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魔族の侵攻が止み、人々は「勇者パーティーが魔王を倒した」と思った。しかし、冒険者ギルドの調査にて、魔王が健在だと明らかになる。驚いて追加調査をおこなったところ、勇者は行方不明で、他のパーティーメンバーは素性を偽り改めて冒険者登録して活動していると分かった。
「どういうことだ!」
ギルドの理事たちは混乱に陥った。慌てて勇者パーティーのメンバーだった者たちを招集し、問い詰める。
どうやら勇者は一人で魔王のもとへ行ったらしかった。行方不明ということは、まだ魔王城にいるのかもしれない。そこで、何が起こっているのかを確認するために、手紙を出すことにした。
「レッグ様。お手紙が届いております」
魔王城の一室で、のんびり茶を飲んでいたレッグは、魔王の部下から手紙を受け取る。
「どうも」
開いて見ると、冒険者ギルドの理事会からだった。何やら小難しく書かれているが、要するに「戻ってこい」ということらしい。
無視した。
それから数か月に渡って幾度となく同じような手紙が来たが、全て無視した。冒頭に「無視するな、そこにいるのは分かっているぞ」というような文言が付け加えられるようになったが、面倒くさかったので放置した。
半年経とうかという頃、冒険者ギルドの長が直接魔王城へやって来た。これはさすがにレッグも無視できず、応接室で会うことになった。
ギルド長は神妙な表情で話す。
「事情は聞きました。どうか、戻ってきてください。そして、勇者パーティーで魔王を倒してください」
「本当に事情分かってんのか?」
「もちろんです。貴方のパーティーメンバーには、きっちり罰を与えました。冒険者ランクの降格と、20年間の減俸です。皆、反省しておりましたよ」
「信用できねぇ。大体、勇者パーティーはメンバー変更できねぇってシステムが問題だろ。俺にはもう関係ねぇけど、次の勇者パーティー選定試験までにどうにかした方が良いと思うぜ」
そうレッグが突っぱねると、ギルド長は仕方なさそうに帰っていった。
その数か月後、またしてもギルド長がやってきた。レッグの元仲間を連れて。
自室で茶を飲んでいる時に知らせを受けたレッグは頭を抱え、うめくように愚痴を言う。
「何で来るんだよ。俺はここでのんびり暮らしたいのに。魔族はどうしてるんだ。魔族領にこんな簡単に何度も侵入されて良いのか?」
「レッグ様に用のある客は攻撃せぬよう、魔王様に厳命されておりますゆえ。因みに、レッグ様がここにいることを冒険者ギルドに伝えたのは魔王様です」
魔王の部下の言葉に、レッグは唸った。しかし、ずっとそうしている訳にもいかず、しぶしぶ応接室へ行く。
「何の嫌がらせだ?」
応接室に入るなりそう言うと、中で待っていたパーティーメンバーが立ち上がって頭を下げた。彼らの目には涙が滲んでいる。
曰く。
「本当に反省してるんだ。オレたちが浅はかだった」
「お願い、今から一緒に魔王を倒して」
「頼むから、魔王と共謀して人類征服なんてやめてくれよ」
ん? とレッグは思った。何か誤解されている気がする。
「俺が何しようとしてるって?」
尋ねると、ギルド長も元仲間たちも口々に話し出した。
どうやら冒険者ギルドの認識では、レッグが魔王と手を結び、圧倒的な力で人類を屈服させようとしている、ということになっているらしい。魔族が侵攻をやめているのは嵐の前の静けさという訳だ。
原因はパーティーメンバーの裏切りであり、レッグは彼らに復讐しようとしている——そう思い込んだギルド長と理事たちは、そのことを冒険者たちに吹聴し、結果パーティーメンバーは多くの冒険者から罵詈雑言と暴力を浴びせられ、自らの行いを心底悔いることになったのだという。
レッグは呆れたように笑った。
「休戦してるだけだ。俺が生きてる間は、魔族が侵攻することは無ぇ。分かったら帰ってくれ。そして二度と来るな」
ギルド長もパーティーメンバーも、何を言われたか分からずぽかんとした。
これは理解してもらえないかもしれない、とレッグは判断し、言い直す。
「悪いと思ってるなら、茶葉送ってくれよ。こっちの茶葉とブレンドしてみたいんだ。お前らがここに来ず、余計な手紙も送って来ず、茶葉だけ送ってくれるなら、人類の征服を遅らせ続けてやる」
有無を言わせぬ口調で告げられたその言葉に、ギルド長は「必ず!」と答え、パーティーメンバーを連れて出て行った。
こうして、魔王城には冒険者ギルドから毎月たくさんの茶葉が届くようになった。魔族領の茶葉とブレンドすると、驚くほど面白い味になる。
今日も茶が美味い。
「どういうことだ!」
ギルドの理事たちは混乱に陥った。慌てて勇者パーティーのメンバーだった者たちを招集し、問い詰める。
どうやら勇者は一人で魔王のもとへ行ったらしかった。行方不明ということは、まだ魔王城にいるのかもしれない。そこで、何が起こっているのかを確認するために、手紙を出すことにした。
「レッグ様。お手紙が届いております」
魔王城の一室で、のんびり茶を飲んでいたレッグは、魔王の部下から手紙を受け取る。
「どうも」
開いて見ると、冒険者ギルドの理事会からだった。何やら小難しく書かれているが、要するに「戻ってこい」ということらしい。
無視した。
それから数か月に渡って幾度となく同じような手紙が来たが、全て無視した。冒頭に「無視するな、そこにいるのは分かっているぞ」というような文言が付け加えられるようになったが、面倒くさかったので放置した。
半年経とうかという頃、冒険者ギルドの長が直接魔王城へやって来た。これはさすがにレッグも無視できず、応接室で会うことになった。
ギルド長は神妙な表情で話す。
「事情は聞きました。どうか、戻ってきてください。そして、勇者パーティーで魔王を倒してください」
「本当に事情分かってんのか?」
「もちろんです。貴方のパーティーメンバーには、きっちり罰を与えました。冒険者ランクの降格と、20年間の減俸です。皆、反省しておりましたよ」
「信用できねぇ。大体、勇者パーティーはメンバー変更できねぇってシステムが問題だろ。俺にはもう関係ねぇけど、次の勇者パーティー選定試験までにどうにかした方が良いと思うぜ」
そうレッグが突っぱねると、ギルド長は仕方なさそうに帰っていった。
その数か月後、またしてもギルド長がやってきた。レッグの元仲間を連れて。
自室で茶を飲んでいる時に知らせを受けたレッグは頭を抱え、うめくように愚痴を言う。
「何で来るんだよ。俺はここでのんびり暮らしたいのに。魔族はどうしてるんだ。魔族領にこんな簡単に何度も侵入されて良いのか?」
「レッグ様に用のある客は攻撃せぬよう、魔王様に厳命されておりますゆえ。因みに、レッグ様がここにいることを冒険者ギルドに伝えたのは魔王様です」
魔王の部下の言葉に、レッグは唸った。しかし、ずっとそうしている訳にもいかず、しぶしぶ応接室へ行く。
「何の嫌がらせだ?」
応接室に入るなりそう言うと、中で待っていたパーティーメンバーが立ち上がって頭を下げた。彼らの目には涙が滲んでいる。
曰く。
「本当に反省してるんだ。オレたちが浅はかだった」
「お願い、今から一緒に魔王を倒して」
「頼むから、魔王と共謀して人類征服なんてやめてくれよ」
ん? とレッグは思った。何か誤解されている気がする。
「俺が何しようとしてるって?」
尋ねると、ギルド長も元仲間たちも口々に話し出した。
どうやら冒険者ギルドの認識では、レッグが魔王と手を結び、圧倒的な力で人類を屈服させようとしている、ということになっているらしい。魔族が侵攻をやめているのは嵐の前の静けさという訳だ。
原因はパーティーメンバーの裏切りであり、レッグは彼らに復讐しようとしている——そう思い込んだギルド長と理事たちは、そのことを冒険者たちに吹聴し、結果パーティーメンバーは多くの冒険者から罵詈雑言と暴力を浴びせられ、自らの行いを心底悔いることになったのだという。
レッグは呆れたように笑った。
「休戦してるだけだ。俺が生きてる間は、魔族が侵攻することは無ぇ。分かったら帰ってくれ。そして二度と来るな」
ギルド長もパーティーメンバーも、何を言われたか分からずぽかんとした。
これは理解してもらえないかもしれない、とレッグは判断し、言い直す。
「悪いと思ってるなら、茶葉送ってくれよ。こっちの茶葉とブレンドしてみたいんだ。お前らがここに来ず、余計な手紙も送って来ず、茶葉だけ送ってくれるなら、人類の征服を遅らせ続けてやる」
有無を言わせぬ口調で告げられたその言葉に、ギルド長は「必ず!」と答え、パーティーメンバーを連れて出て行った。
こうして、魔王城には冒険者ギルドから毎月たくさんの茶葉が届くようになった。魔族領の茶葉とブレンドすると、驚くほど面白い味になる。
今日も茶が美味い。
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