無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら

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第3話 村の夜とおっさんの誓い

 朝にパンを焼き、昼に用水を直し、夕暮れに湯船を沸かしたその日。俺は心地よい疲れを抱えて眠りに落ちた。だが、夜の闇は思いがけぬ訪問者を連れてきた。

 空き家の戸口に、かすかな音がした。木の板を指先で叩くような、遠慮がちな音。夢の残り香に引きずられながら目を覚ますと、月明かりに照らされた影が揺れていた。

「ジルさん……起きてますか?」

 声はミナのものだった。戸を開けると、彼女は大きな壺を抱えていた。肩で息をして、額に汗を光らせている。

「夜更けにどうした。こんな時間に外を歩くのは危ないぞ」
「……おじいちゃんが。急に熱を出しちゃって……薬草を煎じようと思ったんですけど、壺がひび割れてて……」

 壺の口からは、水が一筋、地面にこぼれていた。

「なるほど」
 俺は壺を手に取り、掌に意識を集中する。形を修復し、強度を高め、内部を清潔に――そんな像を頭に描くと、ひびはすっと消え、表面が新しい陶器のように輝いた。

「……直った!」
「熱のある人間には、水が一番だ。薬草はあとでいい。まずは身体を冷やすんだ」

 ミナは大きく頷き、壺を抱えて駆け出していった。



 彼女が去った後も、俺は眠れずにいた。机に肘をつき、ろうそくの炎を見つめる。炎は小さく揺れ、煙が天井に筋を描く。脳裏に浮かぶのは、街のギルドの光景だった。

 ――「無能」
 ――「荷物持ち」
 ――「足手まとい」

 追放の言葉が耳に残って離れない。だが、今日一日の出来事が、その声を押し返していた。畑を流れる水の音。焼きたてのパンをかじる子どもたちの笑顔。湯船に浸かって目を細める老人たち。あの光景は幻ではない。

「俺は……無能じゃない」

 ぽつりと呟く。胸の奥に熱いものが広がった。誰かに認められるためではなく、自分のために。村の暮らしを守り、人々の笑顔を増やすために。これが俺の道だ。



 翌朝、村は小さな騒ぎで始まった。村長のハルドが熱を下げ、起き上がったのだ。昨夜、薬草を煎じたおかげで汗をかき、今は顔色も戻っている。

「ジル殿……礼を言わねばなるまい。命を拾ったわい」
「礼はミナに言ってやってくれ。俺は壺を直しただけだ」

 村人たちが集まり、口々に感謝を述べた。子どもたちは俺の足にまとわりつき、女衆は畑の野菜を手渡してくれる。昨日まではただの流れ者だった俺が、今日には「村に必要な人間」になっていた。

(……居場所ってのは、案外すぐにできるものなんだな)

 そう思った瞬間、胸の奥で小さな鐘が鳴ったような気がした。《真なる創造》の奥に、また新しい感覚が芽吹いたのだ。

――「スキル進化条件を達成しました。《真なる創造》に新たな機能が追加されます」

 頭に文字が浮かぶ。新機能の名は――《強化》。

 創り出した物を、より丈夫に、より精巧に、より長持ちさせることができる。たとえば、昨日作った水車をもっと効率よく回せるし、窯をさらに熱効率の良いものにできる。

「……おいおい」

 俺は思わず笑った。これではもう「無能」どころの話ではない。



 その日の午後。俺は村の子どもたちと一緒に小川のそばで遊んでいた。棒切れで魚を追い、泥だらけになって笑う子どもたちを見守る。俺自身も、子どもみたいに水を跳ね飛ばした。

「ジルさんって、冒険者なのに強そうじゃないね」
 無邪気な声に、俺は肩を揺らして笑った。

「そうだな。剣は振れんし、魔法もからっきしだ」
「じゃあ、どうして冒険者だったの?」
「どうしてだろうな……」

 子どもの問いは、胸に小さな棘を残した。俺は強さを求めて剣を握ったが、結局は追放された。だが、今なら答えられる。

「俺は……誰かの役に立ちたかったんだ」

 その言葉に、子どもたちは首をかしげ、すぐに泥遊びに戻った。俺は小さく息を吐いた。



 夕暮れ、空が茜に染まるころ。街道の方から旅人が現れた。背には大きな荷物。顔に埃をかぶり、疲労を滲ませている。

「おや、村に新しい顔があるな」
「流れ者さ。ここで世話になってる」

 軽く言葉を交わしたが、その旅人は俺の名を聞いて、目を見開いた。

「ジル……お前、ジルなのか?」

 その声は懐かしい。街で同じ釜の飯を食った、昔の仲間の一人。だが、そいつの瞳には驚きと同時に、妙な焦りが宿っていた。

「頼む、戻ってきてくれ。パーティーが……崩壊しかけてるんだ!」

 村人たちのざわめきが広がる。ミナが俺の袖を握り、怯えたように顔を見上げる。

 ――「戻ってきてくれ」

 あの日、聞くことのなかった言葉。だが、今の俺は違う。

「……もう遅い」

 口の中で呟いた言葉は、決して揺らぐことはなかった。
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