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1章
1話
しおりを挟む暗い空を見上げると普通は美しい星が散らばっているのかな。私の目に映る空はただ暗いだけ。星は一つも存在しない。
私が生まれた時からずっと、この空は変わらない。朝も昼も夜も。私達の見る事ができる空はこのただ暗いだけの空。あとどれくらいこの空を見ればいいんだろうか。そんな事を考えながら私はこの何もない空を見ていた。
「アミス、お疲れ様」
大きな足音を立てて近づいてくる逞しい彼は私の幼馴染のテセジェオ。私達は今日、挨拶をしていた。この村から長い間離れなければならないから。お世話になった人達に行ってきますの挨拶を。
「テセジェオこそ。そんなに色々と準備してくれて、大変だったでしょう? 」
テセジェオは巨大なリュックを背負っている。そのリュックの中にはきっと、これからの私達に必要なものが入っている。
私達は今からこの世界に光を灯す準備に向かう。この準備と儀式が終わればきっと、私達は空の光を見る事ができる。
「行きましょう、テセジェオ」
「うん」
「まずはここから一番近い救世点に向かいましょう」
準備というのは、この世界に百ヶ所あるという救世点をめぐる事。私達は、近い場所から巡る方針でと事前に話し合って、地図も用意してある。
本当は明日の朝に出発する予定だったんだけど、みんなに見送られるとなんだかもう帰ってこない旅みたいってテセジェオが言うから、誰にも言わずに今日こっそりと出発する。みんなの願いだけをもらって。
テセジェオと共に村を出る前に、振り返って誰もいないのに「いってきます」と一緒に言ったのは、ここへ帰ってこようという意思表示なんだと思う。
明日の朝、きっと私達がいないから大騒ぎになっているんだろうとは思うからいってきますよりも謝っておいた方がよかったのかなと少しだけ思いながら、私達は一つ目の救世点に向かった。
「アミス、大丈夫? かなり歩いているけど疲れてない? 」
テセジェオは騎士の家柄で体力が他の人の何倍もあるから、体力が平均的な私を心配してくれている。でも、まだ十分しか歩いていない。テセジェオが普通に合わせようとしてくれているという努力は感じられるから私はにっこりと笑って「大丈夫」と答えた。
それでもテセジェオは安心できないのかな。心配そうな顔をしている。
「無理しないで。疲れたらすぐに言って」
「うん。ありがとう。テセジェオこそ、そんな重たそうなリュックを背負っているんだから、疲れたら言ってね。私、頑張って背負うから」
私には少し重たそうなリュックだけど、護衛のためにわざわざついてきてくれているテセジェオにあまり負担をかけたくない。だから、もしテセジェオが疲れたなら這ってでもリュックを代わりに背負う覚悟でいる。
私は大真面目にテセジェオの大きなリュックを見て言っているのに、テセジェオはクスリと笑った。
「アミスって意外と無謀だよな」
「テセジェオにだけは言われたくない」
私が前に崖の下にお気に入りの帽子を落とした時だってテセジェオは崖を降りてとってきてくれた。
危険だって言っても私の大切なものだと聞かずに。
あの時は偶然怪我もなく無事に帽子を取って戻ってこれたからいいけど、危ないからもうするなってみんなに怒られていた。
「あっ、あれじゃないかな。一つ目の救世点って」
あの形は、教科書に載っていた封印の力場という場所の目印かな。二本の柱が鎖で繋がれている。
封印の力場に聖女の力を混ぜて乱す。そうすれば封印が弱まり、世界に光を灯す鍵となる。
聖女の力というのがどんなものなのか。どうやって使うのか。実際に使った事がないけど、勉強はしている。その勉強通りにすれば封印を弱められる。
「創造の光。花となりて世界に散らばる」
これにどんな意味があるかは習わなかった。これが聖女の力を使うための呪言となるとしか。
封印の力場の鎖にヒビが入る。教科書通りならこれで成功。
次の救世点はここから徒歩二分くらいで着くから今日は二つ目の救世点まではいっておきたい。テセジェオが疲れていなければ。
「テセジェオ、もう一ヶ所いっていい? 」
「うん。アミスが大丈夫ならいいよ」
テセジェオは全然余裕そうな顔をしている。
私達は南にあるもう一つの救世点に向かう。今の所魔物とかに会ってはいないけど、いつ魔物に会うかわからないから気を抜かないでいないと。
いくら護衛のテセジェオがいるとはいえ、魔物が一匹だけでくるとは限らない。何匹もの魔物が集団できた時にテセジェオの足を引っ張らない程度に護身術は学んでいる。だからってテセジェオのような余裕そうな顔なんてできないけど。
「本当にテセジェオってすごいよね。朝から忙しかったみたいなのにまだこんなに体力あるんなんて」
「そんな事ないよ。オレは兄弟達みたいに強くなんてない。ただ体力があるだけだから」
テセジェオの兄弟には何回か会った事がある。騎士として優秀で謙虚で優しい人達。テセジェオはいまだに騎士として認められていないと気にしているけど、その兄弟達はテセジェオをかなり評価している。
自分達はテセジェオのようにはなれないとまで言って。
「あっ、ちゃんと護衛くらいはできるから安心して」
「そんな心配してないよ。テセジェオの事頼りにしてるから。今日は二箇所とも安全に行く事ができたけど、次はわからないからね」
二箇所目の救世点は神子の残した力場。神子の事は何も知られていない。だから、ただ存在したという事だけしか知らない。
多分、この力場が存在を証明している。少なくとも私はそう考えている。
この力場は封印とは違い、聖女の力で神子の力を強めるのが目的。
「創造の光。花となりて世界にとどまる」
呪言はほとんど変わらない。でも最後の一節は違うから間違えないようにしなければならない。
「本当にすごいね。聖女の力って。アミスが別世界の人に思える」
「同じ世界の人だよ……テセジェオまで私を」
「別世界の人なら好きではいけないなんて事ないと思う。そのくらい尊敬するってだけなんだから」
村の人達との関係は悪くない。むしろ良好。でも、私を遠い存在と思っている人達ばかりでどこか距離を感じていた。
テセジェオは私を好きと言ってくれるほど距離が近くて、それが嬉しかった。そんなテセジェオにまで別世界の人なんて言われて寂しかったけど、やっぱりテセジェオはテセジェオなんだ。
別世界の人とだって距離が近くていいなんて、私も村のみんなも考えた事なかったから。
「うん。そうだね」
「聖女だからじゃなくてアミスだからこの笑顔も好き」
「私もテセジェオの笑顔は好きだよ。それより野宿の準備しないと遅くなっちゃう」
**********
……神子……多くの人が知らない。
……神子が姿を消したあとの事も……は知らない。
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