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もやもや
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私が目覚めたのは、ルビアを助け出してから3日後のことだった。
そして、それから1日経った今日。
「ルビー、おはよぅぅ」
「イブ、おはよう。おはようのキスしたい」
「いや、今は不味いよルビ。近くにセンダンさんがいる」
「忘れてた。でも、すごくやつれた顔してたしこっちを気にする余裕あるかな」
「確かに。じゃあしよっか」
朝一からいただくルビアの唇。軽く触れるだけなのに、幸福感が溢れて止まらない。もっともっと深く触れ合いたい所をグッと我慢して、ルビアの朝食作りを手伝う。
会話は特になく、野菜を切る音だけが静かに響く。
今この小屋には4人もの人がいるのに、何の声も聞こえない。別に誰と誰が喧嘩しているわけでも、気まずいから喋らないわけでもなく、割とこれが通常運転なのだ。
そもそもルビアは無口な方で、本人からも静かな方が楽だと聞いている。私はそれなりに喋るのは好きだけど、喋りたければ喋るし、静かなのも好きだ。特にこういうルビアと共同作業を黙ってしている瞬間は、彼女を独占している感に浸れて好きだ。
そしてリビングの机に突っ伏してげっそりしているセンダンさんは…疲れている。彼女を疲れさせた張本人のリコリスさんは、そんなセンダンさんの疲れ切った様子を眺めて愉しんでいた。
と言うのも、どうやらあの二人は私とルビアが寝込んでいた三日間、ひたすら体を重ねて情事にふけっていたらしい。事情は色々あるらしいけど、センダンさんは何を聞かれても『お前の妹を助けるためにはこれしか無かった…』としか言わない。
イブンは小声でルビアに語り掛けた。
「ねぇルビ、あの二人ってどういう関係なんだろうね」
「ん…朝食作ったら、こっそりリコリスに聞くのは」
「あー確かに。リコリスさんなら答えてくれるかも…でも私あの人ちょっと苦手と言うか、怖いと言うか…ちょっと話しかけ難いんだよね」
「私も…ちょっと苦手。変な魔法教えるし…結局それのおかげで助かったから何にも言えないけど…それより、私はあのセンダンって人の方が苦手」
「センダンさんはいい人だよ。何の見返りもな…くルビアを助けるのに協力してくれたし、めっちゃくちゃ強いし…変態だけど。なんでルビアは苦手なの?」
「…イブを見る目が…いやらしい」
同時にダンッとまな板に包丁が下ろされる音が響く。ルビアの眼はあの日見た炎のごとく真っ赤に血走っていた。
「あー…そうかなぁ。あはは」
私は今も二人に話せないでいた。ルビアを助けるための交換条件としてセンダンさんにキスを許したこと、ルビアが実は私の妹ではなく恋人だということも。いやだって、センダンさんはずっとげっそりしてるし、お互いあんなにがんばってようやく会えたルビアと変な感じになるのは嫌だし。
でも、言えない限りルビアとセックスできない。何故なら、私とルビアは身の安全のため、この小屋から出られないから。そして、壁が薄いためシたら絶対バレるから。
正直、昨日意識が戻ってからずっとムラムラしてる。精神修行だと思って何とか耐えてるけど、ふとした瞬間にルビアを押し倒しそうになる時がある。
「ねぇ、イブ」
「わっ!?え、えっと、何?」
「なんで隠してるの。浮気」
「え…えぇ!?なんでバレてるの!?って声デカすぎた。違うよ、浮気じゃなくって…」
「…見てれば分かる。何か隠してるのも、後ろめたいことがあるのも…浮気は勘だったけど、ショック」
「いやいやあのね!違うの!これにはホントーに深ーいわけがあってね?ルビアをたムグッ」
事の経緯を話そうとしたところ、口の中にパンを突っ込まれる。
ルビアはサラダを更に盛り合わせながら不機嫌そうに口を開いた。
「夜話そう。私から聞いたけど、今聞いたら…ご飯が喉通らなくなる」
「ご…ごめんね。ホントに、無事に会えたらちゃんと話すつもりだったの。でも、せっかくまた会えたのに、触れ合えるのに、変な空気にしたくなくて…」
イブンがしょんぼり叱られた子供みたいな顔をしていると、ルビアは微笑んでイブンに抱き着いた。
「大丈夫。イブは私だけのものって分かってるから。信じてるから。ただ、黙ってたことに少しだけモヤっとして、意地悪しただけ。愛してるよ、イブ」
「…っ」
ルビアのその甘い言葉に子宮の奥までキュンと疼いた。
あぁ、ごめんねルビ。やっぱり私が間違ってた。もっと全部さっさと話して、そしたら今この瞬間にでも押し倒していっぱいセックスできたのに…!!
「イブ。運ぶよ」
「うん!」
ふたりで食事をテーブルまで運ぶ。今朝の献立は色んな野菜の盛り合わせサラダ、きのこスープとパンだ。
テーブルに乗せると、リコリスは目を輝かせてよだれを啜りながら一目散にスープへ手を伸ばした。
「わー!今日も美味しそうですねー!ボクきのこスープホントに好きなんですよー!」
「リコリス、意地汚いぞ」
「えー、こういうのって、がっつき過ぎなくらい求められた方が嬉しくないですかー?ほら、先輩もセックス中、ボクがちょっと休憩しようとしたら捨てられた子犬みいたいな目でわぶっ」
「…お前は何の話をしているんだ!!」
リコリスはセンダンから頬に一発ビンタを喰らい、向こう側の壁まで飛ばされていった。しかしここは流石上位クラスの魔法使いという所か、身軽な動きで受け身を取り、スマートな着地を見せる。
その様子にイブンとルビアは苦笑いを浮かべ、食卓に皿を並べ終えて椅子に座った。
「ほら二人とも。バカやってないで食べますよ」
「はーい!」
「…すまない」
リコリスを筆頭に、他の三人も食べ始める。
4日前の騒ぎが嘘だったみたいに、平穏が流れていく。
当たり前のように4人で食卓を囲み、「おいしい、おいしい」と口を揃えてご飯をかき込む。
そんな幸せを感じながらも、私の胸からはモヤモヤが消えない。ルビを助けることに命を賭して、結局最後はセンダンさんたちに助けてもらったけど、無事目的は成し遂げた。全てではないかもしれないけど最初の絶望から考えると、出来過ぎなくらい上手くことが運んで、今こうしてルビと肩を並べてご飯を食べられる。間違いなく幸せだ。その感情に間違いはない。
だけど、どこか少しだけ不安で…なんともいえない恐怖がずっとつき纏っている気がして―――
「イブ、大丈夫?」
私の異変に気付いたルビアが頭を撫でてくれる。
その瞬間に、モヤモヤも不愉快な感情もどこか遠くへ飛んで行ってしまった。
「…うん。大丈夫だよ。ありがとうね、ルビ」
イブンがルビアと笑い合っている様子を、リコリスは「ほほー」と顎に手を当てニヤニヤと見ていた。
「昨日から思ってたんですけど、お二人って付き合っちゃってたりします?」
リコリスの言葉にセンダンは勢いよく椅子から立ち上がった。
「違うぞリコリス。この二人は姉妹なんだ!そんなこと…絶対にありえない!!」
「姉妹?いやでもー、ルビアちゃんはアザレアでー、イブンちゃんは普通のご家庭の娘さんですよね?それっておかしくないですか?と言うか、別に姉妹だって付き合うことあると思いますよ、先輩」
「ぐっ…」
正直な所、センダンも薄々おかしいとは思っていた。姉妹であるのに髪の色も全く違うし、種族も異なる。複雑な経緯で義姉妹になったのだとセンダンは自身に言い聞かせていたが、単にそういう間柄にしては距離感が近過ぎると言うか、雰囲気が甘すぎるような気はしていた。
イブンは気不味そうに頬を掻いていたが、ルビアは全く気にする様子もなく食を進めている。
「ま、まぁセンダンさん。一旦座って下さい。えーと、スープが冷めちゃいますから」
「そ、そうだ。確かにそうだ。せっかくイブンが作ってくれた料理だ。冷ましてしまうのは勿体ない」
リコリスはそんな二人のぎこちない様子を見て口を押えて笑いを堪えるのに必死だった。
そして、それから1日経った今日。
「ルビー、おはよぅぅ」
「イブ、おはよう。おはようのキスしたい」
「いや、今は不味いよルビ。近くにセンダンさんがいる」
「忘れてた。でも、すごくやつれた顔してたしこっちを気にする余裕あるかな」
「確かに。じゃあしよっか」
朝一からいただくルビアの唇。軽く触れるだけなのに、幸福感が溢れて止まらない。もっともっと深く触れ合いたい所をグッと我慢して、ルビアの朝食作りを手伝う。
会話は特になく、野菜を切る音だけが静かに響く。
今この小屋には4人もの人がいるのに、何の声も聞こえない。別に誰と誰が喧嘩しているわけでも、気まずいから喋らないわけでもなく、割とこれが通常運転なのだ。
そもそもルビアは無口な方で、本人からも静かな方が楽だと聞いている。私はそれなりに喋るのは好きだけど、喋りたければ喋るし、静かなのも好きだ。特にこういうルビアと共同作業を黙ってしている瞬間は、彼女を独占している感に浸れて好きだ。
そしてリビングの机に突っ伏してげっそりしているセンダンさんは…疲れている。彼女を疲れさせた張本人のリコリスさんは、そんなセンダンさんの疲れ切った様子を眺めて愉しんでいた。
と言うのも、どうやらあの二人は私とルビアが寝込んでいた三日間、ひたすら体を重ねて情事にふけっていたらしい。事情は色々あるらしいけど、センダンさんは何を聞かれても『お前の妹を助けるためにはこれしか無かった…』としか言わない。
イブンは小声でルビアに語り掛けた。
「ねぇルビ、あの二人ってどういう関係なんだろうね」
「ん…朝食作ったら、こっそりリコリスに聞くのは」
「あー確かに。リコリスさんなら答えてくれるかも…でも私あの人ちょっと苦手と言うか、怖いと言うか…ちょっと話しかけ難いんだよね」
「私も…ちょっと苦手。変な魔法教えるし…結局それのおかげで助かったから何にも言えないけど…それより、私はあのセンダンって人の方が苦手」
「センダンさんはいい人だよ。何の見返りもな…くルビアを助けるのに協力してくれたし、めっちゃくちゃ強いし…変態だけど。なんでルビアは苦手なの?」
「…イブを見る目が…いやらしい」
同時にダンッとまな板に包丁が下ろされる音が響く。ルビアの眼はあの日見た炎のごとく真っ赤に血走っていた。
「あー…そうかなぁ。あはは」
私は今も二人に話せないでいた。ルビアを助けるための交換条件としてセンダンさんにキスを許したこと、ルビアが実は私の妹ではなく恋人だということも。いやだって、センダンさんはずっとげっそりしてるし、お互いあんなにがんばってようやく会えたルビアと変な感じになるのは嫌だし。
でも、言えない限りルビアとセックスできない。何故なら、私とルビアは身の安全のため、この小屋から出られないから。そして、壁が薄いためシたら絶対バレるから。
正直、昨日意識が戻ってからずっとムラムラしてる。精神修行だと思って何とか耐えてるけど、ふとした瞬間にルビアを押し倒しそうになる時がある。
「ねぇ、イブ」
「わっ!?え、えっと、何?」
「なんで隠してるの。浮気」
「え…えぇ!?なんでバレてるの!?って声デカすぎた。違うよ、浮気じゃなくって…」
「…見てれば分かる。何か隠してるのも、後ろめたいことがあるのも…浮気は勘だったけど、ショック」
「いやいやあのね!違うの!これにはホントーに深ーいわけがあってね?ルビアをたムグッ」
事の経緯を話そうとしたところ、口の中にパンを突っ込まれる。
ルビアはサラダを更に盛り合わせながら不機嫌そうに口を開いた。
「夜話そう。私から聞いたけど、今聞いたら…ご飯が喉通らなくなる」
「ご…ごめんね。ホントに、無事に会えたらちゃんと話すつもりだったの。でも、せっかくまた会えたのに、触れ合えるのに、変な空気にしたくなくて…」
イブンがしょんぼり叱られた子供みたいな顔をしていると、ルビアは微笑んでイブンに抱き着いた。
「大丈夫。イブは私だけのものって分かってるから。信じてるから。ただ、黙ってたことに少しだけモヤっとして、意地悪しただけ。愛してるよ、イブ」
「…っ」
ルビアのその甘い言葉に子宮の奥までキュンと疼いた。
あぁ、ごめんねルビ。やっぱり私が間違ってた。もっと全部さっさと話して、そしたら今この瞬間にでも押し倒していっぱいセックスできたのに…!!
「イブ。運ぶよ」
「うん!」
ふたりで食事をテーブルまで運ぶ。今朝の献立は色んな野菜の盛り合わせサラダ、きのこスープとパンだ。
テーブルに乗せると、リコリスは目を輝かせてよだれを啜りながら一目散にスープへ手を伸ばした。
「わー!今日も美味しそうですねー!ボクきのこスープホントに好きなんですよー!」
「リコリス、意地汚いぞ」
「えー、こういうのって、がっつき過ぎなくらい求められた方が嬉しくないですかー?ほら、先輩もセックス中、ボクがちょっと休憩しようとしたら捨てられた子犬みいたいな目でわぶっ」
「…お前は何の話をしているんだ!!」
リコリスはセンダンから頬に一発ビンタを喰らい、向こう側の壁まで飛ばされていった。しかしここは流石上位クラスの魔法使いという所か、身軽な動きで受け身を取り、スマートな着地を見せる。
その様子にイブンとルビアは苦笑いを浮かべ、食卓に皿を並べ終えて椅子に座った。
「ほら二人とも。バカやってないで食べますよ」
「はーい!」
「…すまない」
リコリスを筆頭に、他の三人も食べ始める。
4日前の騒ぎが嘘だったみたいに、平穏が流れていく。
当たり前のように4人で食卓を囲み、「おいしい、おいしい」と口を揃えてご飯をかき込む。
そんな幸せを感じながらも、私の胸からはモヤモヤが消えない。ルビを助けることに命を賭して、結局最後はセンダンさんたちに助けてもらったけど、無事目的は成し遂げた。全てではないかもしれないけど最初の絶望から考えると、出来過ぎなくらい上手くことが運んで、今こうしてルビと肩を並べてご飯を食べられる。間違いなく幸せだ。その感情に間違いはない。
だけど、どこか少しだけ不安で…なんともいえない恐怖がずっとつき纏っている気がして―――
「イブ、大丈夫?」
私の異変に気付いたルビアが頭を撫でてくれる。
その瞬間に、モヤモヤも不愉快な感情もどこか遠くへ飛んで行ってしまった。
「…うん。大丈夫だよ。ありがとうね、ルビ」
イブンがルビアと笑い合っている様子を、リコリスは「ほほー」と顎に手を当てニヤニヤと見ていた。
「昨日から思ってたんですけど、お二人って付き合っちゃってたりします?」
リコリスの言葉にセンダンは勢いよく椅子から立ち上がった。
「違うぞリコリス。この二人は姉妹なんだ!そんなこと…絶対にありえない!!」
「姉妹?いやでもー、ルビアちゃんはアザレアでー、イブンちゃんは普通のご家庭の娘さんですよね?それっておかしくないですか?と言うか、別に姉妹だって付き合うことあると思いますよ、先輩」
「ぐっ…」
正直な所、センダンも薄々おかしいとは思っていた。姉妹であるのに髪の色も全く違うし、種族も異なる。複雑な経緯で義姉妹になったのだとセンダンは自身に言い聞かせていたが、単にそういう間柄にしては距離感が近過ぎると言うか、雰囲気が甘すぎるような気はしていた。
イブンは気不味そうに頬を掻いていたが、ルビアは全く気にする様子もなく食を進めている。
「ま、まぁセンダンさん。一旦座って下さい。えーと、スープが冷めちゃいますから」
「そ、そうだ。確かにそうだ。せっかくイブンが作ってくれた料理だ。冷ましてしまうのは勿体ない」
リコリスはそんな二人のぎこちない様子を見て口を押えて笑いを堪えるのに必死だった。
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