蘇生チートは都合が良い

秋鷺 照

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3章 呪術師対策

3-2 蝶と花

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 再び城に戻ったリィラは、轍夜に向き直る。
「ところで。街を見て回ろうと思うのですが、一緒にどうですか?」
「行く!」
 轍夜は即答した。


 灰白色の石畳を、2人は歩く。ケットシーは轍夜の頭の上だ。
「重いー肩こりそう。自分で歩けよなー」
「やだにゃー」
「何でだよー」
「特に理由は無いにゃー。歩こうと思ったら歩くにゃー」
「何だそれー」
 ケットシーにつられて、轍夜も間延びした声で話した。
 陽光が穏やかに街を照らしている。のどかな空気を彩るように、通りを蝶の群れが飛んでいた。輝く羽をはためかせ、煌めく鱗粉をまき散らしながら。
 轍夜は引かれるように、蝶の群れを追いかけた。手を伸ばせば届きそうな距離まで来て、捕まえようと手を動かす。
「触れてはいけません!」
 リィラの声で、手を引っ込めた。轍夜は振り返り、尋ねる。
「何で?」
 答えの前に、魔法が飛んだ。広がる炎が渦を成し、舞う蝶たちを塵へと変える。
「触れれば即死です」
「何それ怖っ。何かの種族?」
「いえ、ただの虫です」
「ただの虫」
 轍夜は目をぱちくりとさせながら、オウム返しした。
「にゃー? この島にはそんな危ない虫がいるのかにゃー」
「〈死を招く蝶〉と呼ばれていますが、大したことはありませんよ。見たら逃げればいいだけですから。被害にあう人は滅多にいません」
 リィラはしれっと答えたが、ふと首を傾げる。
「しかし、こんな数が一斉に飛んでいるところは初めて見ました。念のため、原因を探った方が良さそうですね」
「ちょっとケットシー」
 轍夜は不満の声を上げた。先ほどから、ケットシーはしっぽを轍夜の顔に当てているのだ。ペシペシと。
「みーたちも連れてくにゃー」
 ケットシーはリィラに主張した。轍夜から降りる気は無いが、リィラについて行きたいのだ。
 ペシペシ
「だから、やめろって」
 ペシッ、ペシペシ、ペシッ
「や、め、ろ」
 轍夜はケットシーのしっぽを、ぐいっと掴んだ。
「にゃー⁉」
 ケットシーはバランスを崩し、轍夜の頭からずり落ちる。しっぽを持たれた状態のまま、ふわふわと宙に浮かんだ。
「光らなくても浮けるんだ……」
「当然にゃー」
 そのまま轍夜の腕の中に納まって、
「行くにゃー」
 と言った。


 〈死を招く蝶〉の主な生息地は、人間の国と妖精の国の間にある谷だ。転移魔法で谷底へ降り、川に沿って北へと歩く。
「みーは気になることがあるにゃー」
 再び轍夜の頭に乗って、ケットシーはリィラに話しかけた。
「何ですか?」
「リィラはどうして魔術師になったのにゃー?」
「母が魔術師だったと聞いて、興味を持ったのです」
 その言い回しに違和感を覚え、ケットシーは更に尋ねる。
「誰から聞いたのにゃー?」
「母方の祖母です」
「ふにゃー……リィラの母親は、リィラが生まれてすぐに亡くなったというパターンかにゃー?」
「よく分かりましたね」
「よく聞く話にゃー」
 いったいどこで聞いたのやら、ケットシーは訳知り顔だ。
「普通は王位を継がせるために、男の子が生まれるまで頑張るのにゃー。けど、リィラは一人っ子にゃー?」
「はい」
「先王はよっぽどリィラの母親を愛していたのにゃー」
 その言葉に、リィラは大きく溜息を吐いた。
「そうですね。わたくしは何度も、新たな妻を娶って男の子を作るよう頼みましたが、聞き入れてはもらえませんでした」
「ふにゃー。それを父親に頼むとは、リィラもなかなかの変わり者にゃー」
「そうですか? 王族として当然かと思いますが。……あ、この辺りですね」
 話をしながら、リィラは川の向こう岸を見た。〈死を招く蝶〉が飛んでいる。
「やはり、随分と多いですね」
「変な臭いがするにゃー」
 ケットシーは嫌そうな顔をして、轍夜の頭の上で丸まった。
「変な臭い、ですか……」
 リィラは〈死を招く蝶〉の周辺を見つめる。見たことの無い花が何本か咲いているのが見えた。防御魔法を使いつつ、転移魔法で向こう岸へ。花を1本取って戻った。
「ふにゃにゃー。変な臭いが強くなったにゃー」
 ケットシーが抗議の声を上げた。
「この花が原因かもしれません。王女様に聞きに行きましょう」
 再びリィラは転移魔法を使った。


「……それで、この花について知りたいのですが」
 リィラは妖精王女に事情を説明した。妖精王女は不思議そうに花を見つめる。
 妙な花だ。色が定まらず、角度によって何色にでも見える。〈死を招く蝶〉と同じように。
「少なくとも、この島に自生する花ではありませんわね」
 臭いは無い。花とは思えないほど無臭なのだ。ケットシーが感じているのは、臭いとは別の何かだろう。
「〈死を招く蝶〉が突然変異で花となり、その花の力で〈死を招く蝶〉が増えた、といったところかと思いますわ」
「ただの虫が?」
 轍夜は思わず口を挟んだ。虫が突然変異で花になるなど、荒唐無稽に過ぎる。
「ふにゃー。有り得ることにゃー。そういう事例をいくつか知っているにゃー」
「まじか」
「わたくしも驚きましたが……有り得ることなのですね……」
 轍夜だけではなく、リィラにとっても突飛な話だった。人間にはほとんど知られていない事象なのだ。
「焼き払ってしまって大丈夫でしょうか」
 リィラが確認すると、妖精王女は微笑んで頷いた。


 転移魔法で谷に戻り、〈死を招く蝶〉を眼前にして。
「にゃー!」
 ケットシーは毛を逆立て、威嚇の鳴き声を上げた。
「どうしたのです?」
「何かいるにゃー! あれごと焼き払ってほしいにゃー!」
「……?」
 リィラは改めて向こう岸を見たが、ケットシーの言う「何か」の姿は認められない。とりあえず魔法を放ち、蝶と花を焼き尽くす。
「どうですか?」
「まだにゃー! もっと高火力で燃やすにゃー!」
「えぇ……」
 リィラは困惑しながらも、2つの魔法を同時に放った。ケットシーの視線の先に、巨大な火柱が上がる。荒れ狂って燃え盛り、熱風が迸った。
「ふにゃー」
 ケットシーが安堵の声を漏らす。
「何だったんだ?」
 轍夜はケットシーを抱きかかえながら尋ねた。
「良くないモノがいたのにゃー」
 ケットシーはそれだけ答え、気持ちよさそうに眠った。




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