【完結】月と羊 〜その声に恋をしていた〜

西宮裕華

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第13章

仲間たちからのエール

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 智士と井口が去って、二人、残された控え室。
 四宮が、残ったカップ麺を一口すすって、ぼそっとつぶやいた。

「……Renさんさー、菜緒ちゃんに告ったの、全部が全部、本気だった?」

 齊藤は苦笑しながら答える。

「半分くらい……かな」

「やっぱり。俺の勘、当たるんだよねー。羊くんに発破かけるつもりだったろ」

「……どうだかな」
 そう言いながら、齊藤はコーヒーをカップに注いだ。

 軽く笑ってはみせたけれど、どこか本音を隠したようなその表情に、四宮はふっと息をはいた。

「ま、でもさ。いい仕事したよ、あんた」

 齊藤は何も答えず、ただコーヒーを静かに口に運んだ。



 車内には、沈黙が流れていた。

 井口さんは、何も言わなかった。ただ、時折ちらりと俺の横顔を確認するように視線を送るだけだった。

 俺の頭の中ではずっと、さっきまでの齊藤さんの言葉が回っていた。

──「俺が告白したとき、誰のこと考えてた?って聞いたらさ、しばらくして真っ赤な顔して目、見開いてた」

──「ペンギンのキーホルダー、ずっと握ってたよ。羊くんなら、意味、わかるだろ。ってか、いい加減、わかれよ」

 心臓が何度も高鳴って、また落ち着いて、そしてまた跳ね上がる。自分に向けられた確信のない言葉、でも確かに心に届いてしまった言葉たち。

 ああ、もう——わかってるんだ。

 なのに、どうして動けなかったんだ。

 信じて、踏み出せばよかっただけなのに。


「……羊くん」

 ふいに、井口さんが口を開いた。信号待ちのタイミング。視線は前を向いたままだが、声にはいつもの落ち着きと優しさがあった。

「俺さ、昔、すっげえ好きだった子に告白できなかったことあるんだよね。今はさ、嫁さんと娘がいてめっちゃ幸せだけど、でも、ふとしたときに思い出す。あのとき、ちゃんと気持ち伝えてたら、何か変わってたかなって」

 俺はそっと顔を向けた。

「実況者やってると、日常が普通じゃなくなってくる。時間も不規則だし、世間的には不安定って思われることも多い。でも、だからって、大切な人に本当のことを言えないのは違うと思う」


 信号が青に変わり、車はゆっくりと動き出す。

「…お前さ、月平さんのこと、どう思ってんの?」

「……好きです」

 その言葉に、自分でも驚いた。こんなに簡単に出るはずのない言葉が、喉を通って空気に溶けた。

「じゃあ、さ。全部伝えておいでよ。お前の言葉で。羊でも、日辻でも、関係ない。お前自身が、どう思ってるかだよ」

 井口さんのその言葉が、胸に深く刺さった。


 気づけば車はもう、俺のマンション前だった。

「ありがと、ぐっちさん」

「うん。あとは、お前の番だな」

 井口さんの車が去っていくのを見送って、スマホを手に取る。

 連絡しよう。会って、話そう。

 彼女の心に、自分がまだ少しでもいるなら。

──いや、たとえいなくても。ちゃんと、自分の想いを伝えよう。

 震える指で、LINEを開いた。

《こんにちは。少しだけ、お時間もらえませんか?》

 送信ボタンを押すと、胸の奥でずっと渦巻いていたモヤが、ほんの少しだけ晴れたような気がした。
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