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第22話 取引ごと
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上座へと通され座るように促される。
孫卓は愛想よく笑っているのに、値踏みされているのがわかる。
琳明は形式上座らせられただけにすぎず、今の立場としては圧倒的に張孫卓のほうが琳明よりはるかに強い。
「まず、私がここにいること。これがどれほどまずいことかあなたにはわかりますね」
琳明から話を切り出した。
「えぇ、えぇ。もちろんですとも」
愛想よく相槌を打たれると同時に、まずいことになれば人をすぐに呼べますよ、こちらはね。というのが透けて見える。
「取引をしましょう、張 孫卓」
「『かまいませんよ』言って差し上げたいのですが、ここは市井で琳明様は妃ですからね。何にでもいいお返事は出来かねます。内容をまずお聞きしましょう」
内容によってどうするか決めるとハッキリといわれてしまった。
「うーん、これはお願いじゃないわね。やらないとあなた大変な目にあうわよという警告のほうがあってるかしら」
お願いではなく、あくまで琳明が話しの中で優位に立つべく言い方をかえる。
「ほほう、さようでございますか」
これは困ったという顔をしただけで、張 孫卓はちっとも困っていないのがわかる。
表情だけで騙されるたまじゃない。
「信じてないのね」
孫卓は一見肯定的なことを言ってはいるが、琳明の話にただ相槌をうっていただけと言っても通じる話し方をしてくる。
「商人は疑うことが鉄則ですから、一応お聞きしますがあなたのお望みは」
「私は後宮にもう一度戻らねばならないの」
「市井に降りてみたものの、好いた男にでも振られましたか?」
にこやかな笑顔で市井にいる限り下級妃賓としても危うい琳明に対して、孫卓は以前と違い毒を吐く。
「後宮でなぜ子供が作られないか、あなたはご存知?」
「寝屋のことは流石に私どもには……」
「後宮に毒が平然と入ってくるからよ。上級妃賓の使うおしろいは鉛が入っている物でした。品物を下してるあなたなら、鉛入りのおしろいが禁止されたことは当然知っているはず。妃がいつの間にか銀杯ではなく陶器でお茶を飲まされてる。そんなところじゃ子など作れないそうよ」
「まさか……」
孫卓は琳明の言っていることに動じず愛想笑いを続ける。
「私がなぜ市井にいると思う? 本当に男がらみだとあなたは思う? 下級妃賓の中でもおそらく一番位が低く、見た目もぱっとしない私はせいぜい1年の我慢でほっておいても市井へ戻されると言うのに、なぜわざわざ危険を冒して外に出る必要があると思いますか?」
孫卓は琳明をサッと値踏みするかのように眺める。
悲しいかな町娘としてはそこそこの琳明だが、美女を集めた後宮では妃よりも下女と言われた方がしっくりとしてしまう。
「文も検閲がはいるし、市井に男がいたとしても男あてに文も出せないし、親族を通してでも妃がよその男に送る文など送れるはずもないし、よその男がどうなったかの連絡も親族から妃にできるはずもないですな。なるほど……なるほど」
下賜姫様でなければ、琳明の器量ではほっておいても市井に1年で帰れることは明白だった。
「私は空の木箱の中に入って市井に出されたわ。気絶してしまったからどういうやり取りがあったかわからないけれど。下級妃賓の私が外に出るコネがあるとあなたは思う? 大きな力が動いて妃を外にあえて出したというほうがあなたもしっくりくるのではなくて?」
張の顔は変わらない、一流どころの商人になればなるほど表情を取り繕うのを当たり前にこなす。張は小太りな男でその顔にはいつも穏やかに笑みが絶やされ人畜無害の人当たりのよさそうな顔を作れる。
本当に人がいいだけの人物では、こんな大店の主としてはやっていけないのだから。
「妃を外に出す目的は?」
孫卓が琳明に質問した。
「後宮に不穏なものを持ち込む輩を特定するより、後宮と付き合いのある大店を一掃して新しい業者にしたほうが簡単だし、疑わしい者も一掃される。でも付き合いが長くあちこちに顔の広い店を簡単に切ることはできない。王は後宮の取引先である大店を確実に反論の余地などできない切る理由が欲しかったのよ。それに選ばれたのが16歳にも関わらずなぜか市井から後宮に召し上げられた私」
「まさか……」
「私のところに送られた金5両分の饅頭の材料。あれ、王は私に贈ってないそうよ。運んできたあなたたちが何も調べられないとは思わないんだけど」
玲真は贈った覚えなどないといっていた、そして彼のことだ、すでに探りを入れていることだろう。
孫卓の眉がピクリとほんの少しだけ動いた。
思い当たることが彼にはあったのかもしれない。
「上級妃賓のところにもめったにおこしになられない王が、下級妃賓の私に贈り物をしたのよ。宮はあなたも知ってのとおりの備蓄庫のようなひどい有様。偉い人が当然確認に来てわかったわ。緘口令を敷かれたけれど、私が市井にいればどうせ私は殺される、口をつぐんでそのことを守る必要なんてないわ。
知ってか知らずかはわからないけれど、後宮に毒を運んでるのはあなたの店かもしれない。後宮のことを考えるならば、私は口をつぐみ捕まるのが一番いいでしょうね。そうすれば、どういう経路かはわからなくても、実際に品物を搬入してくる大店を一掃できるから。でも、私は後宮のことなんてどうでもいいのよ王様にそんな忠誠心なんてないわ。自分と家族が一番大切。そのためには今回の偉い人の思惑をつぶしてでも、私は後宮に戻る必要があるの。中に入れば後はどうとでもなる。私が後宮から出たことはもしかしたらまだばれてないかもしれない。だからこそ、後宮に戻れるよう協力して頂戴」
孫卓は愛想よく笑っているのに、値踏みされているのがわかる。
琳明は形式上座らせられただけにすぎず、今の立場としては圧倒的に張孫卓のほうが琳明よりはるかに強い。
「まず、私がここにいること。これがどれほどまずいことかあなたにはわかりますね」
琳明から話を切り出した。
「えぇ、えぇ。もちろんですとも」
愛想よく相槌を打たれると同時に、まずいことになれば人をすぐに呼べますよ、こちらはね。というのが透けて見える。
「取引をしましょう、張 孫卓」
「『かまいませんよ』言って差し上げたいのですが、ここは市井で琳明様は妃ですからね。何にでもいいお返事は出来かねます。内容をまずお聞きしましょう」
内容によってどうするか決めるとハッキリといわれてしまった。
「うーん、これはお願いじゃないわね。やらないとあなた大変な目にあうわよという警告のほうがあってるかしら」
お願いではなく、あくまで琳明が話しの中で優位に立つべく言い方をかえる。
「ほほう、さようでございますか」
これは困ったという顔をしただけで、張 孫卓はちっとも困っていないのがわかる。
表情だけで騙されるたまじゃない。
「信じてないのね」
孫卓は一見肯定的なことを言ってはいるが、琳明の話にただ相槌をうっていただけと言っても通じる話し方をしてくる。
「商人は疑うことが鉄則ですから、一応お聞きしますがあなたのお望みは」
「私は後宮にもう一度戻らねばならないの」
「市井に降りてみたものの、好いた男にでも振られましたか?」
にこやかな笑顔で市井にいる限り下級妃賓としても危うい琳明に対して、孫卓は以前と違い毒を吐く。
「後宮でなぜ子供が作られないか、あなたはご存知?」
「寝屋のことは流石に私どもには……」
「後宮に毒が平然と入ってくるからよ。上級妃賓の使うおしろいは鉛が入っている物でした。品物を下してるあなたなら、鉛入りのおしろいが禁止されたことは当然知っているはず。妃がいつの間にか銀杯ではなく陶器でお茶を飲まされてる。そんなところじゃ子など作れないそうよ」
「まさか……」
孫卓は琳明の言っていることに動じず愛想笑いを続ける。
「私がなぜ市井にいると思う? 本当に男がらみだとあなたは思う? 下級妃賓の中でもおそらく一番位が低く、見た目もぱっとしない私はせいぜい1年の我慢でほっておいても市井へ戻されると言うのに、なぜわざわざ危険を冒して外に出る必要があると思いますか?」
孫卓は琳明をサッと値踏みするかのように眺める。
悲しいかな町娘としてはそこそこの琳明だが、美女を集めた後宮では妃よりも下女と言われた方がしっくりとしてしまう。
「文も検閲がはいるし、市井に男がいたとしても男あてに文も出せないし、親族を通してでも妃がよその男に送る文など送れるはずもないし、よその男がどうなったかの連絡も親族から妃にできるはずもないですな。なるほど……なるほど」
下賜姫様でなければ、琳明の器量ではほっておいても市井に1年で帰れることは明白だった。
「私は空の木箱の中に入って市井に出されたわ。気絶してしまったからどういうやり取りがあったかわからないけれど。下級妃賓の私が外に出るコネがあるとあなたは思う? 大きな力が動いて妃を外にあえて出したというほうがあなたもしっくりくるのではなくて?」
張の顔は変わらない、一流どころの商人になればなるほど表情を取り繕うのを当たり前にこなす。張は小太りな男でその顔にはいつも穏やかに笑みが絶やされ人畜無害の人当たりのよさそうな顔を作れる。
本当に人がいいだけの人物では、こんな大店の主としてはやっていけないのだから。
「妃を外に出す目的は?」
孫卓が琳明に質問した。
「後宮に不穏なものを持ち込む輩を特定するより、後宮と付き合いのある大店を一掃して新しい業者にしたほうが簡単だし、疑わしい者も一掃される。でも付き合いが長くあちこちに顔の広い店を簡単に切ることはできない。王は後宮の取引先である大店を確実に反論の余地などできない切る理由が欲しかったのよ。それに選ばれたのが16歳にも関わらずなぜか市井から後宮に召し上げられた私」
「まさか……」
「私のところに送られた金5両分の饅頭の材料。あれ、王は私に贈ってないそうよ。運んできたあなたたちが何も調べられないとは思わないんだけど」
玲真は贈った覚えなどないといっていた、そして彼のことだ、すでに探りを入れていることだろう。
孫卓の眉がピクリとほんの少しだけ動いた。
思い当たることが彼にはあったのかもしれない。
「上級妃賓のところにもめったにおこしになられない王が、下級妃賓の私に贈り物をしたのよ。宮はあなたも知ってのとおりの備蓄庫のようなひどい有様。偉い人が当然確認に来てわかったわ。緘口令を敷かれたけれど、私が市井にいればどうせ私は殺される、口をつぐんでそのことを守る必要なんてないわ。
知ってか知らずかはわからないけれど、後宮に毒を運んでるのはあなたの店かもしれない。後宮のことを考えるならば、私は口をつぐみ捕まるのが一番いいでしょうね。そうすれば、どういう経路かはわからなくても、実際に品物を搬入してくる大店を一掃できるから。でも、私は後宮のことなんてどうでもいいのよ王様にそんな忠誠心なんてないわ。自分と家族が一番大切。そのためには今回の偉い人の思惑をつぶしてでも、私は後宮に戻る必要があるの。中に入れば後はどうとでもなる。私が後宮から出たことはもしかしたらまだばれてないかもしれない。だからこそ、後宮に戻れるよう協力して頂戴」
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