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休戦——考えたこともなかったその単語に、魔王は目を見開いた。
元来、魔族は世界の掌握を目指している。しかし人類の抵抗に遭い、叶わぬまま何百年も経っている。
魔王がいなければ魔族は魔族領から出られない。だから人類にとって、犠牲を減らす最も効率的な方法は、魔王を倒すことだ。そのための勇者パーティーである。
しかし魔王が倒されても、早ければ20年、遅くても40年経てば(寿命の長い魔族にとっては40年でも充分早いが)新たな魔王が現れる。古株の最上位魔族の中から、突然「魔王の力」を発現させる者が現れ、その魔族が魔王となるのだ。
魔王が現れれば魔族の人類への侵攻が再開され、人類は勇者パーティーを選出し、勇者パーティーが魔王を倒し、時が経ち魔王が現れ……その繰り返しだった。
「休戦、か……」
カップを置いて呟いた魔王は、目の前で茶を堪能している勇者を見つめて考え込む。
戦いを避けたとあらば、魔族の恥だ。魔王としてよろしくない。しかし、勇者パーティーに敗れるならともかく、勇者一人に倒されてしまったら、そちらの方が恥だ。そして、そうなることが充分有り得るほど、この勇者は強い。魔族領に入ってきてからの動向を見ていたが、凄かった。行く手を阻む上位魔族を、埃でも払うかのような動作で吹き飛ばしたり、案山子が相手かのような気軽さで容易くスッパリ斬り殺したりしていた。下位魔族が相手ならともかく、幾つもの高ランク冒険者パーティーを壊滅させてきた上位魔族を、だ。
「もし、休戦を断ったら?」
試しに尋ねた魔王に、レッグは鋭い視線を向ける。
「命を賭してあんたを倒す」
「……」
ぞくりとした。勇者の出す殺気に当てられるなど、魔王としてあってはならないことだが、そんな矜持が意味を持たないほどの恐ろしさを感じてしまった。
レッグはすぐに殺気を引っ込める。
「でも、気乗りしねぇ。いくら俺が強いとはいえ、一人であんたと戦ったら生きて帰るのは無理だろうからな。予想では、あんたを倒して力尽きた俺は、その辺の魔族によってたかって攻撃されて、抵抗できずに死ぬ」
「なんて予想だ。余が負けるのは確定か」
「まあな」
レッグは当然のように言い切った。魔王は苦笑し、頷く。
「分かった、休戦しよう。お前が生きている間は、人類への侵攻をやめてやる。せいぜい長生きすることだ」
「よっしゃ。50年くらいは余裕で生きるぜ。……ここに住んで良いか?」
「ああ、客人としていつまでも居ると良い」
こうしてレッグは魔王城で暮らすことになった。
元来、魔族は世界の掌握を目指している。しかし人類の抵抗に遭い、叶わぬまま何百年も経っている。
魔王がいなければ魔族は魔族領から出られない。だから人類にとって、犠牲を減らす最も効率的な方法は、魔王を倒すことだ。そのための勇者パーティーである。
しかし魔王が倒されても、早ければ20年、遅くても40年経てば(寿命の長い魔族にとっては40年でも充分早いが)新たな魔王が現れる。古株の最上位魔族の中から、突然「魔王の力」を発現させる者が現れ、その魔族が魔王となるのだ。
魔王が現れれば魔族の人類への侵攻が再開され、人類は勇者パーティーを選出し、勇者パーティーが魔王を倒し、時が経ち魔王が現れ……その繰り返しだった。
「休戦、か……」
カップを置いて呟いた魔王は、目の前で茶を堪能している勇者を見つめて考え込む。
戦いを避けたとあらば、魔族の恥だ。魔王としてよろしくない。しかし、勇者パーティーに敗れるならともかく、勇者一人に倒されてしまったら、そちらの方が恥だ。そして、そうなることが充分有り得るほど、この勇者は強い。魔族領に入ってきてからの動向を見ていたが、凄かった。行く手を阻む上位魔族を、埃でも払うかのような動作で吹き飛ばしたり、案山子が相手かのような気軽さで容易くスッパリ斬り殺したりしていた。下位魔族が相手ならともかく、幾つもの高ランク冒険者パーティーを壊滅させてきた上位魔族を、だ。
「もし、休戦を断ったら?」
試しに尋ねた魔王に、レッグは鋭い視線を向ける。
「命を賭してあんたを倒す」
「……」
ぞくりとした。勇者の出す殺気に当てられるなど、魔王としてあってはならないことだが、そんな矜持が意味を持たないほどの恐ろしさを感じてしまった。
レッグはすぐに殺気を引っ込める。
「でも、気乗りしねぇ。いくら俺が強いとはいえ、一人であんたと戦ったら生きて帰るのは無理だろうからな。予想では、あんたを倒して力尽きた俺は、その辺の魔族によってたかって攻撃されて、抵抗できずに死ぬ」
「なんて予想だ。余が負けるのは確定か」
「まあな」
レッグは当然のように言い切った。魔王は苦笑し、頷く。
「分かった、休戦しよう。お前が生きている間は、人類への侵攻をやめてやる。せいぜい長生きすることだ」
「よっしゃ。50年くらいは余裕で生きるぜ。……ここに住んで良いか?」
「ああ、客人としていつまでも居ると良い」
こうしてレッグは魔王城で暮らすことになった。
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