勘とノリでやってたら、七戦士に選ばれた〜if story〜

過去編

父となった日

「……ごめん、ギル。この子預かってくれないかな。」

「突然なんだよ。てか、えらいやつれてるじゃねえか。」

その日はやけにいい天気で、川の水も沸騰するんじゃないかってくらい暑い日だった。
なんの前触れもなくやって来たコイツはしばらく会っていなかった学園時代の友人、シアーズ・リベラだった。

「んで、何があったんだ。ーー大方その赤ん坊が理由なんだろうけどな。」

シアーズの腕に抱かれた赤ん坊は穏やかに眠っている。
反対にシアーズは青白い顔で俯いている。

なんだ、隠し子か？
そう思ったが、コイツは他のなりより家族を大切にしているし（溺愛しすぎて周りが引いてるが）最近男の子が生まれたばかりだと聞いた。
それにこの子供は黒髪だ。シアーズは藍色だし、奥さんも茶髪だったはずだ。

「おい、それは誰の子だ？」

「…王太子の子供だ。」

「はあ？なんでこんなとこ連れて来てんだよ？」

王太子の子供を連れ出すとか、まずいだろ。
下手したら極刑だぞ？

「双子だったんだ。王族の双子は忌み嫌われているから。この子は…この子はこのままだと殺されてしまう。」

「……変わんねえな、王族も。」

双子だからなんだ。
あんな大昔の出来事いちいち気にしてんのかよ。
あれはもうとっくに終わったことだってのに。
悪しき仕来りを受け継ぎ、変化を恐れる。
特に今の王は最低だ。怠惰の極み、私利私欲の塊。
国民をなんだと思ってやがる。

「ギルが王族を嫌ってるのは分かってる。けど、この子をこんなくだらない理由で死なせたくないんだ。」

「バレてないのか？ここに連れ出してること。」

「この子を生かしてやってくれって言ってきたのは王太子だからね。あの方は他の王族とは違う。生まれてきた命を殺せなんて言う奴らとは。」

「事情は分かった。だがなんでオレなんだ？」

オレは結婚してないしそもそも恋人すらいない。
ましてや子供の育て方なんぞ何も知らない。
こんな山の中にある家に引きこもってちゃそうだろうが。

「最初は自分の子として育てようと思ったんだ。けどリベラ家は王家と関わりがある。ましてや俺は件の王太子と友人だ。リスクが高すぎる。」

「一理あるな。だがオレにその赤ん坊が育てられるとでも？しかも王族に関わってくる問題だし。正直、引き受けられる気がしねえ。」

「急に来てこんなこと言って困らせるのは本当に申し訳ない。けど、どうかこの子の命を救ってくれよ…！」

今にも泣き出しそうなシアーズ、相変わらず眠っている赤ん坊。
オレは赤ん坊に近づいて顔を覗き込む。

自分の生死が関わってるってんのに呑気に寝てんなあ。ーー幸せそうな顔。

この尊い命が、幸せそうな笑みが勝手な理由で失われてしまうのなら、それは間違っている。
上手く育てられる自信はない。だが……

「分かった。引き受けるよ。」

「本当か！？」

「ああ。…コイツ名前はなんて言うんだ？」

「オルティスだ。」

「オルティス、か。」

シアーズに赤ん坊ーーオルティスを手渡される。
抱いてみたのは良いものの、いかせん赤ん坊を抱くなんて初めてだ。落としそうで怖い。
ただ、 腕の中にあるこの温もりは確かだ。
思わず顔が綻ぶ。

意外と、子供ってのも悪くないかもな。

「有難う。こんなこと押し付けて悪い。」

「いや、大丈夫だ。……だから、」

この子を立派に育てる為にも、

「まずはココからどうするか教えてくれ。」

不器用で言葉足らずな人間だし、きっと不甲斐ない父親になるだろうけど
これからどうか宜しくな、オルティス。