春の天使に逢いに行こう。

月兎もえ

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コロコロ。
静まり返った部屋に、マウスのスクロールの音が響いた。

不気味な程明るいディスプレイを虚な目で眺める。

『初心者歓迎!』『資格不要!』『アットホームな職場です!』『残業少なめ!』聞こえはいいけれど、私は知っている。
『でも優先するのは経験者!』『同じ仕事内容だけど、給料低いよ!』『あんまり職員いないから、人間関係気をつけて!』『終わらなかったらお家でよろしく!それか、お金はだせないけど頑張ってね!』・・・と変換もできるのだ。

仕事を辞めて一年。最初は嬉しかった。明日から早起きしなくて良い。仕事に行かなくても良い。職場の人と顔を合わせなくても良い。全てから解放された気持ちだった。でもそんなウキウキした気持ちは最初の一週間だけ。その後にじわじわと来たのは焦り。中々条件の合う求人が見つからない。気になったのがあっても、電話する勇気がでなくて、「明日しよう」「あさってしよう」と思って、結局期限がきれてしまう。
やっとのこと行けた面接も、緊張で上手く話せないし、何より『仕事を辞めた理由』を聞かれるたびに気が滅入る。何で皆んな辞めた理由ばかり聞くのだろうか?楽しくて辞める人なんていない。他にやりたいことがあったり、結婚とか、引っ越しとか、それぞれだけれど、そういったことがないなら、何か話したくないことがあって辞めることがほとんどだと思う。でも、皆んなこっちの思いとは反対に、気軽に聞く。「何で辞めたの?」と。
まあ、会社にとってはすぐに辞められても困るから、しょうがないにしても、人間関係とか、給料のこととか、正直に話す人って、そんなにいないと思う。「家から近い所にしたい。」「新しいことに挑戦したい。」とか、嘘にならない理由を探して言うんじゃないだろうか?だったら聞く意味って??と思ってしまう。

「もうやだぁ・・」実家に帰ってしまおうか。と、思った時もあった。でも帰ったら帰ったらで結婚を急かされるのが目に見えている。この間の電話でも、「もう従兄弟の香織ちゃんも、里花ちゃんも結婚したのよ。あなたもそろそろ見つけないと!」母はそればかり。心配してくれているのはわかっている。でも、その優しさとは反対に、心にズシっと重りがかかる。
仕事も、結婚相手も、友達も、これといった特技もない私ってなんだろう。
もう、希望がない。今後生きていても、意味がない。生きたくない。消えたい。
目の前の求人広告が滲んでいき、涙がこぼれ落ちた。ダメだ。就職のことを考えると結局いつも無限ループ。涙を拭って顔を上げ、ディスプレイを見ると、ある広告に目が止まった。

生きるのが辛いあなたへ。
『LifeDonate』
あなたの寿命、寄付しませんか?
寄付していただいた方には、天使を派遣させていただきます。


もうどうでもいいや。私なんかの命でも、誰かの役になれるなら、無駄に生きるよりずっといい。心の片隅で、ちょっと怪しいなっと思いながらも、私は『寄付する』のボタンをダブルクリックした。
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