夕日と白球

北条丈太郎

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白球を追う少年たち

戻ってきた少年

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 丹下一平が夜空の胸ぐらをつかんだとき、キャプテン坂本が近くに寄ってきた。
「まあまあタンピン。新入部員には優しくしてやれ。せっかくできた後輩なんだから」
 キャプテン坂本に言われた丹下一平はひとまず落ち着き、夜空に握手を求めて笑った。
「……よろしくお願いしますタンピン先輩! いろいろと野球のこと教えてください!」
「何がタンピン先輩だこの野郎! 勝手にあだ名で呼ぶんじゃねえ! ……あれ? カズ?」
 怒りかけた丹下一平は自分を見て笑っている生徒に気付き、走り寄って怒鳴った。
「おいカズ! てめえ笑ってんじゃねえ! お前はもう野球部じゃねえんだ。帰れよ!」
 カズと呼ばれた小柄な生徒は細い目を開けて夜空を見た。そして笑った。
「新入部員が入ったって聞いたから見に来たけどタンピン先輩には会いたくなかったな」
 その言葉を聞いた丹下一平が顔を真っ赤にするとキャプテン坂本が割って入った。
「彼は一年のカズ、鈴木和雄だ。タンピンと合わなくて退部したけど野球は一番上手いんだよ」
 坂本の説明を聞いた夜空たちは鈴木和雄を見たが、彼は細い目をさらに細くした。
「新入部員が増えて試合ができるなら戻りたいけどタンピン先輩の指導は嫌だな」
「まあまあカズ、ちょっと新入部員にお前の守備を見せてやってくれ。なあ頼むよ」
 坂本に言われた鈴木和雄は仕方ないといった表情で部室に向かい、ユニフォームに着替えた。
「よっし! じゃあ軽くノックをやってみよう。鬼塚と山城も入ってくれ!」
 坂本に言われた鬼塚と山城はどうにも逆らえず、部室に行ってユニフォームを探した。
「……おいオニギリ、俺ら野球部に入れられちまったぞ。どうする?」
「ちょっとだけ付き合ってやろうぜケーマ。あのキャプテンはいい人だぜ」
 そして内野の守備練習が始まった。
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