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第10話 取引
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ハッタリだ。
そう思いたかったのだと思う。
動揺を相手にさとられたくない、動揺しているとわかれば主導権は握れない。
……そう頭ではわかっている、なのに琳明の手は自分の意志とは反対に震える。
「さぁ、お茶をしよう。茶器をもちたまえ」
玲真がそういって茶器を持つように琳明に勧める。持たないわけにはいかず、琳明はもう一つ自分用に用意した茶器に手を伸ばすが手が震えは、茶器に注がれた茶を揺らす。
その様子をみて玲真はにんまりと笑った。
「琳明妃に私は挨拶に足を運ばなかったが、君の報告は私には上がっているよ」
玲真はそういうと、手が震える琳明に背を向け椅子に腰かける。
「報告でございますか」
「あぁ、そうさ下賜姫にはわざわざ挨拶など私はしないが、宮で過ごしている様子くらいはまとめさせて眼を通してるのさ」
玲真はあえて下賜姫という言葉を強調した。
その上で、他の下賜姫ではない妃には自ら挨拶をしに行くこと、これまで挨拶に一度も挨拶に来なかったのは、琳明が下賜姫で王のお手つきになど絶対にならない妃だから後宮には絶対1年後残ることがないから挨拶をする必要が玲真にはなかったのだと案に匂わせた。
落ちつかねばと思い、琳明は震える手で立ったままお茶を口に運んだ。
「宮に召し上げられた妃は様々でね。その中では、君のように王のお越しがなくても気にも止めない妃がやはりいるんだよ。よほどの変わり者か、自分がそれでも最後は選ばれると思ってる楽天家か……」
玲真はそう言ってから、琳明の元に再び歩いてきて距離をつめ、顎をくいっと持ち上げ妃という立場の琳明にたいして格下であるかのように見下ろし言葉を続けた。
「後宮でのお勤めを終えて市井に帰れば男が待っている時かだ。もう心に決めた男がいるのだから、王のお越しがなくても腹も立たない。手なんかつけられたくないと思っているのだからね。下級妃賓であれば何としても王に気にいられろという家のしがらみもないからね。今だけの贅沢な暮しを後宮で楽しむわけだ……。さてさて、琳明妃はどれかな?」
余裕たっぷりに玲真はそう言う。眼光は鋭く、品定めするかのように琳明を見つめる。
整った顔がこんなに近くにあるというのに、胸の高鳴りなどはなく、ゾクリとする恐怖が琳明の身体を支配する。
愛しい女を見つめる顔ではないし、性的に興奮して私とこの距離にいるわけではないことが琳明にはわかってしまう、だからこそ怖いのだ。
宦官とのことだが、体格はよくやはり女とは違うのだと意識せざるを得ない。
「……お戯れを」
なんとか言葉を絞り出して玲真の胸を軽く押す。
それでも玲真は離れない。
「私の見目は悪くないと思うのだが、妃の中で私に色目を使うものも大勢いる。後宮に入れるほど見目はよろしくても男日照りの女は面倒な者が多いのに……。さて、それほど残してきた男に操でも立てているのか?」
「何を私に望むのですか?」
絶対に向俊のことがばれてはいけないと思った琳明は玲真の目的を探った。
「話が早くて助かるよ。よほど下賜されたくないとみた。君を下賜姫のままにするか、ただの後宮に召し上げられた一妃にするか私次第。後宮にはね困りごとが付きものなんだ。だから私がいるのだけれど……。後宮内の困りごとを君がいる間に一掃したい。もちろん協力してくれるね? 下賜姫様」
「契約はきちんと書面に残してもらうわよ。結ぶ前に確認したいことがいくつかあるわ。残念ながら私はお嬢さまはお嬢さまでも、これでも商人なの。口約束で後でなかったことにされてはたまらないわ」
「女主人候補だっただけはある、相手の立場で態度を変え、強かで気が強い。だからこそ、下女に一番言い逃れ出来ず皆の前でより貶める方法を選んだのだろうがね。女官に準備をさせるといいよ」
玲真に促され小蘭に声をかけると、二人のピリピリとした空気を感じているのか、余計な詮索をせず準備は整えられた。
退出するかと思った小蘭はピリピリとした空気を感じ取っているのか、私の後ろにとどまった。
「まず、私が下賜姫と呼ばれる妃なのは本当なの?」
琳明は一番気になることを質問した。
「あぁ、もちろん。それとも、君自身16歳で急に後宮に召し上げられるような才や美貌が目にとまったと思うのかい?」
柔らかな笑顔で、心を切り裂くような残酷なことを玲真はさらりと言う。
ずっとあった、琳明がなぜこの異例の時期に選ばれたのかの疑問は、正式な妃としてではなく家臣の褒美として下賜されるために若い官の間で人気がある琳明を召し上げたということが悲しいけれど一番しっくりときてしまう。
「私に何を望むの? 手を貸して代わりに私が口封じに殺されたり罰せられるようなことはまっぴらよ。それなら手を貸さず家臣に下賜されたほうがマシだもの」
きつく睨んでやったにも関わらず、玲真は全く動じることはない。
「そうだね。その辺はもちろん上手くやろう」
「それが一番信用できないのよ」
琳明は心の中で舌打ちをした。傲慢な客はおだてて特別扱いしてやればいい、文句をつけてくる客は話をうんうんきいてやればい、でも、こんなひょうひょうとした客が一番やりずらい。
「ふむ……。とっておきの秘密を君に話すそれでお互い様ということにしようじゃないか」
「とっておきの秘密?」
「女官席をはずせ」
先ほど席を外さなかった小蘭に向けられた言葉に、小蘭は琳明の判断を仰ぎ琳明を見つめる。
「かまわないわ。彼は宦官だから最悪の事態にはならない。ブツがなければ私を傷物にはできないもの」
宦官という言葉で小蘭は下がる。
小蘭が下がり玲真が私をまっすぐと見つめた。
「私が後宮に入れられ人知れず動くほど事態は深刻だ」
玲真はそう言うが琳明には玲真が言いたいことがわからず首をかしげる。
「先に言っておく、もし私の秘密をきいてこれを盾に下賜姫を返上しようと脅すのは無駄だ。これは王もご存じのことだからな」
「一体それほどの秘密とは何なんです? さぞかし私をご納得させるものでしょうね」
この美しい男の秘密に思わず好奇心が勝った。
玲真は優雅な動作で立ち上がると琳明の目の前に立つと茶器を持つ琳明の手を握る。
「私は男だ」
「知っております」
「いい方が悪かった。残念ながら私は宦官ではない」
――――宦官ではない?
ギョッとして玲真を琳明は見つめた。いやいや、これこそハッタリだろうと頭を振っ
た。
「御冗談を……そういって私が確認できないからと嘘の秘密で騙すおつもりでしょう?」
「確認したければするがいい」
シレっとした顔で玲真はそういう。
宦官の胸は膨らむわけではない、確かめるためにはブツがあるかどうかということになる。
うら若き琳明にそれはできまいと思ってるに違いない。
薬師としていずれ通るかも知れない道、服の上からほんの少し触ればわかること……
「本当に触るわよ私は」
「どうぞご自由に」
玲真はそういって、さすがに目線を琳明から逸らした。
琳明はゆっくりと手を伸ばす。彼が男性かどうか確かめる一番手っとり早い場所へと。
ほんの少しの躊躇。
なければ一緒、女と何が違うと言うのかだ。
――――意を決した。
そう思いたかったのだと思う。
動揺を相手にさとられたくない、動揺しているとわかれば主導権は握れない。
……そう頭ではわかっている、なのに琳明の手は自分の意志とは反対に震える。
「さぁ、お茶をしよう。茶器をもちたまえ」
玲真がそういって茶器を持つように琳明に勧める。持たないわけにはいかず、琳明はもう一つ自分用に用意した茶器に手を伸ばすが手が震えは、茶器に注がれた茶を揺らす。
その様子をみて玲真はにんまりと笑った。
「琳明妃に私は挨拶に足を運ばなかったが、君の報告は私には上がっているよ」
玲真はそういうと、手が震える琳明に背を向け椅子に腰かける。
「報告でございますか」
「あぁ、そうさ下賜姫にはわざわざ挨拶など私はしないが、宮で過ごしている様子くらいはまとめさせて眼を通してるのさ」
玲真はあえて下賜姫という言葉を強調した。
その上で、他の下賜姫ではない妃には自ら挨拶をしに行くこと、これまで挨拶に一度も挨拶に来なかったのは、琳明が下賜姫で王のお手つきになど絶対にならない妃だから後宮には絶対1年後残ることがないから挨拶をする必要が玲真にはなかったのだと案に匂わせた。
落ちつかねばと思い、琳明は震える手で立ったままお茶を口に運んだ。
「宮に召し上げられた妃は様々でね。その中では、君のように王のお越しがなくても気にも止めない妃がやはりいるんだよ。よほどの変わり者か、自分がそれでも最後は選ばれると思ってる楽天家か……」
玲真はそう言ってから、琳明の元に再び歩いてきて距離をつめ、顎をくいっと持ち上げ妃という立場の琳明にたいして格下であるかのように見下ろし言葉を続けた。
「後宮でのお勤めを終えて市井に帰れば男が待っている時かだ。もう心に決めた男がいるのだから、王のお越しがなくても腹も立たない。手なんかつけられたくないと思っているのだからね。下級妃賓であれば何としても王に気にいられろという家のしがらみもないからね。今だけの贅沢な暮しを後宮で楽しむわけだ……。さてさて、琳明妃はどれかな?」
余裕たっぷりに玲真はそう言う。眼光は鋭く、品定めするかのように琳明を見つめる。
整った顔がこんなに近くにあるというのに、胸の高鳴りなどはなく、ゾクリとする恐怖が琳明の身体を支配する。
愛しい女を見つめる顔ではないし、性的に興奮して私とこの距離にいるわけではないことが琳明にはわかってしまう、だからこそ怖いのだ。
宦官とのことだが、体格はよくやはり女とは違うのだと意識せざるを得ない。
「……お戯れを」
なんとか言葉を絞り出して玲真の胸を軽く押す。
それでも玲真は離れない。
「私の見目は悪くないと思うのだが、妃の中で私に色目を使うものも大勢いる。後宮に入れるほど見目はよろしくても男日照りの女は面倒な者が多いのに……。さて、それほど残してきた男に操でも立てているのか?」
「何を私に望むのですか?」
絶対に向俊のことがばれてはいけないと思った琳明は玲真の目的を探った。
「話が早くて助かるよ。よほど下賜されたくないとみた。君を下賜姫のままにするか、ただの後宮に召し上げられた一妃にするか私次第。後宮にはね困りごとが付きものなんだ。だから私がいるのだけれど……。後宮内の困りごとを君がいる間に一掃したい。もちろん協力してくれるね? 下賜姫様」
「契約はきちんと書面に残してもらうわよ。結ぶ前に確認したいことがいくつかあるわ。残念ながら私はお嬢さまはお嬢さまでも、これでも商人なの。口約束で後でなかったことにされてはたまらないわ」
「女主人候補だっただけはある、相手の立場で態度を変え、強かで気が強い。だからこそ、下女に一番言い逃れ出来ず皆の前でより貶める方法を選んだのだろうがね。女官に準備をさせるといいよ」
玲真に促され小蘭に声をかけると、二人のピリピリとした空気を感じているのか、余計な詮索をせず準備は整えられた。
退出するかと思った小蘭はピリピリとした空気を感じ取っているのか、私の後ろにとどまった。
「まず、私が下賜姫と呼ばれる妃なのは本当なの?」
琳明は一番気になることを質問した。
「あぁ、もちろん。それとも、君自身16歳で急に後宮に召し上げられるような才や美貌が目にとまったと思うのかい?」
柔らかな笑顔で、心を切り裂くような残酷なことを玲真はさらりと言う。
ずっとあった、琳明がなぜこの異例の時期に選ばれたのかの疑問は、正式な妃としてではなく家臣の褒美として下賜されるために若い官の間で人気がある琳明を召し上げたということが悲しいけれど一番しっくりときてしまう。
「私に何を望むの? 手を貸して代わりに私が口封じに殺されたり罰せられるようなことはまっぴらよ。それなら手を貸さず家臣に下賜されたほうがマシだもの」
きつく睨んでやったにも関わらず、玲真は全く動じることはない。
「そうだね。その辺はもちろん上手くやろう」
「それが一番信用できないのよ」
琳明は心の中で舌打ちをした。傲慢な客はおだてて特別扱いしてやればいい、文句をつけてくる客は話をうんうんきいてやればい、でも、こんなひょうひょうとした客が一番やりずらい。
「ふむ……。とっておきの秘密を君に話すそれでお互い様ということにしようじゃないか」
「とっておきの秘密?」
「女官席をはずせ」
先ほど席を外さなかった小蘭に向けられた言葉に、小蘭は琳明の判断を仰ぎ琳明を見つめる。
「かまわないわ。彼は宦官だから最悪の事態にはならない。ブツがなければ私を傷物にはできないもの」
宦官という言葉で小蘭は下がる。
小蘭が下がり玲真が私をまっすぐと見つめた。
「私が後宮に入れられ人知れず動くほど事態は深刻だ」
玲真はそう言うが琳明には玲真が言いたいことがわからず首をかしげる。
「先に言っておく、もし私の秘密をきいてこれを盾に下賜姫を返上しようと脅すのは無駄だ。これは王もご存じのことだからな」
「一体それほどの秘密とは何なんです? さぞかし私をご納得させるものでしょうね」
この美しい男の秘密に思わず好奇心が勝った。
玲真は優雅な動作で立ち上がると琳明の目の前に立つと茶器を持つ琳明の手を握る。
「私は男だ」
「知っております」
「いい方が悪かった。残念ながら私は宦官ではない」
――――宦官ではない?
ギョッとして玲真を琳明は見つめた。いやいや、これこそハッタリだろうと頭を振っ
た。
「御冗談を……そういって私が確認できないからと嘘の秘密で騙すおつもりでしょう?」
「確認したければするがいい」
シレっとした顔で玲真はそういう。
宦官の胸は膨らむわけではない、確かめるためにはブツがあるかどうかということになる。
うら若き琳明にそれはできまいと思ってるに違いない。
薬師としていずれ通るかも知れない道、服の上からほんの少し触ればわかること……
「本当に触るわよ私は」
「どうぞご自由に」
玲真はそういって、さすがに目線を琳明から逸らした。
琳明はゆっくりと手を伸ばす。彼が男性かどうか確かめる一番手っとり早い場所へと。
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