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ケンタウロスの善行3
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ミナトがアイの囁きを受けて顔色を変え、ゴウキが何か言葉を発しようと口を開きかけた、その瞬間だった。
コンコン、コンコン
粗末な扉が、乱暴に二度ノックされた。
ゴウキは発言を止め、視線を扉に向けた。
ギギギ……
扉が開き、一人の若い男が中に入ってきた。
男は二十代前半。赤髪を無造作に伸ばし、ピアスをいくつか付けている。
服装は、中層の冒険者が着るような上質なレザーではない、安物の黒い皮ベストと、動きやすさを重視しただぶついたズボン。
その腰には、短剣ではなく、柄の長いナタのようなものがぶら下がっている。いかにも下層のチンピラといった風貌だ。
男は、部屋に入ってくるなり、シズクに向かって声をかけた。
「邪魔するぜ、シズク。体調はどうだ?」
男は薄暗い室内に目が慣れる前に、奥のベッドにいるシズクに近づこうとする。
しかし、男は一歩踏み出したところで、ゴウキの巨体と、その背後に立つミナトの姿にようやく気がついた。
その瞬間、男が目を見開いた。同時に、アイの姿はいつの間にか、青白い光と共に消えていた。
チンピラ風の男は、ミナトたちの冒険者らしい服装を見て、シズクと同じように「客」だと勘違いした。
「あ、ありゃ。すいませんね、お客様。いらっしゃってたんですね」
男は一転して愛想のいい、しかしどこか見下したような笑みを浮かべた。
男はそのままシズクのベッドに近づくと、体をかがめ、シズクの耳元で低い声で囁き始めた。その態度は、明らかに親密で、仲間内のものである。
「シズク、お前、店を通さずにあんまり客を取るなよ。面倒になるぞ。金がいるのは分かるが…」
男はそう言いながら、カバンから小さな紙包みと、木製の粗末な皿を取り出し、ベッド脇の小さな台に置いていく。
「これは飯と、いつもの薬な。早く回復して、また店に戻ってこいよ」
男が置いていったものから、シズクがここでどんな生活を送っているのかが、痛々しいほど伝わってきた。
ゴウキは、男の軽薄な態度と、シズクに向けられた言葉、そして露骨に置かれた「薬」を見て、小さく低い声で尋ねた。
「おい、クロエ。この若い男は誰だ?」
クロエは、男が来ることに慣れているのか普通に答える。
「あいつか? 2軒隣に住んでるギルだよ。姉ちゃんと一緒の店で働いてる。今の仕事もあいつに紹介してもらったんだ。見た目は怖いけど、ご飯届けてくれたり、薬持って来てくれたり良いヤツだよ。」
ギルと呼ばれた男は、ようやくクロエの存在に気づき、軽い調子で声をかけた。
「よ、クロエ。飯はちゃんと食えよ」
そして、ギルはミナトたちに向き直り、愛想笑いを浮かべた。
「俺はギルと言います。シズクの仕事の世話役でしてね。お二人は、シズクの病気が治るまで、しばらく他の娘で……」
ギルの言葉を聞いたゴウキは、顔の筋肉を微動だにさせないまま、深く息を吐き出した。
その表情からは怒りの感情は読み取れないが、周囲の空気がわずかに重くなったのをミナトは感じ取った。
ゴウキは無表情のまま、口角だけをわずかに持ち上げた。
その表情は「にこやか」というよりも、仮面のように不自然に貼り付けられた笑みだ。
「あぁ、すまない、君が思ってる客ではない。クロエの知り合いだ」
ゴウキの声は低く、感情の起伏がない。
ギルは一瞬、ゴウキの異様な迫力にたじろぎ、目尻をピクリとさせた。
「あ、はぁ……そうですか。」
ギルはすぐに愛想笑いに戻り、シズクの耳元から離れ、立ち上がった。
「それじゃ、シズク。飯食って早く寝ろよ」
ギルはそう言い残し、急いで扉へと向かった。ミナトたちに背を向けたその瞬間、ギルの表情から愛想笑いが消え、警戒の色が浮かぶ。
ギルは、外の闇へと逃げ込むように扉に手をかけ、「これで失礼」と声を荒げる。
その刹那、ミナトとゴウキは、瞳の奥だけで、鋭い目配せを交わした。
コンコン、コンコン
粗末な扉が、乱暴に二度ノックされた。
ゴウキは発言を止め、視線を扉に向けた。
ギギギ……
扉が開き、一人の若い男が中に入ってきた。
男は二十代前半。赤髪を無造作に伸ばし、ピアスをいくつか付けている。
服装は、中層の冒険者が着るような上質なレザーではない、安物の黒い皮ベストと、動きやすさを重視しただぶついたズボン。
その腰には、短剣ではなく、柄の長いナタのようなものがぶら下がっている。いかにも下層のチンピラといった風貌だ。
男は、部屋に入ってくるなり、シズクに向かって声をかけた。
「邪魔するぜ、シズク。体調はどうだ?」
男は薄暗い室内に目が慣れる前に、奥のベッドにいるシズクに近づこうとする。
しかし、男は一歩踏み出したところで、ゴウキの巨体と、その背後に立つミナトの姿にようやく気がついた。
その瞬間、男が目を見開いた。同時に、アイの姿はいつの間にか、青白い光と共に消えていた。
チンピラ風の男は、ミナトたちの冒険者らしい服装を見て、シズクと同じように「客」だと勘違いした。
「あ、ありゃ。すいませんね、お客様。いらっしゃってたんですね」
男は一転して愛想のいい、しかしどこか見下したような笑みを浮かべた。
男はそのままシズクのベッドに近づくと、体をかがめ、シズクの耳元で低い声で囁き始めた。その態度は、明らかに親密で、仲間内のものである。
「シズク、お前、店を通さずにあんまり客を取るなよ。面倒になるぞ。金がいるのは分かるが…」
男はそう言いながら、カバンから小さな紙包みと、木製の粗末な皿を取り出し、ベッド脇の小さな台に置いていく。
「これは飯と、いつもの薬な。早く回復して、また店に戻ってこいよ」
男が置いていったものから、シズクがここでどんな生活を送っているのかが、痛々しいほど伝わってきた。
ゴウキは、男の軽薄な態度と、シズクに向けられた言葉、そして露骨に置かれた「薬」を見て、小さく低い声で尋ねた。
「おい、クロエ。この若い男は誰だ?」
クロエは、男が来ることに慣れているのか普通に答える。
「あいつか? 2軒隣に住んでるギルだよ。姉ちゃんと一緒の店で働いてる。今の仕事もあいつに紹介してもらったんだ。見た目は怖いけど、ご飯届けてくれたり、薬持って来てくれたり良いヤツだよ。」
ギルと呼ばれた男は、ようやくクロエの存在に気づき、軽い調子で声をかけた。
「よ、クロエ。飯はちゃんと食えよ」
そして、ギルはミナトたちに向き直り、愛想笑いを浮かべた。
「俺はギルと言います。シズクの仕事の世話役でしてね。お二人は、シズクの病気が治るまで、しばらく他の娘で……」
ギルの言葉を聞いたゴウキは、顔の筋肉を微動だにさせないまま、深く息を吐き出した。
その表情からは怒りの感情は読み取れないが、周囲の空気がわずかに重くなったのをミナトは感じ取った。
ゴウキは無表情のまま、口角だけをわずかに持ち上げた。
その表情は「にこやか」というよりも、仮面のように不自然に貼り付けられた笑みだ。
「あぁ、すまない、君が思ってる客ではない。クロエの知り合いだ」
ゴウキの声は低く、感情の起伏がない。
ギルは一瞬、ゴウキの異様な迫力にたじろぎ、目尻をピクリとさせた。
「あ、はぁ……そうですか。」
ギルはすぐに愛想笑いに戻り、シズクの耳元から離れ、立ち上がった。
「それじゃ、シズク。飯食って早く寝ろよ」
ギルはそう言い残し、急いで扉へと向かった。ミナトたちに背を向けたその瞬間、ギルの表情から愛想笑いが消え、警戒の色が浮かぶ。
ギルは、外の闇へと逃げ込むように扉に手をかけ、「これで失礼」と声を荒げる。
その刹那、ミナトとゴウキは、瞳の奥だけで、鋭い目配せを交わした。
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