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21. 「まかせろ」
しおりを挟む妖精の目は対になっているというのは、両目ということだろうか。
想像したらめちゃめちゃホラーで、宝石にしても石にしても、ネーミングセンス悪いし、本当の妖精の目なのだとしたら、そんなに願いごと叶うなら確実に乱獲されるな……と俺は複雑な気持ちになった。
その上、俺のイメージする羽の生えためちゃくちゃ可愛い妖精さんから目をくり抜くバルさんを想像してしまい、妖精さんにもバルさんにもとても申し訳ない気持ちになった。
というか、抱え直された俺はお姫様抱っこをされているという事実に何だかいたたまれず、身を小さくする。
「それを使うつもりか? 彼を元の世界に返すのか? そしてお前も?」
バル殿下の唇が震えていた。
俺は、頭がついていかなかった。
「む、無理だよ! バルさんは向こうでは肉屋できないと思うし……」
俺は慌てて言った。
だって向こうにはバルさんの戸籍はない。
「ふむ、とりあえず座ろう。落ち着け」
バル殿下がバルさんの肩を叩いて俺を降ろさせる。バル殿下は、衣装部屋を出るように俺たちを促した。バルさんは未だにバル殿下を警戒するように俺とバル殿下の間に入り、三人で衣装部屋を出た。
狭くないけど、狭いところで何やってたんだろうと我に返った。
酸欠になって思考がおかしくなっていたんじゃないかなと思いながら、バル殿下の首のスカーフを見た。何か普通に似合っている。やっぱり殿下は高貴な人なのだなと思う。
そして、バルさんはたくましい。
よく見ると似ているかなーくらいしか、二人は似ていない。昔はもっと似ていたのかと思ったら何だか口もとが緩んだ。
バル殿下は、どっしりと長椅子に腰かける。バルさんはその向かいの独りがけに座った。
俺は、何だか座りにくく、立ち尽くしていた。すると、バルさんが俺を引き寄せて膝に乗せる。
「俺5歳じゃないから」
俺が言うと、バルさんは俺のまぶたにキスを落として、「5歳じゃないのはわかってるよ」と言った。バルさんも酸欠なのかもしれない。
バル殿下が向こう側で顔をしかめた。俺はどうしたらいいかわからず小さくなった。
「そんなんじゃおちおち話もできないだろう?」
バル殿下が難しい顔をして長椅子の空いているところを叩いたが、バルさんが俺をガシッとつかんで首を振る。
「……それで? お前はどうしたいんだ?」
バル殿下は俺を見て言う。俺は考えた。バルさんと向こうに行くのは、現実的じゃない気がする。
「俺は、バルさんと、一緒にいたい。バルさんと、ここで肉屋をしたい。そのためには……」
俺は言いよどんだ。それで正解かわからない。
「そのためには……?」
バル殿下は俺が言いたいことをわかっているみたいに、続きをうながしてくる。バルさんは俺を抱えたまま、ニコニコしている。
バルさんは、きっと俺の答えがどんな答えでも、俺の言うことを受け入れてくれる気がする。
「そのためには、この国の人たちに全部忘れてもらう」
俺が導き出した答えは、それだった。
「妖精の目が願いを叶えてくれるなら、それでみんなにこんなこと忘れても幸せになれるように考えて欲しい。それで、次の王様はバル殿下じゃないとダメだと思う。ただ、ずっと言いたかったけどさ……人のことお前とか言っちゃダメだよ」
バル殿下は、俺の言葉にキュッと眉を寄せて「気をつける」と言った。
「ただその前に、一度ドルには会いたかったけど……」
俺は言いよどんだ。忘れてもらうつもりなのにわざわざ会って話をする算段をつけてもらおうなんて言っていいものか。二人は今すぐにでもこの件を片付けてしまいたいに違いない。
「……今日は一旦引くが、モリトに何かあったら、この国を妖精の目を使って滅ぼす」
バルさんは物騒なことを言った。
「モリトの部屋には人払いをするから、このままいてもらってもいいぞ」
バル殿下は去ろうとするバルさんにそう言う。バル殿下に似た賊が入り込んだって話はバルさんがいたら誤魔化せないのではないか。
「絶対に誰も近寄らないようにする。約束する」
バル殿下は、なぜか決死の表情に見える顔で俺を見て「まかせろ」とうなずいた。
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