20 / 25
20. 「もう今は、そこまで似ていない」
しおりを挟む何だっけ。
小さい頃読んだ絵本にこういうのあったような、と俺はバルさんとバル殿下が向かい合っているのをぼおっと見つめていた。
そうだ、『王子とこじき』だ。
王子と乞食が服を交換して、お互いの生活をするんだっけ。
児童向けの本の表紙が、今まさに目の前の光景と似たような感じだった。
結局あの話は、どうなるんだっけ。
ぼおっと見ていた俺は、バル殿下の首から流れる血にハッとした。
タオル、と思って、周りを見ると、スカーフみたいなのがあったから、バル殿下に近づいて首に結ぶ。すると、バル殿下が、フッと笑った。俺が「おっ」と思っていると、後ろからバルさんが、俺の腰を腕で引き寄せた。
ビックリして声が出る。
「……俺が見逃しても、捜されるぞ。異世界人はこの国にとって大事なものだからな」
そうバルさんにバル殿下は何だか得意気に言った。バルさんと会ってから何だかバル殿下は生き生きしている気がする。
「お前が俺になればいい」
バル殿下が、なおもバルさんに言う。俺はバルさんの腕の中でドキッとした。バルさんは俺を抱えている腕に力を入れた。
「もう今は、そこまで似ていない」
バルさんが言う。俺も一瞬混乱したから、バルさんの言葉に首を傾げた。
「俺を殿下に仕立て上げて、殿下はどうなさるおつもりですか?」
バルさんの低い声が響く。
「ふむ。お前は肉屋だったな。肉屋も面白そうだな。そうだ。俺とお前が入れ替わるだけだ。俺が肉屋をする」
バル殿下はフワッと笑って、俺を見る。
「たまに遊びにきてくれ」
俺は、唐突にバル殿下が肉屋をする宣言をするのを呆けてみていた。
「グリフォンの肉を用意しよう」
バル殿下は言う。
「バル殿下はグリフォンを捌けるんですか?」
俺は思わず聞いてしまう。バル殿下は「やったことはないがやってみよう」と答えた。
余りにも冗談が過ぎる。
俺はバルさんを見上げた。
バルさんが、俺の身体を抱き上げ、肩に抱えた。
「捕まえられるなら捕まえてみろ。だが、俺はモリトを連れて逃げるだけだ」
バル殿下は、バルさんの前に立ち塞がった。
「だが、逃げたら追われる!」
止めるバル殿下に、バルさんは不敵に笑った。
「追ってこられないところに逃げるんだ」
バルさんは自信がありそうだった。俺はそんなところがあるとは思えなかった。王や周囲の人たちの執着を考えたらめちゃめちゃ無理がある。どこまででも追ってきそうだ。
「一体どこに……」
バルさんが握っていた手のひらを開き、その中のハンカチを広げると、そこにオパールみたいに輝く丸い石のようなものがあった。
「……それは……本当にあったのか??」
バル殿下が息を飲んだ。俺にはきれいな石にしか見えないけど、何かの特別なアイテムなんだろうか。
「これがあれば彼が元の世界に戻ることができる。こちらの干渉も受けなくなるはずだ」
バルさんが言ったその言葉に俺は驚いた。帰れないんじゃなかったのか。めちゃくちゃチートな魔法のアイテムみたいな効能じゃないか。そんなものがあるなんて、誰も言わなかった。
「えっ? どういうこと?? 俺の帰る方法なんてないんじゃ……」
動揺してしまい、バルさんの肩に抱えられたまま俺はバルさんの顔を見ようと身体を捻った。バルさんの腕にグッと力が入り、体勢を変えようとしたのに抱え直された。
「これは願いを叶える妖精の目という石だ。これを使えば多分モリトは帰ることができる」
目なのか石なのかはっきりしないそれを、バルさんは胸元にしまった。
「……バルさん……」
バル殿下は深く長いため息をついた。
「それでいいのか? お前はどうするんだ?」
俺の位置からは、バルさんの顔は見えなかった。
「バルさん、俺……帰りたいって思ってたけど、バルさんのいないところに行くの嫌だよ」
俺は恐る恐る口にした。抱えてくれているバルさんの肩が震えて、俺は確信した。バルさんは俺を元の世界に帰したら、その後その責任を取るのだ。
俺の不安を感じ取ったのか、バルさんは「大丈夫だ」と言って、俺を抱え直した。
「妖精の目は対になっている」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる