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第21話 告白と誓い
〇
夜明け前の村は静まり返り、霧が屋根の上を覆っていた。私は畑に出て、まだ冷たい土を掌に掬った。触れるたびに落ち着きを取り戻せる――はずなのに、胸の奥はざわついたままだ。
「リリアナ」
背後から聞こえる低い声に振り返ると、セドリックが立っていた。薄明かりに照らされた灰色の瞳が、鋭さではなく、静かな憂いを宿している。
「君に、伝えねばならないことがある」
彼の声は重く、普段の毅然さとは違っていた。私は鍬を置き、真剣に耳を傾ける。
「王都では、君を陥れる証人が次々と仕立てられている。殿下はそれを大々的に広めるつもりだ」
「……やはり」
覚悟していたことだが、改めて聞かされると心臓が冷たくなる。
けれどセドリックは続けた。
「だからこそ、俺は君を守り抜くと誓う。地位も命も惜しまない」
強い声に胸が震えた。
△
私は思わず言葉を失った。守られることを望んでいなかったはずだ。寵愛などいらないと何度も自分に言い聞かせてきた。それなのに――。
「……どうして、そこまでしてくださるのですか」
かすれた声で尋ねると、彼の瞳がまっすぐに私を射抜いた。
「理由は一つ。俺は、君を想っているからだ」
空気が止まったように感じた。頭では「誤解だ」と否定しようとするのに、胸の奥は熱く、甘く痺れる。
「ち、違います。私は……健気に見えているだけで、本当は……」
必死に否定する私の声を、彼は静かに遮った。
「違わない。君がどう思おうと、俺にとっては真実だ」
夕陽が差し込み、彼の横顔を朱に染める。その姿が揺らぎなく、胸に焼きついた。
◇
一方、王都の広間。アルベルト殿下は報告を受け、碧眼を怒りに燃やしていた。
「セドリックが彼女に想いを告げたと?」
「はい、殿下。村に潜ませた者からの知らせです」
「許せぬ……! 俺を拒んだ女が、あの男の腕の中で微笑むなど!」
杯を握る手が震え、葡萄酒が滴り落ちる。カトリーヌが傍らで冷ややかに笑った。
「殿下。ならば早急に手を打ちましょう。彼女を守るものを奪えばよいのです」
殿下の瞳に危うい光が宿る。
「……そうだ。彼女から村を奪えば、必ず俺の元に戻る」
その頃、私は窓辺に座り、胸に手を当てていた。
(寵愛なんて要らないと思っていたのに……どうして)
心臓はまだ早鐘を打ち続け、セドリックの声が何度も脳裏に蘇っていた。
外の風は強く、嵐の前触れのように村を撫でていた。
第22話 村を狙う影
〇
夏の盛り、畑は緑で満ちていた。カモミールは白い花を咲かせ、ミントの香りが風に溶けて漂う。私は朝露に濡れた葉を撫でながら、胸いっぱいに深呼吸をした。ほんの一瞬、昨日までの重苦しい噂を忘れられる気がした。
「リリアナ」
振り返ると、セドリックが立っていた。鍛えられた体躯に汗が光り、騎士というより村の男のように見える。
「村の周辺に怪しい影があった。王都からの者かもしれない」
「また……殿下の差し金ですね」
彼は無言で頷いた。その表情は鋼のように固い。
「君は畑を離れるな。子どもたちの傍にいてくれ」
「でも……」
「約束してくれ。俺が必ず守る」
灰色の瞳に射抜かれ、私は言葉を失った。ただ小さく頷くことしかできなかった。
△
一方その頃、王都の宮廷。アルベルト殿下は地図を広げ、指で村の位置をなぞっていた。
「セドリックが守る限り、リリアナは揺るがぬ……」
「殿下。ならば村そのものを揺るがせばよろしいのです」
カトリーヌが妖艶な笑みを浮かべる。
「村に火を放ち、恐怖を植え付ければ。彼女は必ず殿下に救いを求めますわ」
「ふん……見ものだな」
殿下の碧眼に暗い炎が宿った。
宰相オスカーは黙って俯き、唇を結ぶ。王国の未来が狂気に飲まれていくのを止められずにいた。
◇
その夜、私はマリアの家で薬草を刻んでいた。外では風が強く、窓が鳴っている。落ち着かない気持ちを抑えようとしても、手は震えていた。
「怖い顔してるよ」
マリアが湯気の立つ茶を差し出す。
「……村が狙われている気がするんです」
「狙われてるさ。でも、だからこそ根を張らなきゃならない」
その声に救われた気がした。
そこへ扉が叩かれた。開けると、セドリックが真剣な顔で立っていた。
「リリアナ、覚悟してくれ。王都は本気で村を揺るがしにかかっている」
「……私のせいで」
「違う。君のせいじゃない。殿下の執着が狂っているだけだ」
彼の言葉に胸が熱くなる。守られたくないと思いながら、守られる安心が心を溶かしていく。
(私は寵愛なんて望んでいない。けれど……この人の言葉は、どうしてこんなに胸に響くの)
外の風はますます強まり、まるで嵐の前触れのように村を包み込んでいた。
第23話 火種の夜
〇
その夜、村は不思議なほど静かだった。子どもたちの笑い声も、犬の吠える声も聞こえない。風すら止んだかのように重たい空気が漂い、胸の奥にざわめきが広がる。私は眠れず、窓辺に腰を下ろして畑を眺めていた。
月明かりに照らされるカモミールの花々は白く揺れ、まるで光の波のようだった。その美しさに安堵しようとした矢先――村の外から、かすかな火の匂いが漂ってきた。
「……火?」
耳を澄ますと、遠くで乾いた木が弾ける音がする。次の瞬間、赤い光が夜の闇を裂いた。
「火事だ!」
誰かの叫び声が村に響き渡り、人々が飛び起きて走り出す。
△
私は駆け出そうとしたが、すぐに力強い腕に掴まれた。
「リリアナ!」
セドリックだ。灰色の瞳が炎を映して鋭く光っている。
「外に出るな! これは仕組まれたものだ!」
「でも村が――!」
「村人たちは俺たちで守る! 君まで危険に晒すわけにはいかない!」
その声に胸が震える。けれど、炎に包まれていく畑を見て足がすくんだ。花々が燃えてしまう。芽吹いたばかりの命が灰になる。どうしても放ってはおけなかった。
「お願いします、私も行かせてください!」
必死に訴えると、セドリックは一瞬だけ眉をひそめ、それから短く頷いた。
「絶対に俺のそばを離れるな」
二人で炎のもとへ駆けると、数人の影が火を放って逃げていくのが見えた。私は息を呑む。
「……殿下の者たち」
セドリックは剣を抜き、低く唸った。
「ここで捕らえる」
◇
村人たちが必死に桶を回し、水をかけて火を消そうとしていた。私は花畑の端に膝をつき、必死に水を撒いた。涙が滲む。
「お願い……燃えないで……」
その背で剣戟の音が響く。振り返ると、セドリックが数人の賊を相手に立ち回っていた。鋭い剣閃が夜を裂き、火の粉が舞う。彼の灰色の瞳は揺らがず、ただ守るために燃えていた。
やがて賊の一人が取り押さえられ、地に叩きつけられた。セドリックが低く問いただす。
「誰の命令だ」
賊は血を吐きながらも薄笑いを浮かべた。
「……殿下のお心を、否定できるのか……」
私は息を呑んだ。やはり。すべては殿下の策だった。
炎の煙が夜空に立ち上り、星を覆っていく。
私は胸に手を当て、震える声で呟いた。
「殿下……どうしてここまで……」
答えのない問いが、燃える空気に溶けて消えていった。
第24話 燃えた畑と心の炎
〇
火は夜明けまでにようやく鎮まった。村人たちは皆、顔を煤で黒くしながら、互いに水を掛け合い、燃え残った藁や木片を取り除いていた。私は崩れ落ちた畑の端に立ち尽くし、目の前の光景に息を呑んだ。
カモミールの白い花々はほとんど灰と化し、緑の若芽は焼けただれて黒く縮んでいる。胸の奥がきしむように痛み、膝が震えた。
「……私の、大切な畑が……」
声はかすれ、涙が止めどなく溢れた。
「リリアナ」
セドリックが傍に立ち、そっと肩に手を置く。
「これ以上の被害は防いだ。村人たちも無事だ」
「でも……花が……」
「また育てればいい。君ならできる」
彼の低い声が胸に響いた。けれど、心の痛みは簡単に消えなかった。
△
昼、村人たちが集まり、焼け跡を前にして沈黙した。長老が重い声で言った。
「殿下の差し金であることは明らかだ。しかし、我らは王に逆らうことはできぬ」
人々の顔に浮かぶのは怒りと恐怖。私は唇を噛みしめた。
「皆さん……ごめんなさい。私がここにいるせいで……」
「違う!」
鋭い声が割って入った。セドリックだ。灰色の瞳が強く光っていた。
「殿下の狂気のせいだ。彼女を責めるな」
村人たちは互いに顔を見合わせ、やがてうなずいた。子どもたちが私の裾にすがりつく。
「お姉ちゃんのせいじゃないよ!」
その声に胸が詰まり、涙が再び溢れた。
その夜。私は焼け跡に座り込み、焦げた土を掬って指の間から落とした。涙と共に、黒い粉が手を汚す。
◇
一方、王都の宮殿。アルベルト殿下は報告を受け、杯を掲げていた。
「畑が焼けたか。ふん……いい気味だ」
「しかし殿下、民の心は揺らぎましょうか」
重臣の問いに、殿下の唇が歪む。
「彼女は必ず絶望する。そして俺に救いを求める。そうなれば俺の勝ちだ」
カトリーヌが妖しく笑う。
「殿下、彼女は必ず折れますわ。女の心は弱いものです」
だが、遠い村の焼け跡で、私は拳を握りしめていた。
「何度でも育てる。何度でも……」
灰に覆われた大地に、確かな決意が芽吹いていた。
守られるだけではなく、自分の力で立ち上がるために。
第25話 灰の大地に芽吹く誓い
〇
畑の焼け跡は、まだ焦げ臭さを残していた。朝露が降りても黒い土は湿るだけで、緑は戻らない。私は膝をつき、灰を掌に掬った。指の間から零れ落ちる粉は冷たく、まるで私の心を試すかのようだった。
「リリアナ」
背後でセドリックが声をかける。彼の鎧には煤が残り、昨夜の戦いの激しさを物語っていた。
「眠っていないのか」
「……眠れませんでした。どうしても、この畑のことが気になって」
彼は静かに頷き、私の隣に膝をついた。
「花はまた咲く。君がいる限り、必ず」
「……でも」
「灰は肥やしになる。焼け跡からこそ、強い芽が育つ」
その声は揺るがず、心の奥に温かく沁み込んだ。
△
昼、村人たちが集まり、焼け跡を前にして話し合いが行われた。長老が厳しい顔で言う。
「畑が狙われたのは、殿下がリリアナ殿を追い詰めるためだ。次は村そのものが狙われるやもしれん」
人々の表情に不安が広がる。私は立ち上がり、胸に手を当てて声を上げた。
「皆さん……どうか私を恨まないでください。私のせいで――」
「違う!」
子どもたちが一斉に叫んだ。
「お姉ちゃんは悪くない! お花を育ててくれる!」
「薬草茶で助けてくれる!」
その声に人々の目が潤み、やがてうなずきが広がった。マリアが私の肩を叩き、笑みを見せる。
「ほらね。あんたはもう、この村の一部なんだよ」
涙が溢れた。畑は焼けた。でも、ここには支えてくれる人たちがいる。私は拳を握りしめ、声を震わせながら宣言した。
「私はここで生きます。何度でも花を咲かせます!」
◇
一方、王都の宮廷。アルベルト殿下は報告を聞き、眉をひそめていた。
「……畑を焼かれても、なお笑みを見せたと?」
「はい、殿下。むしろ人々の絆は深まったように見えます」
殿下の碧眼が怒りに燃える。
「なぜだ。なぜあの女は折れぬ……」
カトリーヌが扇を口元に当て、冷ややかに笑った。
「殿下、ならば次は人そのものを狙えばよろしいのです。彼女の大切な者を奪えば、きっと」
殿下の瞳がぎらつき、ゆっくりと頷いた。
「……そうだ。セドリックを引き裂けばいい」
遠い村では、私は灰の畑に新しい種を蒔いていた。
「芽吹いて……お願い」
土の下に眠る小さな命に、自分自身の誓いを重ねながら。
第26話 狙われる絆
〇
朝の村は、まだ煙の匂いを残していた。焼け跡の黒い大地を前にしても、人々は諦めなかった。男たちは畝を作り直し、女たちは水を汲んで土を湿らせ、子どもたちは笑いながら灰の上に花の種を蒔いている。私はその光景に胸を熱くしながら、自分も鍬を握った。
「リリアナお姉ちゃん! 芽が出るかな!」
「きっと出るわ。みんなの願いがこもっているんだもの」
子どもたちに笑いかけながらも、胸の奥には不安が残っていた。
「君の笑顔は強いな」
背後から聞こえる声。セドリックが立っていた。煤に染まった鎧はまだ磨ききれていないが、その灰色の瞳は揺るぎなかった。
「……でも、殿下は必ず次の一手を打ってくる」
「わかっています。でも、私は逃げません」
私の返事に彼は小さく頷き、しかし目の奥に硬い決意を宿した。
△
一方その頃、王都の宮廷。アルベルト殿下は椅子に深く腰掛け、冷たい碧眼で前を睨んでいた。
「畑を焼かれてもなお立ち上がるとは……」
「殿下、やはり人を狙うべきです」
カトリーヌの声が広間に響く。
「彼女に寄り添う者、支える者を奪えばいい。例えば……騎士団長セドリック」
殿下の唇がゆっくりと歪む。
「……あの男を潰せば、リリアナは必ず膝を折る」
その策は静かに動き始めていた。王都の裏路地では黒装束の影たちが集められ、密命を受けていた。
「標的は騎士団長セドリック。必ず排除せよ」
◇
夕暮れの村。私はマリアの家で薬草を刻んでいた。刃の音が響くたびに、心を落ち着けようとする。だが胸のざわめきは消えない。
「……セドリックさん、最近ずっと外を警戒していて」
「そりゃそうさ。あんたを狙う連中はまだ諦めちゃいない」
マリアは眉を寄せ、深いため息をついた。
その時、扉が叩かれた。開けると、セドリックが立っていた。鋭い灰色の瞳が夜の気配を映している。
「リリアナ、今夜は特に気をつけろ。王都から放たれた影が近づいている」
「影……?」
「俺を狙っている」
心臓が跳ねた。彼の身を狙う――つまり、殿下はもう私を孤立させるために直接彼を排除しようとしているのだ。
「そんな……どうしてあなたまで」
「君を守るからだ。だから狙われる。だが構わない」
灰色の瞳は揺るがない。私は思わずその腕を掴んだ。
「だめです……あなたを失いたくない」
言葉に自分で驚く。守られるだけではなく、今はただ、彼が消えてしまうことが怖かった。
外では、夜風が木々を揺らしていた。嵐の前触れのように。
第27話 襲撃の夜
〇
その夜、村は不自然なほど静かだった。虫の声もなく、風の音すら止まったように感じられる。私は窓辺に座り、燃えてしまった畑を見つめていた。黒い大地の上には、子どもたちが蒔いた小さな種が眠っている。芽吹く日を信じていたけれど、心の奥のざわめきは強まるばかりだった。
「……眠れないのか」
背後から声がして振り返ると、セドリックが立っていた。月明かりに照らされた横顔は鋭く、影の中で光を宿しているように見える。
「はい。胸騒ぎがして……」
「正しい感覚だ。今夜は、何かが来る」
低く囁く声に血の気が引く。
その瞬間、村の外で犬が吠え立てた。次いで、闇を裂くような足音と剣の抜かれる音。セドリックが剣を抜き放ち、鋭い声を上げる。
「来たぞ! 村を守れ!」
△
闇の中から黒装束の影が次々と現れた。十人、二十人――王都から放たれた刺客たち。彼らの狙いは明らかだった。
「標的は騎士団長だ!」
低い声と共に、剣が月光を反射した。
「リリアナ、下がれ!」
セドリックは私を庇い、刃の雨を受け止めた。灰色の瞳が光り、剣閃が次々と闇を切り裂いていく。村人たちも必死に駆けつけ、桶や棒を手に応戦するが、敵は訓練された兵士。次第に追い詰められていった。
私は震える手で子どもたちを抱き寄せ、必死に守ろうとした。
「怖くない、大丈夫だから……!」
けれど心臓は張り裂けそうだった。
セドリックは次々に敵を倒すが、多勢に無勢。肩に刃がかすめ、血が飛び散る。
「セドリックさん!」
叫ぶ声が夜に響く。
◇
一方その頃、王都の宮殿。アルベルト殿下は杯を手に、冷たい笑みを浮かべていた。
「今頃、セドリックは倒れているだろう。リリアナは孤立し、必ず俺に縋る」
「殿下、完璧ですわ」
カトリーヌが満足げに頷く。
しかし。村では――。
セドリックは血に濡れながらも立っていた。灰色の瞳は決して揺らがず、ただ私を守るために剣を振るっていた。
「倒れるわけにはいかない……!」
低く唸る声が、闇を震わせる。
私は涙を流しながら両手を胸に当てた。
(お願い……生きて……!)
燃えた畑の黒い大地の下で眠る種のように、私の心にも小さな祈りが芽生えていた。
それは、守られるだけではなく――誰かを守りたいという、熱い想いだった。
第28話 灰色の盾
〇
剣戟の音が夜を裂いていた。火の粉が飛び散り、黒装束の影が次々と迫る。セドリックは傷だらけの体で私を庇い、鋭い剣を振るい続けていた。
「下がれと言ったはずだ!」
「でも、私も……!」
声を張り上げても、足はすくみ、ただ祈るように彼の背中を見つめるしかできない。灰色の瞳は決して揺らがず、その剣筋は闇を裂く稲光のようだった。
しかし敵は多すぎた。二人、三人と倒しても次から次へと現れる。やがて彼の肩に深い傷が走り、赤が滲んだ。
「セドリックさん!」
胸が張り裂けそうになる。私は思わず駆け寄ろうとしたが、彼が振り返り、鋭い声で遮った。
「来るな!」
△
広場の端で村人たちが必死に応戦していた。マリアも棒を手にし、子どもたちを庇いながら叫ぶ。
「水を! 火を消すんだ!」
混乱の中で人々は力を合わせていたが、刺客の狙いは一貫してセドリックただ一人だった。
「団長を倒せ!」
叫び声と共に、数本の矢が放たれる。私は思わず声を上げ、彼に飛びついた。
「危ない!」
次の瞬間、矢は背後の木に突き刺さり、乾いた音を立てた。セドリックは私を抱き寄せ、怒声を放った。
「なぜ前に出る! 命が惜しくないのか!」
「あなたを失う方が……怖いんです!」
自分でも驚くほどの本心が口から零れた。彼の瞳がわずかに揺れる。
「リリアナ……」
だが言葉を続ける間もなく、新たな敵が襲いかかった。セドリックは私を背に庇い、再び剣を振るう。
◇
一方その頃、王都の宮廷。アルベルト殿下は碧眼を細め、静かに杯を傾けていた。
「報せはまだか」
「間もなく。刺客は確実に騎士団長を仕留めるはずです」
重臣の答えに、殿下の口元が冷たく歪む。
「これでリリアナは孤立する。俺に救いを求めざるを得なくなる」
だが、村では――。
セドリックは血に濡れながらも立ち続けていた。敵の刃を受けても膝を折らず、ただ私を守る盾として。
「俺は倒れない。君がここにいる限り……!」
その声が闇を震わせ、胸を熱く突き刺した。
私は両手を強く握りしめた。寵愛など望んでいない。けれど、この人を守りたい――そう強く願う気持ちが、私の中で確かな炎となって燃え始めていた。
夜空には雲が流れ、星々がちらりと顔を覗かせた。
嵐の中でも、希望の光は消えずに輝いていた。
第29話 夜明けの誓約
〇
夜は深く、村の広場は血と煙の匂いで満ちていた。黒装束の影たちは次第に数を減らしていたが、セドリックの体はすでに幾つもの傷に覆われていた。額から血が流れ、鎧の隙間から赤が滲み出している。
「セドリックさん、もう戦えません!」
涙声で叫ぶと、彼は荒い息を吐きながら振り返った。
「俺は……まだ立てる」
灰色の瞳は揺らがず、ただ鋭く光を放っていた。
私は震える手で薬草の袋を握りしめる。戦えなくても、せめて癒やすことだけはできる。
「ここで倒れたら……絶対に許しません!」
自分でも驚くほど強い声が出た。彼の目が一瞬見開かれ、唇がわずかに笑みに歪んだ。
「……君らしい」
△
敵の最後の数人が必死に斬りかかってきた。セドリックは体を張って受け止め、私は彼の背後で必死に薬草を包帯に挟み、血を押さえ続けた。
「これで……少しは……!」
「助かる」
短く息をつきながらも、彼の剣筋は鋭さを失わない。やがて最後の刺客が地に伏し、村は静寂に包まれた。
息を荒げながらセドリックが剣を地に突き立てた。村人たちが駆け寄り、歓声と安堵の声が広がる。
「勝った……!」
「団長様が守ってくださった!」
私は彼の腕を支え、必死に呼びかけた。
「もう、これ以上無茶をしてはだめです!」
「無茶ではない……君を守るためだ」
その低い声が胸を震わせる。涙が溢れ、頬を濡らした。
◇
やがて夜が明け、東の空が白む頃。村の大地はまだ焦げ臭さを残していたが、人々の顔には新しい希望の光が差していた。
セドリックは傷だらけの体で広場に立ち、村人たちに向かって声を張った。
「聞け! 殿下の策に屈してはならない。この村を守るために、俺はここに残る!」
人々は一斉に歓声を上げた。私は胸に熱いものが込み上げ、思わず涙を拭った。
その後、静かになった広場の片隅で、セドリックが私にだけ静かに囁いた。
「リリアナ。俺は改めて誓う。何があっても君を守る」
「……どうして、そこまで」
「理由などいらない。俺は、君を愛している」
心臓が跳ねた。頭では否定しようとしても、胸の奥で何かが解けていくのを感じた。
(私は……寵愛なんていらないはずなのに)
朝日が差し込み、灰色の大地を照らす。
その光の中で、私の心にも新しい芽が確かに芽吹いていた。
第30話 選ばれぬ寵愛、選んだ絆
〇
夜明けの村は、焦げた匂いをまだ纏いながらも、人々の声に満ちていた。男たちは倒れた柵を直し、女たちは炊き出しを始め、子どもたちは笑顔を取り戻そうとしている。焼け跡の大地の上に小さな芽が覗いていた。灰に覆われた土から顔を出したその緑は、どんな宝石よりも尊く見えた。
私はしゃがみ込み、そっと指で触れた。柔らかく、しかし確かな命の鼓動を宿している。胸が熱くなり、目頭が滲む。
「……生きてくれて、ありがとう」
呟いた声は朝風に溶けていった。
背後でセドリックの低い声が響いた。
「君の心が、この芽を呼び起こしたんだ」
振り返ると、傷だらけの彼が立っていた。腕や肩はまだ包帯で覆われているのに、その灰色の瞳は強く揺るぎない光を放っていた。
「殿下の影が迫ろうとも、俺は退かない。君を守る。それが俺の生きる理由だ」
胸が震えた。私は唇を噛みしめながらも、心の奥に芽生えた感情を隠せなくなっていた。
△
一方その頃、王都の宮廷。アルベルト殿下は報せを受けて激昂していた。
「刺客を退けただと! あの男はどれだけしぶといのだ!」
杯が床に叩きつけられ、赤い葡萄酒が飛び散る。
カトリーヌは扇で口元を隠し、冷ややかに笑った。
「殿下。彼女は殿下を選ばず、ただ騎士団長と共にあります。それでも……殿下は奪いたいと?」
「当たり前だ! 俺のものを拒むなど許されぬ!」
その碧眼は狂気に濡れていた。
だが宰相オスカーは心中で静かに呟いた。
(リリアナ嬢は殿下の寵愛を選ばずとも、人々に愛されている。それが本当の強さだ。殿下が見誤る限り、この国は揺らぐだろう……)
◇
村の広場に再び人々が集まった。子どもたちが手を繋ぎ、女たちは歌を口ずさみ、男たちは剣を磨いている。皆の顔に浮かんでいるのは恐怖ではなく、強い意志だった。
私は立ち上がり、胸に手を当てて声を張った。
「私は、殿下の寵愛など求めません! 欲しいのはこの村と、人々の笑顔、そして……」
視線が自然にセドリックへと向かう。灰色の瞳と重なり合い、言葉が震える。
「そして、私を共に守ってくれる人の存在です!」
歓声が広がり、村人たちは涙を浮かべながら頷いた。マリアが「よく言ったよ」と笑みを見せる。
セドリックは静かに歩み寄り、私の手を取った。
「リリアナ。俺の誓いは揺るがない。君と共に、この村を守り抜く」
私は涙を浮かべて微笑み、強く頷いた。
空は晴れ渡り、灰色の大地に光が降り注いだ。芽吹いた小さな緑は、確かな未来の証のように輝いていた。
寵愛を拒んでも、私は選んだ。
――守るべき場所と、共に歩む人を。
終わり
〇
夜明け前の村は静まり返り、霧が屋根の上を覆っていた。私は畑に出て、まだ冷たい土を掌に掬った。触れるたびに落ち着きを取り戻せる――はずなのに、胸の奥はざわついたままだ。
「リリアナ」
背後から聞こえる低い声に振り返ると、セドリックが立っていた。薄明かりに照らされた灰色の瞳が、鋭さではなく、静かな憂いを宿している。
「君に、伝えねばならないことがある」
彼の声は重く、普段の毅然さとは違っていた。私は鍬を置き、真剣に耳を傾ける。
「王都では、君を陥れる証人が次々と仕立てられている。殿下はそれを大々的に広めるつもりだ」
「……やはり」
覚悟していたことだが、改めて聞かされると心臓が冷たくなる。
けれどセドリックは続けた。
「だからこそ、俺は君を守り抜くと誓う。地位も命も惜しまない」
強い声に胸が震えた。
△
私は思わず言葉を失った。守られることを望んでいなかったはずだ。寵愛などいらないと何度も自分に言い聞かせてきた。それなのに――。
「……どうして、そこまでしてくださるのですか」
かすれた声で尋ねると、彼の瞳がまっすぐに私を射抜いた。
「理由は一つ。俺は、君を想っているからだ」
空気が止まったように感じた。頭では「誤解だ」と否定しようとするのに、胸の奥は熱く、甘く痺れる。
「ち、違います。私は……健気に見えているだけで、本当は……」
必死に否定する私の声を、彼は静かに遮った。
「違わない。君がどう思おうと、俺にとっては真実だ」
夕陽が差し込み、彼の横顔を朱に染める。その姿が揺らぎなく、胸に焼きついた。
◇
一方、王都の広間。アルベルト殿下は報告を受け、碧眼を怒りに燃やしていた。
「セドリックが彼女に想いを告げたと?」
「はい、殿下。村に潜ませた者からの知らせです」
「許せぬ……! 俺を拒んだ女が、あの男の腕の中で微笑むなど!」
杯を握る手が震え、葡萄酒が滴り落ちる。カトリーヌが傍らで冷ややかに笑った。
「殿下。ならば早急に手を打ちましょう。彼女を守るものを奪えばよいのです」
殿下の瞳に危うい光が宿る。
「……そうだ。彼女から村を奪えば、必ず俺の元に戻る」
その頃、私は窓辺に座り、胸に手を当てていた。
(寵愛なんて要らないと思っていたのに……どうして)
心臓はまだ早鐘を打ち続け、セドリックの声が何度も脳裏に蘇っていた。
外の風は強く、嵐の前触れのように村を撫でていた。
第22話 村を狙う影
〇
夏の盛り、畑は緑で満ちていた。カモミールは白い花を咲かせ、ミントの香りが風に溶けて漂う。私は朝露に濡れた葉を撫でながら、胸いっぱいに深呼吸をした。ほんの一瞬、昨日までの重苦しい噂を忘れられる気がした。
「リリアナ」
振り返ると、セドリックが立っていた。鍛えられた体躯に汗が光り、騎士というより村の男のように見える。
「村の周辺に怪しい影があった。王都からの者かもしれない」
「また……殿下の差し金ですね」
彼は無言で頷いた。その表情は鋼のように固い。
「君は畑を離れるな。子どもたちの傍にいてくれ」
「でも……」
「約束してくれ。俺が必ず守る」
灰色の瞳に射抜かれ、私は言葉を失った。ただ小さく頷くことしかできなかった。
△
一方その頃、王都の宮廷。アルベルト殿下は地図を広げ、指で村の位置をなぞっていた。
「セドリックが守る限り、リリアナは揺るがぬ……」
「殿下。ならば村そのものを揺るがせばよろしいのです」
カトリーヌが妖艶な笑みを浮かべる。
「村に火を放ち、恐怖を植え付ければ。彼女は必ず殿下に救いを求めますわ」
「ふん……見ものだな」
殿下の碧眼に暗い炎が宿った。
宰相オスカーは黙って俯き、唇を結ぶ。王国の未来が狂気に飲まれていくのを止められずにいた。
◇
その夜、私はマリアの家で薬草を刻んでいた。外では風が強く、窓が鳴っている。落ち着かない気持ちを抑えようとしても、手は震えていた。
「怖い顔してるよ」
マリアが湯気の立つ茶を差し出す。
「……村が狙われている気がするんです」
「狙われてるさ。でも、だからこそ根を張らなきゃならない」
その声に救われた気がした。
そこへ扉が叩かれた。開けると、セドリックが真剣な顔で立っていた。
「リリアナ、覚悟してくれ。王都は本気で村を揺るがしにかかっている」
「……私のせいで」
「違う。君のせいじゃない。殿下の執着が狂っているだけだ」
彼の言葉に胸が熱くなる。守られたくないと思いながら、守られる安心が心を溶かしていく。
(私は寵愛なんて望んでいない。けれど……この人の言葉は、どうしてこんなに胸に響くの)
外の風はますます強まり、まるで嵐の前触れのように村を包み込んでいた。
第23話 火種の夜
〇
その夜、村は不思議なほど静かだった。子どもたちの笑い声も、犬の吠える声も聞こえない。風すら止んだかのように重たい空気が漂い、胸の奥にざわめきが広がる。私は眠れず、窓辺に腰を下ろして畑を眺めていた。
月明かりに照らされるカモミールの花々は白く揺れ、まるで光の波のようだった。その美しさに安堵しようとした矢先――村の外から、かすかな火の匂いが漂ってきた。
「……火?」
耳を澄ますと、遠くで乾いた木が弾ける音がする。次の瞬間、赤い光が夜の闇を裂いた。
「火事だ!」
誰かの叫び声が村に響き渡り、人々が飛び起きて走り出す。
△
私は駆け出そうとしたが、すぐに力強い腕に掴まれた。
「リリアナ!」
セドリックだ。灰色の瞳が炎を映して鋭く光っている。
「外に出るな! これは仕組まれたものだ!」
「でも村が――!」
「村人たちは俺たちで守る! 君まで危険に晒すわけにはいかない!」
その声に胸が震える。けれど、炎に包まれていく畑を見て足がすくんだ。花々が燃えてしまう。芽吹いたばかりの命が灰になる。どうしても放ってはおけなかった。
「お願いします、私も行かせてください!」
必死に訴えると、セドリックは一瞬だけ眉をひそめ、それから短く頷いた。
「絶対に俺のそばを離れるな」
二人で炎のもとへ駆けると、数人の影が火を放って逃げていくのが見えた。私は息を呑む。
「……殿下の者たち」
セドリックは剣を抜き、低く唸った。
「ここで捕らえる」
◇
村人たちが必死に桶を回し、水をかけて火を消そうとしていた。私は花畑の端に膝をつき、必死に水を撒いた。涙が滲む。
「お願い……燃えないで……」
その背で剣戟の音が響く。振り返ると、セドリックが数人の賊を相手に立ち回っていた。鋭い剣閃が夜を裂き、火の粉が舞う。彼の灰色の瞳は揺らがず、ただ守るために燃えていた。
やがて賊の一人が取り押さえられ、地に叩きつけられた。セドリックが低く問いただす。
「誰の命令だ」
賊は血を吐きながらも薄笑いを浮かべた。
「……殿下のお心を、否定できるのか……」
私は息を呑んだ。やはり。すべては殿下の策だった。
炎の煙が夜空に立ち上り、星を覆っていく。
私は胸に手を当て、震える声で呟いた。
「殿下……どうしてここまで……」
答えのない問いが、燃える空気に溶けて消えていった。
第24話 燃えた畑と心の炎
〇
火は夜明けまでにようやく鎮まった。村人たちは皆、顔を煤で黒くしながら、互いに水を掛け合い、燃え残った藁や木片を取り除いていた。私は崩れ落ちた畑の端に立ち尽くし、目の前の光景に息を呑んだ。
カモミールの白い花々はほとんど灰と化し、緑の若芽は焼けただれて黒く縮んでいる。胸の奥がきしむように痛み、膝が震えた。
「……私の、大切な畑が……」
声はかすれ、涙が止めどなく溢れた。
「リリアナ」
セドリックが傍に立ち、そっと肩に手を置く。
「これ以上の被害は防いだ。村人たちも無事だ」
「でも……花が……」
「また育てればいい。君ならできる」
彼の低い声が胸に響いた。けれど、心の痛みは簡単に消えなかった。
△
昼、村人たちが集まり、焼け跡を前にして沈黙した。長老が重い声で言った。
「殿下の差し金であることは明らかだ。しかし、我らは王に逆らうことはできぬ」
人々の顔に浮かぶのは怒りと恐怖。私は唇を噛みしめた。
「皆さん……ごめんなさい。私がここにいるせいで……」
「違う!」
鋭い声が割って入った。セドリックだ。灰色の瞳が強く光っていた。
「殿下の狂気のせいだ。彼女を責めるな」
村人たちは互いに顔を見合わせ、やがてうなずいた。子どもたちが私の裾にすがりつく。
「お姉ちゃんのせいじゃないよ!」
その声に胸が詰まり、涙が再び溢れた。
その夜。私は焼け跡に座り込み、焦げた土を掬って指の間から落とした。涙と共に、黒い粉が手を汚す。
◇
一方、王都の宮殿。アルベルト殿下は報告を受け、杯を掲げていた。
「畑が焼けたか。ふん……いい気味だ」
「しかし殿下、民の心は揺らぎましょうか」
重臣の問いに、殿下の唇が歪む。
「彼女は必ず絶望する。そして俺に救いを求める。そうなれば俺の勝ちだ」
カトリーヌが妖しく笑う。
「殿下、彼女は必ず折れますわ。女の心は弱いものです」
だが、遠い村の焼け跡で、私は拳を握りしめていた。
「何度でも育てる。何度でも……」
灰に覆われた大地に、確かな決意が芽吹いていた。
守られるだけではなく、自分の力で立ち上がるために。
第25話 灰の大地に芽吹く誓い
〇
畑の焼け跡は、まだ焦げ臭さを残していた。朝露が降りても黒い土は湿るだけで、緑は戻らない。私は膝をつき、灰を掌に掬った。指の間から零れ落ちる粉は冷たく、まるで私の心を試すかのようだった。
「リリアナ」
背後でセドリックが声をかける。彼の鎧には煤が残り、昨夜の戦いの激しさを物語っていた。
「眠っていないのか」
「……眠れませんでした。どうしても、この畑のことが気になって」
彼は静かに頷き、私の隣に膝をついた。
「花はまた咲く。君がいる限り、必ず」
「……でも」
「灰は肥やしになる。焼け跡からこそ、強い芽が育つ」
その声は揺るがず、心の奥に温かく沁み込んだ。
△
昼、村人たちが集まり、焼け跡を前にして話し合いが行われた。長老が厳しい顔で言う。
「畑が狙われたのは、殿下がリリアナ殿を追い詰めるためだ。次は村そのものが狙われるやもしれん」
人々の表情に不安が広がる。私は立ち上がり、胸に手を当てて声を上げた。
「皆さん……どうか私を恨まないでください。私のせいで――」
「違う!」
子どもたちが一斉に叫んだ。
「お姉ちゃんは悪くない! お花を育ててくれる!」
「薬草茶で助けてくれる!」
その声に人々の目が潤み、やがてうなずきが広がった。マリアが私の肩を叩き、笑みを見せる。
「ほらね。あんたはもう、この村の一部なんだよ」
涙が溢れた。畑は焼けた。でも、ここには支えてくれる人たちがいる。私は拳を握りしめ、声を震わせながら宣言した。
「私はここで生きます。何度でも花を咲かせます!」
◇
一方、王都の宮廷。アルベルト殿下は報告を聞き、眉をひそめていた。
「……畑を焼かれても、なお笑みを見せたと?」
「はい、殿下。むしろ人々の絆は深まったように見えます」
殿下の碧眼が怒りに燃える。
「なぜだ。なぜあの女は折れぬ……」
カトリーヌが扇を口元に当て、冷ややかに笑った。
「殿下、ならば次は人そのものを狙えばよろしいのです。彼女の大切な者を奪えば、きっと」
殿下の瞳がぎらつき、ゆっくりと頷いた。
「……そうだ。セドリックを引き裂けばいい」
遠い村では、私は灰の畑に新しい種を蒔いていた。
「芽吹いて……お願い」
土の下に眠る小さな命に、自分自身の誓いを重ねながら。
第26話 狙われる絆
〇
朝の村は、まだ煙の匂いを残していた。焼け跡の黒い大地を前にしても、人々は諦めなかった。男たちは畝を作り直し、女たちは水を汲んで土を湿らせ、子どもたちは笑いながら灰の上に花の種を蒔いている。私はその光景に胸を熱くしながら、自分も鍬を握った。
「リリアナお姉ちゃん! 芽が出るかな!」
「きっと出るわ。みんなの願いがこもっているんだもの」
子どもたちに笑いかけながらも、胸の奥には不安が残っていた。
「君の笑顔は強いな」
背後から聞こえる声。セドリックが立っていた。煤に染まった鎧はまだ磨ききれていないが、その灰色の瞳は揺るぎなかった。
「……でも、殿下は必ず次の一手を打ってくる」
「わかっています。でも、私は逃げません」
私の返事に彼は小さく頷き、しかし目の奥に硬い決意を宿した。
△
一方その頃、王都の宮廷。アルベルト殿下は椅子に深く腰掛け、冷たい碧眼で前を睨んでいた。
「畑を焼かれてもなお立ち上がるとは……」
「殿下、やはり人を狙うべきです」
カトリーヌの声が広間に響く。
「彼女に寄り添う者、支える者を奪えばいい。例えば……騎士団長セドリック」
殿下の唇がゆっくりと歪む。
「……あの男を潰せば、リリアナは必ず膝を折る」
その策は静かに動き始めていた。王都の裏路地では黒装束の影たちが集められ、密命を受けていた。
「標的は騎士団長セドリック。必ず排除せよ」
◇
夕暮れの村。私はマリアの家で薬草を刻んでいた。刃の音が響くたびに、心を落ち着けようとする。だが胸のざわめきは消えない。
「……セドリックさん、最近ずっと外を警戒していて」
「そりゃそうさ。あんたを狙う連中はまだ諦めちゃいない」
マリアは眉を寄せ、深いため息をついた。
その時、扉が叩かれた。開けると、セドリックが立っていた。鋭い灰色の瞳が夜の気配を映している。
「リリアナ、今夜は特に気をつけろ。王都から放たれた影が近づいている」
「影……?」
「俺を狙っている」
心臓が跳ねた。彼の身を狙う――つまり、殿下はもう私を孤立させるために直接彼を排除しようとしているのだ。
「そんな……どうしてあなたまで」
「君を守るからだ。だから狙われる。だが構わない」
灰色の瞳は揺るがない。私は思わずその腕を掴んだ。
「だめです……あなたを失いたくない」
言葉に自分で驚く。守られるだけではなく、今はただ、彼が消えてしまうことが怖かった。
外では、夜風が木々を揺らしていた。嵐の前触れのように。
第27話 襲撃の夜
〇
その夜、村は不自然なほど静かだった。虫の声もなく、風の音すら止まったように感じられる。私は窓辺に座り、燃えてしまった畑を見つめていた。黒い大地の上には、子どもたちが蒔いた小さな種が眠っている。芽吹く日を信じていたけれど、心の奥のざわめきは強まるばかりだった。
「……眠れないのか」
背後から声がして振り返ると、セドリックが立っていた。月明かりに照らされた横顔は鋭く、影の中で光を宿しているように見える。
「はい。胸騒ぎがして……」
「正しい感覚だ。今夜は、何かが来る」
低く囁く声に血の気が引く。
その瞬間、村の外で犬が吠え立てた。次いで、闇を裂くような足音と剣の抜かれる音。セドリックが剣を抜き放ち、鋭い声を上げる。
「来たぞ! 村を守れ!」
△
闇の中から黒装束の影が次々と現れた。十人、二十人――王都から放たれた刺客たち。彼らの狙いは明らかだった。
「標的は騎士団長だ!」
低い声と共に、剣が月光を反射した。
「リリアナ、下がれ!」
セドリックは私を庇い、刃の雨を受け止めた。灰色の瞳が光り、剣閃が次々と闇を切り裂いていく。村人たちも必死に駆けつけ、桶や棒を手に応戦するが、敵は訓練された兵士。次第に追い詰められていった。
私は震える手で子どもたちを抱き寄せ、必死に守ろうとした。
「怖くない、大丈夫だから……!」
けれど心臓は張り裂けそうだった。
セドリックは次々に敵を倒すが、多勢に無勢。肩に刃がかすめ、血が飛び散る。
「セドリックさん!」
叫ぶ声が夜に響く。
◇
一方その頃、王都の宮殿。アルベルト殿下は杯を手に、冷たい笑みを浮かべていた。
「今頃、セドリックは倒れているだろう。リリアナは孤立し、必ず俺に縋る」
「殿下、完璧ですわ」
カトリーヌが満足げに頷く。
しかし。村では――。
セドリックは血に濡れながらも立っていた。灰色の瞳は決して揺らがず、ただ私を守るために剣を振るっていた。
「倒れるわけにはいかない……!」
低く唸る声が、闇を震わせる。
私は涙を流しながら両手を胸に当てた。
(お願い……生きて……!)
燃えた畑の黒い大地の下で眠る種のように、私の心にも小さな祈りが芽生えていた。
それは、守られるだけではなく――誰かを守りたいという、熱い想いだった。
第28話 灰色の盾
〇
剣戟の音が夜を裂いていた。火の粉が飛び散り、黒装束の影が次々と迫る。セドリックは傷だらけの体で私を庇い、鋭い剣を振るい続けていた。
「下がれと言ったはずだ!」
「でも、私も……!」
声を張り上げても、足はすくみ、ただ祈るように彼の背中を見つめるしかできない。灰色の瞳は決して揺らがず、その剣筋は闇を裂く稲光のようだった。
しかし敵は多すぎた。二人、三人と倒しても次から次へと現れる。やがて彼の肩に深い傷が走り、赤が滲んだ。
「セドリックさん!」
胸が張り裂けそうになる。私は思わず駆け寄ろうとしたが、彼が振り返り、鋭い声で遮った。
「来るな!」
△
広場の端で村人たちが必死に応戦していた。マリアも棒を手にし、子どもたちを庇いながら叫ぶ。
「水を! 火を消すんだ!」
混乱の中で人々は力を合わせていたが、刺客の狙いは一貫してセドリックただ一人だった。
「団長を倒せ!」
叫び声と共に、数本の矢が放たれる。私は思わず声を上げ、彼に飛びついた。
「危ない!」
次の瞬間、矢は背後の木に突き刺さり、乾いた音を立てた。セドリックは私を抱き寄せ、怒声を放った。
「なぜ前に出る! 命が惜しくないのか!」
「あなたを失う方が……怖いんです!」
自分でも驚くほどの本心が口から零れた。彼の瞳がわずかに揺れる。
「リリアナ……」
だが言葉を続ける間もなく、新たな敵が襲いかかった。セドリックは私を背に庇い、再び剣を振るう。
◇
一方その頃、王都の宮廷。アルベルト殿下は碧眼を細め、静かに杯を傾けていた。
「報せはまだか」
「間もなく。刺客は確実に騎士団長を仕留めるはずです」
重臣の答えに、殿下の口元が冷たく歪む。
「これでリリアナは孤立する。俺に救いを求めざるを得なくなる」
だが、村では――。
セドリックは血に濡れながらも立ち続けていた。敵の刃を受けても膝を折らず、ただ私を守る盾として。
「俺は倒れない。君がここにいる限り……!」
その声が闇を震わせ、胸を熱く突き刺した。
私は両手を強く握りしめた。寵愛など望んでいない。けれど、この人を守りたい――そう強く願う気持ちが、私の中で確かな炎となって燃え始めていた。
夜空には雲が流れ、星々がちらりと顔を覗かせた。
嵐の中でも、希望の光は消えずに輝いていた。
第29話 夜明けの誓約
〇
夜は深く、村の広場は血と煙の匂いで満ちていた。黒装束の影たちは次第に数を減らしていたが、セドリックの体はすでに幾つもの傷に覆われていた。額から血が流れ、鎧の隙間から赤が滲み出している。
「セドリックさん、もう戦えません!」
涙声で叫ぶと、彼は荒い息を吐きながら振り返った。
「俺は……まだ立てる」
灰色の瞳は揺らがず、ただ鋭く光を放っていた。
私は震える手で薬草の袋を握りしめる。戦えなくても、せめて癒やすことだけはできる。
「ここで倒れたら……絶対に許しません!」
自分でも驚くほど強い声が出た。彼の目が一瞬見開かれ、唇がわずかに笑みに歪んだ。
「……君らしい」
△
敵の最後の数人が必死に斬りかかってきた。セドリックは体を張って受け止め、私は彼の背後で必死に薬草を包帯に挟み、血を押さえ続けた。
「これで……少しは……!」
「助かる」
短く息をつきながらも、彼の剣筋は鋭さを失わない。やがて最後の刺客が地に伏し、村は静寂に包まれた。
息を荒げながらセドリックが剣を地に突き立てた。村人たちが駆け寄り、歓声と安堵の声が広がる。
「勝った……!」
「団長様が守ってくださった!」
私は彼の腕を支え、必死に呼びかけた。
「もう、これ以上無茶をしてはだめです!」
「無茶ではない……君を守るためだ」
その低い声が胸を震わせる。涙が溢れ、頬を濡らした。
◇
やがて夜が明け、東の空が白む頃。村の大地はまだ焦げ臭さを残していたが、人々の顔には新しい希望の光が差していた。
セドリックは傷だらけの体で広場に立ち、村人たちに向かって声を張った。
「聞け! 殿下の策に屈してはならない。この村を守るために、俺はここに残る!」
人々は一斉に歓声を上げた。私は胸に熱いものが込み上げ、思わず涙を拭った。
その後、静かになった広場の片隅で、セドリックが私にだけ静かに囁いた。
「リリアナ。俺は改めて誓う。何があっても君を守る」
「……どうして、そこまで」
「理由などいらない。俺は、君を愛している」
心臓が跳ねた。頭では否定しようとしても、胸の奥で何かが解けていくのを感じた。
(私は……寵愛なんていらないはずなのに)
朝日が差し込み、灰色の大地を照らす。
その光の中で、私の心にも新しい芽が確かに芽吹いていた。
第30話 選ばれぬ寵愛、選んだ絆
〇
夜明けの村は、焦げた匂いをまだ纏いながらも、人々の声に満ちていた。男たちは倒れた柵を直し、女たちは炊き出しを始め、子どもたちは笑顔を取り戻そうとしている。焼け跡の大地の上に小さな芽が覗いていた。灰に覆われた土から顔を出したその緑は、どんな宝石よりも尊く見えた。
私はしゃがみ込み、そっと指で触れた。柔らかく、しかし確かな命の鼓動を宿している。胸が熱くなり、目頭が滲む。
「……生きてくれて、ありがとう」
呟いた声は朝風に溶けていった。
背後でセドリックの低い声が響いた。
「君の心が、この芽を呼び起こしたんだ」
振り返ると、傷だらけの彼が立っていた。腕や肩はまだ包帯で覆われているのに、その灰色の瞳は強く揺るぎない光を放っていた。
「殿下の影が迫ろうとも、俺は退かない。君を守る。それが俺の生きる理由だ」
胸が震えた。私は唇を噛みしめながらも、心の奥に芽生えた感情を隠せなくなっていた。
△
一方その頃、王都の宮廷。アルベルト殿下は報せを受けて激昂していた。
「刺客を退けただと! あの男はどれだけしぶといのだ!」
杯が床に叩きつけられ、赤い葡萄酒が飛び散る。
カトリーヌは扇で口元を隠し、冷ややかに笑った。
「殿下。彼女は殿下を選ばず、ただ騎士団長と共にあります。それでも……殿下は奪いたいと?」
「当たり前だ! 俺のものを拒むなど許されぬ!」
その碧眼は狂気に濡れていた。
だが宰相オスカーは心中で静かに呟いた。
(リリアナ嬢は殿下の寵愛を選ばずとも、人々に愛されている。それが本当の強さだ。殿下が見誤る限り、この国は揺らぐだろう……)
◇
村の広場に再び人々が集まった。子どもたちが手を繋ぎ、女たちは歌を口ずさみ、男たちは剣を磨いている。皆の顔に浮かんでいるのは恐怖ではなく、強い意志だった。
私は立ち上がり、胸に手を当てて声を張った。
「私は、殿下の寵愛など求めません! 欲しいのはこの村と、人々の笑顔、そして……」
視線が自然にセドリックへと向かう。灰色の瞳と重なり合い、言葉が震える。
「そして、私を共に守ってくれる人の存在です!」
歓声が広がり、村人たちは涙を浮かべながら頷いた。マリアが「よく言ったよ」と笑みを見せる。
セドリックは静かに歩み寄り、私の手を取った。
「リリアナ。俺の誓いは揺るがない。君と共に、この村を守り抜く」
私は涙を浮かべて微笑み、強く頷いた。
空は晴れ渡り、灰色の大地に光が降り注いだ。芽吹いた小さな緑は、確かな未来の証のように輝いていた。
寵愛を拒んでも、私は選んだ。
――守るべき場所と、共に歩む人を。
終わり
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