【R18】剣と魔法とおみ足と

華菱

文字の大きさ
45 / 45

はじまりの

しおりを挟む
桜色の魔力の残滓が揺蕩う中、視界の片隅にかろうじて捉えた半分になった魔物、それが動かなくなったのを確認したところで
……ガクン あ、ダメだ力がはいらない。
「トーノ!トーノ!」
薄れゆく意識のなかでオトハの泣き叫んだ声がいやに耳に残った。
……ごめんな



「……ッぅ」
身体中が軋むように痛い。
痛い?へ?生きてる……?

鼻孔をくすぐったのはツンとした薬草の匂い。
その香に身体中が包まれてる。

ゆっくりと上体を起こす、ボキボキとまるで長時間寝て起きた後のように間接が鳴る音がした。
そして自らの状態を確認していく。
胸当て等、防具も外され、簡素な麻でできた服を着ている。
グーパーグーパーと手を握りしめては離してを繰り返す。
先ずは左手から、問題はない。
右手は重い。ん?

「……オトハ?」
俺の右手をすがり付くように抱き締めて眠るオトハがいた。

「ん、んぅ……?ト、トーノ!」
カバッと起きて抱きついてくる。

「く、苦しいよ」
「トーノ!トーノォ!よかった、目が覚めた」
ぎゅっと背中に回された腕、俺の肩に伝わる涙の湿りが自然と言葉をはかせた。
「……ごめん」
「トーノのばぁかぁ、」
泣きじゃくる彼女の背中をポンポンとあやしながら、俺は暫くこの心地よい苦しさに身を委ねていた。




どれくらいの時間が経過したのだろうか、ようやく泣き止んだオトハはぽつりぽつりと俺と戦場で別れた後のことを話してくれた。


あの後、オトハたち三人は無事に本陣へとたどり着けたらしい。
そして、チグサ嬢を医療班にあずけたあと、再び俺を助けに戻った。
ここまでは知ってる、助けてもらったから。

「二人は、アルミ様とチグサ様は無事か!?」
「……うん、大丈夫、二人とも生きてる、少し治療に時間がかかるみたいだけれど命に別状はないって」
「……そっか」


「あの魔物を倒したあと気を失った俺とアルミ様をオトハが連れて逃げてくれたのか?」
「ううん、私じゃない」

なんでも二人が俺を助けに戻ろうとした所で王都からの応援が到着したそうだ。
《剣聖》率いる騎士団の精鋭部隊と聖女を中心にした《封印の祭殿》を再封印するための巫女たちだ。

《剣聖》リンドウ=フォン=アイゼンフィート、チグサ嬢の父親にしてユナイト王国最強の騎士である。

《聖女》は結界系統の術式を得意とする魔術師の中でもとりわけ優れたものへ与えられる称号であり、役職である。
ユナイト王国では現在4人が認定されており、今回はそのうちの一人が同行してるらしい。

《封印の祭殿》を鎮めるため祭殿を囲う森へ向かうこの部隊に二人は同行して、途中で俺の魔力を感じとって飛び出したそうだ。

そこからは知っての通り、俺を庇ってアルミ嬢が毒針に倒れ、最期の力で俺に魔力を託した。
そして《同調魔法》を発動させ敵を打ち倒した。
俺はそこで気を失った。

動けなくなった俺達を保護してくれたのが剣聖の部隊だった。
だから俺は今生きている。

剣聖たちは《封印の祭殿》を周辺の森ごと結界で覆った後、結界外の魔物を伐っていった。
彼らによってSランク含めた強大な魔物が倒され、ひとまずは戦が終わったみたいだ。

そんな中で俺は3日間も眠っていたらしい。
その間、オトハは付きっきりで看病してくれていたみたいだ。

怪我自体は大したことなかったのだが、極度の疲労と魔力切れによるものだと診断を受けていた。

アルミ嬢は魔力切れに加えて出血多量、チグサ嬢は障気に蝕まれており、二人は重症であった為、オトハに出来ることはなく、医師からは命に別状はないと言われていたものの、俺も目が覚めなくて不安でしかたなかったみたいだ。

「……ごめん」
「うぅ……ぐず、ぐす……ゆるさない、もうかってなことしないで、どこにもいかないで」

ただ彼女の涙が深く俺の胸に突き刺さった。


目が覚めてから一週間、重症で動かせない二人をハクレンに残し俺とオトハ、他のクラスメイトたちは学園に戻っていた。

二人がいない日常を過ごす。
クラスメイトたちもどこか浮わついたままだ。

いつもと変わらない教室。
けれど彼女たちがいないだけで……



それから一月が経過して、二人が学園に復帰する日が来た。

「お久しぶりです、トーノさん」
「……チグサさまッ」
「はい、貴方のチグサですッ」
そういってお茶目に笑う彼女をみて、自分の顔がくしゃくしゃになるのがわかった。
ああ、よかった、ぶしで、ほんとに
「私たちの感動の再会をもう少し堪能したいところですけど、今日は姫様に譲ってさしあげます、姫様は寮の自室にいらっしゃいますから会いに行ってあげてください」
「……はい」


チグサ嬢と共に寮へと向かい歩く。
いつも歩く道のりも何故か長く長く感じた。
風に揺られながら考える。
いや、ここ一ヶ月ずっと考えていた。
俺は彼女たちの隣に居る資格はないんじゃないかって、
《同調魔法》訓練で1度も発動させることが出来なかった信頼の魔法。
発動出来なかった理由はずっと前からわかっていた。
俺が拒絶していたからだ、俺がずっとひとりぼっちだと思っていたからだ。
元の世界では物語の中だけだった魔法が当たり前に日常の中にあって、魔物とかいう化物が簡単に人の命を奪うセカイ、常識から何もかもが違うセカイで俺は孤独を感じていたのだ。

独りなのが辛くて、確固たる繋がりが欲しくて、
身体を重ねている時だけがその寂しさを紛らわせてくれて、
何がハーレムだよ、ただ寂しかっただけじゃないか、

ちがうだろ、気づいていたはずだ、彼女たちの優しい眼差しが、ここに居ていいって言ってくれていることに、
居場所なら等の昔にできてたんだ。
ただ俺が気がつかない振りをしていただけ。

今回の結果はそんな俺の弱さが招いたものだった、だから俺はもう皆の側にいる資格なんて……

チグサ嬢はなにも言わずただその歩調を俺に合わせてくれていた。

アルミ嬢の部屋の前にたどり着いた。
ノックをする。
「どうぞ開いています」

「それでは私はここで待っていますね」
チグサ嬢に頭を下げて部屋にはいる。

……覚悟はできてる。

「久しぶりですね、トーノ」
その姿を、その声を聴いた瞬間、訪れたのは深い安堵だった、良かった生きてる。
彼女はベットに横になり、上体だけを起こして俺を見ていた。


「……アルミさま、俺、おれ」
俺がちゃんと自分の心に、彼女たちに向き合っていれば、《同調魔法》を最初から使うことができて、彼女たちが死にかけることもなかったのだろう。
俺にはもう、彼女たちの側に居る資格はない。
……そう思って、別れを告げにきたはずなのに、俺は別れの言葉を口に出せなかった。
言わなきゃ、たった一言でいい。ごめん、もう貴女にに会わないと。頭ではそう考えてるのに、言葉を発することができなかった。
その代わりに涙の雫が頬に一筋の跡を残した。



そんな俺をみて、彼女はしかたない人ですね、と小さく呟いてベットに座り

「トーノ=マガネ!膝まずいて私の足を舐めなさい!」

それはいつかの教室と同じて……
ただ1つ、あの日と違ったのは彼女はとても優しい表情をしていて……

だから、俺は……


ーーー膝まずいて、そのおみ足に、はじまりのキスをしたんだ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

処理中です...