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5章 判明
5-6 ウィルオウィスプⅡ
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轍夜は光を追って駆け、森に入って立ち止まる。
見失った。
きょろきょろ辺りを見渡すと、遠くがぼうっと明るい。数多の木に隠れるようにして、なお隠し切れない灯り。近付くと、それは青い炎だった。
1本の木が燃えている。他の木には燃え移らず、熱くもない。人間の認識する「炎」とは根本から異なるものなのだ。
「あーあ、やっぱり来ちゃったか」
残念そうな声が上から降ってきた。ウィルオウィスプだ。
「ひとしきり遊んでから立ち去るつもりだったけど……」
「にゃー! お前がひとしきり遊ぶと、とんでもない被害が出るにゃー! ここで消滅させてやるにゃー!」
「やれるものならやってみな!」
毛を逆立てるケットシーに対し、ウィルオウィスプはからかうように言う。クスクスと笑いながら。
轍夜は剣を抜き、ウィルオウィスプに向けた。
「言われなくてもやってやる!」
言うや否や、宙に跳ぶ。剣閃が青白い光を捉えた。が。
「無駄だよ」
斬られたはずのウィルオウィスプは、何事もなかったかのようにそこにいた。
「ボクに斬撃は効かないよ。さあ、どうする?」
またクスクスと笑いながら、ウィルオウィスプはゆらりと動く。光が弧を描き、そこから針のようなものが発射された。
轍夜は剣を一振りし、光の針を全て弾き落とす。
「どーにかしてくれ、雑に強くなる呪具!」
雑に強くなる呪具は、迷った。ウィルオウィスプに斬撃が効かないというのは嘘だ。上手くやれば効く。ただ、それを剣士の腕輪で出来るかどうか、というのが問題だった。だから、「……もうちょっと頑張ってみろ」と告げた。
「しょーがねーなー」
言いながら、轍夜は剣を閃かせる。斬撃が複数飛んでいき、ウィルオウィスプに襲い掛かった。
「無駄だって言ったよね?」
ウィルオウィスプの声音に、少し苛立ちが混じった。
「にゃー! 本当は斬られたくないのかにゃー!」
「ちっ」
ケットシーの言葉に舌打ちし、ウィルオウィスプは攻撃に転じる。
轍夜の周りの木が一斉に燃え上がった。青い炎に囲まれて、身動きがとれなくなる。熱くないとはいえ、触れれば焼け焦げる。
だが、神剣の前では無意味であった。
金色の刃が触れた瞬間、全ての炎がかき消える。焼け焦げた木が頼りなく風に揺れた。
ウィルオウィスプは瞠目し、叫ぶ。
「馬鹿な!」
炎を目くらまし兼足止めとして、逃げるつもりだったのだ。それを一瞬で消されてはたまらない。
「これで終わりにゃー!」
ケットシーが言うのに合わせ、斬撃がウィルオウィスプに殺到。ビシリと音がして、青白い光にヒビが入る。
「……!」
ウィルオウィスプは、嫌みの一つくらいは言ってやろうとした。しかし、度重なる斬撃で負ったダメージが、声を出すのを阻害する。苦し紛れに遠くへ炎を放ち、そのままパァンと砕け散った。
「やっぱこの剣すげー……」
轍夜は嘆声を上げ、雑に強くなる呪具も「それな」と言った。
その頃、リムネロエとヒュレアクラは街を歩いていた。そろそろ城へ戻ろうとしていたところである。
ふと、何か嫌な予感がし、2人は路地へ駆けた。
路地の奥には民家がある。石造りの小さな家が数軒並んでいる。その中の一軒だけが、青い炎に包まれていた。
「……石って、燃えるんだっけ」
リムネロエは呟きながら、剣を構える。中に入るつもりであった。人がいたら助けなければならないと思ったのだ。
懐から宝石を3粒取り出し、茨を展開。木製の扉を破り、息を止めて踏み込む。
家の中は、青い炎が充満していた。煙は無い。
どうすればこの炎を消せるのか、考えながら人を捜す。しかし、どうやらいないようだ。空き家だったらしい。
安堵しつつも気を引き締める。放っておいて良いものとは思えない。
リムネロエを見送ったヒュレアクラは、燃え盛る炎を見つめていた。不思議な炎だ。見る者を、どこかへ誘うような。
不意に、ケタケタと笑い声が聞こえた。
「何だ……⁉」
ぐい、と引き寄せられる感覚。その瞬間、ヒュレアクラは炎の中に放り込まれた。
「⁉」
咄嗟に宝石を握り、茨で体を覆う。じゅわっと茨の表面が焼け焦げた。
「やるねー」
ケタケタ、ケタケタ。耳障りな笑い声とともに、声が響く。
「誰だ⁉」
「残り火だよー」
残り火と名乗ったそれは、青い炎そのものであった。
「ウィルオウィスプの青い炎が意思を持った存在。それがボク」
「はぁっ!」
黒い刃の一閃が、残り火を裂いて吹き飛ばす。リムネロエが飛び込んできたのだ。
「話は最後まで聞いた方が良いよー、ガキども」
またケタケタ笑いながら、残り火は言う。
「異空間に引きずり込んでやったのさ。最期のいたずら、楽しませてよ」
話を聞いた2人は、顔を見合わせた。いまひとつ意味が分からない。
ここが異空間なのは分かった。残り火によって引きずり込まれたのも分かった。
ウィルオウィスプが何なのか、分からないのだ。
「まあ、良いか」
リムネロエとヒュレアクラは同時に呟き——青い炎に茨を殺到させた。
この宝石はとても便利で、茨の太さや棘の具合を調節できる。
攻防自在の茨だ。残り火に攻撃されようとも、幾重にも張り巡らせた茨で防ぎきれる。茨が消失しても、宝石に魔力さえ流せば、また茨が現れる。
残り火は、茨と相討ちになりながら数を減らしていく。
「その茨、何⁉ 何で燃えてくれない⁉」
残り火が、我慢ならないという風に叫んだ。青い炎は何でも燃やせるはずだったのに。
2人は答えず、茨を出し続ける。駆け巡る茨が、とうとう最後の炎を打ち消した。
場が静まり返る。ケタケタという笑い声も、残り火を名乗る声も、消え去った。
「……どうやって出れば良いんだろう」
ぽつりと呟くリムネロエ。ヒュレアクラも首を傾げ、辺りを見渡した。
真っ暗だ。
ついさっきまで青い炎に明るく照らされていたのが嘘のように、闇が広がっている。
2人は、試しにそれぞれ剣を振ってみた。何も起こらない。
助けが来ることを期待して、待つことにした。
轍夜とケットシーは、街の中まで戻ってきた。
「……にゃー? あっちの方、何か焦げ臭いにゃー」
ケットシーは轍夜の頭の上から飛び降り、歩いて行く。轍夜が追っていくと、目の前には焼け焦げた石の塊があった。両隣の民家から、その石の塊も民家だったものだと分かる。
「ん?」
雑に強くなる呪具が、轍夜に告げる。「空間が歪んでる。斬ってみろ」と。
轍夜は剣を抜き放った。神剣が虚空を斬り裂き、闇を生じさせる。
「何これ」
呟いた轍夜の声に、反応する者があった。
「……お父さま⁉」
「え、リムネロエ? 中にいるのか?」
「うん、出る方法が分からなくて。ヒュレアクラも一緒」
「ちょっと待ってろ」
轍夜は言って、雑に強くなる呪具を見る。「……いや、知らないって。何でもかんでも聞かれても困る」と呪具は慌てた。
「何があったにゃー?」
ケットシーの質問に、リムネロエは
「ウィルオウィスプの残り火とかいうやつに、異空間に引きずり込まれた」
と答えた。
「無事で良かったにゃー。とりあえず、こっちに歩いてこいにゃー」
「さっきから、そうしてる。でも、全然進んでる感じがしないんだ」
リムネロエの困ったような声に、轍夜は異空間の入り口らしきものに片足を突っ込んだ。
「オレがそっちに行く」
「にゃー? 呪具のアイディアかにゃー?」
「いや、何となく」
もう片方の足も入れると、滑るような感覚とともに双子の前に出た。
轍夜は剣に手をかける。
「こーゆーのってさ、空間斬れば出れるもんだよな」
「斬ってみたけど出られなかったよ?」
リムネロエは目を瞬かせて言った。しかし、轍夜が剣を閃かせると、闇に数多の亀裂が走る。たちまち異空間が砕け散った。
「流石は神剣にゃー」
無事に異空間から出てきた3人を見て、ケットシーは感心したように言った。
見失った。
きょろきょろ辺りを見渡すと、遠くがぼうっと明るい。数多の木に隠れるようにして、なお隠し切れない灯り。近付くと、それは青い炎だった。
1本の木が燃えている。他の木には燃え移らず、熱くもない。人間の認識する「炎」とは根本から異なるものなのだ。
「あーあ、やっぱり来ちゃったか」
残念そうな声が上から降ってきた。ウィルオウィスプだ。
「ひとしきり遊んでから立ち去るつもりだったけど……」
「にゃー! お前がひとしきり遊ぶと、とんでもない被害が出るにゃー! ここで消滅させてやるにゃー!」
「やれるものならやってみな!」
毛を逆立てるケットシーに対し、ウィルオウィスプはからかうように言う。クスクスと笑いながら。
轍夜は剣を抜き、ウィルオウィスプに向けた。
「言われなくてもやってやる!」
言うや否や、宙に跳ぶ。剣閃が青白い光を捉えた。が。
「無駄だよ」
斬られたはずのウィルオウィスプは、何事もなかったかのようにそこにいた。
「ボクに斬撃は効かないよ。さあ、どうする?」
またクスクスと笑いながら、ウィルオウィスプはゆらりと動く。光が弧を描き、そこから針のようなものが発射された。
轍夜は剣を一振りし、光の針を全て弾き落とす。
「どーにかしてくれ、雑に強くなる呪具!」
雑に強くなる呪具は、迷った。ウィルオウィスプに斬撃が効かないというのは嘘だ。上手くやれば効く。ただ、それを剣士の腕輪で出来るかどうか、というのが問題だった。だから、「……もうちょっと頑張ってみろ」と告げた。
「しょーがねーなー」
言いながら、轍夜は剣を閃かせる。斬撃が複数飛んでいき、ウィルオウィスプに襲い掛かった。
「無駄だって言ったよね?」
ウィルオウィスプの声音に、少し苛立ちが混じった。
「にゃー! 本当は斬られたくないのかにゃー!」
「ちっ」
ケットシーの言葉に舌打ちし、ウィルオウィスプは攻撃に転じる。
轍夜の周りの木が一斉に燃え上がった。青い炎に囲まれて、身動きがとれなくなる。熱くないとはいえ、触れれば焼け焦げる。
だが、神剣の前では無意味であった。
金色の刃が触れた瞬間、全ての炎がかき消える。焼け焦げた木が頼りなく風に揺れた。
ウィルオウィスプは瞠目し、叫ぶ。
「馬鹿な!」
炎を目くらまし兼足止めとして、逃げるつもりだったのだ。それを一瞬で消されてはたまらない。
「これで終わりにゃー!」
ケットシーが言うのに合わせ、斬撃がウィルオウィスプに殺到。ビシリと音がして、青白い光にヒビが入る。
「……!」
ウィルオウィスプは、嫌みの一つくらいは言ってやろうとした。しかし、度重なる斬撃で負ったダメージが、声を出すのを阻害する。苦し紛れに遠くへ炎を放ち、そのままパァンと砕け散った。
「やっぱこの剣すげー……」
轍夜は嘆声を上げ、雑に強くなる呪具も「それな」と言った。
その頃、リムネロエとヒュレアクラは街を歩いていた。そろそろ城へ戻ろうとしていたところである。
ふと、何か嫌な予感がし、2人は路地へ駆けた。
路地の奥には民家がある。石造りの小さな家が数軒並んでいる。その中の一軒だけが、青い炎に包まれていた。
「……石って、燃えるんだっけ」
リムネロエは呟きながら、剣を構える。中に入るつもりであった。人がいたら助けなければならないと思ったのだ。
懐から宝石を3粒取り出し、茨を展開。木製の扉を破り、息を止めて踏み込む。
家の中は、青い炎が充満していた。煙は無い。
どうすればこの炎を消せるのか、考えながら人を捜す。しかし、どうやらいないようだ。空き家だったらしい。
安堵しつつも気を引き締める。放っておいて良いものとは思えない。
リムネロエを見送ったヒュレアクラは、燃え盛る炎を見つめていた。不思議な炎だ。見る者を、どこかへ誘うような。
不意に、ケタケタと笑い声が聞こえた。
「何だ……⁉」
ぐい、と引き寄せられる感覚。その瞬間、ヒュレアクラは炎の中に放り込まれた。
「⁉」
咄嗟に宝石を握り、茨で体を覆う。じゅわっと茨の表面が焼け焦げた。
「やるねー」
ケタケタ、ケタケタ。耳障りな笑い声とともに、声が響く。
「誰だ⁉」
「残り火だよー」
残り火と名乗ったそれは、青い炎そのものであった。
「ウィルオウィスプの青い炎が意思を持った存在。それがボク」
「はぁっ!」
黒い刃の一閃が、残り火を裂いて吹き飛ばす。リムネロエが飛び込んできたのだ。
「話は最後まで聞いた方が良いよー、ガキども」
またケタケタ笑いながら、残り火は言う。
「異空間に引きずり込んでやったのさ。最期のいたずら、楽しませてよ」
話を聞いた2人は、顔を見合わせた。いまひとつ意味が分からない。
ここが異空間なのは分かった。残り火によって引きずり込まれたのも分かった。
ウィルオウィスプが何なのか、分からないのだ。
「まあ、良いか」
リムネロエとヒュレアクラは同時に呟き——青い炎に茨を殺到させた。
この宝石はとても便利で、茨の太さや棘の具合を調節できる。
攻防自在の茨だ。残り火に攻撃されようとも、幾重にも張り巡らせた茨で防ぎきれる。茨が消失しても、宝石に魔力さえ流せば、また茨が現れる。
残り火は、茨と相討ちになりながら数を減らしていく。
「その茨、何⁉ 何で燃えてくれない⁉」
残り火が、我慢ならないという風に叫んだ。青い炎は何でも燃やせるはずだったのに。
2人は答えず、茨を出し続ける。駆け巡る茨が、とうとう最後の炎を打ち消した。
場が静まり返る。ケタケタという笑い声も、残り火を名乗る声も、消え去った。
「……どうやって出れば良いんだろう」
ぽつりと呟くリムネロエ。ヒュレアクラも首を傾げ、辺りを見渡した。
真っ暗だ。
ついさっきまで青い炎に明るく照らされていたのが嘘のように、闇が広がっている。
2人は、試しにそれぞれ剣を振ってみた。何も起こらない。
助けが来ることを期待して、待つことにした。
轍夜とケットシーは、街の中まで戻ってきた。
「……にゃー? あっちの方、何か焦げ臭いにゃー」
ケットシーは轍夜の頭の上から飛び降り、歩いて行く。轍夜が追っていくと、目の前には焼け焦げた石の塊があった。両隣の民家から、その石の塊も民家だったものだと分かる。
「ん?」
雑に強くなる呪具が、轍夜に告げる。「空間が歪んでる。斬ってみろ」と。
轍夜は剣を抜き放った。神剣が虚空を斬り裂き、闇を生じさせる。
「何これ」
呟いた轍夜の声に、反応する者があった。
「……お父さま⁉」
「え、リムネロエ? 中にいるのか?」
「うん、出る方法が分からなくて。ヒュレアクラも一緒」
「ちょっと待ってろ」
轍夜は言って、雑に強くなる呪具を見る。「……いや、知らないって。何でもかんでも聞かれても困る」と呪具は慌てた。
「何があったにゃー?」
ケットシーの質問に、リムネロエは
「ウィルオウィスプの残り火とかいうやつに、異空間に引きずり込まれた」
と答えた。
「無事で良かったにゃー。とりあえず、こっちに歩いてこいにゃー」
「さっきから、そうしてる。でも、全然進んでる感じがしないんだ」
リムネロエの困ったような声に、轍夜は異空間の入り口らしきものに片足を突っ込んだ。
「オレがそっちに行く」
「にゃー? 呪具のアイディアかにゃー?」
「いや、何となく」
もう片方の足も入れると、滑るような感覚とともに双子の前に出た。
轍夜は剣に手をかける。
「こーゆーのってさ、空間斬れば出れるもんだよな」
「斬ってみたけど出られなかったよ?」
リムネロエは目を瞬かせて言った。しかし、轍夜が剣を閃かせると、闇に数多の亀裂が走る。たちまち異空間が砕け散った。
「流石は神剣にゃー」
無事に異空間から出てきた3人を見て、ケットシーは感心したように言った。
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