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ケンタウロスの善行12
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ギルが腐敗の事実を暴露し、再び殺意を漲らせた瞬間、ゴウキの腕の中にいるシズクが、涙と血でぐしょぐしょになった顔で、再び必死の懇願を繰り返した。
「どうか……クロエだけは助けて……」
その声は、命の灯が消えかけているかのような、か細い響きだった。
ゴウキは、ゆっくりと、しかし確実に腕の力を抜き、シズクから身体を離した。血塗れのシズクを真っ直ぐに見つめ、小さな声で、しかし力強い意志を込めて言った。
「クロエだけじゃない。二人だ。二人とも助ける」
その言葉は、シズクの絶望に、一条の光を灯した。
ゴウキは、血が流れ続ける肩を構わず、ゆっくりと立ち上がった。
大柄な体躯が立ち上がるだけで、部屋の圧力が一気に増す。
そして、ゴウキは再び、ギルに向けて闘気圧を解き放った!
「ガァァアッ!!」
その咆哮と共に放たれた闘気の塊は、空気そのものを叩きつける見えない波となり、ギルを襲う!
「ッ!?またか!」
ギルは、先ほどの経験から、とっさに驚愕の表情を浮かべた。
彼は、スキルで強化された機動力を最大限に活かし、後ろへと飛び退いた。
ドォン!
闘気圧はギルに直撃こそしなかったが、衝撃波が狭い部屋の壁や床を揺るがす。しかし、ギルは先ほどのように動けなくなることはなかった。
「同じ手は食らうかよ!」
ギルは、闘気圧の効力を無効化(レジスト)したことを証明するように、その場に留まり、ミナトを挑発した。これにより、両者の間に更なる距離が生まれた。
ミナトは、この千載一遇の隙を見逃さない。
「クロエ、ゴウキの後ろへ行け!」
ミナトの指示に従い、クロエはシズクのいるベッドへ駆け寄ろうとする。
ギルは、ゴウキの傷口に視線をやった。
彼の首から肩にかけて走っていた深い傷口が、まるで細胞が時間を巻き戻したかのように、みるみるうちに塞がり、出血が止まっているのを見て、驚きを隠せない。
「馬鹿な……お前はガーディアンじゃないのか?!」
ギルは混乱しながら叫んだ。
「俺のスキルで鑑定した結果、ガーディアンと表示されてたぞ! ガーディアンは自己回復魔法はないはずだ!」
傷口が塞がったのを確かめるように、ゴウキはゆっくりと肩を回した。
「そうだな。それも間違いではない」
ゴウキは、初めて自分のジョブの秘密の一端を明かし始めた。
「俺の場合は、ガーディアンのジョブを極めるために普段はガーディアンにしているが……メインはモンクなんだよ。」
彼は大剣を握るミナトを一瞥した。
「この世界には、サブジョブの概念があまりないのかもしれないな」
ギルは、その言葉の意味を即座に理解できなかった。
「ジョブをある一定の熟練度まで上げると、サブジョブを取得できる。ジョブの切り替えはまた、リスクや制限があるのだが……」
ゴウキは、それ以上話すのは無駄だと判断し、戦闘態勢を整えた。
「……まあ、こんな話は無駄だな」
彼の表情は、もはやお喋りを楽しむ余地は無いと告げていた。
ゴウキは立ち上がったまま、立て続けに複数の防御スキルを発動させた。
「『身体強化』、『防御力強化』、『耐久力強化』、『状態異常抵抗』、『魔法防御力強化』!」
彼の身体は、複数のバフによってさらに膨れ上がり、皮膚の下で筋肉が脈打つ。その上で、彼は二人を守るための奥の手を発動した。
ゴウキを中心に、周囲の空気が振動し、球体の青い光がシズクとクロエの二人を優しく、しかし強固に包み込んだ。
「『献身の誓い(プロテクト・ボンド)』――ミナト、済まなかったな。二人は任せろ。後は頼む」
この魔法は、光に包まれた二人が受ける全てのダメージを、ゴウキが代わりに引き受ける究極の防御魔法だ。
ミナトは、ゴウキの決意と、致命傷を負いながらも防御の要となったその行動を、無言で受け止めた。
ミナトは、大剣を低く構える。その瞬間、彼の美貌と、長身から放たれる雰囲気が、一変した。
周りの泥や埃までが、ミナトを中心とした重力に引き寄せられるかのように、静止したように感じられる。
ギルは、本能的に致命的な危険を察知し、表情に強い警戒の色を浮かべた。
ミナトの切れ長の瞳が、獲物を仕留めるハンターのように鋭く光る。
彼は、サブジョブのウォーリアとして隠していた固有スキルを発動させた。
「『ヒットボックス・ブレイク(当たり前の崩壊)』」
スキルが発動した瞬間、ミナトの構える大剣が物理法則から一瞬だけ切り離されたかのように、歪んだ錯覚を覚える。
ミナトは、一歩踏み込みと同時に、重い大剣を、まるで羽のように軽やかに、しかし凄まじい速度で振り下ろした!
ギルは、ミナトの踏み込みの速さに驚愕しながらも、アサシンとしての勘で、剣先をギリギリの距離で確実に見切り、後ろに飛び退いた。
「もらった!」
ミナトの剣先が地面に振り下ろされたのを確認したギルは、勝利を確信した。彼は即座にスキルで強化された機動力を使い、音もなく踏み込み、ミナトの首元目掛けて、サバイバルナイフを振り下ろした!
しかし、そうはならなかった。
ゴォォオオオオオオッ!!
ギルの振り下ろしたサバイバルナイフが、ミナトの首に届く前に、耳を劈くような爆音が部屋全体を揺るがした。
砂煙が巻き起こり、部屋全体を白く覆い尽くす。
そして、ギルが背後に感じたのは、激しい衝撃ではなく、壁際、床、そして天井が音を立てて崩れ落ちる、破壊の轟音だった。
砂煙が薄くなる。
ギルは、勝利を確信したはずの自分の足元を、信じられない思いで確認した。
彼の振り下ろしたはずのサバイバルナイフが、床に転がっていた。
ナイフだけではない。
そのナイフを握っていた、ギルの右腕ごと、肘の少し上から完全に切断され、地面に転がっていた。
右脚はかろうじてあるが、体勢を維持できず、その場でドサリと崩れ落ちる。
ギルは血飛沫を上げながら、状況を把握しようと、視線を上げた。
目の前には、柄だけになった大剣を握りしめているミナトが立っていた。
大剣の刃は、柄とつばを残して完全に消失している。
ミナトが武器を振るった直線上は、床も壁も天井も、大剣の刃が通った跡が、まるで空間ごと切断されたかのように、全てえぐり取られていた。
ギルは、理解できない。あまりに異質な、超越的な力だった。
「お前……何をした……」
彼は息も絶え絶えに、かすれた声でミナトに尋ねた。
「どうか……クロエだけは助けて……」
その声は、命の灯が消えかけているかのような、か細い響きだった。
ゴウキは、ゆっくりと、しかし確実に腕の力を抜き、シズクから身体を離した。血塗れのシズクを真っ直ぐに見つめ、小さな声で、しかし力強い意志を込めて言った。
「クロエだけじゃない。二人だ。二人とも助ける」
その言葉は、シズクの絶望に、一条の光を灯した。
ゴウキは、血が流れ続ける肩を構わず、ゆっくりと立ち上がった。
大柄な体躯が立ち上がるだけで、部屋の圧力が一気に増す。
そして、ゴウキは再び、ギルに向けて闘気圧を解き放った!
「ガァァアッ!!」
その咆哮と共に放たれた闘気の塊は、空気そのものを叩きつける見えない波となり、ギルを襲う!
「ッ!?またか!」
ギルは、先ほどの経験から、とっさに驚愕の表情を浮かべた。
彼は、スキルで強化された機動力を最大限に活かし、後ろへと飛び退いた。
ドォン!
闘気圧はギルに直撃こそしなかったが、衝撃波が狭い部屋の壁や床を揺るがす。しかし、ギルは先ほどのように動けなくなることはなかった。
「同じ手は食らうかよ!」
ギルは、闘気圧の効力を無効化(レジスト)したことを証明するように、その場に留まり、ミナトを挑発した。これにより、両者の間に更なる距離が生まれた。
ミナトは、この千載一遇の隙を見逃さない。
「クロエ、ゴウキの後ろへ行け!」
ミナトの指示に従い、クロエはシズクのいるベッドへ駆け寄ろうとする。
ギルは、ゴウキの傷口に視線をやった。
彼の首から肩にかけて走っていた深い傷口が、まるで細胞が時間を巻き戻したかのように、みるみるうちに塞がり、出血が止まっているのを見て、驚きを隠せない。
「馬鹿な……お前はガーディアンじゃないのか?!」
ギルは混乱しながら叫んだ。
「俺のスキルで鑑定した結果、ガーディアンと表示されてたぞ! ガーディアンは自己回復魔法はないはずだ!」
傷口が塞がったのを確かめるように、ゴウキはゆっくりと肩を回した。
「そうだな。それも間違いではない」
ゴウキは、初めて自分のジョブの秘密の一端を明かし始めた。
「俺の場合は、ガーディアンのジョブを極めるために普段はガーディアンにしているが……メインはモンクなんだよ。」
彼は大剣を握るミナトを一瞥した。
「この世界には、サブジョブの概念があまりないのかもしれないな」
ギルは、その言葉の意味を即座に理解できなかった。
「ジョブをある一定の熟練度まで上げると、サブジョブを取得できる。ジョブの切り替えはまた、リスクや制限があるのだが……」
ゴウキは、それ以上話すのは無駄だと判断し、戦闘態勢を整えた。
「……まあ、こんな話は無駄だな」
彼の表情は、もはやお喋りを楽しむ余地は無いと告げていた。
ゴウキは立ち上がったまま、立て続けに複数の防御スキルを発動させた。
「『身体強化』、『防御力強化』、『耐久力強化』、『状態異常抵抗』、『魔法防御力強化』!」
彼の身体は、複数のバフによってさらに膨れ上がり、皮膚の下で筋肉が脈打つ。その上で、彼は二人を守るための奥の手を発動した。
ゴウキを中心に、周囲の空気が振動し、球体の青い光がシズクとクロエの二人を優しく、しかし強固に包み込んだ。
「『献身の誓い(プロテクト・ボンド)』――ミナト、済まなかったな。二人は任せろ。後は頼む」
この魔法は、光に包まれた二人が受ける全てのダメージを、ゴウキが代わりに引き受ける究極の防御魔法だ。
ミナトは、ゴウキの決意と、致命傷を負いながらも防御の要となったその行動を、無言で受け止めた。
ミナトは、大剣を低く構える。その瞬間、彼の美貌と、長身から放たれる雰囲気が、一変した。
周りの泥や埃までが、ミナトを中心とした重力に引き寄せられるかのように、静止したように感じられる。
ギルは、本能的に致命的な危険を察知し、表情に強い警戒の色を浮かべた。
ミナトの切れ長の瞳が、獲物を仕留めるハンターのように鋭く光る。
彼は、サブジョブのウォーリアとして隠していた固有スキルを発動させた。
「『ヒットボックス・ブレイク(当たり前の崩壊)』」
スキルが発動した瞬間、ミナトの構える大剣が物理法則から一瞬だけ切り離されたかのように、歪んだ錯覚を覚える。
ミナトは、一歩踏み込みと同時に、重い大剣を、まるで羽のように軽やかに、しかし凄まじい速度で振り下ろした!
ギルは、ミナトの踏み込みの速さに驚愕しながらも、アサシンとしての勘で、剣先をギリギリの距離で確実に見切り、後ろに飛び退いた。
「もらった!」
ミナトの剣先が地面に振り下ろされたのを確認したギルは、勝利を確信した。彼は即座にスキルで強化された機動力を使い、音もなく踏み込み、ミナトの首元目掛けて、サバイバルナイフを振り下ろした!
しかし、そうはならなかった。
ゴォォオオオオオオッ!!
ギルの振り下ろしたサバイバルナイフが、ミナトの首に届く前に、耳を劈くような爆音が部屋全体を揺るがした。
砂煙が巻き起こり、部屋全体を白く覆い尽くす。
そして、ギルが背後に感じたのは、激しい衝撃ではなく、壁際、床、そして天井が音を立てて崩れ落ちる、破壊の轟音だった。
砂煙が薄くなる。
ギルは、勝利を確信したはずの自分の足元を、信じられない思いで確認した。
彼の振り下ろしたはずのサバイバルナイフが、床に転がっていた。
ナイフだけではない。
そのナイフを握っていた、ギルの右腕ごと、肘の少し上から完全に切断され、地面に転がっていた。
右脚はかろうじてあるが、体勢を維持できず、その場でドサリと崩れ落ちる。
ギルは血飛沫を上げながら、状況を把握しようと、視線を上げた。
目の前には、柄だけになった大剣を握りしめているミナトが立っていた。
大剣の刃は、柄とつばを残して完全に消失している。
ミナトが武器を振るった直線上は、床も壁も天井も、大剣の刃が通った跡が、まるで空間ごと切断されたかのように、全てえぐり取られていた。
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