夕日と白球

北条丈太郎

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白球を追う少年たち

キャプテン最後のノック

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「いいか! 俺は野球は下手だったけどノックには自信があるんだ! 厳しいとこ行くぞ!」
 坂本はにっこり笑い、内野の位置についた新入部員たちにバットを向けた。
「どうぞキャプテン! 俺の守備を新入部員に見せますよ! さあ来い! さあ来い!」
 ショートの位置に入った鈴木和雄はグラブを叩きながら腰を落とし、鬼塚と山城を見た。
 すると坂本は息を吸ってボールを上げ、鈴木和雄の守備範囲ぎりぎりに強い打球を放った。
「はいよっと! おいセカン! 643だ! ベース入れ! ファーストだ!」
 鈴木和雄は二遊間を抜けようという打球を軽くさばき、セカンドに入った鬼塚にトスした。
「よっしゃ! おいケーマ! ゲッツー!」
 鬼塚はファーストに入っている山城啓馬に送球し、山城は腕を伸ばしてそれを捕球した。
「見事だカズ! それに鬼塚と山城も息が合ってる! なあカズ! タンピン!」
 坂本は思わず興奮して大声を出し、内野の面々に向かって右拳を向けて親指を立てた。
「キャプテン! 守備練習ですか? 久しぶりにキャプテンの守備見せてくださいよ!」
 グラウンドの外から駆け寄ってきたのは二年の中島銀次であった。
 中島銀次は坂本に一礼するとサードの位置を指差し、坂本からバットを奪った。
「じゃあ俺は本職のセカンドやりますよ。鬼塚だっけ? ショート入ってくれよ!」
 鈴木和雄は微笑みながらセカンドに入り、それを見た鬼塚はショートに入った。
「キャプテン! 543のゲッツーお願いします! それっ!」
 中島銀次がサードの坂本へ強い打球を放つと坂本は難なく捕り、ゲッツーを完成させた。
 それを見ていた太陽が思わず拍手したので坂本は照れ笑いを浮かべた。
 だがそのとき、坂本の目に涙が浮かんでいたのを夜空は見逃さなかった。
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