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4. 「店番できてえらいねぇ」っていくつに見えてるんだ?
しおりを挟む俺はバルさんに、店番をすることを提案した。
教えてもらって、一人でできそうだなぁと思えたら、俺を留守番に使って欲しいという提案だった。
お金の勘定の仕方、肉の包み方は早々に覚えることができたが、切り売りの切るのがめちゃめちゃ難しかった。バルさんはすごいデカい包丁で、肉を切り分けて計るのだが、そんなでかい包丁ホラー映画の殺人鬼が持ってるのしか見たことない。日本じゃ振り回してなくても銃刀法違反で捕まるレベルだ。
そんな包丁をバルさんは片手で危なげなく使い、一発で肉を切る。俺は真似しようと思っても、それだけは無理だった。
両手で持って振り下ろすが、バルさんがやる時のようにスパッと切れない。
俺が店番の練習をしている時に買いに来てくれた常連さんは、俺が肉を切る危うい手つきに目もとをふさいでいた。
「見てられないわぁ。バルちゃんが切ってよぉ。お留守番の時おいた肉から私たち選ぶわよ。その代わり端数の手持ちが足りなかったらオマケしてねぇ」
俺が店番する時は肉を切っておけばいいと提案してくれた常連さんに、他の常連さんも賛同してくれ、バルさんが適当に切り分けてくれた肉を包んで売るということになった。
「店番するなんて、それだけでえらいわよ」
常連さんは俺に向かってそう褒めてくれたが、俺はいくつに見えてるんだろうか。バルさんは俺がちょっとムッとしたのがわかったのか笑っていた。
「バルさん笑わないでよ!」
俺がふくれっ面をすると、バルさんがますます笑う。そして、なぜか俺の頭を撫でる。絶対子ども扱いしてる。
俺27歳なんだが。
バルさんは俺が店の中でちょこちょこ動いて掃除したり接客したりしていると、いつもニコニコ楽しそうに笑って見ている。バルさんの方を見るたびにバルさんと目が合うから俺はヘラッと笑う。
「モリトが元気になって良かった」
バルさんは、俺が店の中で動いていたらふと言った。
「倒れていた時は、目を覚まさないんじゃないかと思ったんだぞ」
バルさんはまた俺の頭を撫でる。
「バルさん、俺を助けてくれてありがとう」
俺は心からそう思った。
俺の言葉に、バルさんはキョトンとした。えっ、急に言葉通じなくなったの?
「バルさん?」
「それは、礼を言われることじゃないから」
バルさんの謙虚さを見習わないとな、とその時俺は思っていた。
翌日留守番をするまでは。
翌日はとうとう一人店番デビューだった。
バルさんは心配そうにしながらも、「楽しみにしててくれよ! いい肉狩ってくるな!」と出掛けていった。あれ、俺こういうのゲームで友達とやったな……とぼんやり俺は思っていたが、俺が一人店番デビューをすると知った常連さんがやたらめったら訪ねてきたため、店は忙しかった。
買い物に来た常連さんが「アメちゃんあげるね!」となぜか肉を買うついでに飴をやたらと置いていくので、俺のポケットは飴だらけになっていた。
お昼も過ぎて、ようやく店が落ち着いた頃、俺は肉の補充をしたりしていた。
干し肉の方も今日はだいぶ出たので、そっちの方も補充しなくちゃななんて考え事をしていたら、端の方に置いてあった木箱を引っ掛けてしまった。
「ヤバッ」
中身が何だかわからないから慌ててしまう。壺とかだったらどうしよう。
「…………え」
俺は木箱からこぼれた中身を見てギョッとした。
「何でこれがここにあるんだ……??」
木箱から見えていた中身は、こっちに来る前に俺が着ていたスーツとリュック、それと腕時計だった。
「えっ……野盗は? 裸で森に倒れてたって話は?」
一気に、足元が崩れたような感覚におちいった。バルさんは、俺の荷物のことなんて言ってなかった。身ぐるみはがされて森に倒れていたのを拾ったって言ってたよな。なんで俺の荷物がここに。
この木箱は特殊なやつで、何かお取寄せ的なことができるんじゃないかなんてご都合主義なことも考えて。
ぐるぐる頭の中が色んな感情に押しつぶされる。
俺は、木箱を元に戻した。
バルさんは俺の正体を知っていた。
知っていて知らないふりをするために服を脱がせて、服と荷物をここにしまった。
嘘をついていた。
俺だって話せていないことがたくさんあるのに、バルさんの嘘について指摘するのもおかしなことだとわかっていたが、この世界で、たった一人俺に寄り添ってくれていたと思ったのに、こんなのって。
バルさんは俺に嘘をついて、俺をここに住ませてくれてどうするつもりだったんだろう。だって、記憶が戻るなんてことないってわかってたってことだろう。
俺は急に怖くなった。
本当にバルさんは信じていい人なのかな、って。
ニコニコ笑って、大変だったねって、心配してくれてたんじゃなかったのか。
怖い。
俺は見なかったことにするしか選択肢が思い浮かばなかった。
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