21 / 25
21. 「まかせろ」
しおりを挟む妖精の目は対になっているというのは、両目ということだろうか。
想像したらめちゃめちゃホラーで、宝石にしても石にしても、ネーミングセンス悪いし、本当の妖精の目なのだとしたら、そんなに願いごと叶うなら確実に乱獲されるな……と俺は複雑な気持ちになった。
その上、俺のイメージする羽の生えためちゃくちゃ可愛い妖精さんから目をくり抜くバルさんを想像してしまい、妖精さんにもバルさんにもとても申し訳ない気持ちになった。
というか、抱え直された俺はお姫様抱っこをされているという事実に何だかいたたまれず、身を小さくする。
「それを使うつもりか? 彼を元の世界に返すのか? そしてお前も?」
バル殿下の唇が震えていた。
俺は、頭がついていかなかった。
「む、無理だよ! バルさんは向こうでは肉屋できないと思うし……」
俺は慌てて言った。
だって向こうにはバルさんの戸籍はない。
「ふむ、とりあえず座ろう。落ち着け」
バル殿下がバルさんの肩を叩いて俺を降ろさせる。バル殿下は、衣装部屋を出るように俺たちを促した。バルさんは未だにバル殿下を警戒するように俺とバル殿下の間に入り、三人で衣装部屋を出た。
狭くないけど、狭いところで何やってたんだろうと我に返った。
酸欠になって思考がおかしくなっていたんじゃないかなと思いながら、バル殿下の首のスカーフを見た。何か普通に似合っている。やっぱり殿下は高貴な人なのだなと思う。
そして、バルさんはたくましい。
よく見ると似ているかなーくらいしか、二人は似ていない。昔はもっと似ていたのかと思ったら何だか口もとが緩んだ。
バル殿下は、どっしりと長椅子に腰かける。バルさんはその向かいの独りがけに座った。
俺は、何だか座りにくく、立ち尽くしていた。すると、バルさんが俺を引き寄せて膝に乗せる。
「俺5歳じゃないから」
俺が言うと、バルさんは俺のまぶたにキスを落として、「5歳じゃないのはわかってるよ」と言った。バルさんも酸欠なのかもしれない。
バル殿下が向こう側で顔をしかめた。俺はどうしたらいいかわからず小さくなった。
「そんなんじゃおちおち話もできないだろう?」
バル殿下が難しい顔をして長椅子の空いているところを叩いたが、バルさんが俺をガシッとつかんで首を振る。
「……それで? お前はどうしたいんだ?」
バル殿下は俺を見て言う。俺は考えた。バルさんと向こうに行くのは、現実的じゃない気がする。
「俺は、バルさんと、一緒にいたい。バルさんと、ここで肉屋をしたい。そのためには……」
俺は言いよどんだ。それで正解かわからない。
「そのためには……?」
バル殿下は俺が言いたいことをわかっているみたいに、続きをうながしてくる。バルさんは俺を抱えたまま、ニコニコしている。
バルさんは、きっと俺の答えがどんな答えでも、俺の言うことを受け入れてくれる気がする。
「そのためには、この国の人たちに全部忘れてもらう」
俺が導き出した答えは、それだった。
「妖精の目が願いを叶えてくれるなら、それでみんなにこんなこと忘れても幸せになれるように考えて欲しい。それで、次の王様はバル殿下じゃないとダメだと思う。ただ、ずっと言いたかったけどさ……人のことお前とか言っちゃダメだよ」
バル殿下は、俺の言葉にキュッと眉を寄せて「気をつける」と言った。
「ただその前に、一度ドルには会いたかったけど……」
俺は言いよどんだ。忘れてもらうつもりなのにわざわざ会って話をする算段をつけてもらおうなんて言っていいものか。二人は今すぐにでもこの件を片付けてしまいたいに違いない。
「……今日は一旦引くが、モリトに何かあったら、この国を妖精の目を使って滅ぼす」
バルさんは物騒なことを言った。
「モリトの部屋には人払いをするから、このままいてもらってもいいぞ」
バル殿下は去ろうとするバルさんにそう言う。バル殿下に似た賊が入り込んだって話はバルさんがいたら誤魔化せないのではないか。
「絶対に誰も近寄らないようにする。約束する」
バル殿下は、なぜか決死の表情に見える顔で俺を見て「まかせろ」とうなずいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる