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③
しおりを挟む「……これはいけませんな、かけた本人に解いて貰わねば」
「貴方程の腕の方がそう判断すると言うことは、事実としてそうなのでしょうね。けれど、何故無理なのか聞いておいても構わなくて?」
「これは……単なる『魅了』では御座いません、恐らくは……異界の術です。故に王族の守りが通じず、オリヴァー様も呪いにかかってしまった訳ですな。性質からして、学園内の警報魔法も作動していないことでしょう。……ティターニア様、この魔法をかけた者に心当たりは?」
「アリア・フロレイン様ですわ」
名を聞くと同時に、魔導士殿は深い溜息を吐いた。フロレイン侯爵家は宮廷魔導機関と学園に多額の寄付を行っている歴史ある名家である。軽率に糾弾する訳にはいかない相手だ。
加えて言うと、アリア・フロレインの施した術が本当に異界のものであるのなら、現行の法律では罪にならない恐れがある。『証拠』の提出が出来ないからだ。魔法による犯罪の立証は、この世界の魔法性質に準じて感知され、証明されなければならない。
「そう。では、しばらくこのままで構わないわ」
「……よろしいのですか? 必要であれば、私めから魔導士団長を通して陛下にご連絡を致しますが……」
「考えてみれば、陛下はご存知ない筈が無いわ。その上で放置しているということは、放っておいても解決するとお考えなのでしょう」
正直に言えば、此処で呪いを解いてもらいたい、というのも単にわたくしの我儘である。
現状、オリヴァー様は王族としては何一つ間違ったことは言っていないからだ。愛した正妻に加えて愛を注ぎたい相手が出来たのなら、権利を与えて娶るのが王の生き方である。
オリヴァー様がわたくし以外に愛を囁くだなんて、到底我慢がならない。しかも、正当な方法で奪われたのならばともかく、邪法の魅了によってだなんて。腹立たしい。
けれども、今回ばかりは致し方あるまい。婚約者であり公爵家の令嬢であるとはいえ、口出し出来る範囲を超える訳にはいかないだろう。
「急に呼び立ててしまって申し訳ありませんでしたわ。この件は解決を待つことに致しますわね」
にっこりと微笑みを浮かべて、謝礼の品をいくつか送る約束をしてから、魔導士殿にはお帰り頂いた。
ついでに、今もなお素直に目を閉じたままのオリヴァー様に軽く口付ける。もうよろしくてよ、と囁けば、澄んだ碧眼は喜びと疑問を半々に浮かべてわたくしを見つめた。
「ティターニア、これは何の検査だったんだ?」
「オリヴァー様の顔色が少し優れないようでしたから、心配になってしまいましたの。それだけですわ」
普段ならばとっくに理由など思い至っているだろうオリヴァー様の察しの悪さからして、やはり魅了は思考回路にまで影響を及ぼしているのだろう。
心配ではあるけれど、今のところ身体的な害が出ている程ではない。陛下が何かお考えならば、私の方も我慢する他ないだろう。お考えなど無いのだと言うのであれば、その時は『やってしまう』だけである。
「それにしても、全教科平均点程度では到底足りませんけれど、卒業までに目標達成できる予定ですの?」
「問題ないな! この俺の手腕を持ってすれば、一日七時間、授業外で勉強すれば達成可能だ!」
あらあら、そんなに。
という言葉を飲み込んで、わたくしはとりあえず、いつものように微笑んでおいた。
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