無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら

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第1話 追放されたおっさん

 冒険者ギルドの奥にある、石造りの酒場はざわついていた。昼間から酒をあおる者、仲間と戦利品を分け合う者、次の依頼を探して目を光らせる者。冒険者の喧騒は、いつだって活気に満ちているはずだった。だが、その日の俺にとっては、耳障りな笑い声にしか聞こえなかった。

「おいジル、お前もうクビだ。今日で終わりだ」

 テーブルの向こう、赤毛の剣士リーダーが吐き捨てるように言った。俺の名はジル。四十を過ぎた、中年のおっさん冒険者だ。仲間内では一番の古株。十年以上、血反吐を吐きながらこのパーティーを支えてきた。なのに、返ってきた言葉がこれだ。

「……理由を聞いてもいいか?」

「理由? そんなん決まってんだろ。お前、戦闘じゃ役に立たねえし、魔法も使えねえ。荷物持ちくらいしか能がない。おっさんはもう足手まといなんだよ」

 剣士の隣では、金髪の魔法使いが鼻で笑った。後ろに座っている弓使いの若造も、目を合わせようとしない。仲間だったはずの連中の態度に、胸の奥がじりじりと焼け付く。

 無能。足手まとい。
 何度も聞かされてきた言葉だ。確かに、若い頃のように無茶な戦い方はできない。膝は軋むし、剣も重く感じる。だが、それでも十数年を生き延び、仲間を守ってきた自負はあった。

「……わかった。長い間世話になったな」

 俺は静かに席を立った。罵倒し返すこともできたが、それはもう無意味だ。心のどこかで、こうなることを覚悟していたのかもしれない。テーブルに置かれていた安酒の匂いを最後に吸い込み、振り返らずに酒場を出た。

 石畳の通りに出ると、空はやけに青く澄んでいた。胸の奥が空っぽで、足取りがやけに軽い。十年分の縛りが一気に切れたような、奇妙な解放感。だが、それと同時に深い虚無感が押し寄せてくる。

(俺は……結局、何だったんだろうな)

 冒険者として積み重ねた年月は、仲間の一言で否定された。居場所を失った中年の冒険者に、これから先の未来なんてあるのか。そんな思考に沈みかけたその時――。

「……スキル《真なる創造》が解放されました」

 耳元で、誰かが囁いた。女神のように澄んだ声。驚いて周囲を見回すが、誰もいない。だが、頭の中に鮮明な文字が浮かび上がる。

 《真なる創造》――。

 その説明にはこう記されていた。
 「ありとあらゆる物品、道具、食材、建材を創り出すことができる。上限は使用者の想像力次第」

 息を呑んだ。これは……とんでもないチートスキルだ。
 冒険者として生きてきた十数年間、こんな能力を持っているとは一度も知らなかった。どうやら、仲間に追放され、束縛から解き放たれたことで覚醒したらしい。

「……ククッ、ははは……!」

 気づけば笑っていた。酒場での悔しさよりも、未来への好奇心が勝った。無能? 足手まとい? いや、俺はまだ終わっちゃいない。このスキルさえあれば、むしろこれからが始まりだ。



 それから数日後。
 俺は街を離れ、辺境の小さな村へとたどり着いた。緑豊かな丘陵地帯に点在する農家、羊の鳴き声、木漏れ日。剣も魔法も必要のない、平和な田舎。ここなら、心を休めて暮らせるかもしれない。

 試しに《真なる創造》を使ってみると、木の枝から新品同様の椅子を生み出せた。さらに畑の土を肥沃にする薬も作り出せる。村人たちは目を丸くして俺を見つめ、「ジルさん、すごいですね!」と感謝してくれた。

 ……こんな風に必要とされるのは、何年ぶりだろう。
 追放されたあの日の屈辱も、少しずつ遠のいていく気がした。

「ここでなら……やり直せるかもしれないな」

 俺は田舎の空を仰ぎ、小さくつぶやいた。胸の奥に、静かな炎が灯る。
 ――無能と笑った連中よ。お前らが俺を切り捨てたことを、いずれ後悔させてやる。

 だがそれは今すぐではない。まずは、羊の声と柔らかな風に包まれたこの村で、ゆったりと生きていこう。
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