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5. 「我が甥」って誰のことですか?
しおりを挟む俺は青ざめた顔で、午後の店番をしていた。
俺の荷物がひっそりあんなところにあったなんて、全く想像もしてなかった。
バルさんが帰ってきた時、普通の顔をしていられる自信がない。
どうしよう、どうしたら……そう思いながら店番をしていると、店の外が騒がしくなる。
一体何なのだ、と思っていると、とてもキラキラしい光沢のある服を着た人が入ってきた。ここは庶民的な店なので、ちょっと初めてのお客さんだ。
でも今着ている服より俺的には着やすそうな服で羨ましい。庶民にもそういうタイプの服流行らないかな。流行らないか。邪魔な装飾品の方が目立っているからな。実用的じゃないと思われてそう。
「いらっしゃいませ」
俺は、あんまりジロジロ見るのもと思い頭を下げた。向こうはこちらをぶしつけにジロジロ見ている。接客され慣れてる人なのかな。すすめられたものそのまま買いそう。何か声かけた方がいいかな。
「やはり」
キラキラしたテカテカの服を着たおじさんは、なぜかこちらを見ると、納得したような顔でつぶやいた。
「ここに記憶喪失で自分のこともわからない人がいると聞いてきたのだが、やはり行方知れずになっていた我が甥オリバーではないか! オリー、おじさんを思い出さないかい?」
は?
おじさん?
俺がぽかんと口を開けておじさんを見ているとおじさんはあわれそうにこちらを見つめて「本当に記憶喪失なんだな……」と言うので、俺は心の中で「いや、全然記憶は喪失してないんだけど」と返してしまう。
「我が家に来れば思い出すやも。このような肉屋で商売に身をやつさずとも、我が家で療養すればよかろう。さあ」
さあ、とおじさんは仰々しく手を差し出してきたが、俺は半分くらいしか何を言っているかわからなかった。
やつさず?
りょうよう?
おじさんの手を見つめ、ミュージカル俳優のような決めポーズのおじさんを見つめ、後ろにいるお付きの人っぽい人を見つめ、その後ろに俺以上にキョトンとした顔をしているバルさんを見つけた時、俺はめちゃくちゃホッとした。
「おかえりなさい! バルさん!」
俺はバルさんなら何とかしてくれるだろうと顔をゆるめた後、さっき見たものを思い出し、グッと顔にシワを寄せた。
バルさんは俺が困っていると察知したらしく、とりあえず一度お引取り下さい、と言ってその人を帰そうとした。
「君、どこかで見覚えが……」
その人はバルさんのことを見て、何かを考えるように首を傾げた。
「気のせいです。モリトのことも、多分あなたの甥ではありません」
バルさんは、いつになく厳しい口調でその人の話を一刀両断した。
「私はエイドラム家のジェイブリルだ。そこにいる記憶喪失の子が、我が甥、オリバーにそっくりなのだ。オリーは両親が事故に遭い行方知れずになってしまっていて、ここに記憶喪失で拾われた子がいるという話を聞き、もしやオリーではないかと来たのだが、本当にオリーにそっくりなのだ」
エイドラム家のジェイブリルさんは、スラスラとよく喋るなというくらいに喋って、満足したようにバルさんを見る。
バルさんはいつになく冷えた目で、ジェイブリルさんを見ている。エメラルドの色が深くなり、目の光がスッと消える。
「とりあえず、本日は一度お帰り下さい」
きっぱりとバルさんが言う。野次馬していた人たちがジェイブリルさんに道を開け、お帰り下さいという意志を示す。
ジェイブリルさんはこちらをチラチラ見ながらも、店から出て行った。
何だったんだ。
俺は髪は少し明るく染めてるけど、明らかにオリバーって顔じゃないと思うんだが、みんなもそう思わんのかな。
「俺、オリバーじゃない……」
俺がつぶやくと、バルさんはいつものように頭を撫でた。
でかい手はいつもなら安心するけど、俺はヒュッと首をすくめて、バルさんを恐る恐る見た。バルさんはいつものように微笑んでいたけど、俺は木箱の中身を思い出して、笑おうと思ったのに顔がかたまって笑えなかった。
「……大丈夫、ここにいていいんだぞ」
笑えない俺を見て、バルさんは俺が不安になっているのには気づいたと思う。
俺はどうしたらいいかわからなかった。うん、とも言えなかった。
肉屋はまさかの出来事に野次馬や常連さんが騒然としていたが、バルさんが狩ってきたコカトリスとかいう鳥だかヘビだかわからない生き物の肉を振る舞ったらおさまった。バルさんが毒抜きしてるところはショーみたいだった。
肉の力って凄い。
俺は、その日夜中にそっと起き出した。
バルさんが寝ているのを確認して、木箱から俺の荷物を出して、そっと肉屋を出た。
もうこれは、王城に「俺が異世界から来ました」って名乗り出るしかない。
高い塔みたいな王城目指して、俺は夜道を歩き出した。
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