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2日目
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朝8時。目覚ましが鳴った。今日はハルと10時に約束している。まだ何をするか、どこに行くかは聞いていないけれど、とりあえず外に出れる格好で待っていてと言われた。
私はとりあえず顔を洗って、無難なベージュのパーカーにジーパンという格好に着替えた。化粧は薄く、ベースと眉毛のみ。鏡に映った自分にため息をつく。元々美人とは言えない顔立ちをしている上、確実に老けた。目元のシワやクマが気になるようになってきた。見ていると悲しくなってくるので、気を取り直してキッチンへ向かった。ヨーグルトにハルが昨日置いていってくれたジャムをかけて食べた。コーヒーを一口飲むと少しほっとした。
歯を磨き、ハルを待っている間、いつも通りテレビをつけながら、ふと、掃除でもしようかな?と思いたった。そして、カーテンを開け、閉めっぱなしが習慣になってたけど、これからは開けておこうかな?と思いながら掃除機をかけた。
掃除を始めると、思いの外楽しくて、床を拭いたり、テレビの埃をとったりと、ここも、ここもと気になった所をあちこち掃除した。気づくともう9時30をまわっていて、また後でやろうと思い、ハルを待った。
ピンポン
インターホンがなる。ハルだ。
ドアを開けると、「おはよう。」とハルが笑った。
「あれ?部屋、昨日より綺麗になってる?」さすが天使。よく気づく。
「そう、急にやりたくなっちゃって。」
ハルはうんうん。と、嬉しそうに頷いた。
「カーテンも開けたんだね。いいね。」
「ありがとう。」私はちょっと照れ臭くなった。
「じゃあ、行こうか。」ハルはそう言って歩き出した。私もハルの横を歩く。
「着いたよ。」
ハルが足を止めたのは、美容院だった。カフェのような雰囲気のオシャレな外観で、よく磨かれたガラスの向こうにはお客さんやスタッフが何人かいた。
「髪切るの?」誰が?私?ハル?
「うん。知り合いのお店なんだ。入って。」
ドアが開くとカランカランと音がした。お店の中は、落ち着いたピアノの音楽が静かに響き、整髪料の甘い匂いがした。
「あら!ハル!いらっしゃい。その子ね!」ハルに声をかけてきたのは背が高く、金髪の翠色の目をした、まるで本物の王子様のような男性だった。
「まっていたわ。美姫ちゃんね!名前の通り可愛い目をしているのね!」男性は可愛い話し方と仕草で私に話しかけた。
「じゃあマコトさん、よろしく。美姫、自分はそこで待ってるから、楽しんでね。何かあったら言ってね。」そう言ってハルはスタスタと歩いてソファーに向かった。柔らかそうなソファーに座ると手をひらひらさせて微笑んだ。
楽しんでって、美容院でどう楽しめばいいのだろうか。そもそも美容院って苦手なんだよね。
「さぁ美姫ちゃん、ここに座って!始めるわよ。」マコトさんはそう言って私にケープと膝掛けをかけてくれた。
「どうなりたいとか、あるかしら?」
「特にはないです。おまかせします。」
「そう。わかったわ!おまかせね!任せて!」マコトさんはガッツポーズをして小首をかしげた。かわいい。
霧吹きで髪を濡らす。私の髪、こんなに長かったんだ。
「美姫ちゃんの髪、真っ黒で綺麗ね!黒もいいわね!」
そうだろうか?
「マコトさんの髪こそ、金色で、外国人みたいな、お人形さんみたいな感じで綺麗ですね。」マコトさんはとても嬉しそうな顔をした。
「ありがとう!私ね、お人形さんみたいになりたいのよ。あっ!これくらい短くして、コテで巻こうと思うんだけど良いかしら?」
マコトさんは私の髪をもちあげ、鏡ごしに私に聞いた。肩の少し下まで切るみたいだ。
「よろしくお願いします。」マコトさんはハサミを入れ始めた。さっきまで話していた顔とまた違って、真剣な顔をしていた。切られた髪がパサパサと落ちていく。
「美姫ちゃんは何色が好き?」マコトさんは突然聞いた。
「私は、特にないです。」
「またまた、本当はあるでしょ?ちなみに私はピンクよ!」マコトさんがウインクした。
「マコトさんなら似合いますね。」
「あら、ありがとう。でもね、私がピンクが似合うのは、似合わせているからよ。」
「どうゆうことですか?」
「もともとはあんまり似合わない感じだったのよ。でもね、お化粧で肌トーン上げたり、ピンクにもいろいろあって、似合うピンクを見つけたり、色に合わせて自分を変えていってみたの。」
色に合わせる。そんな変え方があるんだ。
「じゃあ仕草とか話し方も色に合わせてるんですか?」
マコトさんはキョトンとした。そして、くすくす笑った。
「美姫ちゃんって意外とストレートね。」どうしよう。まずいことを言ってしまったのかな?私の動揺に気づいたのか、マコトさんは「大丈夫よ。」と、肩をたたいてくれた。
「私はハッキリ言ってくれる方が好きよ。どう?私って、ピンクが似合ってかわいいでしょ?」マコトさんは手を腰にして私を見つめた。自信にあふれ、そして優しい目をしていた。私は少し安心して正直に言った。
「はい。とってもかわいいです。」マコトさんは嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう。」
綺麗に整えられた髪をアイロンで巻く。
「今は私って超絶かわいいけど、昔は自分の顔、嫌いだったのよ。」
「えっマコトさんが?こんなに綺麗なのに?」マコトさんはまた嬉しそうにして「ありがとう」と言った。
「昔はもっとね、男っぽかったのよ。男っぽい自分が嫌でね。でもね、ある人にピンクのマフラーをもらったの。「マコトに似合う色だから」って。コーラルピンクの綺麗なマフラー。そこでね、ピンッときたの。あぁ、私にも似合うかわいいがあるんだって!」マコトさんは目をキラキラさせて言った。「それで私の似合う可愛いを見つけていったら、いつのまにか可愛い私になっちゃったの♪」ふふふっとマコトさんは楽しそうに笑った。
「素敵ですね。たくさん、頑張ったんですね。」マコトさんはすごい。目指す自分をもう見つけて叶えたんだ。きっと、すごく、すごく大変だったんだろうな。
「ありがとう。美姫ちゃんは優しいわね。」また私を優しいと言ってくれる人がいた。
「そんなこと。」
「そんなこと、なくないわ。大抵の人はこの話をすると、元がいいからねっとか言うのよ。もう、今の私になるために、どれだけ努力したと、思ってるの~!って感じよね!まぁ、それだけ今が可愛いってことかしら?」「あら、いい感じっ」と前髪を巻く。
「でもやっぱり、がんばったことを認めてくれるのって、嬉しいわよね。美姫ちゃん、ありがとうね。」
「いえ、そんな。思ったことを言っただけで・・」私は少しうろたえる。
「そこは、どういたしまして。でいいのよ。私のありがとうを受け取ってちょうだいな!」マコトさんは私の両肩をポンと叩いた。「よし!できたわ!」
「かわいい・・」細かいウェーブで。アイロンでまきましたっという感じではなく、自然な感じのふわふわな雰囲気の仕上がりになっていた。
「でしょ。髪型一つで変わるのよ。」こんな髪型は初めてだ。昔は、やってみたいと思っていたが、どうせ似合わないと思い、諦めていた。
「さてさて、じゃあ次はメイクね!」
「メイクもしてくれるんですか?」
「もちろん!だって、可愛い髪型になったら、今よりもっと可愛くなりたくない?」
なりたい。この髪型に似合う顔にしてほしい。
「なりたいです。お願いします。」
「もちろん!で、もう一度聞くけど、美姫ちゃんの好きな色は?」
私の好きな色。本当は好きだった色。
「私もピンクが好きなんです。」
やっぱり!とマコトさんは言った。
「最初見た時からそうだと思ったのよ。任せて!美姫ちゃんに似合うピンクメイクをしてあげる!テーマは妖精よ~!」
マコトさんは嬉しそうにメイクをし始めた。
「さぁ!完成!」鏡で見た私に驚いた。本当にこれが私だろうか。
「可愛いでしょ!美姫ちゃんは淡い少し青みがかったピンクね!」
チークとシャドウはマコトさんの言う通り、桜色のような薄いピンクで、リップはそれよりも少し濃く、つやつやと輝いていた。目元のもピンク色のラメがキラキラと輝いていた。
「自分じゃないみたい。マコトさん、ありがとうございます。」
マコトさんは嬉しそうに頷いた。
「どういたしまして。でもね、美姫ちゃん。私は美姫ちゃんに魔法をかけただけ。シンデレラが魔法をかけてもらえたのは優しくて勇気があって、いい子だったから。美姫ちゃんも勇気を出して好きな色を教えてくれたでしょ?だから、美姫ちゃんのおかげでもあるんだよ。」
どうゆうことだろうか?でも、少しわかる気もする。
「自分にも、感謝しなきゃね。」
マコトさんはそう言うと、ハルを呼んできてくれた。
私を見たハルはすごく喜んでくれた。
「すごくかわいいよ!」
「ありがとう。」普段なら、そんなことないっと、すぐに否定するけど、自然とありがとうの言葉がでてきた。
そして、マコトさんにお礼を言って店を出た。「また来てね~!」と言って可愛く手を振ってくれた。
「これからどこに行くの?」ちょっと弾んだ声で私は言った。
「んールミネとパルコどっちがいい?」
「お買い物するの?うーん、ハルはどっち?」
ハルはゆっくりと首を振る。
「美姫が選ばなきゃ。」どちらかというと、
「パルコがいいかな。ハルは大丈夫?」
ハルは笑った。
「ちゃんと選べたね。えらいえらい。もちろん!美姫が選んだ方なら歓迎だよ!」
駅に向かうにつれ、人が多くなってくる。人混みは苦手だ。一人一人のイライラだとか、せわしない感情とかが、流れ込んでくるみたいで気分が重くなる。
そんなことを考えていると、ハルが自分が被っている黒いキャップ帽をふんわりと被せてくれた。「おまもり。」そう言ってまた歩きだした。
帽子を被ったら、不思議と周りの人の感情が気にならなくなった。ハルは何でもお見通し。この天使は何者なんだろう。
レディースファッションのフロアについくなりハルが突然言った。
「さぁ、ここで美姫にミッション!美姫が着たい服を選んで!」どうぞ、と手を動かす。また、唐突な。でも、確かにこの髪型とこの服に合う服が欲しいかも。
「わかった。」私は興味のあるお店を一件一件回った。いつもは入りたいけど、入れなかったお店も入ることができた。ハルがいたから、ということもあるけれど。
どのお店も秋物で、温かみのあるカラー
が多かった。マコトさんの教えてくれた私に似合うピンクの服はなかなか見つからない。そう思いながらも、これかわいい。この形綺麗とか、どんどん目移りしていく。そんな私をみて、ハルは優しい眼差しで見守ってくれていた。
「あっ・・!」かわいい。これだっと思った。
「見つけた?」ハルは私の目線の先に目を向けた。
「かわいいね。美姫に似合いそう。」
それはラベンダーカラーのカーディガンだった。ボタンはキラキラのビジューが付いていて、襟元には薄いピンクの小さいリボンが付いていた。
「この服ほしいな。でも、大丈夫かな?」
ハルはカーディガンを手に取ると、私に羽織らせて、鏡の前に連れて行ってくれた。
「この可愛い子はだれ?私にぴったりっ!ってカーディガンが言ってるよ。」
二人で顔を見合わせて笑った。
それから店員さんに聞いて、カーディガンに合う服を見繕ってもらった。紺色のAラインのロングスカート、スタンドカラーのちょっとアイボリーがかったブラウス。靴だけは、ハルの要望でスニーカーにした。カーディガンに合わせたラベンダーカラーのスニーカーだ。靴紐は薄ピンクに、濃いピンクのラメが入った物を別に買った。
スタバに行き、ふぅっ歩いたねえと言って椅子に座った。ハルはキャラメルマキアートを飲みながら私に聞いた。
「いい買い物できた?」
私はコーヒーフラペチーノを飲みながら言った。
「うん。すごくいい物に会えた!服買うのなんて久々だったよ。服選びってこんなに楽しかったんだね。」もともと服は好きだったけれど、買いたくても、どうせ似合わないからとか、着ないからとかと、諦めることが多かった。
するとハルは帽子の上から私の頭をぽんぽんと、なでてくれた。
「良かった。その気持ち、忘れないで。」
「うん。わかった。」私は大きく頷いた。
「はい!ここで美姫のいい所を発表します!」どるるるる・・また効果音付きだ。
「素直な所!」
「えーそうかな?けっこう捻くれてると思うけど。」ハルは首を振った。
「自分で気づいていないだけだよ。美姫は素直でかわいい!」ハルは拍手して言った。
「恥ずかしいよ。」私はハルから視線を外してコーヒーフラペチーノに注目して、ちゅーと夢中で吸い上げた。ズズズっと音がする。
そんな私を見たハルは可笑しそうに笑った。
明日はどんなことが待ってるのだろうか。ふと、5日後はハルとの関係はどうなってしまうのかと、不安がよぎったけれど、今は気づかないふりをして、底に少しだけ残ってる、コーヒーフラペチーノのストローをくわえた。
私はとりあえず顔を洗って、無難なベージュのパーカーにジーパンという格好に着替えた。化粧は薄く、ベースと眉毛のみ。鏡に映った自分にため息をつく。元々美人とは言えない顔立ちをしている上、確実に老けた。目元のシワやクマが気になるようになってきた。見ていると悲しくなってくるので、気を取り直してキッチンへ向かった。ヨーグルトにハルが昨日置いていってくれたジャムをかけて食べた。コーヒーを一口飲むと少しほっとした。
歯を磨き、ハルを待っている間、いつも通りテレビをつけながら、ふと、掃除でもしようかな?と思いたった。そして、カーテンを開け、閉めっぱなしが習慣になってたけど、これからは開けておこうかな?と思いながら掃除機をかけた。
掃除を始めると、思いの外楽しくて、床を拭いたり、テレビの埃をとったりと、ここも、ここもと気になった所をあちこち掃除した。気づくともう9時30をまわっていて、また後でやろうと思い、ハルを待った。
ピンポン
インターホンがなる。ハルだ。
ドアを開けると、「おはよう。」とハルが笑った。
「あれ?部屋、昨日より綺麗になってる?」さすが天使。よく気づく。
「そう、急にやりたくなっちゃって。」
ハルはうんうん。と、嬉しそうに頷いた。
「カーテンも開けたんだね。いいね。」
「ありがとう。」私はちょっと照れ臭くなった。
「じゃあ、行こうか。」ハルはそう言って歩き出した。私もハルの横を歩く。
「着いたよ。」
ハルが足を止めたのは、美容院だった。カフェのような雰囲気のオシャレな外観で、よく磨かれたガラスの向こうにはお客さんやスタッフが何人かいた。
「髪切るの?」誰が?私?ハル?
「うん。知り合いのお店なんだ。入って。」
ドアが開くとカランカランと音がした。お店の中は、落ち着いたピアノの音楽が静かに響き、整髪料の甘い匂いがした。
「あら!ハル!いらっしゃい。その子ね!」ハルに声をかけてきたのは背が高く、金髪の翠色の目をした、まるで本物の王子様のような男性だった。
「まっていたわ。美姫ちゃんね!名前の通り可愛い目をしているのね!」男性は可愛い話し方と仕草で私に話しかけた。
「じゃあマコトさん、よろしく。美姫、自分はそこで待ってるから、楽しんでね。何かあったら言ってね。」そう言ってハルはスタスタと歩いてソファーに向かった。柔らかそうなソファーに座ると手をひらひらさせて微笑んだ。
楽しんでって、美容院でどう楽しめばいいのだろうか。そもそも美容院って苦手なんだよね。
「さぁ美姫ちゃん、ここに座って!始めるわよ。」マコトさんはそう言って私にケープと膝掛けをかけてくれた。
「どうなりたいとか、あるかしら?」
「特にはないです。おまかせします。」
「そう。わかったわ!おまかせね!任せて!」マコトさんはガッツポーズをして小首をかしげた。かわいい。
霧吹きで髪を濡らす。私の髪、こんなに長かったんだ。
「美姫ちゃんの髪、真っ黒で綺麗ね!黒もいいわね!」
そうだろうか?
「マコトさんの髪こそ、金色で、外国人みたいな、お人形さんみたいな感じで綺麗ですね。」マコトさんはとても嬉しそうな顔をした。
「ありがとう!私ね、お人形さんみたいになりたいのよ。あっ!これくらい短くして、コテで巻こうと思うんだけど良いかしら?」
マコトさんは私の髪をもちあげ、鏡ごしに私に聞いた。肩の少し下まで切るみたいだ。
「よろしくお願いします。」マコトさんはハサミを入れ始めた。さっきまで話していた顔とまた違って、真剣な顔をしていた。切られた髪がパサパサと落ちていく。
「美姫ちゃんは何色が好き?」マコトさんは突然聞いた。
「私は、特にないです。」
「またまた、本当はあるでしょ?ちなみに私はピンクよ!」マコトさんがウインクした。
「マコトさんなら似合いますね。」
「あら、ありがとう。でもね、私がピンクが似合うのは、似合わせているからよ。」
「どうゆうことですか?」
「もともとはあんまり似合わない感じだったのよ。でもね、お化粧で肌トーン上げたり、ピンクにもいろいろあって、似合うピンクを見つけたり、色に合わせて自分を変えていってみたの。」
色に合わせる。そんな変え方があるんだ。
「じゃあ仕草とか話し方も色に合わせてるんですか?」
マコトさんはキョトンとした。そして、くすくす笑った。
「美姫ちゃんって意外とストレートね。」どうしよう。まずいことを言ってしまったのかな?私の動揺に気づいたのか、マコトさんは「大丈夫よ。」と、肩をたたいてくれた。
「私はハッキリ言ってくれる方が好きよ。どう?私って、ピンクが似合ってかわいいでしょ?」マコトさんは手を腰にして私を見つめた。自信にあふれ、そして優しい目をしていた。私は少し安心して正直に言った。
「はい。とってもかわいいです。」マコトさんは嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう。」
綺麗に整えられた髪をアイロンで巻く。
「今は私って超絶かわいいけど、昔は自分の顔、嫌いだったのよ。」
「えっマコトさんが?こんなに綺麗なのに?」マコトさんはまた嬉しそうにして「ありがとう」と言った。
「昔はもっとね、男っぽかったのよ。男っぽい自分が嫌でね。でもね、ある人にピンクのマフラーをもらったの。「マコトに似合う色だから」って。コーラルピンクの綺麗なマフラー。そこでね、ピンッときたの。あぁ、私にも似合うかわいいがあるんだって!」マコトさんは目をキラキラさせて言った。「それで私の似合う可愛いを見つけていったら、いつのまにか可愛い私になっちゃったの♪」ふふふっとマコトさんは楽しそうに笑った。
「素敵ですね。たくさん、頑張ったんですね。」マコトさんはすごい。目指す自分をもう見つけて叶えたんだ。きっと、すごく、すごく大変だったんだろうな。
「ありがとう。美姫ちゃんは優しいわね。」また私を優しいと言ってくれる人がいた。
「そんなこと。」
「そんなこと、なくないわ。大抵の人はこの話をすると、元がいいからねっとか言うのよ。もう、今の私になるために、どれだけ努力したと、思ってるの~!って感じよね!まぁ、それだけ今が可愛いってことかしら?」「あら、いい感じっ」と前髪を巻く。
「でもやっぱり、がんばったことを認めてくれるのって、嬉しいわよね。美姫ちゃん、ありがとうね。」
「いえ、そんな。思ったことを言っただけで・・」私は少しうろたえる。
「そこは、どういたしまして。でいいのよ。私のありがとうを受け取ってちょうだいな!」マコトさんは私の両肩をポンと叩いた。「よし!できたわ!」
「かわいい・・」細かいウェーブで。アイロンでまきましたっという感じではなく、自然な感じのふわふわな雰囲気の仕上がりになっていた。
「でしょ。髪型一つで変わるのよ。」こんな髪型は初めてだ。昔は、やってみたいと思っていたが、どうせ似合わないと思い、諦めていた。
「さてさて、じゃあ次はメイクね!」
「メイクもしてくれるんですか?」
「もちろん!だって、可愛い髪型になったら、今よりもっと可愛くなりたくない?」
なりたい。この髪型に似合う顔にしてほしい。
「なりたいです。お願いします。」
「もちろん!で、もう一度聞くけど、美姫ちゃんの好きな色は?」
私の好きな色。本当は好きだった色。
「私もピンクが好きなんです。」
やっぱり!とマコトさんは言った。
「最初見た時からそうだと思ったのよ。任せて!美姫ちゃんに似合うピンクメイクをしてあげる!テーマは妖精よ~!」
マコトさんは嬉しそうにメイクをし始めた。
「さぁ!完成!」鏡で見た私に驚いた。本当にこれが私だろうか。
「可愛いでしょ!美姫ちゃんは淡い少し青みがかったピンクね!」
チークとシャドウはマコトさんの言う通り、桜色のような薄いピンクで、リップはそれよりも少し濃く、つやつやと輝いていた。目元のもピンク色のラメがキラキラと輝いていた。
「自分じゃないみたい。マコトさん、ありがとうございます。」
マコトさんは嬉しそうに頷いた。
「どういたしまして。でもね、美姫ちゃん。私は美姫ちゃんに魔法をかけただけ。シンデレラが魔法をかけてもらえたのは優しくて勇気があって、いい子だったから。美姫ちゃんも勇気を出して好きな色を教えてくれたでしょ?だから、美姫ちゃんのおかげでもあるんだよ。」
どうゆうことだろうか?でも、少しわかる気もする。
「自分にも、感謝しなきゃね。」
マコトさんはそう言うと、ハルを呼んできてくれた。
私を見たハルはすごく喜んでくれた。
「すごくかわいいよ!」
「ありがとう。」普段なら、そんなことないっと、すぐに否定するけど、自然とありがとうの言葉がでてきた。
そして、マコトさんにお礼を言って店を出た。「また来てね~!」と言って可愛く手を振ってくれた。
「これからどこに行くの?」ちょっと弾んだ声で私は言った。
「んールミネとパルコどっちがいい?」
「お買い物するの?うーん、ハルはどっち?」
ハルはゆっくりと首を振る。
「美姫が選ばなきゃ。」どちらかというと、
「パルコがいいかな。ハルは大丈夫?」
ハルは笑った。
「ちゃんと選べたね。えらいえらい。もちろん!美姫が選んだ方なら歓迎だよ!」
駅に向かうにつれ、人が多くなってくる。人混みは苦手だ。一人一人のイライラだとか、せわしない感情とかが、流れ込んでくるみたいで気分が重くなる。
そんなことを考えていると、ハルが自分が被っている黒いキャップ帽をふんわりと被せてくれた。「おまもり。」そう言ってまた歩きだした。
帽子を被ったら、不思議と周りの人の感情が気にならなくなった。ハルは何でもお見通し。この天使は何者なんだろう。
レディースファッションのフロアについくなりハルが突然言った。
「さぁ、ここで美姫にミッション!美姫が着たい服を選んで!」どうぞ、と手を動かす。また、唐突な。でも、確かにこの髪型とこの服に合う服が欲しいかも。
「わかった。」私は興味のあるお店を一件一件回った。いつもは入りたいけど、入れなかったお店も入ることができた。ハルがいたから、ということもあるけれど。
どのお店も秋物で、温かみのあるカラー
が多かった。マコトさんの教えてくれた私に似合うピンクの服はなかなか見つからない。そう思いながらも、これかわいい。この形綺麗とか、どんどん目移りしていく。そんな私をみて、ハルは優しい眼差しで見守ってくれていた。
「あっ・・!」かわいい。これだっと思った。
「見つけた?」ハルは私の目線の先に目を向けた。
「かわいいね。美姫に似合いそう。」
それはラベンダーカラーのカーディガンだった。ボタンはキラキラのビジューが付いていて、襟元には薄いピンクの小さいリボンが付いていた。
「この服ほしいな。でも、大丈夫かな?」
ハルはカーディガンを手に取ると、私に羽織らせて、鏡の前に連れて行ってくれた。
「この可愛い子はだれ?私にぴったりっ!ってカーディガンが言ってるよ。」
二人で顔を見合わせて笑った。
それから店員さんに聞いて、カーディガンに合う服を見繕ってもらった。紺色のAラインのロングスカート、スタンドカラーのちょっとアイボリーがかったブラウス。靴だけは、ハルの要望でスニーカーにした。カーディガンに合わせたラベンダーカラーのスニーカーだ。靴紐は薄ピンクに、濃いピンクのラメが入った物を別に買った。
スタバに行き、ふぅっ歩いたねえと言って椅子に座った。ハルはキャラメルマキアートを飲みながら私に聞いた。
「いい買い物できた?」
私はコーヒーフラペチーノを飲みながら言った。
「うん。すごくいい物に会えた!服買うのなんて久々だったよ。服選びってこんなに楽しかったんだね。」もともと服は好きだったけれど、買いたくても、どうせ似合わないからとか、着ないからとかと、諦めることが多かった。
するとハルは帽子の上から私の頭をぽんぽんと、なでてくれた。
「良かった。その気持ち、忘れないで。」
「うん。わかった。」私は大きく頷いた。
「はい!ここで美姫のいい所を発表します!」どるるるる・・また効果音付きだ。
「素直な所!」
「えーそうかな?けっこう捻くれてると思うけど。」ハルは首を振った。
「自分で気づいていないだけだよ。美姫は素直でかわいい!」ハルは拍手して言った。
「恥ずかしいよ。」私はハルから視線を外してコーヒーフラペチーノに注目して、ちゅーと夢中で吸い上げた。ズズズっと音がする。
そんな私を見たハルは可笑しそうに笑った。
明日はどんなことが待ってるのだろうか。ふと、5日後はハルとの関係はどうなってしまうのかと、不安がよぎったけれど、今は気づかないふりをして、底に少しだけ残ってる、コーヒーフラペチーノのストローをくわえた。
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