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第594話 最高の勝利

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酒が旨い


「はははははっ!」


美しい瓶に入った素晴らしい酒

蓋をあけるだけで上品な香りが広がり、一口飲むだけでこれはいいものだと思わず笑みが漏れる

飲む度に心地の良い酔いを与えてくれる

つぱむとかいう異世界の肉も実に良い

金属の缶に入っていて、肉のため、このためだけの金属で肉を保存するなんて正気の沙汰じゃない

だがそれだけの価値がこの肉にはある

これだけ美味くて何年もこのまま食えるとか・・素晴らしいな異世界


何百年も苦戦したことはなかった

なにせ最強の俺様が、最強の神剣を手に入れてるんだから当然と言えば当然だが・・

だがあの小僧はなかなかに、最高に良かった

俺様の剣でもなかなか死なず、フレン老のレギオンでも選りすぐりの魔族たちでもなかなか死ななかった

異世界の進んだ鉄砲、十以上の加護を使っての膨大な魔力、光って音の出るなにか

海王クラーケンの核を使って地下を水浸しにし、全てを氷漬けにする・・本当にイカれて・・それでいて強かった

戦神の加護も授かってない、産まれて五十年と経ってないガキ

ユーキが洋介の無茶苦茶なやり方で死んだ魔族を肉人形にして、魔族、レギオン、肉人形、そして俺様で、やっと殺せた

圧倒的な戦力差であっても生を諦めずに戦い続けた、真の勇者

戦士としては奴は強くはなかったが、それでも流石は大勇者、今まで戦って殺してきた勇者共なんぞ比べ物にならないほどに強かった

何百もの精鋭を殺して、レギオンを消滅させ、肉人形は半分削りやがった


「ふふ」


できれば一対一で戦いたかったが光と毒の魔道具はガルーシャがいなけりゃ危なかったな


きっとこいつ以上に強い勇者はこの先現れることはないだろう

こいつ以上に生き藻掻いて、死に抗って、戦い抜いたものはいない

怨嗟の声も恨み言も上げずに恐怖もしなかったが、それでこその勇者、それでこその『敵』だ

恐怖に泣きじゃくってくれても良かったが、仕方ない、これはこれで最高だった
 
勇者がこちらの世界に持ってきた酒をまた開けて飲む



―――――・・・本当に楽しかったなぁ



俺様の神剣はやつの胸に刺さったままだし、奴が出してきた武器は奴に刺さったままだ

引っこ抜いても良かったが主に止められた

勇者は呪いのせいか結晶化がおもったよりも進まなかった

 この死体は、もう二度と手に入らない俺様の最高の勲章だ


「ふくはははは」


ここでの戦争が終わったら俺様の城に飾ろう

半ば神剣の呪いで変質しているが・・・なに、数年も建てば落ち着くだろうさ、むしろ肉の形を保ってくれていて助かるし、うまく行けばこいつもアンデッドとして役に立ってくれるかもしれん

結晶化するほどの敵は砕けて散ることもあるし実に運がいい


阿呆な弟は魔族の精鋭を取り込んだ自慢の玩具で遊んで死んじまったが・・まぁ仕方ねぇな

事務処理で便利だったっていうのに、ちっ 


「あー、佳い戦いだった」


俺様も本気だった

あれだけ邪魔をしてくれて蝿のように煩わしかったが戦ってみて本物とわかった

こんなにも強いやつを殺すことが出来た

限界まで諦めずに、それでも立ち向かってくるのは本当に最高で・・・あぁ美味い、最高の酒だな


「ごきげんだねー」

「おう、ガルーシャ、次の作戦はどうだ?」

「うん、いい感じー、主も喜んでたよー」

「そりゃあいいな」


こいつを殺せたのは最高だったがそれで仕事が終わるわけではない

まだまだ他にもやることは多い

そもそも勇者を殺すのは計画の一つにすぎない

地下からザウスキア外へのダンジョンを伸ばすこと、これはレギオンを失って不機嫌なフレン老が洋介の下半身を使ってやる

俺様は国際連合軍をザウスキアから狩る

ガルーシャはこの国を本格的に異界化させる

本来なら弟が俺を手伝うはずだったが・・・まぁ洋介の仲間が相手だったんなら仕方ない

人類国家の中央に近いこの国から瘴気があふれれば、魔族の、主の勝利が決まる

濃くなってきつつある瘴気、軍の奴らは逃げるものもいるが必死にこちらに向かってきているものもいる

人類存続をかけての戦い、出鼻に勇者の死体を見せつけてやると本当に気持ちがいい

お前らの希望はもう死んだのだ

闘う気満々の戦士共が勇者の死体一つ見せるだけで恐怖で膝をつく姿は・・・最高だ

俺達に従順するものもいるし、楽しくなってきた

次の目標はレアナー神聖教国だ

光の神の系譜の神、慈愛神レアナーの国、桁違いの浄化と、桁違いの治癒能力と・・・魔族だろうと結婚を申し込んでくる頭のおかしな集団だ

腕を生やすなんて普通、高位神官が一日かけてできるかどうかだろう

ユーキも六徳の蝶の魔法で癒やすことは出来たが部位欠損は簡単には治せなかった、最上位の使徒であったというのにだ

なのに勇者は一瞬でニョキッとはやしてみせた、何かの魔獣とか血が濃い可能性も十分にあったんじゃないか?

あぁ、最後の、人間としての常識を大きく超えた力は凄まじくて・・本当に良かった

俺様よりも速く、俺様よりも硬く、俺様よりも力強かった

光のような速さで動き回り、僅かな間、戦士の技量はなかったとはいえ凄まじい力だった


「本当に、本当にいい戦いだった」

「まーた言ってるー」


さらみとか言う肉もうまい、異世界は飯がうまいのが良いな

美味くて酒が進むし、酒が進むとなんか美味いものが食いたくなる


「そればっかねー、お酒の飲み過ぎだよー、これもーらい!」

「あ、バカ女返せ俺様の酒だぞ!?」


一瞬神剣を呼び寄せようとしてしまいそうになった

あれは今勇者に刺さってるから動かせないってのに


「代・わ・り・に!異世界で最強のお酒ってのを持ってきましたぁ!!飲もー!」

「でかした、さっさと飲もうぜ」

「ははー!」


酒をガルーシャに注がせる

なんだコイツも飲みに来ただけか

まぁもうあらかた軍は片付けたし、ダンジョンをレアナー教国に伸ばすのには時間がかかるもんな

フレン老だけだな・・忙しいのは


「勝利に」

「全ては主のために」

「・・あぁ主のために」


やけに臭いニオイだったが異世界のものに外れはない


「ぐぇっほ!!?がほっ!!ごっ・・・!!?!?」
「けほっ??!げぇっふ!!?」


訂正、喉が灼ける・・っ!!?


「な、何だこの酒は?毒がほっ!」
「の、喉が!!!??確かなにか注意書っ!き!がっごふっ!!?」

-すぴりたつ ドワーフも倒れるほどの酒精の塊、何かで薄めて飲むもの、火をつけると盛大に燃える-


酒なのかこれ!?飲んで良いものじゃないだろうこんなもの?!!

・・・あー、酷い目にあった

異世界にはこんな酒もあるのか、たしかに最強の酒だな



水をがぶ飲みして、まだ胃が気持ち悪い、胃の形がわかる

ガルーシャに文句も言いたいところだったがガルーシャは倒れている

風にあたって勇者を見てみる

腐臭はしないな・・だが、なかなかに呪われてきて、良いアンデッドになりそうだ

ところどころ結晶化してるが、これもアンデッド化にはいい方向に働いているのだろうか?

そういえば今日ぐらいか、レアナー教国にダンジョンが届くのは

ダンジョンさえ届けば後はどうとでもなる

あの腐れ神官共も、レアナーを引きずり落として殺せば諦めるだろうさ

他の国の逆らってくれちゃってる奴らも・・・ん?なんだ?鳥・・・・・?


雲よりも上、何かがすごい速さで動いた気がする

どこぞのドラゴンか?

またあの雷煌竜が暴れに来なきゃ良いんだがな


いや、なんだ?あれは?羽ばたきもせず、変な形の何かがこちらに向かって上から降ってくる、どこぞの神の――――――・・・


世界は真っ白になって、何が起きたかはわからなかった
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