7 / 14
7
第7話 未来への誓い
〇
新王の戴冠式から数日後、王都は祝祭の熱に包まれていた。大通りでは音楽隊が行進し、花々が飾られ、人々は新しい時代の幕開けを祝って笑顔を交わしている。その中心にある王宮もまた、かつてないほど華やかに飾り立てられ、来賓の列が途切れることはなかった。
そしてその中で、わたし――レティシア・アルバーンの役割もまた、大きく変わりつつあった。
戴冠式を経て、わたしは正式に“王太子妃”として認められた。まだ結婚こそしていないが、国王の婚約者としての責務が本格的に始まったのだ。社交界での立場は完全に一変し、王族関係者としての発言力や影響力が増すと同時に、あらゆる視線がわたしに集まるようになった。
「レティシア様、本日は北方伯爵家のご令嬢がご挨拶にお見えになります」
「午後には商会組合との会談もございます」
「それから、王立孤児院への訪問日程が――」
メアリが読み上げる予定表は、朝から晩までぎっしりと詰まっていた。息をつく暇さえないほどの忙しさだが、不思議と心は疲れていなかった。むしろ、満たされていた。かつて“何者でもなかった”自分が、今は“誰かの力になれる”場所に立っている――その実感が、わたしを支えてくれていた。
「メアリ、ありがとう。大丈夫、全部こなしてみせるわ」
「……本当に、強くなられましたね。最初にお仕えした頃とはまるで別人のようです」
「そうかしら。でも、心の奥は昔のままよ。小さなことに悩んだり、不安になったりもするもの」
「それでも、もう“下を向く”ことはなくなったでしょう?」
その言葉に、わたしはふっと微笑んだ。
そう、もうあの頃のようにうつむくことはない。過去は過去として受け入れ、今は前だけを見て歩いている。だからこそ、今度は“わたし自身の役割”を果たす番なのだ。
◇
その日の午後、王立孤児院を訪れた。
石造りの建物の庭では、子どもたちが元気いっぱいに駆け回っている。彼らの笑い声は澄んでいて、どこまでもまっすぐだった。
「王太子妃様だ!」
「ほんとに来てくれたんだ!」
「お姫様みたい!」
子どもたちが一斉に駆け寄ってくる。その瞳の輝きに、わたしは自然と微笑んだ。
――そう、わたしも昔は、あんな目で世界を見ていた。
誰かに手を引かれたいと願い、どこかに居場所がほしいと祈っていた。
「みんな、元気そうでよかったわ。今日は一緒にお話をしましょうね」
「うん!」
「絵本読んで!」
「王子様の話して!」
子どもたちと過ごす時間は、驚くほど早く過ぎていった。彼らは未来を恐れず、ただ夢中で今を生きている。その姿は、かつてのわたしにとって最も遠いものだった。だが今は違う。未来を恐れず、夢を見ることは、誰にでもできる――そのことを、彼らから教えられた気がした。
◇
夕暮れ時、孤児院を後にして王宮へ戻る途中、アレクシス殿下が待っていた。彼はわたしを見ると、ふわりと微笑んで手を差し出す。
「お疲れさまでした。子どもたちは喜んでいましたか?」
「ええ、とても。あんなに無邪気な笑顔を見るのは久しぶりです」
「あなたのような人が王族の一員になってくれることを、私は心から誇りに思います」
その言葉に、胸が温かくなる。
――かつて“何も持たない”と思っていた自分が、今は“誰かの誇り”であるという事実が、何より嬉しかった。
「殿下……いいえ、陛下。わたし、まだまだ未熟です。でも、少しでも多くの人の笑顔を守れる存在になりたいと思います」
「その志があれば、どんな困難も乗り越えられる。私も、あなたと共に歩みますよ」
彼の手が、わたしの手を包み込む。かつてはただの温もりだったその手が、今では“未来を共に創る約束”のように感じられた。
◇
夜、王宮のバルコニーから街を見下ろす。
無数の灯りが星のように瞬き、人々の笑い声が遠くから聞こえてくる。
そのすべてが、“この国の未来”だ。
――わたしは、もう“いじめられっこ”ではない。
誰かに怯えて生きる少女でもない。
王妃として、ひとりの女性として、堂々とこの世界を歩いていける。
でも、それはわたしひとりの力じゃない。
手を差し伸べてくれた人がいて、支えてくれた人がいて、信じてくれた人がいたからこそ、今のわたしがいるのだ。
「ありがとう……」
夜空に向かってそっと呟く。
それは殿下に向けてだけではなく、過去の自分にも、そして今ここにいるすべての人々にも向けた言葉だった。
◇
そのとき、背後から足音が近づいてきた。振り返ると、アレクシスが静かに立っている。
月明かりの下で見つめ合い、彼はゆっくりと口を開いた。
「レティシア。私と共に、この国の未来を歩んでくれますか?」
「……ええ。どこまでも、共に」
その言葉と共に、彼の手を取った。
小さな一歩だったけれど、それはきっと、国と民と未来へと続く大きな一歩になる――そう信じられた。
長い苦しみの日々は、もう遠い過去のこと。
今ここから、わたしの“新しい物語”が始まる。
そして、彼と共に描くその未来は、誰よりも美しく、誰にも奪えないものになると、心から確信していた。
――それが、わたしの誓い。
愛と誇りと共に歩む、永遠の誓いだった。
〇
新王の戴冠式から数日後、王都は祝祭の熱に包まれていた。大通りでは音楽隊が行進し、花々が飾られ、人々は新しい時代の幕開けを祝って笑顔を交わしている。その中心にある王宮もまた、かつてないほど華やかに飾り立てられ、来賓の列が途切れることはなかった。
そしてその中で、わたし――レティシア・アルバーンの役割もまた、大きく変わりつつあった。
戴冠式を経て、わたしは正式に“王太子妃”として認められた。まだ結婚こそしていないが、国王の婚約者としての責務が本格的に始まったのだ。社交界での立場は完全に一変し、王族関係者としての発言力や影響力が増すと同時に、あらゆる視線がわたしに集まるようになった。
「レティシア様、本日は北方伯爵家のご令嬢がご挨拶にお見えになります」
「午後には商会組合との会談もございます」
「それから、王立孤児院への訪問日程が――」
メアリが読み上げる予定表は、朝から晩までぎっしりと詰まっていた。息をつく暇さえないほどの忙しさだが、不思議と心は疲れていなかった。むしろ、満たされていた。かつて“何者でもなかった”自分が、今は“誰かの力になれる”場所に立っている――その実感が、わたしを支えてくれていた。
「メアリ、ありがとう。大丈夫、全部こなしてみせるわ」
「……本当に、強くなられましたね。最初にお仕えした頃とはまるで別人のようです」
「そうかしら。でも、心の奥は昔のままよ。小さなことに悩んだり、不安になったりもするもの」
「それでも、もう“下を向く”ことはなくなったでしょう?」
その言葉に、わたしはふっと微笑んだ。
そう、もうあの頃のようにうつむくことはない。過去は過去として受け入れ、今は前だけを見て歩いている。だからこそ、今度は“わたし自身の役割”を果たす番なのだ。
◇
その日の午後、王立孤児院を訪れた。
石造りの建物の庭では、子どもたちが元気いっぱいに駆け回っている。彼らの笑い声は澄んでいて、どこまでもまっすぐだった。
「王太子妃様だ!」
「ほんとに来てくれたんだ!」
「お姫様みたい!」
子どもたちが一斉に駆け寄ってくる。その瞳の輝きに、わたしは自然と微笑んだ。
――そう、わたしも昔は、あんな目で世界を見ていた。
誰かに手を引かれたいと願い、どこかに居場所がほしいと祈っていた。
「みんな、元気そうでよかったわ。今日は一緒にお話をしましょうね」
「うん!」
「絵本読んで!」
「王子様の話して!」
子どもたちと過ごす時間は、驚くほど早く過ぎていった。彼らは未来を恐れず、ただ夢中で今を生きている。その姿は、かつてのわたしにとって最も遠いものだった。だが今は違う。未来を恐れず、夢を見ることは、誰にでもできる――そのことを、彼らから教えられた気がした。
◇
夕暮れ時、孤児院を後にして王宮へ戻る途中、アレクシス殿下が待っていた。彼はわたしを見ると、ふわりと微笑んで手を差し出す。
「お疲れさまでした。子どもたちは喜んでいましたか?」
「ええ、とても。あんなに無邪気な笑顔を見るのは久しぶりです」
「あなたのような人が王族の一員になってくれることを、私は心から誇りに思います」
その言葉に、胸が温かくなる。
――かつて“何も持たない”と思っていた自分が、今は“誰かの誇り”であるという事実が、何より嬉しかった。
「殿下……いいえ、陛下。わたし、まだまだ未熟です。でも、少しでも多くの人の笑顔を守れる存在になりたいと思います」
「その志があれば、どんな困難も乗り越えられる。私も、あなたと共に歩みますよ」
彼の手が、わたしの手を包み込む。かつてはただの温もりだったその手が、今では“未来を共に創る約束”のように感じられた。
◇
夜、王宮のバルコニーから街を見下ろす。
無数の灯りが星のように瞬き、人々の笑い声が遠くから聞こえてくる。
そのすべてが、“この国の未来”だ。
――わたしは、もう“いじめられっこ”ではない。
誰かに怯えて生きる少女でもない。
王妃として、ひとりの女性として、堂々とこの世界を歩いていける。
でも、それはわたしひとりの力じゃない。
手を差し伸べてくれた人がいて、支えてくれた人がいて、信じてくれた人がいたからこそ、今のわたしがいるのだ。
「ありがとう……」
夜空に向かってそっと呟く。
それは殿下に向けてだけではなく、過去の自分にも、そして今ここにいるすべての人々にも向けた言葉だった。
◇
そのとき、背後から足音が近づいてきた。振り返ると、アレクシスが静かに立っている。
月明かりの下で見つめ合い、彼はゆっくりと口を開いた。
「レティシア。私と共に、この国の未来を歩んでくれますか?」
「……ええ。どこまでも、共に」
その言葉と共に、彼の手を取った。
小さな一歩だったけれど、それはきっと、国と民と未来へと続く大きな一歩になる――そう信じられた。
長い苦しみの日々は、もう遠い過去のこと。
今ここから、わたしの“新しい物語”が始まる。
そして、彼と共に描くその未来は、誰よりも美しく、誰にも奪えないものになると、心から確信していた。
――それが、わたしの誓い。
愛と誇りと共に歩む、永遠の誓いだった。
あなたにおすすめの小説
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
緑の指を持つ娘
Moonshine
恋愛
べスは、田舎で粉ひきをして暮らしている地味な女の子、唯一の趣味は魔法使いの活躍する冒険の本を読むことくらいで、魔力もなければ学もない。ただ、ものすごく、植物を育てるのが得意な特技があった。
ある日幼馴染がべスの畑から勝手に薬草をもっていった事で、べスの静かな生活は大きくかわる・・
俺様魔術師と、純朴な田舎の娘の異世界恋愛物語。
第1章は完結いたしました!第2章の温泉湯けむり編スタートです。
ちょっと投稿は不定期になりますが、頑張りますね。
疲れた人、癒されたい人、みんなべスの温室に遊びにきてください。温室で癒されたら、今度はベスの温泉に遊びにきてくださいね!作者と一緒に、みんなでいい温泉に入って癒されませんか?
無能扱いされ、パーティーを追放されたOL、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
恋愛
かつて王都で働いていたOL・ミナ。
冒険者パーティーの後方支援として、管理と戦略を担当していた彼女は、仲間たちから「役立たず」「無能」と罵られ、あっけなく追放されてしまう。
居場所を失ったミナが辿り着いたのは、辺境の小さな村・フェルネ。
「もう、働かない」と決めた彼女は、静かな村で“何もしない暮らし”を始める。
けれど、彼女がほんの気まぐれに整理した倉庫が村の流通を変え、
適当に育てたハーブが市場で大人気になり、
「無能」だったはずのスキルが、いつの間にか村を豊かにしていく。
そんなある日、かつての仲間が訪ねてくる。
「戻ってきてくれ」――今さら何を言われても、もう遅い。
ミナは笑顔で答える。
「私はもう、ここで幸せなんです」
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
【完結】「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう
ムラサメ
恋愛
漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。
死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。
しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。
向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。
一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。