次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら

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第7話 未来への誓い


 新王の戴冠式から数日後、王都は祝祭の熱に包まれていた。大通りでは音楽隊が行進し、花々が飾られ、人々は新しい時代の幕開けを祝って笑顔を交わしている。その中心にある王宮もまた、かつてないほど華やかに飾り立てられ、来賓の列が途切れることはなかった。
 そしてその中で、わたし――レティシア・アルバーンの役割もまた、大きく変わりつつあった。

 戴冠式を経て、わたしは正式に“王太子妃”として認められた。まだ結婚こそしていないが、国王の婚約者としての責務が本格的に始まったのだ。社交界での立場は完全に一変し、王族関係者としての発言力や影響力が増すと同時に、あらゆる視線がわたしに集まるようになった。

「レティシア様、本日は北方伯爵家のご令嬢がご挨拶にお見えになります」
「午後には商会組合との会談もございます」
「それから、王立孤児院への訪問日程が――」

 メアリが読み上げる予定表は、朝から晩までぎっしりと詰まっていた。息をつく暇さえないほどの忙しさだが、不思議と心は疲れていなかった。むしろ、満たされていた。かつて“何者でもなかった”自分が、今は“誰かの力になれる”場所に立っている――その実感が、わたしを支えてくれていた。

「メアリ、ありがとう。大丈夫、全部こなしてみせるわ」

「……本当に、強くなられましたね。最初にお仕えした頃とはまるで別人のようです」

「そうかしら。でも、心の奥は昔のままよ。小さなことに悩んだり、不安になったりもするもの」

「それでも、もう“下を向く”ことはなくなったでしょう?」

 その言葉に、わたしはふっと微笑んだ。
 そう、もうあの頃のようにうつむくことはない。過去は過去として受け入れ、今は前だけを見て歩いている。だからこそ、今度は“わたし自身の役割”を果たす番なのだ。



 その日の午後、王立孤児院を訪れた。
 石造りの建物の庭では、子どもたちが元気いっぱいに駆け回っている。彼らの笑い声は澄んでいて、どこまでもまっすぐだった。

「王太子妃様だ!」
「ほんとに来てくれたんだ!」
「お姫様みたい!」

 子どもたちが一斉に駆け寄ってくる。その瞳の輝きに、わたしは自然と微笑んだ。
 ――そう、わたしも昔は、あんな目で世界を見ていた。
 誰かに手を引かれたいと願い、どこかに居場所がほしいと祈っていた。

「みんな、元気そうでよかったわ。今日は一緒にお話をしましょうね」

「うん!」
「絵本読んで!」
「王子様の話して!」

 子どもたちと過ごす時間は、驚くほど早く過ぎていった。彼らは未来を恐れず、ただ夢中で今を生きている。その姿は、かつてのわたしにとって最も遠いものだった。だが今は違う。未来を恐れず、夢を見ることは、誰にでもできる――そのことを、彼らから教えられた気がした。



 夕暮れ時、孤児院を後にして王宮へ戻る途中、アレクシス殿下が待っていた。彼はわたしを見ると、ふわりと微笑んで手を差し出す。

「お疲れさまでした。子どもたちは喜んでいましたか?」

「ええ、とても。あんなに無邪気な笑顔を見るのは久しぶりです」

「あなたのような人が王族の一員になってくれることを、私は心から誇りに思います」

 その言葉に、胸が温かくなる。
 ――かつて“何も持たない”と思っていた自分が、今は“誰かの誇り”であるという事実が、何より嬉しかった。

「殿下……いいえ、陛下。わたし、まだまだ未熟です。でも、少しでも多くの人の笑顔を守れる存在になりたいと思います」

「その志があれば、どんな困難も乗り越えられる。私も、あなたと共に歩みますよ」

 彼の手が、わたしの手を包み込む。かつてはただの温もりだったその手が、今では“未来を共に創る約束”のように感じられた。



 夜、王宮のバルコニーから街を見下ろす。
 無数の灯りが星のように瞬き、人々の笑い声が遠くから聞こえてくる。
 そのすべてが、“この国の未来”だ。

 ――わたしは、もう“いじめられっこ”ではない。
 誰かに怯えて生きる少女でもない。
 王妃として、ひとりの女性として、堂々とこの世界を歩いていける。

 でも、それはわたしひとりの力じゃない。
 手を差し伸べてくれた人がいて、支えてくれた人がいて、信じてくれた人がいたからこそ、今のわたしがいるのだ。

「ありがとう……」

 夜空に向かってそっと呟く。
 それは殿下に向けてだけではなく、過去の自分にも、そして今ここにいるすべての人々にも向けた言葉だった。



 そのとき、背後から足音が近づいてきた。振り返ると、アレクシスが静かに立っている。
 月明かりの下で見つめ合い、彼はゆっくりと口を開いた。

「レティシア。私と共に、この国の未来を歩んでくれますか?」

「……ええ。どこまでも、共に」

 その言葉と共に、彼の手を取った。
 小さな一歩だったけれど、それはきっと、国と民と未来へと続く大きな一歩になる――そう信じられた。

 長い苦しみの日々は、もう遠い過去のこと。
 今ここから、わたしの“新しい物語”が始まる。

 そして、彼と共に描くその未来は、誰よりも美しく、誰にも奪えないものになると、心から確信していた。

 ――それが、わたしの誓い。
 愛と誇りと共に歩む、永遠の誓いだった。
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