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5章 歪みの帰結
5-3 黒い力
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「嘘に決まってるわ。殺気がダダ洩れだもの」
「このテの奴がベラベラ情報を喋るのは、生かす気が無い証拠だぜ」
2人の背を、目を丸くして見つめたアインは、「でも」と口を動かす。
ヴァレリーは何も言わない。ただにっこり笑って、手を差し伸べ続けている。
アインは震える声で言葉を紡いだ。
「このままだと、あなたたちが殺されちゃう。勝てないんだよね? だったら、賭けるしかないよ」
「知ったことじゃないわ。私たちは、まだ負けてない!」
きっぱり告げるシャルロッテ。その隣でアルベルトが頷く。
2人は、ヴァレリーが大した攻撃を出来ないことに賭けていた。その可能性は薄いと思いつつも、それに賭けるしかなかった。
彼女の攻撃がもし、自分たちでも避けられないほど凄まじいものなら、とっくに詰んでいる。どれだけ抵抗しようと自分たちはここで殺され、アインは帝国へ連れ去られる。
そういったことを、シャルロッテもアルベルトも分かった上で、抵抗することにしたのだ。黙ってアインを引き渡すなんて真似はしたくなかったのだ。
「でも、わたしはっ」
決然と立つ2人の間を押し分け、アインは前に出ようとする。2人は押されるままに道を開けながらも、自分たちより前に出ないように手で押しとどめた。
ヴァレリーは呆れたような顔をする。
「大人しく引き渡すなら、楽に死なせてあげようと思ってたのに……」
その言葉が終わる前に、事は起こった。
シャルロッテが、アインの横から消えた。
「えっ?」
戸惑うアインの声をかき消すように、後ろからバキバキバサバサと音がする。アインとアルベルトが後ろを振り返ると、思ったより遠くにシャルロッテの姿があった。
ヴァレリーが魔法で攻撃したのだ。何の予備動作も無く、魔力の流れも感じさせず、攻撃のタイミングを悟らせなかった。その魔法をまともに食らったシャルロッテは、細い木を何本もへし折りながら吹き飛んで、一際太い木の幹にぶつかって落ちた。
その事実を認識するのに、少し時間を要した。血だまりに沈むシャルロッテを見て、思考に空白が生じていた。
「シャルロッテ!」
いち早く我に返ったアルベルトがシャルロッテのもとへ駆けて行く。アインはそれを呆然と見送った。
「……」
視界に映る光景を、頭が少しずつ認識していく。アルベルトが何度もシャルロッテに呼びかけていて、シャルロッテは目を閉じたまま苦しそうに顔を歪ませていて、血がとめどなく流れていて。
「……そ、んな……シャルロッテ……」
トスンと地面に両膝をついた。瞳から涙がこぼれる。思考が黒く塗りつぶされていく。
ヴァレリーが何か言っているが、よく分からない。分かりたくもない。
「あ……ああぁぁぁ!」
叫ぶアインの体から、ゆらりと黒霧が這い出した。それは瞬く間にアインの体を覆い尽くし、漆黒のドレスのように広がる。
ゆっくりと立ち上がったアインは、仄暗い光を宿した瞳をヴァレリーに向けた。黒霧のドレスが風に揺れ、翻る。夜を招き入れ、この場の全てを闇に落とそうとするかのように。
ヴァレリーは目を丸くした後、胸の前で手を合わせる。場違いなほど明るい笑みを浮かべて。
「まあ、成功していたのね!」
その声は歓喜で震えていた。
「成功……?」
アインは感情のこもらぬ声で問う。それに対しヴァレリーは、嬉しそうに答えた。
「クローンたちには魔獣の因子を植え付けていたのよ。誰もその力を使えないから失敗だったと思っていたけれど……わたしへの憎しみで力が呼び起こされたのかしら? 強い負の感情がトリガー? 帰ったらじっくり研究してあげるわね!」
「……分かった。これは、この体は、器」
「どうしたの? せっかくだから、その力をわたくしに見せて?」
「ただ殺意があるだけの」
噛み合わない言葉を発しながら、アインは手を掲げる。多数の黒い針が空中に生成され、ヴァレリーに殺到した。
だが、針は全て、届く前に落ちた。見えない手に叩き落とされたかのように。
「ちょっと期待外れかしら。この程度の自動防御に引っかかるようじゃ、魔獣の因子の意味が無いわ」
小首を傾げて呟くヴァレリー。その足元から影が伸びる。触手のような黒い影が。
ぎゅるりと巻き付いたそれを、彼女は楽しそうに払う。
「こういうことも出来るのね。もう良いわよ、大体分かったから。さあ、帝国へ帰りましょう。……っと、その前に」
ヴァレリーは魔法を放った。アルベルトへ向けたその攻撃は、黒い霧に呑まれて消える。
「あら?」
予想外のことに目を瞬かせたヴァレリーの真上から、その魔法は現れた。黒霧を纏い、威力を増して、一瞬で彼女を呑み込む。
「もう良いって言ったじゃないの。ここまでされたら払うのも手間ね」
余裕のある声で呟いていたヴァレリー。だが、次第に焦りを帯びてくる。
「……? うそ、障壁が融けて……⁉ 何が……」
真っ黒な魔法の中で何が起きているのか、誰にも分からなかった。ヴァレリー本人すら、訳が分からないまま黒に侵食されていった。
「きゃあぁあぁぁ!」
断末魔の叫びが響き渡る。
ヴァレリーの最期を見届けたアインは、力尽きたように倒れた。黒い霧は消え去って、元通りになっている。
吹き抜ける風が、闇の残滓を攫っていった。
「このテの奴がベラベラ情報を喋るのは、生かす気が無い証拠だぜ」
2人の背を、目を丸くして見つめたアインは、「でも」と口を動かす。
ヴァレリーは何も言わない。ただにっこり笑って、手を差し伸べ続けている。
アインは震える声で言葉を紡いだ。
「このままだと、あなたたちが殺されちゃう。勝てないんだよね? だったら、賭けるしかないよ」
「知ったことじゃないわ。私たちは、まだ負けてない!」
きっぱり告げるシャルロッテ。その隣でアルベルトが頷く。
2人は、ヴァレリーが大した攻撃を出来ないことに賭けていた。その可能性は薄いと思いつつも、それに賭けるしかなかった。
彼女の攻撃がもし、自分たちでも避けられないほど凄まじいものなら、とっくに詰んでいる。どれだけ抵抗しようと自分たちはここで殺され、アインは帝国へ連れ去られる。
そういったことを、シャルロッテもアルベルトも分かった上で、抵抗することにしたのだ。黙ってアインを引き渡すなんて真似はしたくなかったのだ。
「でも、わたしはっ」
決然と立つ2人の間を押し分け、アインは前に出ようとする。2人は押されるままに道を開けながらも、自分たちより前に出ないように手で押しとどめた。
ヴァレリーは呆れたような顔をする。
「大人しく引き渡すなら、楽に死なせてあげようと思ってたのに……」
その言葉が終わる前に、事は起こった。
シャルロッテが、アインの横から消えた。
「えっ?」
戸惑うアインの声をかき消すように、後ろからバキバキバサバサと音がする。アインとアルベルトが後ろを振り返ると、思ったより遠くにシャルロッテの姿があった。
ヴァレリーが魔法で攻撃したのだ。何の予備動作も無く、魔力の流れも感じさせず、攻撃のタイミングを悟らせなかった。その魔法をまともに食らったシャルロッテは、細い木を何本もへし折りながら吹き飛んで、一際太い木の幹にぶつかって落ちた。
その事実を認識するのに、少し時間を要した。血だまりに沈むシャルロッテを見て、思考に空白が生じていた。
「シャルロッテ!」
いち早く我に返ったアルベルトがシャルロッテのもとへ駆けて行く。アインはそれを呆然と見送った。
「……」
視界に映る光景を、頭が少しずつ認識していく。アルベルトが何度もシャルロッテに呼びかけていて、シャルロッテは目を閉じたまま苦しそうに顔を歪ませていて、血がとめどなく流れていて。
「……そ、んな……シャルロッテ……」
トスンと地面に両膝をついた。瞳から涙がこぼれる。思考が黒く塗りつぶされていく。
ヴァレリーが何か言っているが、よく分からない。分かりたくもない。
「あ……ああぁぁぁ!」
叫ぶアインの体から、ゆらりと黒霧が這い出した。それは瞬く間にアインの体を覆い尽くし、漆黒のドレスのように広がる。
ゆっくりと立ち上がったアインは、仄暗い光を宿した瞳をヴァレリーに向けた。黒霧のドレスが風に揺れ、翻る。夜を招き入れ、この場の全てを闇に落とそうとするかのように。
ヴァレリーは目を丸くした後、胸の前で手を合わせる。場違いなほど明るい笑みを浮かべて。
「まあ、成功していたのね!」
その声は歓喜で震えていた。
「成功……?」
アインは感情のこもらぬ声で問う。それに対しヴァレリーは、嬉しそうに答えた。
「クローンたちには魔獣の因子を植え付けていたのよ。誰もその力を使えないから失敗だったと思っていたけれど……わたしへの憎しみで力が呼び起こされたのかしら? 強い負の感情がトリガー? 帰ったらじっくり研究してあげるわね!」
「……分かった。これは、この体は、器」
「どうしたの? せっかくだから、その力をわたくしに見せて?」
「ただ殺意があるだけの」
噛み合わない言葉を発しながら、アインは手を掲げる。多数の黒い針が空中に生成され、ヴァレリーに殺到した。
だが、針は全て、届く前に落ちた。見えない手に叩き落とされたかのように。
「ちょっと期待外れかしら。この程度の自動防御に引っかかるようじゃ、魔獣の因子の意味が無いわ」
小首を傾げて呟くヴァレリー。その足元から影が伸びる。触手のような黒い影が。
ぎゅるりと巻き付いたそれを、彼女は楽しそうに払う。
「こういうことも出来るのね。もう良いわよ、大体分かったから。さあ、帝国へ帰りましょう。……っと、その前に」
ヴァレリーは魔法を放った。アルベルトへ向けたその攻撃は、黒い霧に呑まれて消える。
「あら?」
予想外のことに目を瞬かせたヴァレリーの真上から、その魔法は現れた。黒霧を纏い、威力を増して、一瞬で彼女を呑み込む。
「もう良いって言ったじゃないの。ここまでされたら払うのも手間ね」
余裕のある声で呟いていたヴァレリー。だが、次第に焦りを帯びてくる。
「……? うそ、障壁が融けて……⁉ 何が……」
真っ黒な魔法の中で何が起きているのか、誰にも分からなかった。ヴァレリー本人すら、訳が分からないまま黒に侵食されていった。
「きゃあぁあぁぁ!」
断末魔の叫びが響き渡る。
ヴァレリーの最期を見届けたアインは、力尽きたように倒れた。黒い霧は消え去って、元通りになっている。
吹き抜ける風が、闇の残滓を攫っていった。
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