【完結】月と羊 〜その声に恋をしていた〜

西宮裕華

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第4章

この瞬間がもっと続けばいいのに(Side;菜緒)

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「え……、なんか……絵になる……」

 私が動物園の前に着いたとき、日辻さんは既にそこにいた。

 
 長身で黒髪、黒縁眼鏡。
 端正な顔立ちでありながら、どこか安心感のある佇まい。無地のTシャツにシャツを羽織っただけのカジュアルな装いなのに、妙に目を引く。

 彼を真正面からちゃんと見たのは、これが初めてかもしれない。


「…今時の塩顔イケメンって……こういう人を言うのかな」

 そんなことを思って、自分が「イケメン」の定義を考えていることが少し恥ずかしくなった。

 しかも、そんな彼が待っている相手が——自分だということがなんだかとても不思議だった。



 動物園は、とても楽しかった。
 私も昔から水族館や動物園が好きだったし、お気に入りの実況者、羊さんが動物好きなこともあって更に好きになっていた。


 日辻さんは、動物のことを丁寧に、楽しそうに話してくれた。まるで羊さんみたいに。

 
 ミーアキャット、ペンギン、そして、チンチラ。

「俺がいちばん好きな動物なんです」

 そう言って目を細める彼の横顔が、なんだか可愛くって——
 私もつられて、食い入るように見てしまっていた。


 ふわふわしてて、小さくて、つぶらな瞳。しっぽはフサフサ。

 羊さんの実況でも可愛いって聞いていたけど——

「わぁ……話には聞いてたけど、ほんと、可愛い……」

 想像以上に愛くるしい姿に夢中になった。
 
 
 彼のちょっと照れたような優しい笑顔と引き込まれるような話し方。気がついたら私も笑顔になっていて、たくさん話をして、時間があっという間に過ぎた。


 帰り際、チンチラのぬいぐるみを贈られたときは驚いたけれど、顔を選ぶ時間さえも楽しくて、ずっと笑っていた気がした。



 別れの電車で、彼は何も言わずに見送ってくれた。

 そのことをなんとなく寂しく思いつつも、腕の中のチンチラが今日の楽しさが嘘じゃないってことを教えてくれている。そんな余韻に浸りながら家に帰った。


 マンションに着いてポストを開け、部屋に入って——


「……えっ!? ウソっ!!」

 封筒の中身を見て、思わず叫び声が漏れた。


『GG4 公開実況イベント・繰り上げ当選のお知らせ』


 手元のチンチラを、思いきりぎゅっと抱きしめる。

 1ヶ月後のGG4の公開実況イベントに当選したのだ。


「連絡なかったから落選したかと……。繰り上げ当選ってことは、たぶんキャンセルが出たんだよね、どうしよう!すごく嬉しい!!」


(羊さんに会える……!)


 頬が熱い。心臓がドキドキしている。

 きっと人生の中で、特別な日になる——そんな予感がしていた。
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