2 / 35
②
しおりを挟む十七年後、大陸に勇者が船を乗り付けたと聞いてから、彼が魔王城に来るのを心待ちにしたのは、三六九年生きてきて初めてのことだった。
幸いにもいいやつそうで(まあ、勇者ってのは大抵いいやつだ)、俺が殺されてからも過度に魔族を虐げられたりはせずに済みそうだった。まあ、本当のところはどうなるか知らんけど。
そういう訳で、俺は魔王になってから初めて、治癒魔法を使うことなく戦い、あっけなく死んだ。
そりゃあもう、勇者がぽかーんとなって、『ほ、本当に魔王だったのか?』と狼狽えるくらいにはあっけなく死んだ。
本当に魔王です。雑魚で申し訳ない。これからの世界の平和はよろしく頼んだ。それでは。
そうして死んだ証拠として光の粒となって消滅した俺は、理に従って『転生の丘』――命を失いし者が訪れ、新たな生を受ける神々の丘にやって来た訳である。
柔らかな陽気に包まれた緑豊かな草原の真ん中に白冥石で出来た神殿があり、其処でこれまで生きてきた功績を算出して、結果に見合った来世の希望を出せるのだ。
多分、この情報をみんな生きてる内に知ってりゃ、もっと全員まともに過ごすんじゃねえかなあ、と思った。
俺が此処について詳しいのは死んで此処に来た瞬間に脳内に流れ込んできただけで、多分これは説明が面倒だから一括で済ませているもんだろう。
まあ、生まれ変わりを前提に生きるのもしんどいから、これはこれで正解なのかも知れないけど。
「……ロルフ・アレルスマイアー様、Ⅴ番窓口までどうぞ」
人数が尋常じゃないためかのろのろと進んでいた列が、ようやく俺の番になった。軽く返事をして、窓口の前の椅子に腰掛ける。
装備がガチャガチャ鳴って煩い。外しておきゃよかったな。
「こんにちは。今回アレルスマイアー様の功績表および来世の希望項目について説明をさせて頂きます、モニカと申します。本日はよろしくお願い致します」
「あ、よ、よろしくお願いします」
「まずは、前回の三六九年の人生、お疲れ様でございました。ロルフ様は今回が初めての転生ということですので、不明な点がありましたらその都度ご説明しますのでお気軽にお尋ね下さい」
「は、はい……」
マニュアル上の労いなのだろうが、なんだか涙腺が緩んでしまった。そうか、誰かに労られるってのは、こんなに嬉しいもんだったのか。
仮面を付けていて良かった、と装備を外さなかった自分に感謝しつつこっそり鼻を啜っていると、モニカさんは手元の書類を確認し始めた。
「魔王職を務められていたとのことですが、来世でも同職を希望される予定はありますでしょうか?」
「なっ、無いです!! 少しも、全然!! ありません!!」
「……承知しました、ではアレルスマイアー様にお選び頂ける来世の種族を此方にご用意致しましたのでご確認下さい」
「あ、ありがとうございます」
いかん、思い切り挙動不審になってしまった。お前本当に魔王か?と自分に聞きたくなってしまう。
モニカさんは俺の食い気味の答えにも笑顔を絶やすことなく、一冊のカタログを卓上に取り出した。
図鑑に似たそれは重みと厚みがあり、到底この中から選ぶ、なんてことは出来そうに無い。
眺めつつも全然決まらず迷っていると、モニカさんは焦る俺を気遣ってくれたのか、カラフルなボードを出してきた。
「お悩みでしたら、此方のおすすめ種族表も如何でしょう? アレルスマイアー様は非常に功績点が多く、種族も大変多くなっておりますので、上位人気種からお選び頂くのも良いかと思います」
「そ、そうなんですか……それはそれは……なんというか、有り難い、話ですね」
11
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる