アイドルは恋愛禁止だけどグループ内恋愛は可能らしい。

松本カナエ

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2. 振り入れ


 メンズ地下アイドルだった頃のBaTiTは、最初はコンセプトを、「BADでぴえんな俺たち」ってことで、悪ぶってるけど心はピュアみたいな演出で他のアイドルと差別化しようとしていた。
 正直言ってダサいと思ったが、胡散臭いおやじが俺たちを集めて「俺は昔かわいい系のアイドルをやっていたから君たちの輝きはよくわかっているよ」とプロデューサー気取りで言ったから、俺たちはBaTiTを結成した。
 全部その謎のプロデューサーおやじが決定していた。
 週に1回、ライブと握手会をやって、グッズの手売りをして、ちょっとずつ地道にファンを増やしていたある日、自称プロデューサーおやじが売り上げを持って姿を消した。
 ライブの予定は決まっていたものの、支払いなどが滞り、もう無理かと思った時に、ファンの子たちがカンパしてくれて「やめないで!」って言ってくれたから、続けられた。

 このことで、ファンとの距離が近くなったことが、後に俺が刺された原因だったのかも知れない。

 俺たちを支えてくれたファンを俺たちは大事にしたし、ファンも俺たちを支えたことで、俺たちのプロデューサーになったような気分でいたのかも知れない。

 チェキのポーズの要求が過激になったり、手渡し会のプレゼントが手紙から高級ブランドのものに変わったり、俺はファンのために頑張らなきゃって応援をありがたく思っていた。



 あの日は、ファンのお見送りが終わって、出待ちがだいぶいるということで、裏口から2回に分かれて出るということになったはずだ。先に2人が出た後、「裏口から出たらしい」と目撃情報が出回り、裏口にファンが移動したため、俺ともう1人は入り口に車を回してもらい、飛び乗った。

 そして、俺が家で車を降りた時、「待ってた」と声がして、衝撃を受けた。誰かがぶつかってきたと思ったら、腹に何か刺さっていた。ぶつかってきた相手を見ると、毎回俺の列に並ぶファンだった。

 ファン??
 ファンじゃなかったの??

 ──俺はよくわからないまま、多分死んだ。

 俺は、ファンが怖い。
 向けてくる熱さが怖い。
 そんな俺がまたアイドルをやる?
 無理だ。

 公開オーディションで優勝して以来、俺の頭の中では、「今度はうまくやる」と「無理だ」が交互に押し寄せていた。

 頭の中ではわかっていた。
 もう始まってしまっている、と。

 鏡の中には俺とは似ても似つかない爽やかそうな好青年、有斗がいる。
 歌の練習用のデモには、篠田一好のパートはもちろんなかった。
 俺のパートはシャッフルされて、新しい俺のパートができていた。全部が新しい曲ではなかったが、多分振り付けも変わっているんだろう。
 もやもやした気持ちを抱えたまま、振り入れの日を迎えた。シャインタのダンススタジオは大きくて、俺は榊原さんの厚意に甘えて何度か練習に使わせてもらったことがあったが、キョロキョロしてしまった。

「こっちだよ!」

 ニコニコして手を振ってくれたのは、この間紹介されたマネージャーの来島くるしまさんだった。

「有斗くん、緊張してない? リラックスだよ!」

 来島さんがふわっと笑うと周りの空気がやわらかくなった気がした。

「おはようございます。よろしくお願いします」

 俺は挨拶をして、来島さんの後に続く。
 スタジオのドアを開けると、他の3人がいた。今日はラフな格好でストレッチなどをしていたが、俺を見ると、吉岡が「えー、新人なのに一番最後に来るとか超余裕じゃん」と言い出した。
 こっちは言われた通りの時間に来ただけなのだが。

「おはようございます」

 俺は挨拶をすると、吉岡の言ったことが聞こえなかったかのように、準備を始めた。時間ももったいないし。
 とりあえずひと通り練習を見ているように指示を出される。だろうな。いきなりわけのわからないまま無理矢理入れられてもぶつかったりして怪我の元になるだけだ。
 見ていると基本的には左右に2人ずつ立ってシンメトリーな動きが多く、変則的な動きは歌うメンバーだけが前に出るようなものしかない。ちょっとホッとした。
 俺のいた頃のままの振り付けの曲もあれば、変わっているものもある。気をつけないと前の振りを踊ってしまいそうだなとちょっと気を引き締める。
 シューズの紐を締め直し、絶対に解けないようにすると、俺は立ち上がった。

「じゃあ、有斗くんはそこに入って」

 言われて、3人のフォーメーションの中に入ると、俺が入ったことで完成したフォーメーションがしっくり来て、俺は自然に笑顔になる。
 曲がかかってステップを踏みはじめると、周りのスタッフが息を飲んだ。
 覚えているところがあったお陰で、覚えなきゃいけない部分は少なかったし、シンメトリーに開いていく動きが多いから、覚えやすかった。

「……完璧じゃん……」

 清島がつぶやく。
 鏡の中で川内だけが眉間にしわを寄せていた。
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