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5章 判明
5-7 閑話 魔狼
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ある夏の日の朝。資料整理をしていたリィラは、ふと手を止めた。
「……これは」
目に留まった文字を見て、考える。しばらくして、
「今日ではありませんか……!」
慌てて轍夜の所へ行った。
「テツヤ! 今から言う場所に行ってください!」
「へ?」
勢い込んで言ってきたリィラに、轍夜は戸惑った表情を浮かべる。
「今すぐ出発すれば間に合うはずです。……少し走る必要があるかもしれませんが」
「にゃー? 魔法で送ってくれれば良いにゃー?」
ケットシーも不思議そうだ。轍夜に毛をいじられながら、首を傾げている。
「駄目なのです。王が1人で行かなければ……あ、ケットシーは一緒で大丈夫です」
ますます意味が分からない。轍夜とケットシーはきょとんとした。
リィラは、説明不足だったと気付き、話し始める。
「この島にはいくつかしきたりがあるのですが、そのうちの1つに、魔狼退治というものがあります。人間の国の王は10年に一度、1人で魔狼を退治しに行かなければならないのです」
「それが今日にゃー?」
「はい。夏の最も明るい星が満月の逆位置に来る時、地下から魔狼が湧き出る……それが今晩です」
「もしかして、忘れてたにゃー?」
「……恥ずかしながら。すっかり忘れていました」
少し目をそらしながら、リィラは言った。
月明かりが草原を照らしている。
爽やかな風にたなびく草をかきわけて、轍夜は歩いていた。ケットシーは轍夜の頭の上で、進む方向を指示している。
目的地まであと少し、という所だ。
「間に合いそう?」
「ギリギリにゃー」
空を見上げ、ケットシーは答えた。
轍夜はヘトヘトになりながらも、懸命に足を動かす。間に合いさえすれば良い。どんなに疲れていても、戦いとなれば呪具が勝手に体を動かしてくれるのだ。
そうして目的地に着いた時、地面から闇が湧き上がった。その闇は狼の形になり、轍夜を睨む。魔狼である。顔は轍夜の腰あたりの高さにあり、爛々と輝く瞳は月と同じ銀色だ。
轍夜が剣を抜き放つ。
魔狼の動きは素早い。飛ぶ斬撃を全て躱し、轍夜に跳びかかった。
「わっ」
魔狼の牙を剣で受け止め、身を横にずらす。流れるような動きで剣が魔狼の首にかかった。そのまま斬り落とす、はずだった。
「⁉」
魔狼の姿がかき消えた。消滅したのではない。闇がほどけるように、実体を解いたのだ。
仕切り直しとばかりに、魔狼が再び姿を現す。轍夜から距離を取った場所に。
「これ、どーやって倒すの?」
轍夜の呟きに、雑に強くなる呪具が「まあ頑張れ」と告げた。今回もサボるつもりだ。
「えー」
不満そうな声を上げた轍夜に、魔狼が襲い掛かる。一瞬で距離を詰め、ぎらりと光る牙を轍夜に突き立てようとした。
タンッと轍夜は上に跳び、空中で剣を振りまくる。轍夜の姿を見失った魔狼に、斬撃が殺到した。
所構わぬ斬撃が、周囲の草を飛び散らす。魔狼はまたしても実態を解き、斬撃から逃れた。
「……にゃー。魔狼が実体化した直後を狙うと良いにゃー」
様子を見ていたケットシーの助言。
「よーし!」
轍夜は気合を入れて、魔狼の実体化を待つ。しかし、遅かった。
既に魔狼は実体を持ち、轍夜の死角から勢いよく走って来ていた。雑に強くなる呪具が反応、間一髪で牙を受け止める。
「しょうがないにゃー。みーが見極めて合図するにゃー」
ケットシーがしっぽをぴんと立て、目を閉じた。研ぎ澄まされた感覚が、地中でうごめく闇を捉える。
ぞわり、と闇が震えた。
「……今にゃー!」
声に合わせて刃が閃く。斬撃が四方八方に飛び、そのうちの1つが魔狼を捉えた。
魔狼は実体を解けず、斬撃を食らう。たった1度のそれが致命傷となり、儚く吠えながら消えていった。
「お疲れ様でした」
突然かけられた声はリィラのものだ。
「にゃー? 魔法で見ていたにゃー?」
「はい。本当に、忘れていてすみません。わたくしが代わりに出来るものなら良かったのですが、こればっかりは……」
島を守るための、大切な儀式なのだ。「王」が行うことに意味がある。逆に言えば、魔狼退治をこなせない者に王たる資格は無い、ということだ。
「帰りましょう」
「転移魔法?」
「はい」
「やったー! すげー疲れてて歩きたくなかったんだー」
轍夜は諸手を上げて喜んだ。
「……これは」
目に留まった文字を見て、考える。しばらくして、
「今日ではありませんか……!」
慌てて轍夜の所へ行った。
「テツヤ! 今から言う場所に行ってください!」
「へ?」
勢い込んで言ってきたリィラに、轍夜は戸惑った表情を浮かべる。
「今すぐ出発すれば間に合うはずです。……少し走る必要があるかもしれませんが」
「にゃー? 魔法で送ってくれれば良いにゃー?」
ケットシーも不思議そうだ。轍夜に毛をいじられながら、首を傾げている。
「駄目なのです。王が1人で行かなければ……あ、ケットシーは一緒で大丈夫です」
ますます意味が分からない。轍夜とケットシーはきょとんとした。
リィラは、説明不足だったと気付き、話し始める。
「この島にはいくつかしきたりがあるのですが、そのうちの1つに、魔狼退治というものがあります。人間の国の王は10年に一度、1人で魔狼を退治しに行かなければならないのです」
「それが今日にゃー?」
「はい。夏の最も明るい星が満月の逆位置に来る時、地下から魔狼が湧き出る……それが今晩です」
「もしかして、忘れてたにゃー?」
「……恥ずかしながら。すっかり忘れていました」
少し目をそらしながら、リィラは言った。
月明かりが草原を照らしている。
爽やかな風にたなびく草をかきわけて、轍夜は歩いていた。ケットシーは轍夜の頭の上で、進む方向を指示している。
目的地まであと少し、という所だ。
「間に合いそう?」
「ギリギリにゃー」
空を見上げ、ケットシーは答えた。
轍夜はヘトヘトになりながらも、懸命に足を動かす。間に合いさえすれば良い。どんなに疲れていても、戦いとなれば呪具が勝手に体を動かしてくれるのだ。
そうして目的地に着いた時、地面から闇が湧き上がった。その闇は狼の形になり、轍夜を睨む。魔狼である。顔は轍夜の腰あたりの高さにあり、爛々と輝く瞳は月と同じ銀色だ。
轍夜が剣を抜き放つ。
魔狼の動きは素早い。飛ぶ斬撃を全て躱し、轍夜に跳びかかった。
「わっ」
魔狼の牙を剣で受け止め、身を横にずらす。流れるような動きで剣が魔狼の首にかかった。そのまま斬り落とす、はずだった。
「⁉」
魔狼の姿がかき消えた。消滅したのではない。闇がほどけるように、実体を解いたのだ。
仕切り直しとばかりに、魔狼が再び姿を現す。轍夜から距離を取った場所に。
「これ、どーやって倒すの?」
轍夜の呟きに、雑に強くなる呪具が「まあ頑張れ」と告げた。今回もサボるつもりだ。
「えー」
不満そうな声を上げた轍夜に、魔狼が襲い掛かる。一瞬で距離を詰め、ぎらりと光る牙を轍夜に突き立てようとした。
タンッと轍夜は上に跳び、空中で剣を振りまくる。轍夜の姿を見失った魔狼に、斬撃が殺到した。
所構わぬ斬撃が、周囲の草を飛び散らす。魔狼はまたしても実態を解き、斬撃から逃れた。
「……にゃー。魔狼が実体化した直後を狙うと良いにゃー」
様子を見ていたケットシーの助言。
「よーし!」
轍夜は気合を入れて、魔狼の実体化を待つ。しかし、遅かった。
既に魔狼は実体を持ち、轍夜の死角から勢いよく走って来ていた。雑に強くなる呪具が反応、間一髪で牙を受け止める。
「しょうがないにゃー。みーが見極めて合図するにゃー」
ケットシーがしっぽをぴんと立て、目を閉じた。研ぎ澄まされた感覚が、地中でうごめく闇を捉える。
ぞわり、と闇が震えた。
「……今にゃー!」
声に合わせて刃が閃く。斬撃が四方八方に飛び、そのうちの1つが魔狼を捉えた。
魔狼は実体を解けず、斬撃を食らう。たった1度のそれが致命傷となり、儚く吠えながら消えていった。
「お疲れ様でした」
突然かけられた声はリィラのものだ。
「にゃー? 魔法で見ていたにゃー?」
「はい。本当に、忘れていてすみません。わたくしが代わりに出来るものなら良かったのですが、こればっかりは……」
島を守るための、大切な儀式なのだ。「王」が行うことに意味がある。逆に言えば、魔狼退治をこなせない者に王たる資格は無い、ということだ。
「帰りましょう」
「転移魔法?」
「はい」
「やったー! すげー疲れてて歩きたくなかったんだー」
轍夜は諸手を上げて喜んだ。
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