いつの間にかそこは肉屋でした

松本カナエ

文字の大きさ
4 / 25

4. 「店番できてえらいねぇ」っていくつに見えてるんだ?

しおりを挟む



 俺はバルさんに、店番をすることを提案した。
 教えてもらって、一人でできそうだなぁと思えたら、俺を留守番に使って欲しいという提案だった。

 お金の勘定の仕方、肉の包み方は早々に覚えることができたが、切り売りの切るのがめちゃめちゃ難しかった。バルさんはすごいデカい包丁で、肉を切り分けて計るのだが、そんなでかい包丁ホラー映画の殺人鬼が持ってるのしか見たことない。日本じゃ振り回してなくても銃刀法違反で捕まるレベルだ。
 そんな包丁をバルさんは片手で危なげなく使い、一発で肉を切る。俺は真似しようと思っても、それだけは無理だった。
 両手で持って振り下ろすが、バルさんがやる時のようにスパッと切れない。
 俺が店番の練習をしている時に買いに来てくれた常連さんは、俺が肉を切る危うい手つきに目もとをふさいでいた。

「見てられないわぁ。バルちゃんが切ってよぉ。お留守番の時おいた肉から私たち選ぶわよ。その代わり端数の手持ちが足りなかったらオマケしてねぇ」

 俺が店番する時は肉を切っておけばいいと提案してくれた常連さんに、他の常連さんも賛同してくれ、バルさんが適当に切り分けてくれた肉を包んで売るということになった。

「店番するなんて、それだけでえらいわよ」

 常連さんは俺に向かってそう褒めてくれたが、俺はいくつに見えてるんだろうか。バルさんは俺がちょっとムッとしたのがわかったのか笑っていた。

「バルさん笑わないでよ!」

 俺がふくれっ面をすると、バルさんがますます笑う。そして、なぜか俺の頭を撫でる。絶対子ども扱いしてる。
 俺27歳なんだが。
 バルさんは俺が店の中でちょこちょこ動いて掃除したり接客したりしていると、いつもニコニコ楽しそうに笑って見ている。バルさんの方を見るたびにバルさんと目が合うから俺はヘラッと笑う。

「モリトが元気になって良かった」

 バルさんは、俺が店の中で動いていたらふと言った。

「倒れていた時は、目を覚まさないんじゃないかと思ったんだぞ」

 バルさんはまた俺の頭を撫でる。

「バルさん、俺を助けてくれてありがとう」

 俺は心からそう思った。
 俺の言葉に、バルさんはキョトンとした。えっ、急に言葉通じなくなったの?

「バルさん?」

「それは、礼を言われることじゃないから」

 バルさんの謙虚さを見習わないとな、とその時俺は思っていた。
 翌日留守番をするまでは。



 翌日はとうとう一人店番デビューだった。
 バルさんは心配そうにしながらも、「楽しみにしててくれよ! いい肉狩ってくるな!」と出掛けていった。あれ、俺こういうのゲームで友達とやったな……とぼんやり俺は思っていたが、俺が一人店番デビューをすると知った常連さんがやたらめったら訪ねてきたため、店は忙しかった。
 買い物に来た常連さんが「アメちゃんあげるね!」となぜか肉を買うついでに飴をやたらと置いていくので、俺のポケットは飴だらけになっていた。

 お昼も過ぎて、ようやく店が落ち着いた頃、俺は肉の補充をしたりしていた。
 干し肉の方も今日はだいぶ出たので、そっちの方も補充しなくちゃななんて考え事をしていたら、端の方に置いてあった木箱を引っ掛けてしまった。

「ヤバッ」

 中身が何だかわからないから慌ててしまう。壺とかだったらどうしよう。

「…………え」

 俺は木箱からこぼれた中身を見てギョッとした。

「何でこれがここにあるんだ……??」

 木箱から見えていた中身は、こっちに来る前に俺が着ていたスーツとリュック、それと腕時計だった。

「えっ……野盗は? 裸で森に倒れてたって話は?」

 一気に、足元が崩れたような感覚におちいった。バルさんは、俺の荷物のことなんて言ってなかった。身ぐるみはがされて森に倒れていたのを拾ったって言ってたよな。なんで俺の荷物がここに。
 この木箱は特殊なやつで、何かお取寄せ的なことができるんじゃないかなんてご都合主義なことも考えて。
 ぐるぐる頭の中が色んな感情に押しつぶされる。

 俺は、木箱を元に戻した。

 バルさんは俺の正体を知っていた。
 知っていて知らないふりをするために服を脱がせて、服と荷物をここにしまった。
 嘘をついていた。
 俺だって話せていないことがたくさんあるのに、バルさんの嘘について指摘するのもおかしなことだとわかっていたが、この世界で、たった一人俺に寄り添ってくれていたと思ったのに、こんなのって。
 バルさんは俺に嘘をついて、俺をここに住ませてくれてどうするつもりだったんだろう。だって、記憶が戻るなんてことないってわかってたってことだろう。
 俺は急に怖くなった。
 本当にバルさんは信じていい人なのかな、って。
 ニコニコ笑って、大変だったねって、心配してくれてたんじゃなかったのか。

 怖い。

 俺は見なかったことにするしか選択肢が思い浮かばなかった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

イケメンな先輩に猫のようだと可愛がられています。

ゆう
BL
八代秋(10月12日) 高校一年生 15歳 美術部 真面目な方 感情が乏しい 普通 独特な絵 短い癖っ毛の黒髪に黒目 七星礼矢(1月1日) 高校三年生 17歳 帰宅部 チャラい イケメン 広く浅く 主人公に対してストーカー気質 サラサラの黒髪に黒目

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

処理中です...