いつの間にかそこは肉屋でした

松本カナエ

文字の大きさ
5 / 25

5. 「我が甥」って誰のことですか?

しおりを挟む



 俺は青ざめた顔で、午後の店番をしていた。
 俺の荷物がひっそりあんなところにあったなんて、全く想像もしてなかった。
 バルさんが帰ってきた時、普通の顔をしていられる自信がない。
 どうしよう、どうしたら……そう思いながら店番をしていると、店の外が騒がしくなる。
 一体何なのだ、と思っていると、とてもキラキラしい光沢のある服を着た人が入ってきた。ここは庶民的な店なので、ちょっと初めてのお客さんだ。
 でも今着ている服より俺的には着やすそうな服で羨ましい。庶民にもそういうタイプの服流行らないかな。流行らないか。邪魔な装飾品の方が目立っているからな。実用的じゃないと思われてそう。

「いらっしゃいませ」

 俺は、あんまりジロジロ見るのもと思い頭を下げた。向こうはこちらをぶしつけにジロジロ見ている。接客され慣れてる人なのかな。すすめられたものそのまま買いそう。何か声かけた方がいいかな。

「やはり」

 キラキラしたテカテカの服を着たおじさんは、なぜかこちらを見ると、納得したような顔でつぶやいた。

「ここに記憶喪失で自分のこともわからない人がいると聞いてきたのだが、やはり行方知れずになっていた我が甥オリバーではないか! オリー、おじさんを思い出さないかい?」

 は?
 おじさん?

 俺がぽかんと口を開けておじさんを見ているとおじさんはあわれそうにこちらを見つめて「本当に記憶喪失なんだな……」と言うので、俺は心の中で「いや、全然記憶は喪失してないんだけど」と返してしまう。

「我が家に来れば思い出すやも。このような肉屋で商売に身をやつさずとも、我が家で療養すればよかろう。さあ」

 さあ、とおじさんは仰々しく手を差し出してきたが、俺は半分くらいしか何を言っているかわからなかった。
 やつさず?
 りょうよう?
 おじさんの手を見つめ、ミュージカル俳優のような決めポーズのおじさんを見つめ、後ろにいるお付きの人っぽい人を見つめ、その後ろに俺以上にキョトンとした顔をしているバルさんを見つけた時、俺はめちゃくちゃホッとした。

「おかえりなさい! バルさん!」

 俺はバルさんなら何とかしてくれるだろうと顔をゆるめた後、さっき見たものを思い出し、グッと顔にシワを寄せた。
 バルさんは俺が困っていると察知したらしく、とりあえず一度お引取り下さい、と言ってその人を帰そうとした。

「君、どこかで見覚えが……」

 その人はバルさんのことを見て、何かを考えるように首を傾げた。

「気のせいです。モリトのことも、多分あなたの甥ではありません」

 バルさんは、いつになく厳しい口調でその人の話を一刀両断した。

「私はエイドラム家のジェイブリルだ。そこにいる記憶喪失の子が、我が甥、オリバーにそっくりなのだ。オリーは両親が事故に遭い行方知れずになってしまっていて、ここに記憶喪失で拾われた子がいるという話を聞き、もしやオリーではないかと来たのだが、本当にオリーにそっくりなのだ」

 エイドラム家のジェイブリルさんは、スラスラとよく喋るなというくらいに喋って、満足したようにバルさんを見る。
 バルさんはいつになく冷えた目で、ジェイブリルさんを見ている。エメラルドの色が深くなり、目の光がスッと消える。

「とりあえず、本日は一度お帰り下さい」

 きっぱりとバルさんが言う。野次馬していた人たちがジェイブリルさんに道を開け、お帰り下さいという意志を示す。
 ジェイブリルさんはこちらをチラチラ見ながらも、店から出て行った。

 何だったんだ。
 俺は髪は少し明るく染めてるけど、明らかにオリバーって顔じゃないと思うんだが、みんなもそう思わんのかな。

「俺、オリバーじゃない……」

 俺がつぶやくと、バルさんはいつものように頭を撫でた。
 でかい手はいつもなら安心するけど、俺はヒュッと首をすくめて、バルさんを恐る恐る見た。バルさんはいつものように微笑んでいたけど、俺は木箱の中身を思い出して、笑おうと思ったのに顔がかたまって笑えなかった。

「……大丈夫、ここにいていいんだぞ」

 笑えない俺を見て、バルさんは俺が不安になっているのには気づいたと思う。
 俺はどうしたらいいかわからなかった。うん、とも言えなかった。
 肉屋はまさかの出来事に野次馬や常連さんが騒然としていたが、バルさんが狩ってきたコカトリスとかいう鳥だかヘビだかわからない生き物の肉を振る舞ったらおさまった。バルさんが毒抜きしてるところはショーみたいだった。
 肉の力って凄い。



 俺は、その日夜中にそっと起き出した。
 バルさんが寝ているのを確認して、木箱から俺の荷物を出して、そっと肉屋を出た。
 もうこれは、王城に「俺が異世界から来ました」って名乗り出るしかない。
 高い塔みたいな王城目指して、俺は夜道を歩き出した。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵国の将軍×見捨てられた王子

モカ
BL
敵国の将軍×見捨てられた王子

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

バスケ部のイケメン先輩に誘惑されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 他にも書きたいのがいっぱいある。

処理中です...