとしたローニャだったが、クリスタがスッと腕を伸ばしてきたのを見て、慌てて敬礼のポーズを取ってごめんなさいをした。

 結局、ローニャが家にいない時は、ローニャの分のご飯もお菓子も作らないという方針になった。


「うぅ、カスミのご飯食べたいにゃ…… でも、ギャンブルすぐに辞められる気がしないにゃ……」

「ローニャさんがギャンブルに行くのは精神的な満足感を求めてだと思うので、行かなくても良いくらいローニャさんの事満足させられるよう頑張りますね」

「やっぱりカスミは天使にゃー!」


 カスミの言葉を聞いたローニャは、早くもカスミを気に入ったようで、ぎゅーっとハグをしてきた。

 そうしてまた一段と賑やかになったパーティーハウスでは、カスミのやりたい事についての話し合いがローニャも交えて引き続き行われるのであった。
 
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