子供の姿で転生したパティシエ、異世界で甘くて幸せな生活を送る。〜調味料や料理器具を生み出す力で、食文化を発展させます〜

かむら

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#67 新たな娯楽

「レネさん、ちょっと硬い紙ってないですか?」

「ちょっと硬い紙?」


 ある日のこと。

 カスミはリビングでくつろいでいたレネに、おもむろに硬い紙がないか尋ねていた。


「あると思うけど、何に使うの?」

「ちょっと作りたいものがあって」

「お、そういうことなら私も手伝うよー!」


 物作りが大好きなレネなので、カスミが何も言わずとも手伝ってくれることになった。


「ちょっと工房探してくるね!」

「あ、レネさん、折角ならついていっていいですか?」

「全然いいけど、そんな面白くないよ?」

「それは分かりませんけど、何気にまだレネさんの工房入ったことないなって」

「そういえばそうだね!」


 これまでは特に用事がなかったので地下にあるレネの工房には入ったことがなかったカスミだったが、折角の機会なので入れさせてもらうことになった。

 それから2人で地下への階段を降り、その先にあった金属製の頑丈そうな扉を開けると、中からはむわっとした熱気が伝わってきた。


「わ、暑いですね」

「さっきまで釜使ってたからね! 私にとっては全然これくらいは心地いい熱気だよ!」


 ドワーフは火山地帯の近くの国が出身な者がほとんどで、かなり熱には強いんだとか。

 そんな熱気のあるレネの工房はそれなりに広く、目の前にある釜があって武具を作ったりする部屋と、それ以外のものを作る部屋とで分かれていた。

 どうやら目的のものは後者の部屋にあるようなので、レネと一緒にカスミはその部屋に入っていった。


「えーっと、確かこの辺に……」


 その部屋は素材置き場になっているようで、たくさんの収納箱があり、その中の一つをレネは物色し始めた。


「あった! カスミちゃんこれどう?」


 そう言ってレネが取り出したのは、普通の紙と同じくらい薄いが、縦にすると直立するくらい硬い、画用紙くらいのサイズをした紙だった。


「あっ、良いですね。 私がイメージしてたものとほぼ同じ感じの素材です」

「おー、良かった!」

「これ、何に使う紙なんですか?」

「残念ながら使い道は無いんだよねー」

「そうなんですか?」

「魔法使いの中には紙とかの媒介の中に魔法を封じて、戦闘時にその媒介に魔力を流すことでその魔法を使うっていう戦い方をするスペルホルダーってタイプの人がいるんだけど、知り合いのスペルホルダーに使いやすそうな紙を作ってくれって言われて作った紙なんだよね、これ」

「そうなんですね」

「ただ、表面ツルツルにし過ぎて、扱う時に滑りそうってことでこれは没になったんだ」

「じゃあ、切ったり何か描いたりしても大丈夫ですか?」

「全然いいよ! なんなら切って欲しいサイズに切ってあげる!」

「じゃあ、これくらいのサイズで……」


 それからカスミは、そのツルツルとした紙をレネに裁断機のようなもので希望した均等なサイズに切ってもらった。

 流石レネが使う裁断機とでも言うべきか、角を取る機能まであり、硬い紙で角があるのはちょっと危ないということで、角も取ってもらった。


「ありがとうございます、レネさん」

「いいえー! それで、何に使うのそれー?」

「じゃあ、ちょっと描いていきますね」


 それからカスミは、切られた紙をリビングに持っていって、ペンで色々描き始めた。

 その際、普通のインクだと弾いてしまうので、これまたレネからこういう紙にもしっかり描けるペンを貸してもらった。

 ありがたいことにいくつか色もあったので、それを駆使しながらカスミは紙に色々と描き込んでいく。

 途中からは横で見ていたレネにも手伝ってもらい、計50枚ちょっとの色々と描かれた紙の束ができあがった。


「なにしてるにゃー?」

「あ、ローニャさん、いいところに」


 そんなカスミとレネのところへ、ローニャがやってきた。


「ローニャさん、これから賭場ですか?」

「う…… そ、そうにゃよ」


 どうやらローニャは賭場に行こうとしていたようで、気まずそうに目を逸らした。


「ローニャさん、ちょっと今日は我慢して、私に付き合ってくれませんか?」

「にゃ?」

「今、ローニャさんのためになるかもしれないものを作ってたんです」

「ローニャのにゃ?」


 カスミの物言いに興味が湧いたのか、ローニャはカスミが座っているソファに腰掛けてきた。


「なんか色々描いてある紙が沢山にゃ」

「これ、トランプっていう遊べるカードなんです」


 そう、カスミが今作っていたのは、トランプだった。

 前世にあったものを伝えるのはどうかと思い、これまで料理関係以外の知識はあまり出してこなかったカスミだが、この世界を管理する神であるチェアリィに兵器関連とかじゃなければ全然良いよと言われたので、今回はトランプを作ってみた。


「これで遊ぶにゃ?」

「色々できるんですよ。 そうしたら、まずは一番オーソドックスなものをやりましょうか」


 そう言ってカスミは、トランプをしっかり混ぜて、レネとローニャと自分に三等分になるようにカードを配った。


「そうしたら、この手札で数字が揃ったものを捨てていきます」


 それから皆んなで揃った数字のカードを捨てていき、手札にはある程度のカードが残った。


「ここからババ抜きというゲームのスタートです。 隣の人の手札を順番に引いていって、手札で数字が揃ったらそれをまた捨てて、最後に手札にカードが残ってた人が負けです」

「全部無くなっちゃわないの?」

「レネさんかローニャさんの手札に悪魔っぽい絵が描かれたジョーカーってカードがあると思うんですけど、それはペアになるカードが無いので捨てられません。 なので、最終的には誰かの手にジョーカーが残るんです」


 カスミがそう説明すると、ローニャがちょっと顔を顰めた。

 どうやら、ローニャの手にジョーカーがあるらしい。

 そんな分かりやすいローニャに苦笑しつつ、カスミ達は順番にカードを隣の人から抜いていった。

 そうしていると、3人なこともあって割と手札はどんどん減っていき、一足先にカスミが上がって、残るはレネとローニャの一騎打ちになった。


「むむむ…… こっちにゃー!」

「残念ハズレー♪」

「にゃー!?」

「さて、どっちかなー?」


 そして、どちらかが当たりを引けば決着といった場面で、ローニャが持っている2枚カードを、レネはすぐには引かずに交互に触っていく。


「にゃ……! にゃ……」


 すると、ローニャはレネが当たりを触った時はしょんぼりし、ジョーカーを触った時は目を輝かせていく。


(分かりやすくて可愛い……!)


 あまりにも分かりやすいその仕草にカスミが笑いを堪えていると、レネは非情にも当たりのカードをあっさり引き、2番上がりとなった。


「にゃー!?」

「ローニャ、分かりやすすぎだよー」

「え、な、なにがにゃ?」

「すっごい顔に出てましたね……」

「そ、そんにゃ!?」


 ガーンといった感じの表情でショックを受けるローニャにカスミとレネは笑いつつ、もう何回かババ抜きをし、その後は7並べ、神経衰弱なんかもやってみた。


「全部面白すぎるにゃ!」

「ね! カスミちゃんこれ、最高のゲームだよ!」


 結果、どの遊び方も大好評で、レネとローニャは時間を忘れてトランプにのめり込んでいった。

 やはり大した娯楽がないこの世界の人にとって、簡単なトランプゲームでさえ革命的な面白さに感じるようだ。


「ローニャさん、これでギャンブルは控えられそうですかね?」

「あ、忘れてたにゃ! 全然これがあるなら忘れられるにゃー!」

「でも、これが外に広まったら賭場でも使われるんじゃない?」

「た、確かににゃ!」

「あー、まぁ、ローニャさんはギャンブルが好きっていうより娯楽が好きなタイプだと思うので、どちらにしても今よりは控えられるじゃないですかね?」

「それはそうだと思うにゃ!」


 ローニャのギャンブル依存解消を目的の一つとして作ったトランプだったが、ある程度の効果はありそうで、作って良かったなとカスミは思った。


「何してるんだ?」

「なんか騒がしい~……」


 それから外出から帰ってきたクリスタや、寝ていたフィオ、夕方くらいには依頼を終えたアネッタも帰ってきて、彼女達にもトランプの遊び方を教わりやってみたところ、全員もれなくハマり、そこからはもう夕食になるまでトランプ大会が行われた。

 そして、夕食後は人数も増えたということでカスミが大富豪を教えると、そこからはもうビフレストの面々は延々と大富豪で遊び、日付が変わる頃に流石にこれ以上は良くないと思ったカスミがトランプを回収する羽目になった。

 その様子を見て、この世界の人達の娯楽への飢えを再認識したカスミは、様子を見つつ他の娯楽なんかも教えていこうかなと思った。

 なお、クリスタには機会を見てシクウにもトランプの存在を教えて、商標登録すると良いと言われたので、この世界に娯楽が広まるのも、そう遠くない未来になるかもしれない。
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