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ケンタウロスの善行2
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彼女の虚ろな瞳と、夜の仕事で身につけた作り笑顔の奥には、深い疲労と病の苦痛が隠されていた。
クロエと同じ栗色の髪を持つ整った顔立ちの女性だった。
年齢は5、6程上か。
しかし、クロエの瞳に宿る荒々しくも鋭い光とは対照的に、シズクの瞳は色素が薄く、どこか遠くを見つめているように虚ろだ。白い肌は病の影響か、血色が悪く、その体つきは着ている粗末な衣類の上からでも分かるほど華奢で細い。
遊郭で働く女性特有の、濃い化粧が施されているが、その下に隠された深い疲労と、ポーションが切れかかっているであろう苦痛が、ミズミズしさを奪っていた。
シズクは、突然現れた冒険者風の二人を見て、客だと誤解した。
「あら、お客さんかしら」
シズクは咳を一つしてから、作り笑顔を顔に貼り付けた。
「お店には、体調が悪くて今日はお仕事ができないと伝えたんですけど……。申し訳ありません。他の娘を紹介するので、もう一度お店に戻ってきてくださる?」
ゴウキは顔を引き締め、低い声で言った。
「いや、お姉さん。俺たちはあんたたちの客じゃねぇ。あんたの妹に借りがあってな」
シズクの顔が、さらに不安と困惑で曇った。
「クロエがなんかしましたか? 申し訳ないですが、見ての通りお金ならありません」
パンッ。
ミナトの手がゴウキの頭を軽く叩いた。ゴウキは「痛っ」と低く唸る。
「馬鹿野郎。お前が言うと完全にそっち系なんだよ。ややこしくするな」
ミナトはゴウキを一瞥し、すぐにシズクに向き直った。
そのクールな美男子の顔には、真摯な表情が浮かんでいる。
ミナトは慎重に言葉を選んだ。
「昨日、君の妹は酔っ払い兵士に絡まれてポーションを割られていた。俺たちは、それを助けたのか迷惑をかけたのか分からないが……」
ミナトは、あの『短ケンタウロス』騒ぎを濁しながら説明した。
「とにかく、その償いにポーションも持ってきたが、クロエから話を聞いた。病気だそうだが、ちょっと体調も見せてくれないか?」
シズクは警戒を解かないが、ミナトの真面目な雰囲気に戸惑いを覚えた。
その瞬間、光が青白く、パッと一瞬だけ輝いた。
シズクとクロエの目の前の、空中に何もない場所に、一人の美しい少女が、突然、出現した。アルビノを思わせる白い肌と髪、白い服装。
彼女の体は、青白い光を帯びている。
「なっ!?」
シズクはベッドの上で、クロエは扉の前で、同時に息を呑んだ。
現れた少女 アイは、表情を変えずに二人に視線を向けた。
「あの、驚くのは分かりますが、静粛に願います。私は、」
アイは微かに眉をひそめ、不満を漏らす。
「そもそも、なぜ、皆さんは出現した私に、いちいち驚くのでしょうか。 私としては心外なのですが。」
ミナトは慣れた様子で、アイに促した。
「アイ、それは後だ。すぐにこのお姉さんを診察してやってくれ」
アイはすぐに切り替えた。
「はい。了解いたしました。シズクさん、失礼いたします」
アイはベッドのそばに音もなく移動すると、シズクの虚ろな瞳を覗き込み、手首の脈を測った。物理的にはシズクに触れているが、彼女の周りの埃や粗末な家屋の壁には一切干渉しない。その姿はまるで幻のようだ
。
数十秒後、アイは表情を変えずに診断を下した。
「病状は慢性的なものです、現在、体内に複数の毒素が高濃度で循環しています。通常のポーションでは完治することは出来ません」
アイはミズミズしさを失ったシズクの顔を観察する。
「体内の毒素を取り除く適正な解毒ポーションと、失われた生命力を補うためのハイヒールポーション(高純度治癒薬)が必要です。いつ症状が悪化するか分かりません。」
アイはそこで診察を止め、周囲を冷静に見渡した。
そして、ミナトとゴウキの両方の耳元に、声だけで囁いた。
ミナトはアイの言葉を受け、顔色を変えた。予想外の事態だ。
「ミナトさん、ゴウキさん。申し訳ございませんが、現状どの解毒ポーションが必要か至急調べ、適切な解毒ポーションを入手する必要があります」
「おい、ミナト……」
ゴウキも状況の深刻さに気づき、低い声でミナトに視線を向けた。
クロエと同じ栗色の髪を持つ整った顔立ちの女性だった。
年齢は5、6程上か。
しかし、クロエの瞳に宿る荒々しくも鋭い光とは対照的に、シズクの瞳は色素が薄く、どこか遠くを見つめているように虚ろだ。白い肌は病の影響か、血色が悪く、その体つきは着ている粗末な衣類の上からでも分かるほど華奢で細い。
遊郭で働く女性特有の、濃い化粧が施されているが、その下に隠された深い疲労と、ポーションが切れかかっているであろう苦痛が、ミズミズしさを奪っていた。
シズクは、突然現れた冒険者風の二人を見て、客だと誤解した。
「あら、お客さんかしら」
シズクは咳を一つしてから、作り笑顔を顔に貼り付けた。
「お店には、体調が悪くて今日はお仕事ができないと伝えたんですけど……。申し訳ありません。他の娘を紹介するので、もう一度お店に戻ってきてくださる?」
ゴウキは顔を引き締め、低い声で言った。
「いや、お姉さん。俺たちはあんたたちの客じゃねぇ。あんたの妹に借りがあってな」
シズクの顔が、さらに不安と困惑で曇った。
「クロエがなんかしましたか? 申し訳ないですが、見ての通りお金ならありません」
パンッ。
ミナトの手がゴウキの頭を軽く叩いた。ゴウキは「痛っ」と低く唸る。
「馬鹿野郎。お前が言うと完全にそっち系なんだよ。ややこしくするな」
ミナトはゴウキを一瞥し、すぐにシズクに向き直った。
そのクールな美男子の顔には、真摯な表情が浮かんでいる。
ミナトは慎重に言葉を選んだ。
「昨日、君の妹は酔っ払い兵士に絡まれてポーションを割られていた。俺たちは、それを助けたのか迷惑をかけたのか分からないが……」
ミナトは、あの『短ケンタウロス』騒ぎを濁しながら説明した。
「とにかく、その償いにポーションも持ってきたが、クロエから話を聞いた。病気だそうだが、ちょっと体調も見せてくれないか?」
シズクは警戒を解かないが、ミナトの真面目な雰囲気に戸惑いを覚えた。
その瞬間、光が青白く、パッと一瞬だけ輝いた。
シズクとクロエの目の前の、空中に何もない場所に、一人の美しい少女が、突然、出現した。アルビノを思わせる白い肌と髪、白い服装。
彼女の体は、青白い光を帯びている。
「なっ!?」
シズクはベッドの上で、クロエは扉の前で、同時に息を呑んだ。
現れた少女 アイは、表情を変えずに二人に視線を向けた。
「あの、驚くのは分かりますが、静粛に願います。私は、」
アイは微かに眉をひそめ、不満を漏らす。
「そもそも、なぜ、皆さんは出現した私に、いちいち驚くのでしょうか。 私としては心外なのですが。」
ミナトは慣れた様子で、アイに促した。
「アイ、それは後だ。すぐにこのお姉さんを診察してやってくれ」
アイはすぐに切り替えた。
「はい。了解いたしました。シズクさん、失礼いたします」
アイはベッドのそばに音もなく移動すると、シズクの虚ろな瞳を覗き込み、手首の脈を測った。物理的にはシズクに触れているが、彼女の周りの埃や粗末な家屋の壁には一切干渉しない。その姿はまるで幻のようだ
。
数十秒後、アイは表情を変えずに診断を下した。
「病状は慢性的なものです、現在、体内に複数の毒素が高濃度で循環しています。通常のポーションでは完治することは出来ません」
アイはミズミズしさを失ったシズクの顔を観察する。
「体内の毒素を取り除く適正な解毒ポーションと、失われた生命力を補うためのハイヒールポーション(高純度治癒薬)が必要です。いつ症状が悪化するか分かりません。」
アイはそこで診察を止め、周囲を冷静に見渡した。
そして、ミナトとゴウキの両方の耳元に、声だけで囁いた。
ミナトはアイの言葉を受け、顔色を変えた。予想外の事態だ。
「ミナトさん、ゴウキさん。申し訳ございませんが、現状どの解毒ポーションが必要か至急調べ、適切な解毒ポーションを入手する必要があります」
「おい、ミナト……」
ゴウキも状況の深刻さに気づき、低い声でミナトに視線を向けた。
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