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2章 旅行
2-5 翼人の島
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「……さい。テツヤ。着きましたよ」
声と共に、肩を軽くゆすられた。轍夜はゆっくり目を開けて、寝ぼけ眼で周りを見る。
「早くしないと、船が出てしまいます」
リィラの言葉で、ようやく状況が分かった。翼人の島に着いたのだと。
急いで船から降りて、2人は砂を踏みしめた。外はまだ真っ暗だ。
「あんまり時間経ってねー気がする……」
「そうでもありませんよ。もう早朝と言って良い時間です。ただ、この時間では入国できませんし、ここで日の出を待ちましょうか」
「え、ここで?」
乾いた砂が風で舞っている。長時間いれば砂まみれになりそうな場所だった。それでなくとも砂が目に入りそうで、早く建物に入りたい。
上を見ると、星明りを背に翼人が旋回している。目が合った。
「……」
「……」
しばしの沈黙。
「……ニンゲンダ! オカシイ! コンナジカンニ、ニンゲンハ、ソトニイナイ!」
翼人は喚きながら、2人の前に降り立った。広げた翼をそのままに、尖った羽を2人へ飛ばす。
「落ち着いてください。ここはどちらの国にも属さないはず。人間がいても構わないでしょう?」
リィラは魔法で羽攻撃を防ぎながら、翼人の説得を試みた。
翼人の島は、翼人の国と人間の国の2か国しか無い。そして、その2か国は仲が悪い。互いに何かと理由をつけては小競り合いをしているのだ。
「チガウ! コノジカンハ、ココハ、ワタシタチノモノ!」
「わたくしたちはただの観光客です。この時間にも船は運航しているのですから……」
「カンケイナイ!」
翼人は銀色の瞳を光らせて、天を仰ぐ。すぅっと息を吸い込んで、
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェ」
大音声の鳴き声を上げた。その声は聞く者の意識を奪う。しかし。
「無駄です」
リィラは魔法で音を遮断していた。翼人の表情が驚愕に染まる。
「シネ! シネ! シネェ!」
狂ったように叫びながら、翼人は再び羽を飛ばした。
「テツヤ。殺って良いですよ」
「ほーい」
轍夜は即座に翼人へと肉薄。
ザシュッ
黒い刃が斜めに走り、翼人の体を切り裂いた。
砂が緑色の液で濡れる。翼人の血を振り払い、轍夜は剣を鞘に戻した。その様は、まるで歴戦の剣士のようだ。
翼人はビクビクと痙攣した後、動かなくなった。
「蘇生能力は?」
「使わなくて良いでしょう。また襲ってこられても面倒ですし」
こちらに非が無いのに攻撃されて、話も通じないのでは仕方がない。
東を見ると、水平線から光が覗いている。
「夜が明けますね。行きましょうか」
リィラは言って、人間の国に足を向けた。歩きながら魔法を使う。
「わ⁉」
轍夜の頭の上から水が降ってきた。桶の水を勢いよく被ったように。何事かと思っていると、今度は熱い風が全身を撫でた。瞬く間に水が飛び、服も髪も乾いていく。
「魔法で砂を洗い流しました」
リィラは自身にも同じ魔法を使っていた。全身砂まみれになってしまっていたのだ。そのままの状態でいるのには抵抗があった。
2人は宿屋の食事処で朝食を摂ることにした。
「このパンうめー!」
轍夜は驚嘆しながら次々とパンを口に運ぶ。外はサクッとしていて、中はふわっふわだ。ほんのりと甘い。
リィラは溜息を吐いた。
「どうしてわたくしたちの国には、このように美味しい食べ物が無いのでしょうね……」
「え、リィラも知らねーの?」
「はい。……国にいる間は、あれが普通だったので特に何も思わなかったのですが」
言いながら、それが原因だと思った。妖精の島から他の島や大陸に行って戻ってくる者は少ない。だから、他の味を知らず、現状で満足してしまっている。肉は仕方ないにしても、パンならもっと美味しく作れるはずだ。
「食べ終わったら翼人の国に行きますよ」
「え、あの魔物の? 襲われねー?」
「魔物……?」
リィラは首を傾げた。
「翼人のことを魔物と言ったのですか?」
「だって、翼人って魔物の一種だろ?」
轍夜は当然のように言った。リィラは首を横に振る。
「翼人は種族名ですよ。人間やエルフと同様、魔物ではありません。……魔物の認識が食い違っているようなので、魔物について説明しますね」
リィラは食べるのを中断して説明する。
「魔物とは、魔族と呼ばれる種族が魔力を練って作る魂無き存在です。魔法で作ることもできます。大陸では戦争に利用されることもあるとか」
「うーん、よく分かんねーけど、じゃあゴブリンとかリザードマンとかも魔物じゃねーの?」
「はい。れっきとした種族です」
リィラは答えてから、怪訝そうな顔をした。
「よくゴブリンを知っていましたね。この辺りの島にはいないので、あまり知られていないのですが」
「まじで? オレ的には有名なやつなんだけど」
「あなたのいた世界にはゴブリンが多かったのですか?」
「いるわけねーじゃん」
「はい?」
話がかみ合わない。時々あることだ。
食事処を出た2人は翼人の国に直行した。目指すは翼人王の住処だ。
翼人の国に入っても、翼人が襲ってくることは無かった。遠巻きに見てくるだけだ。襲ってきた翼人が特殊だっただけだと分かる。
翼人王の住処は、巣箱のような形をしていた。
「何か掴めると良いのですが」
リィラが呟いた時、中から翼人が出てきた。
「コノ国ハ観光客ヲ受ケ入レテイナイ。立チ去レ」
「あなたが王ですね? わたくしは妖精の島にある人間の国の王族として、聞きたいことがあって参りました」
リィラが王族である証を見せると、翼人王は頷いた。
「ナルホド。聞キタイコトトハ?」
「呪いを使う魔術師についてです」
それを聞いた翼人王は、突如として殺気を膨らませる。
「アヤツ……騙シオッテ……許スマジ!」
「何があったのですか?」
「実ハ……」
話の内容はこうだ。
翼人の国にやってきた呪術師は、翼人王に「良い話」を持ちかけた。今、妖精の島は混乱に陥っている。攻め込めば、容易く妖精の国を得られるだろう、と。
妖精の国は翼人にとって魅力的な環境だ。かねてより妖精の国を乗っ取りたいと思っていた翼人王は、その話に飛びついた。そして兵を送ったのである。
結果は全滅。妖精の国にたどり着けすらしなかった。
「それは気の毒に」
リィラは呆れながらも表に出さずに言った。騙される方もどうかと思う。
「その魔術師はどこへ行ったのですか?」
「分カラン。大陸ニ行ク予定ダトカ言ッテイタガ」
「大陸……分かりました。情報、ありがとうございます」
そう言って、リィラは轍夜とともに退散した。
「ここからだと、北の大陸でしょうか」
リィラは呟く。
妖精の島に帰る船の中だ。
「本当は捜しに行きたいんじゃねーの?」
轍夜は尋ねたが、リィラは頭を振った。
「いずれにしろ、捜すのは困難です。大陸へ逃げられたのでは」
それは、自らを納得させようとするような、諦めることを自らに強いるような声音だった。
「早く子供が大きくなって、王位を継いでもらえれば、自由に動けるのですが」
「その手があったかー!」
轍夜は嬉しそうに言う。
「じゃあ、その後は一緒にあちこち旅して周れるな! 呪術師捜すついでに!」
「そうですね」
それまでには10年以上かかるだろう。先の長い話だ。
船は妖精の島の北端に着いた。
東行きの船着き場は南端だが、西行きの船着き場は北端にあるのだ。1つの島に両方の航路が通っているのは便利で良い。そういう島は、この辺りでは妖精の島とドワーフの島だけである。
船から降りた2人は、転移魔法で城に帰った。
「ただいまー」
轍夜が言うと、家臣の1人が出てきて
「お帰りなさい」
と言ってくれた。
「何事もありませんでしたか?」
リィラが尋ねると、家臣は笑顔で答える。
「些細なことではありますが、問題が山積みになっております」
リィラは頭を抱えた。
声と共に、肩を軽くゆすられた。轍夜はゆっくり目を開けて、寝ぼけ眼で周りを見る。
「早くしないと、船が出てしまいます」
リィラの言葉で、ようやく状況が分かった。翼人の島に着いたのだと。
急いで船から降りて、2人は砂を踏みしめた。外はまだ真っ暗だ。
「あんまり時間経ってねー気がする……」
「そうでもありませんよ。もう早朝と言って良い時間です。ただ、この時間では入国できませんし、ここで日の出を待ちましょうか」
「え、ここで?」
乾いた砂が風で舞っている。長時間いれば砂まみれになりそうな場所だった。それでなくとも砂が目に入りそうで、早く建物に入りたい。
上を見ると、星明りを背に翼人が旋回している。目が合った。
「……」
「……」
しばしの沈黙。
「……ニンゲンダ! オカシイ! コンナジカンニ、ニンゲンハ、ソトニイナイ!」
翼人は喚きながら、2人の前に降り立った。広げた翼をそのままに、尖った羽を2人へ飛ばす。
「落ち着いてください。ここはどちらの国にも属さないはず。人間がいても構わないでしょう?」
リィラは魔法で羽攻撃を防ぎながら、翼人の説得を試みた。
翼人の島は、翼人の国と人間の国の2か国しか無い。そして、その2か国は仲が悪い。互いに何かと理由をつけては小競り合いをしているのだ。
「チガウ! コノジカンハ、ココハ、ワタシタチノモノ!」
「わたくしたちはただの観光客です。この時間にも船は運航しているのですから……」
「カンケイナイ!」
翼人は銀色の瞳を光らせて、天を仰ぐ。すぅっと息を吸い込んで、
「キエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェ」
大音声の鳴き声を上げた。その声は聞く者の意識を奪う。しかし。
「無駄です」
リィラは魔法で音を遮断していた。翼人の表情が驚愕に染まる。
「シネ! シネ! シネェ!」
狂ったように叫びながら、翼人は再び羽を飛ばした。
「テツヤ。殺って良いですよ」
「ほーい」
轍夜は即座に翼人へと肉薄。
ザシュッ
黒い刃が斜めに走り、翼人の体を切り裂いた。
砂が緑色の液で濡れる。翼人の血を振り払い、轍夜は剣を鞘に戻した。その様は、まるで歴戦の剣士のようだ。
翼人はビクビクと痙攣した後、動かなくなった。
「蘇生能力は?」
「使わなくて良いでしょう。また襲ってこられても面倒ですし」
こちらに非が無いのに攻撃されて、話も通じないのでは仕方がない。
東を見ると、水平線から光が覗いている。
「夜が明けますね。行きましょうか」
リィラは言って、人間の国に足を向けた。歩きながら魔法を使う。
「わ⁉」
轍夜の頭の上から水が降ってきた。桶の水を勢いよく被ったように。何事かと思っていると、今度は熱い風が全身を撫でた。瞬く間に水が飛び、服も髪も乾いていく。
「魔法で砂を洗い流しました」
リィラは自身にも同じ魔法を使っていた。全身砂まみれになってしまっていたのだ。そのままの状態でいるのには抵抗があった。
2人は宿屋の食事処で朝食を摂ることにした。
「このパンうめー!」
轍夜は驚嘆しながら次々とパンを口に運ぶ。外はサクッとしていて、中はふわっふわだ。ほんのりと甘い。
リィラは溜息を吐いた。
「どうしてわたくしたちの国には、このように美味しい食べ物が無いのでしょうね……」
「え、リィラも知らねーの?」
「はい。……国にいる間は、あれが普通だったので特に何も思わなかったのですが」
言いながら、それが原因だと思った。妖精の島から他の島や大陸に行って戻ってくる者は少ない。だから、他の味を知らず、現状で満足してしまっている。肉は仕方ないにしても、パンならもっと美味しく作れるはずだ。
「食べ終わったら翼人の国に行きますよ」
「え、あの魔物の? 襲われねー?」
「魔物……?」
リィラは首を傾げた。
「翼人のことを魔物と言ったのですか?」
「だって、翼人って魔物の一種だろ?」
轍夜は当然のように言った。リィラは首を横に振る。
「翼人は種族名ですよ。人間やエルフと同様、魔物ではありません。……魔物の認識が食い違っているようなので、魔物について説明しますね」
リィラは食べるのを中断して説明する。
「魔物とは、魔族と呼ばれる種族が魔力を練って作る魂無き存在です。魔法で作ることもできます。大陸では戦争に利用されることもあるとか」
「うーん、よく分かんねーけど、じゃあゴブリンとかリザードマンとかも魔物じゃねーの?」
「はい。れっきとした種族です」
リィラは答えてから、怪訝そうな顔をした。
「よくゴブリンを知っていましたね。この辺りの島にはいないので、あまり知られていないのですが」
「まじで? オレ的には有名なやつなんだけど」
「あなたのいた世界にはゴブリンが多かったのですか?」
「いるわけねーじゃん」
「はい?」
話がかみ合わない。時々あることだ。
食事処を出た2人は翼人の国に直行した。目指すは翼人王の住処だ。
翼人の国に入っても、翼人が襲ってくることは無かった。遠巻きに見てくるだけだ。襲ってきた翼人が特殊だっただけだと分かる。
翼人王の住処は、巣箱のような形をしていた。
「何か掴めると良いのですが」
リィラが呟いた時、中から翼人が出てきた。
「コノ国ハ観光客ヲ受ケ入レテイナイ。立チ去レ」
「あなたが王ですね? わたくしは妖精の島にある人間の国の王族として、聞きたいことがあって参りました」
リィラが王族である証を見せると、翼人王は頷いた。
「ナルホド。聞キタイコトトハ?」
「呪いを使う魔術師についてです」
それを聞いた翼人王は、突如として殺気を膨らませる。
「アヤツ……騙シオッテ……許スマジ!」
「何があったのですか?」
「実ハ……」
話の内容はこうだ。
翼人の国にやってきた呪術師は、翼人王に「良い話」を持ちかけた。今、妖精の島は混乱に陥っている。攻め込めば、容易く妖精の国を得られるだろう、と。
妖精の国は翼人にとって魅力的な環境だ。かねてより妖精の国を乗っ取りたいと思っていた翼人王は、その話に飛びついた。そして兵を送ったのである。
結果は全滅。妖精の国にたどり着けすらしなかった。
「それは気の毒に」
リィラは呆れながらも表に出さずに言った。騙される方もどうかと思う。
「その魔術師はどこへ行ったのですか?」
「分カラン。大陸ニ行ク予定ダトカ言ッテイタガ」
「大陸……分かりました。情報、ありがとうございます」
そう言って、リィラは轍夜とともに退散した。
「ここからだと、北の大陸でしょうか」
リィラは呟く。
妖精の島に帰る船の中だ。
「本当は捜しに行きたいんじゃねーの?」
轍夜は尋ねたが、リィラは頭を振った。
「いずれにしろ、捜すのは困難です。大陸へ逃げられたのでは」
それは、自らを納得させようとするような、諦めることを自らに強いるような声音だった。
「早く子供が大きくなって、王位を継いでもらえれば、自由に動けるのですが」
「その手があったかー!」
轍夜は嬉しそうに言う。
「じゃあ、その後は一緒にあちこち旅して周れるな! 呪術師捜すついでに!」
「そうですね」
それまでには10年以上かかるだろう。先の長い話だ。
船は妖精の島の北端に着いた。
東行きの船着き場は南端だが、西行きの船着き場は北端にあるのだ。1つの島に両方の航路が通っているのは便利で良い。そういう島は、この辺りでは妖精の島とドワーフの島だけである。
船から降りた2人は、転移魔法で城に帰った。
「ただいまー」
轍夜が言うと、家臣の1人が出てきて
「お帰りなさい」
と言ってくれた。
「何事もありませんでしたか?」
リィラが尋ねると、家臣は笑顔で答える。
「些細なことではありますが、問題が山積みになっております」
リィラは頭を抱えた。
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