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10. 「誰に教わった?」

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 バル殿下に手を引かれて、俺は何か豪華な金縁のついた扉を開けた。
 こんな豪華な扉の中が、トイレだなんて思わないって。俺一人だったら絶対にスルーしていたと思う。

「ここだ」

 バル殿下はトイレの中に俺を引き連れて入る。
 案内してくれたらそれで良かったんだが、そのまま一緒に中まで入ってきた。

「使い方はわかるか?」

 あ、お気づかいだったんですね。どうもありがとうございますと思いつつ、俺は腕をぐっと突っぱった。

「わかりますから、ちょっと、手を離してもらえます?」

「あ」

 完全に無意識だったらしい。バル殿下はバッと手を離して、俺から微妙に距離を取った。

「いやー、我慢の限界だったんですよー。あの人に呼び止められてもう駄目かと思いました」

 何か話してないと間がもたなくて、俺はベラベラと喋りながら、最初はどうしていいかわからなかったトイレで小用を足す。
 最初は、肉屋でバルさんに「トイレ貸してください」って言って案内されたトイレに、何か太めの鉄パイプみたいなのが設置されてるの見た時どうしようかと思った。絶対無理って思ってたけど、慣れれば平気だ。
 間に合ったことにホッとしていると、バル殿下が「誰に教わった?」と言った。
 どういう意味かわかりかねて、まだいたのかという気持ちも込めてバル殿下を見返すと、「異世界ではトイレの仕方が違うと、文献で読んだ」と言うので、やり方がわからないと知っていたから気づかってくれたのだと気づく。
 と同時に、呼び寄せたらそういう違いがあると知っていながらそういうことを見て見ぬ振りして呼び寄せられたことに、何だか無性に腹が立った。

「別に誰に教わってもいいでしょう」

 イライラが言葉にも乗ってしまった。バル殿下が近づいてくる。

「触らせたのか?」

 ちょっとバル殿下が何を言ってるかわからない。
 ああ、トイレのやり方教わった時にってこと?
 何だろう、俺バルさんに子ども扱いされてたからな。子どもに教えるみたいに教えられたけど……触るって……何だその言い方。



 最初に太めの鉄パイプみたいなトイレに案内された時、俺はめちゃめちゃ動揺した。

「どこに、どうやってするの? これぇ?!」

 俺の叫びを聞いたバルさんがトイレの中に入ってきて、「どうした?」と不思議そうに言うから、俺はオロオロとバルさんと鉄パイプみたいなやつを交互に見た。

「もしかして、やり方もわからないのか……」

 バルさんはガクリと肩を落とすと、俺の身体の後ろから手を回して、俺の手を支えた。

「ここに、こう……でそう……はい、大丈夫」

 俺のポーズを整えて、バルさんは「はい、シー」と小さい子に声をかけるように言った。

「それは、やめて……」

 俺はバルさんに見守られてめちゃくちゃ恥ずかしい中、初めて用を足したのだった。
 大きい方の時は、もっと無理って思ったけど、何とかなったし、そういえば、その後ドラゴン肉でお腹を壊したんだった。



 俺がこちらの世界での初めてのトイレのことを思い出していたら、バル殿下は凄く渋い顔になったので、俺は「じゃあ、俺は部屋に戻りますね」と言って、廊下に戻った。
 同じ扉が多すぎる。
 俺が、しれっと廊下を歩いていこうとしたら、バル殿下が「反対だぞ」と言って、俺の腕を取った。
 また俺はバル殿下に腕を引かれて歩くことになった。
 バル殿下は何も言わずに俺の腕を引いていく。
 俺も、特に話すこともなかったので黙っていた。
 部屋について、俺は何となく部屋とトイレの位置は把握したので行き来できそうだなと安心した。

「食事の時に迎えに来る」

 バル殿下は部屋の前でそう言った。

「何か好きな食べ物はあるか」

 聞かれた俺は、心の中で「味噌汁っつったら味噌汁出すのかよ」とちょっと思ったが、さすがに言うのははばかられて、「グリフォンのテールスープが好きです」と言った。バル殿下はちょっと目を見開いた。多分思っていた答えと違ったんだろう。

「俺も好きだ」

 ボソリと言うと、バル殿下は去って行った。
 グリフォンのテールスープ美味しいよな。
 聞いたってことは出してもらえるんだろうか。
 食事が楽しみになってきた。


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