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14. 「この国の幸せってなんだと思います?」

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 ドルは笑って、俺の真似をして人差し指を立てたので、俺は頷いた。

「こっちの世界でも『静かに』とか『内緒』みたいな時はこれで合ってるか?」

 俺が聞くと、ドルは首を傾げて「そういう状況を経験したことがないのでわかりませんね」と言った。
 あ、そうか。ドル静かそうだし、口も固そうだから、そもそもそういうこと言われないのか。……じゃないような気もするけど、まあ、伝わっているようだからいいか。

「ちょっと庭園に出ませんか?」

 ドルは俺の方に手を差し伸べた。最初にグリフォンが降り立ったのが庭園だったから、あそこなら迎えに来てもらいやすいのかも知れない。一度見ておきたいと思ったので頷いた。

「モリトは………」

 柔らかい絨毯の廊下を歩きながら、ドルは俺に声をかけて、一瞬言いよどんだ。

「何だよ」

 ドルは、開けていた口をキュッと閉じて、それから続けた。

「この国の幸せってなんだと思います?」

「そりゃ平和に暮らせることだろ?」

 俺の中の国の幸せのイメージは、国民が幸せだなーこの国に産まれてよかったなーって思うようなイメージだ。

「衣食住が揃ってたら、安心して暮らせるし、日常がしっかりしてたら精神的にもゆとりができて、そしたら風呂入っただけでも、ご飯食べただけでも『あー、幸せだなー』ってなるかなーって」

 どこだったっけ、幸せの国って呼ばれてたところあったな。あそこの国王様の夫婦仲良さそうなのとか、「いいなー」って。

 ――――って、そういうこと?!

 俺は急に、なぜ俺が呼ばれてバル殿下の相手と言われたのか雷に打たれたかのように悟った。
 そういうこと??
 ……そんな、そんなことのために俺呼ばれたの?
 いや、そんなことじゃないかも知れないけど、わざわざ異世界から呼ばないと国の幸せにならないわけないじゃん。
 それにこんな一方的に呼ばれて、仲良くなれるはずが……それが、作り変えられるってことなのか。
 俺が白線から逸れなかったら、俺は作り変えられて、全く違うものになって、こっちに来てニコニコ笑ってバル殿下と結婚して子を産んだってことか。
 急にホラー感出てきた。
 ていうか、それはもはや俺ではない。

「大丈夫ですか。急に顔色が……」

 ドルが心配してくれたが、俺はその場から動けなかった。
 本当に、城に来たのは俺の間違いだったのではないか。

「大丈夫。これは自業自得だから」

 ドルはキョトンとした。

「自分の行いが自分の運命を決めた、みたいなこと」

 ドルはまばたきをした。花に似たきれいな目が俺を見つめる。

「だとしても、それを全部自分で受け止めなくてもいいと思います」

 俺は「えっ」とドルを見返した。

「昔、俺に兄が言ってくれたことですけど」

「バル殿下が?」

 俺はあの渋面でそれを言ったバル殿下を想像した。

「私もそう思います」

 ドルの真摯な目が、俺を見つめる。

「ありがとう」

 俺の頬はいつの間にか濡れていた。
 そっと、ドルが俺の背中をさすってくれた。

「いいんですよ、一人で背負わなくて」

 ドルの声が柔らかくて、俺は目を閉じた。
 そして、目を開けると、俺の決意はかたまった。

「ありがとう。最後に庭園を見せてくれ」

 俺はドルに笑いかけた。

「最後にって……ふふ……」

 ドルも笑って俺の背中を支えながら、庭園にエスコートしてくれた。凄い。初めてエスコートされた。何もかもが笑えてきて、俺はドルと笑いながら庭園を進んだ。

「なあ、ドル。俺もお前のお母さんの好きな花好きだよ。ドルの目みたいにきれいだもんな」

 ドルは目を瞬かせた。

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