22 / 33
第15章
彼女に会いに行く
しおりを挟む
メッセージは送った。けれど、既読はつかない。
じれったい。焦れる。あんなに話したいと思っていたのに、言いたいことは何ひとつ伝えられず、時間だけが過ぎていく。
スマホを見つめながら、俺は大きく息を吐いた。胸の奥が落ち着かない。どこかにぶつけたいような衝動が、抑えきれずに体の中を巡っていた。
「……会いてぇ」
吐き出した言葉に、自分でも驚くほどの感情が滲んでいた。気づけば、車のキーを手に取っていた。何も考えずに。まるで身体の奥から突き上げてくるような衝動だった。
行き先は彼女が働く病院。彼女に会える保証なんてないけど、たぶん——一番会えるのはここだと思った。
病院の近くのコインパーキングに車を停めて、病院の前にあるガードレールに腰を下ろす。
行き交う人たちの視線が痛い。だが、そんなことはもうどうでもよかった。
「ストーカーか、俺は……」
自嘲気味に呟く。
けれど、それでもいいと思った。ただ、もう一度だけ会って話したかった。
どれくらい待っただろうか。ふと、自動ドアが開き、大きな荷物を抱えた女性、月平さんの姿が見えた。
(——いた。)
反射的に立ち上がり、近づこうとしたその時。
白衣姿の若い男性が、彼女の後ろから走り寄ってきた。
「姉ちゃん、大丈夫? 熱あるって聞いて……!」
前に一度、公開実況の時に見かけた顔だった。たしか弟だと言っていた。改めて見ると確かに似ている気がする。
「大げさだなぁ、大丈夫。ホテル取って休むから」
彼女の声は明るいが、力はない。
「じゃあせめて送るよ」
「今夜当直でしょ? あんたの準備が先ー」
そう言って踏み出したその瞬間。彼女の体が、ふらりと傾いた。
「菜緒さん!」
反射的に名前を呼んで、体が動いた。地面に崩れそうになった彼女の身体を、しっかりと胸の中に抱き留める。
柔らかくて、細い身体。鼻をかすめるのは、消毒薬の匂いと、シャンプーの香り。
心臓が激しく音を立てる。この人に触れている。それだけで、全身の血が沸騰しそうだった。
「……えっ!?誰?……あれ?羊さん!?え、羊さんですよね!?実況者の!?なんで……姉ちゃん知ってる!?」
パニック気味の弟くんに、「ちょっとした知り合い」と説明する。彼女の現状について尋ねると、彼は困ったように事情を話してくれた。
話を聞けば、彼女は今、マンションの漏水で家に戻れず、病院に泊まり込んでいるという。ただでさえ休みが少ないなか、他人のシフトの穴埋めまで引き受けてしまい、とうとう今日、過労で発熱したらしい。
「俺も姉ちゃんが心配なんですけど、寮なんで、家族でも女性を泊めるのはちょっと…。本人はホテルに……って言い張るんですけど」
俺は腕の中で荒い呼吸をする菜緒さんの様子を見つめながら、はっきり言った。
「ありがとう。そしたら俺が、面倒見るよ。車で来てるし、家に連れて帰って休ませる。弟くんの連絡先、聞いてもいい?状況、逐一報告するから」
拓実くんはじっと俺を見つめてきた。大事な姉を任せられる相手なのか、慎重に見極めようとする視線。真っ直ぐにその視線を受け止る。
そして、優しく大切に彼女を抱き上げると、頼んだ。
「悪いけど、荷物だけ、車までお願いできるかな」
その瞬間、拓実くんの表情が少しだけ緩んだ。
「よろしく、お願いします。姉ちゃんのこと…」
じれったい。焦れる。あんなに話したいと思っていたのに、言いたいことは何ひとつ伝えられず、時間だけが過ぎていく。
スマホを見つめながら、俺は大きく息を吐いた。胸の奥が落ち着かない。どこかにぶつけたいような衝動が、抑えきれずに体の中を巡っていた。
「……会いてぇ」
吐き出した言葉に、自分でも驚くほどの感情が滲んでいた。気づけば、車のキーを手に取っていた。何も考えずに。まるで身体の奥から突き上げてくるような衝動だった。
行き先は彼女が働く病院。彼女に会える保証なんてないけど、たぶん——一番会えるのはここだと思った。
病院の近くのコインパーキングに車を停めて、病院の前にあるガードレールに腰を下ろす。
行き交う人たちの視線が痛い。だが、そんなことはもうどうでもよかった。
「ストーカーか、俺は……」
自嘲気味に呟く。
けれど、それでもいいと思った。ただ、もう一度だけ会って話したかった。
どれくらい待っただろうか。ふと、自動ドアが開き、大きな荷物を抱えた女性、月平さんの姿が見えた。
(——いた。)
反射的に立ち上がり、近づこうとしたその時。
白衣姿の若い男性が、彼女の後ろから走り寄ってきた。
「姉ちゃん、大丈夫? 熱あるって聞いて……!」
前に一度、公開実況の時に見かけた顔だった。たしか弟だと言っていた。改めて見ると確かに似ている気がする。
「大げさだなぁ、大丈夫。ホテル取って休むから」
彼女の声は明るいが、力はない。
「じゃあせめて送るよ」
「今夜当直でしょ? あんたの準備が先ー」
そう言って踏み出したその瞬間。彼女の体が、ふらりと傾いた。
「菜緒さん!」
反射的に名前を呼んで、体が動いた。地面に崩れそうになった彼女の身体を、しっかりと胸の中に抱き留める。
柔らかくて、細い身体。鼻をかすめるのは、消毒薬の匂いと、シャンプーの香り。
心臓が激しく音を立てる。この人に触れている。それだけで、全身の血が沸騰しそうだった。
「……えっ!?誰?……あれ?羊さん!?え、羊さんですよね!?実況者の!?なんで……姉ちゃん知ってる!?」
パニック気味の弟くんに、「ちょっとした知り合い」と説明する。彼女の現状について尋ねると、彼は困ったように事情を話してくれた。
話を聞けば、彼女は今、マンションの漏水で家に戻れず、病院に泊まり込んでいるという。ただでさえ休みが少ないなか、他人のシフトの穴埋めまで引き受けてしまい、とうとう今日、過労で発熱したらしい。
「俺も姉ちゃんが心配なんですけど、寮なんで、家族でも女性を泊めるのはちょっと…。本人はホテルに……って言い張るんですけど」
俺は腕の中で荒い呼吸をする菜緒さんの様子を見つめながら、はっきり言った。
「ありがとう。そしたら俺が、面倒見るよ。車で来てるし、家に連れて帰って休ませる。弟くんの連絡先、聞いてもいい?状況、逐一報告するから」
拓実くんはじっと俺を見つめてきた。大事な姉を任せられる相手なのか、慎重に見極めようとする視線。真っ直ぐにその視線を受け止る。
そして、優しく大切に彼女を抱き上げると、頼んだ。
「悪いけど、荷物だけ、車までお願いできるかな」
その瞬間、拓実くんの表情が少しだけ緩んだ。
「よろしく、お願いします。姉ちゃんのこと…」
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる